南方熊楠という人物
実用日本語表現辞典より
令和8年、現代において我々はTVCM、ネット広告、電車の広告…あらゆる場所で脱毛を推奨される。特にVIO脱毛は広く普及し、陰毛を悪と見なす風潮が高まっているように感じる。
しかしながら、上記の通り陰毛には役割がある。かのアムロ・レイがセイラさんの陰毛を得ようとしたエピソードに代表されるように、戦時中の日本において、陰毛は「弾(タマ)除け」のお守りとして、出征する兵士に妻や恋人が贈る風習があったとも言われている。
そんな陰毛を研究対象として、民間信仰や俗信を真剣に調査・収集した学者が存在する。


近代日本人の肖像画より引用
南方熊楠先生だ。
日本の近代を代表する博物学者・民俗学者として小学校社会科の教科書にも掲載され、粘菌の研究家としても主に社会科系科目で扱われることが多いため、名前はなんとなく覚えている。という方が多いのではないだろうか。


2021年には共通テスト・倫理でも熊楠について問う内容が出題されており、近年より一層の注目を集めている人物である。


教科書や共通テスト等で扱われるほどの偉業を残す一方で、館員に暴行を加えて大英博物館を出禁になったエピソードや、昭和天皇に粘菌の標本を献上する際に粘菌をキャラメルの箱に入れて献上したエピソード等、破天荒な人物としての一面も多く語り継がれている。
本稿では、様々な逸話から、知の巨人ないし知の妖怪と称される南方熊楠の破天荒さをこれでもかというほど詰め込んだ傑作伝記漫画を紹介しよう。
『猫楠 南方熊楠の生涯』で熊楠の生涯を知る
前述の通り、知の妖怪と称される南方熊楠。妖怪と言えば水木しげる。本稿にて紹介するのは、水木しげる先生が南方熊楠の生き様を描いた漫画作品『猫楠 南方熊楠の生涯』だ。


熊楠は1867年に和歌山市にて誕生し、後に渡米、更にニューヨークからロンドンに渡り、1900年、熊楠が33歳の時に日本へ帰国する。本作では、日本に帰国して以降の熊楠の様子を中心に描かれる。
熊楠は英語、フランス語、イタリア語を始めとした多言語を習得しており、本作においては「猫語」「幽霊語」等の言語も自在に使いこなす。
その特殊能力を発揮し、意気投合した猫に「猫楠」と名付け、同居することとなり、その猫楠と呼ばれる猫を狂言回しにして、熊楠の生涯が生き生きと描かれた伝記的作品が本作『猫楠 南方熊楠の生涯』である。


本作で描かれる熊楠は、ほぼ全てのシーンで酒を飲み、全裸で生活し、ゲロを吐き散らし(熊楠は自在に吐瀉する能力を持つ)、だいたいチンポの話をしているが、これはフィクションではなく史実に基づくものだというのだから驚きだ。
チンポ・ゲロ・暴力…と目を背けたくなるような描写が多いものの、水木しげる特有の力強くもキャッチーなタッチで描かれるキャラクターや、時折挿入される幻想的な描写によってある種の爽快感がもたらされるような作品に仕上がっており、南方熊楠という題材と水木しげるの作風が噛み合った非常にパワーのある伝記となっている。
独自の死生観や、魔女・牛鬼などの霊的・妖怪要素も含まれる作品なので、鬼太郎ファンも楽しめる一作だ。
アリにチンポを噛ませる研究を始めとした奇行の数々
本作で描かれる数々の熊楠の奇行の中でも特に強いインパクトを持つのが、第8話「蟻の研究」で描かれる内容だ。
いつものように全裸で(何故?)粘菌の研究をしていたところ、アリにチンポを噛まれてしまう熊楠。


転んでもただでは起きない熊楠は、チンポが腫れて肥大化した事象を研究することで、チンポを巨大化することができるのではないかと目論む。
もう一度チンポを腫れさせるために、周囲に呆れられながらもアリにチンポを噛ませるための試行錯誤を繰り返す熊楠の姿はコミカルでありながらも狂気を孕んでおり、偉業と共に多くの奇行が語り継がれる熊楠の人となりが理解できるエピソードとなっている。
チンポとアリのエピソードはあくまでも熊楠の数多くある奇行の内の一つであり、序盤~中盤にかけてはそうしたエピソードを通して、熊楠のパワフルかつ知的好奇心に溢れる面がフィーチャーされるが、熊楠の晩年を描く終盤では、熊楠の親族に関するとある悲痛な出来事を筆頭に、南方熊楠という人物が内に抱えていた悲哀や人生観について考えさせられる内容となっている。
そうした終盤の展開もあり、単に熊楠を破天荒に描くだけのフィクショナルな伝記に留まらない、読後記憶に残るような作品に仕上がっている。


とはいえ、概ね暴力と猥談で進行するので、伝記ではあるものの教養本的な側面よりも肩肘張らずに読めるエンタメとしての側面が強い作品だろう。
受験勉強を通して熊楠を知り興味を持った方や、水木しげるファンの方などは気軽に手に取って一読してみてはいかがだろうか。
そして、現代における陰毛を悪とする風潮に対してみなさんが一考する一助になれば幸いである。







