万博ロス、そして「大エジプト博物館11月開館」の一報
2025年10月。大阪・関西万博がついに幕を下ろしてしまった。


あの、ごちゃごちゃしたパビリオンの密度と、世界中の国が「我が国ってとても良いですよ!」と極彩色の文化を浴びせてくる、人類総お祭りテーマパークみたいな熱量が恋しい……。
万博のおかけで、半年間「口を開けていれば文化が食べれる」状態だった為、終わった途端「文化摂取不足」に陥ってしまった。 万博で世界を知ってしまった分、海外への関心だけが高まり続けている。この勢いのままこう……何処かに飛び立ちたい……。
そんな中、衝撃的なニュースが飛び込んでくる。 「大エジプト博物館(GEM)、2025年11月1日ついにグランドオープン!」
計画から30年以上が経ち、当初は2012年の開館予定だったらしいGEM。その後も様々な事情で開館延期し、2025年7月にとうとう開くと思いきや、また延期に次ぐ延期。
「もう生きている間に開くことはないのではないか」と、世界中の巨大博物館のオタクたちが半ば諦めかけていたGEMが、ついに開いた。 ギザのピラミッドのふもとに建つ、単一文明を扱う博物館としてとして世界最大級の博物館。ツタンカーメンの秘宝約5000点が一挙公開されるという、オタクというか全人類にとっての必見スポットが、やっと本格始動する。
エジプト行くか……。もう万博はないし……。
しかし、冷静になって調べるほどに、エジプトへの個人手配旅行はハードルが高いことがわかってくる。
「空港からの移動でタクシーにボラれる確率100%」 「Uber系は全てナンバープレートが違う車が来る」 「ピラミッド前でラクダ引きに囲まれて逃げられない」 「そもそも全ての遺跡がだいたい砂漠で、公共交通機関という概念が希薄」
無理かも……。
そこで私は、人生初の「添乗員さんベタ付き・フルパッケージツアー」に参加する事にした。 ツアーなら我々は親鳥に守られた雛鳥のように安全なはずだ。移動は全て専用バス、食事は確保され、屈強な警察官の方が守ってくれるらしい。 選んだのは、アブシンベル宿泊&ナイル川クルーズ3連泊に加えて、「オープンしたての大エジプト博物館(GEM)もたっぷり観光」という、今の私にぴったりの欲張り仕様である。
これはさぞ優雅な旅になるんだろうな~っ!
1日目:直行便でエジプト上陸、「五分で支度しな」から始まる
夜に成田空港集合、エジプト航空の直行便で約14時間の空の旅。 「添乗員さんべったりバスツアーなんて楽勝でしょ。歩数も少ないだろうし、万博のほうが絶対過酷だよ」と、 人並みに海外旅行慣れしている私は、正直ナメていました。ツアーなんて、こう、ノウハウのない引退後のご夫婦がのんびり行くものでしょう?と。
実際、参加者の中には4名ほど80歳代の方がいた。これは余裕ですわ……。
エジプト航空の機内安全ビデオもエジプト神話風で良い感じだし、本当に腰は痛いけどうつらうつらと、無理やりケミカルの力で睡眠をとぎれとぎれに得て、まぁまぁの状態でエジプト到着。
しかし、機内で改めてツアー日程表をじっくり見たところ、不穏な記述に気づく。 「飛行機から降りた後、不眠不休でピラミッド3つとスフィンクス、更に一番の目当ての大エジプト博物館を三時間で見てから、ハン・ハリーリ市場に寄る」
……ん? なんかおかしいとは思いましたが、まさかこんなご老人もいるツアーで、睡眠時間もお風呂も確保されていないわけがないよね。そもそも何処で着替えるんだろ~と、まだ現実を受け止められていない私。 ちなみに機内の説明によると、大エジプト博物館はまともに全展示を見ると90日かかるらしい。 え?? これ……たった3時間で大丈夫そ???
まだエジプト時間で早朝。暗いカイロ空港に着き、むっとする熱気と砂埃の匂いを嗅ぎつつバスでホテルへ。 到着したのは凄く素敵な高級ホテル。「ツアーってすごい!」と感動していたところで、現地ツアーガイドさんが鋭い声でひとこと。
「朝食、荷造り、着替え20分で支度して下さい。部屋はないのでロビーの床で。」
ん?? 戦(いくさ)の準備??? 優雅なツアーの幻想は一瞬で吹き飛んだ。ガイドさんの雰囲気も、優雅にアテンドしてくれるというより完全に「軍曹」か「先生」という感じ。私達に拒否権はない。 ツアー客の老若男女が、高級ホテルのロビーの床に這いつくばってスーツケースを広げたり、駆け足でトイレを往復して着替えたりしている。その足でバスに押し込まれ、ピラミッドに直行。エジプトは日中の暑さを避けるためか、世界中からのツアー客を捌くためか、早朝(4時レベル)稼働がデフォルトっぽい。


お腹を壊すフラグを丁寧に立てる私
筋力のない私は、夏のコミケや万博などの過酷なレジャー経験から、「体力に自信がないときや猛暑のときは、とにかく動く前に無理してでも食べないと熱中症になる」と学んでいた。 1日目から長時間フライトによる疲労で判断力が低下。ビュッフェ台に並ぶ、エジプト料理の数々。その中に、トマトのような鮮やかな赤いお野菜ペーストがあった。 「野菜が摂りたい……!」 何も疑わずに皿に山盛り。他のお野菜と口に放り込む。
脳天まで突き抜ける鋭利な痛みと熱。それはトマトではなく、純度100%の生唐辛子ペーストだった。
でもなんか初日で、せっかくお皿にとったものを大量に残すのに抵抗があり、無理やり食べる。 さらに、ここで致命的なミス。口内の激痛を抑えるために水を飲むしかなかったので、手近なミネラルウォーターも一気飲みしたのだが……。
基本的に日本以外で水道水は飲めない。それはわかっていたが 「うがいも極力ミネラルウォーターで」「水道水で洗った生野菜やミネラルウォーターでもお腹を壊す人もいる」 というエジプトの水のやばさを、私は舐めていた。 胃腸に自信がないのだから最大限警戒しなければいけないのに、「いつもお腹壊してるし、その土地のモノ食べたいしな……」と割と食べて飲んでいたし、着いた瞬間砂がやばすぎて、ホテルのトイレで鼻うがいを水道水でしてしまっていた。
「うがいくらいならまぁ大丈夫。水の飲めない国でもうがいくらいするし」 この時点ではまだそう余裕をかましていたのだが、このあと人生最大規模クラスの腹下しに襲われるとは、このときの私は知る由もない。
まだ1日目:ギザのピラミッドと新・大エジプト博物館。オタク、歓喜
早朝4時台に成田空港からカイロ着、ホテルに40秒う寄り、そのままバスでギザへ。 窓の外に見えてきたのは、第4王朝のクフ王・カフラー王・メンカウラー王の3つのピラミッドが並ぶ、あの「ギザの三大ピラミッド」。
初めてナマで見るピラミッドは、ネットや教科書で見た「整った三角形の記号」ではなかった。 近づけば近づくほど、ゴツゴツしている。一つの石が軽自動車くらいの大きさがある。それが延々と、天を突く高さまで積み上がっている。表面は風化し、崩れかけ、それでも数千年の重力に耐えている。






オタクがすること。それはピラミッドまできてアクリルスタンドを取り出し、撮る。 ピラミッド前でアクスタ撮影しまくる。




大エジプト博物館へ




そしてこの日の本命、大エジプト博物館(GEM)だ。 2002年の構想発表から20年以上経っているらしい。2012年着工、当初は2015年完成予定が延期に次ぐ延期。コロナ禍や革命を経て、2025年11月1日にようやくグランドオープンを迎えた、いわくつきの巨大建築である。 私の生きているうちにオープンしないと思っていたので、半分義務感でここに立っている。
バスを降りると、その巨大さに圧倒される。遥か昔に行ったルーブル美術館の次にでかそうな建築物だ。 建物のファサードは、ピラミッドの三角をモチーフにした幾何学模様で覆われ、太陽光を浴びて神々しく輝いている。
館内に入ると、まず目に飛び込んでくるのがラムセス2世の巨大立像。 この後にいくアブシンベル神殿などを経て、古代エジプトではラムセス2世が「超人気覇権キャラ」だと知ることになるのだが、まだこの時点ではツタンカーメンとの差がよくわかっていない。 高さ約11メートル。マンションの3〜4階分に相当する巨体が威圧してくる。ロビーに自然光が差し込み、古代王を照らす。展示コンセプトも、照明も、動線設計も、素敵だ。
特別良かったのは、大階段。 王の彫像や石棺が時系列に沿ってずらりと並べられ、登りながらエジプト史を追体験できる。まるで映画のセットの中を歩いているような没入感だった。
ツタンカーメン展示、列の折り返しに鍛えられた日本人ですら引く






しかし、本当の戦いはここからだった。 館内でも屈指の人気エリア、ツタンカーメンの秘宝展示室。 これまでカイロ考古学博物館では雑然と置かれていた5000点以上の副葬品が、初めてすべて一箇所に集められたらしい。
出た! 異常に蛇行する列! 屈強な万博民じゃなければ、この行列に耐えられないところだった。長男じゃないけどギリギリ耐えられた。それにしても時間制限がシビアなので大変だ。 世界中から押し寄せた観光客が、黄金のマスクを一目見ようとひしめき合っている。ここだけは警備員さんの緊張感もすごかった。


3〜4日目:アブシンベルと“人生最大級のお腹壊し”
砂漠の彼方のアブシンベル神殿へ




モーニングコールは深夜1時半。(????) 朝じゃなさすぎる。
高級ホテルに3時間しか滞在できないままチェックアウトし、カイロから国内線でアスワンへ飛び、そこからバスで砂漠を片道3時間半。 80代の方々がついて来れているのが既に不思議だ。私は2日目にして睡眠時間をくれない事に唖然としていた。そもそも飛行機から不眠不休で動いているのに……??ツアーってこんな訓練みたいな感じなんですか?!
目指すは、ラムセス2世が紀元前13世紀に造営した世界遺産、アブシンベル大神殿。 砂漠の地平線の先に、突如として現れる4体の巨大な座像。 「これを岩山から彫り出したのか…。しかもダム建設の水没危機から救うために、全部ブロック状に切断して移設したのか…。古代人凄い。
また、現場エジプトに行って実感したのは、古代エジプトでラムセス2世が覇権キャラすぎるという事。 エジプト人のガイドさんによると、ラムセス2世は身長2メートルで妻50人、子供200人の長寿のイケメンだったらしい。 我々はツタンカーメンが一番人気だと思ってたけど、結局「長身のイケメン」の事が全人類好きなんですね……。(ちなみにツタンカーメンは小柄で病弱だった説が濃厚。ミイラも小さかったです)
クライマックスはトイレとの戦い
2日目から既に、人生最大の腹下しに襲われていました。詳しく記載すると汚いので省きますが、とにかく5分に一回はトイレに行かざるを得ない、いつ尊厳を失ってもおかしくない状態です。
エジプトのトイレは、入口に地獄の門番みたいなエジプト人がいて、1ドル(またはエジプトポンド)確定で取られます。 私は明らかにお腹を壊しており、10分の砂漠の中のサービスエリア(休憩所)滞在中に3回トイレに行ったりする状態だったのだが、その都度きっちり徴収され、10分で3ドル取られました。無慈悲すぎる。
夕方からは、神殿をライトアップする「音と光のショー」が始まる。 満天の星空の下、幻想的に浮かび上がるラムセス2世。日本人の出資が多いらしく、多国籍な観光客の前で日本語のナレーションが流れ、感動しました。
しかし、私のお腹は限界。下腹部に走る、激震。冷や汗が止まらない。 今ここでトイレに行ったら、ショーのクライマックスを見逃す。でも行かなかったら、人としての尊厳が終わる。
結局、ショーが終わった瞬間に猛ダッシュでトイレに駆け込み、なんとか尊厳を守り抜いた。 アブシンベル神殿の思い出は、「荘厳な石像の美しさ」と「トイレの場所を常に計算していた事」である。
流石になめていた私も正露丸や下痢止めは持って行っていたのですが、もう、全く効かないレベル。ツアー客の方が次々と下痢止めを恵んでくれる。優しい。 ガイドさんに相談しても(バスで尊厳を失い迷惑をかける可能性があったのでもう相談するしかない)、日本の薬はエジプトの強力な腹下しには太刀打ちできないらしい。
「本当にやばかったら、エジプトの凄い強力な薬がある」 とエジプト人ガイドさんに耳打ちされる。なんか怖いけど、明日もやばかったら下さいと言った。(※通称「アンティナール」と呼ばれる現地の薬で、旅行者の間では「神の薬」と呼ばれているらしい)




4〜6日目:ナイル川クルーズと「押し売り」の生命力


スープと果物しか食べられないけど素晴らしいクルーズ


アスワンからは、客船に乗船し、ルクソールへ向けて3泊4日の船旅だ。 睡眠時間平均2時間の数日を抜け、やっと少し人道的なスケジュールに。ただ観光に来ただけなのに……。


ナイル川の穏やかな流れを眺めながら移動できてすごかった。日中はイシス神殿、コムオンボ神殿、ホルス神殿と、名だたる遺跡を巡る。 個人的にコムオンボ神殿が可愛かった。ワニの神セベクとハヤブサの神ホルスを祀る神殿。ミイラ化したワニが沢山展示されており、シュッとなっていて可愛い。




文明の厚みに感動しつつも、私の胃腸は相変わらず「まだ本調子ではない」と主張を続けていた。食事はスープと果物しか食べられない。エジプト料理をもっと食べたかった。












ナイル川の押し売りは、もはや一種のアトラクション


ナイル川クルーズで一番衝撃的だったのは「物売りたちのアクロバットな商魂」だった。 船がエスナの水門に近づき、速度を落とすと、どこからともなく小さな手漕ぎボートがわらわらと集まってくる。 彼らは、巨大なクルーズ船の側面にロープを巻きつけ、勝手に並走してくる。そして、こちらが室内にいようが、デッキにいようが、貫通して聴こえてくる大声で「1ドル!!!!」と叫びながらスカーフを広げてくる。
驚いてデッキ(4階くらいの高さがある)から見下ろして目があってしまうと、彼らは商品(ガラベーヤ、タオル、スカーフなど)をビニール袋に入れ、 すさまじい投擲力でクルーズ船の屋上デッキまで投げ込んでくるのだ。 スカーフや民族衣装ガラベーヤのような布しか入ってないとはいえ、豪速で飛んでくる商品に普通に悲鳴があがる。ベランダやデッキに着地する商品。 これを私たちが「えっ?」と手に取ってしまうと……。
「マダム! マネー入れて! ビニール戻して!」 と下では小舟に乗ったエジプト人が叫んでいる。こんな商売の仕方ってあるんだ……。
欧米人観光客がたくましく商品を投げ返しても、海に落ちた商品を良い感じの長い棒で商品を手繰り寄せ、また別の柄のスカーフを投げ返してくる。 しつこさと生命力がすごい。もはや「お買い物」ではなく「攻城戦」だ。






また、エジプトの人は「日本のボールペンをあげると、一瞬で静かになる」のが凄かったです。
実際にツアー仲間が一本投げ落としてみると、ボートの男たちは争いあいながらペンをぶんどり、満足したのかそのボートは離脱していった。
勿論、日本の工業製品の出来がすごくて海外の方が欲しがるのも、空港から下りた途端物乞いの子供が群がる国も沢山ある事は実体験としてわかっているのですが、なんかそういうのを超えて……エジプト、極端すぎる。
街中でも、こちらが中国人かどうか聞かれて、こちらがジャパニーズとわかると「ボールペン!!!!」と必ず話しかけられます。私はボールペンじゃないよ!!日本人がボールペンに見えてる???
エジプトの治安。ツアーでも感じた危険な空気
冒頭で「ツアーなら雛鳥のように守られている」と書いたが、実際に現地に行ってみて感じたのは、「守られていなければ、ここは本当に危ない」というヒリヒリした空気だった。
常に拳銃を持った「観光警察」が同乗
驚いたのは、私たちのツアーバスに、常に一人の警察官が同乗していることだ。 スーツが盛り上がっており、銃を持っていることがわかる。彼らはバスの一番前の席に座り、私たちが観光地で降りて散策するときも、少し離れたところから鋭い視線で周囲を警戒している。
空港の保安検査も銃を持った人に100回名前を書かされ、靴まで脱がされ、すごい緊張感があった。
過去の痛ましい大規模テロへの対策が続いているらしい。ありがたいことだが、裏を返せばそこまでしないと安全ではないということだ。
金歯が見えた瞬間、囲まれた日本人
観光地の大混雑の中で目撃した、別の日本人ツアー客のトラブルが忘れられない。 年配のツアー客の方が買い物をした際、笑った拍子に「金歯」が見えた。 その瞬間、土産物屋の男たちが数人、獲物を見つけたハイエナのように彼女を取り囲んだ。 「Gold! Gold!」と言いながら笑顔で指を指して数名近付いて来る。
女性は笑いながら「えっ、何!? これで払えってこと!?」と困惑していたけど、武装した警察官の方やガイドさんがいなかったら、普通に金歯で払わされていたのではないか。怖い。
「チ。」みたいになるのか…?
ハネムーンの悲劇未遂と、ガラベーヤ強奪未遂
他にも、ハネムーンで参加していた方々が、ルクソールの停泊所近くで「ちょっと街歩きしてきます」と出かけた時のこと。 親しげな客引きについていき、大通りから外れた薄暗い路地の店に連れ込まれそうになったという。 幸い、クルーズ船のセキュリティスタッフが遠くから見ていて、大声で呼び戻してくれたおかげで事なきを得た。
そして私自身も、民族衣装の「ガラベーヤ」に気に入った柄があったため、あまりおすすめされない路面の露店で交渉していた時だ。 セキュリティポーチから財布代わりのジップロック(現地通貨をまとめて入れていた)を取り出すと、 大の男二人に、ジップロックごと腕をわしづかみにされた。 ひったくりではない。堂々と、私の目の前で、私の財布を「自分のもの」にしようとしている。 引っ張り合いになった。
結局、現地ガイドさんが飛んできてくれたおかげで、半端に値切った(それでもかなり高い)ガラベーヤを買って解放されたが、普通に怖い。 エジプトでは物怖じしない性格が命取りになるかも。


7日目:王家の谷とハトシェプスト女王葬祭殿、そして帰還
ルクソールのお買い物。
ツアーには「お土産タイム」として、香油屋、パピルス屋さん、アクセサリー屋さんなど比較的高価なお店への立ち寄りが組み込まれている。 何処も商品は魅力的。ガイドさんはとにかく陽気で、 「ワタシ、日本人助ける! ボッタリしない! エジプトの買い物怖いことはあるけど、ここは安心!」 と値段交渉を手伝ってくれる。






で、支払いを終えて店を出ようとふと振り返ると、 ガイドさんと店長が、「買わせたぜ!!」と満面の笑みでガッチリとハイタッチしていた。 チームによるテクニカル押し売りだ……!
王家の谷でスマホを奪われる








旅の終盤は、ルクソール西岸の王家の谷へ。 新王国時代の王たちの墓が隠されるように造られた谷。ここにツタンカーメン王の墓がある。 小康状態を抜け、またお腹が激痛。さらに連日の早起きというか夜中起きのスケジュールで体力が限界に近い。でもミイラ見たい!! 意地だけで踏破した。


墓室に眠る、本物のツタンカーメンのミイラ。 博物館の黄金のマスクのような華やかさはない。黒く変色し、小さく縮こまったその姿に、3000年の静寂を見た気がした。
私は一応「ご遺体だし、むやみに写真は控えた方が良いよね…」と、良心的日本人らしい配慮を見せて神妙な顔でミイラを眺めていたのですが、 ミイラの奥から博物館スタッフらしきエジプト人が出てきて、私のスマホをバッと奪い取った。
彼は私のスマホを構え、ツタンカーメンを至近距離から連写。 あろうことか、私とミイラのツーショットまで勝手に撮影。 そして満足げにスマホを私に返し、ニカッと笑って、親指と人差し指をこすり合わせ——。
「One Dollar(ワンダラー)。」


これは正気の商売ではない!! 結局、1ドルを渡した。
逆に、1ドル渡さないと何もできないまである。
帰国と知らない人達との絆
ツアーの最終日となるとツアー客とも顔見知りになり、雑談する雰囲気に。お別れが寂しくなってきていた。 知らない人と1週間以上ずっと一緒に寝食を共にするってなかなかない経験だ。万博通いの証「ミャクミャク」グッズをつけている方と万博の感想を語り合ったりもした。嬉しい。
私がトップバッターだったが、ツアー参加者の半分ぐらいが入れ替わり立ち代わり青い顔でトイレと往復していたと思う。それでも、全員が大きな怪我や犯罪被害(未遂はあったが)に遭うことなく、無事に成田に戻れたっぽくて良かった。 発熱してる人とか、クフ王の墓でふらふらのおじいさんとかは見たけど……。私も日本に帰ってからも1週間は腹痛に苦しんだけど……。
エジプトで何を受け取ったか


この旅行は決して「優雅で楽なパッケージツアー」ではなかった。 「お金を払えばお客様扱いしてもらえる」という甘えは、ここでは通用しない。めちゃくちゃ甘えて多分これと思うとエジプトのハードさがわかる。
宗教的にも文化の違いについても、大変考えさせられた。 エジプト人のガイドさんと話していて、奥さんと娘さんが3人いるという。 「どちらにお住まいなんですか?」と聞いたら、「安全なところにいる」と言っていた。 つまり今私達がいるところは危険なんだ……
また、男子が生まれると家を縦に増築して住まわせることができるが、女子が生まれると必ずお嫁にいくので住居がこれ以上広がらず、家が途絶えてしまうらしい。
知的なガイドさんが真顔で「男の子が出来ず、失敗した…」と言っていて無言で震えあがるしかなかった。
エジプト、めっちゃ楽しかった!
いざ書くとなると恐ろしい体験ばかりとなってしまったが、そのハードさを全部ひっくるめて、私はエジプトがものすごく好きになった。
万博で味わった“世界中の文化が一ヶ所に集まる狂騒”を恋しく思っていた私に、エジプトは「一つの文明が、とんでもない厚みと熱量で一ヶ所に積み重なっている」場所として、強烈なレガシーをくれた。
ピラミッドの質量。 大エジプト博物館の、時空を超えた展示空間。 ナイル川に空から降ってくるスカーフ。 「ワンダラー」と指をすり合わせる人々の、たくましすぎる生命力。私も帰国して仕事がうまくいかないよ~とかクネクネとしてる場合ではない。エジプト人のようにたくましく生きねば。
ツアーで走り続けている間に“万博ロス”で悲しんだり、仕事とか、人生のことを思い出す事もなくリフレッシュできた。というか生き抜くのに精一杯で考え事とかをする隙が一切なかった。ありがたいことです。
これからエジプトへ行く人へ。 正露丸は一瓶持って行ってください!!(尚、効かないので現地で薬をもらってください)
