新生活がスタートしてもうすぐ1カ月が経ちます。
楽しんでいる人もいれば「期待していたものと違う…」と、しんどさを感じている人もいるのではないでしょうか。
そんな5月病になりそうな人に見て欲しいロードムービー『EO イーオー』が5月5日(金)より公開されます。
『エッセンシャル・キリング』で知られるポーランドの鬼才、イエジー・スコリモフスキ監督の新作はなんとロバが主人公。
CGなし。声優によるナレーションもなし。純度MAXのロバ・ロードムービーとなっております。
なぜ今作が新生活に疲れ始めている人にこそ見て欲しいのか?
そこにはEO(ロバ)の境遇や”彼”の悠然とした立ち振る舞いにヒントがありました。
映画『EO イーオー』概要
愁いを帯びた瞳とあふれる好奇心を持つ灰色のロバ、EO。
心優しきパフォーマー、カサンドラのパートナーとしてサーカス団で生活していたが、ある日サーカス団から連れ出されてしまう。
予期せぬ放浪の旅のさなか、善人にも悪人にも出会い、運を災いに、絶望を思わぬ幸福に変えてしまう運命の歯車に耐えている。
しかし、一瞬たりとも無邪気さを失うことはない。
(公式サイトより引用: https://eo-movie.com/)
ヴィンセント・ギャロ主演の『エッセンシャル・キリング』や『イレブン・ミニッツ』で知られるイエジー・スコリモフスキ監督。俳優としても活動をしており、『アベンジャーズ』にも出演した過去を持ちます。
『ザ・シャウト/さまよえる幻響』では、絶叫で生き物が死ぬ前衛的な映画を撮った監督ですが、もともとは大の動物好きのようです。
今作でも動物へのリスペクトが随所にみられます。
ちなみにスコリモフスキ監督は『バルタザールどこへ行く』でしか、映画を観て泣いたことがないそうです。(涙の敷居が高い…)『EO イーオー』はこの作品にインスパイアされています。
EOの旅路と新社会人の類似点
本作におけるEOの旅路は、どこか新社会人がたどる(かもしれない)人生の一部と似ているところがあります。
新生活に不安を抱えている方は、ぜひEOの旅路とご自身の生活を照らしあわせてみてください…。
突然の転職を余儀なくされるEO
もともとはサーカスでパフォーマーのカサンドラ(サンドラ・ドルジマルスカ)と一緒に出演していたEO。
しかし動物愛護団体のデモに遭遇してしまい、見ず知らずの人間たちに連れ去られてしまいます。
EOがたどり着いた先は、多くの馬を取り扱うブリーダーたちの施設。モデルに駆り出される馬を横目に、EOはパフォーマーから荷車を引く仕事に転職することに…。
今は何が起こるか予測できない時代。新卒で入った会社がまさかの倒産になったり、希望する部署に所属できなかったり、それこそEOのように見ず知らずの地域に配属されたり…。
カサンドラと引き離されたEOですが、配属(?)された新施設の式典では、のんきに首飾りのニンジンをむしゃむしゃ食べていました。
ちょっとマイペースなEOの振る舞いは作品がシリアスになりすぎず、監督の過去作の中でもかなり見やすいと感じました。
OJTのないまま現場に駆り出される
OJT( On the Job Training)とは、実務を通して部下や後輩に仕事を指導する教育方法のことです。
荷車を引く仕事をすることになったEOですが、現場は馬ばっかりなので、満足な指導は受けられません。サーカスという異業種からの転職なので、現場でもあまり馴染めていない様子…。
大手企業では、まずは座学による研修期間を設けるのが通例です。しかしベンチャー企業や中小企業では、とりあえず現場に出て働きながら学ぶ傾向も強いです。
新卒の場合はアルバイトやインターンである程度現場を知っていればよいですが、まったくの初めてとなると、いきなり現場はしんどいものです。
やがて、馬社会に怖気づいてしまったEOは、馬の喧嘩にびっくりして小屋を飛び出してしまいます。
あたりの小道具をめちゃめちゃにしながら飛び出していったEOは、再び別の場所へ飛ばされました…涙
昔バイト先でミスを連発して「もうそれやらなくていいから!」と言われた記憶がよみがえって、心臓がキュッとなったシーンです。
EO、バックれる。
仕事はうまくいかず、現場にはなじめず…。急にカサンドラが恋しくなるEOですが、そんな彼のもとに、EOを探していたカサンドラが現れます。
しかしすでに買われたEOを連れ出すことができず、カサンドラはその場を去ってしまいます。ついにEOは社宅(小屋)を飛び出し、カサンドラを探す放浪の旅に出ます。
そんな旅の道中でもEOに危険が迫ります。森へ迷い込めばオオカミがおり、さらにはそれを狙う猟師まで…。果たしてEOの旅の行方はどうなるのか…。
筆者はこれまで仕事のプレッシャーに追いつめられて、精神がやられた人を何人も見てきました(どんな職場だ)
いっそ人間もEOくらいフットワーク軽く生きた方がいいかもしれません。ロバから見習う仕事観もたくさんあります。
オフの日のトラブルに巻き込まれる
業後の飲み会や、大きなプロジェクトが終わった後の打ち上げ。本当は大勢で飲むの好きじゃないけど、付き合いもあるし…。
そんな気持ちで参加している人、これから参加する予定がある人もいるのではないでしょうか。
こういう場に限って、先輩に変な絡まれ方されたりして、仕事以上の疲れを感じるんですよね~。
一方、EOは晴れて無職の身。ある意味、動物本来の生き方に回帰しました。
そんな彼がたどり着いた街ではサッカーの試合が行われ、地元のサポーターで盛り上がっています。
そしてPK戦になると、突然興奮しだすEO。ロバの鳴き声(これが滅茶苦茶デカい)によってPKを外したと、審判に抗議するサポーターも登場するほど試合は大波乱となります。
勝利したチームはEOを勝利のロバとたたえ、そのまま打ち上げに連れていきます(何故か全くの無抵抗で連れていかれるEO)
打ち上げ先では勝利に浮かれるサポーターをよそに、はしゃぐわけでも怖がるわけでもないEOは相変わらずマイペース。
しかしここで、EOはあるトラブルに巻き込まれることに…。
これから打ち上げの機会や社外でのイベントが控えている方も、浮かれすぎにはご注意を。
浮かれそうになったら、本作で見られるEOのどこか冷めたまなざしを思い出すと効果的です。
セリフはなくても、EOの感情が伝わってくる演出が凄い!
本作ではナレーションは一切ありません。ロバもCGではなく、代役を含めて6頭のロバを出演させています。
上記で取り上げたEOの感情面はすべて筆者の憶測です。
しかしセリフやナレーションがなくても、EOの置かれた境遇や、突如差し込まれる赤が幻想的なシーンなどによって、EOの感じていることが伝わってきます。
草原を走る馬を見るEOのまなざしは羨ましさや憧れを感じられるし、サポーターに囲まれているときのEOは、人間のはしゃぐ様子がまるで理解できないとばかりに冷ややかです。
一方で、EOが次にどんな行動を起こすのか全く読めない部分もあります。さすが野生に戻りつつあるロバ…。
彼はカサンドラの元にたどり着きたいのか?新しい世界に夢中になっているのか?そんなEOの性格も、物語を通して少しずつ理解できるようになっています。
物語の着地点はすべてEO次第という、先の読めない展開も面白かったです。
EOから学ぶ「避ける」ことの重要性
『EO イーオー』では、危険な状況から逃げることについても描かれており、これこそ今の人間社会でロバから学ぶべき大切な手段とみることができます。
本作ではEOを迎え入れる人がいる一方で、彼を自分の利益のために使ったり、さらったりする人も登場します。
EOは自分に敵意がない人にはおとなしいですが、さらわれたり身の危険を感じたりすると、当然逃げ出します。
しかし監督は本作へのコメントで「逃げる」という表現を避けています。
あくまでEOの行為は「避ける」と表現しており、それは世にはびこる不正や暴力といったネガティブなものに対して、意図的に距離をとるための正当な手段として意識されています。
人間も組織に属すると、不正や不利な状況に直面することが出てきます。
そういう時こそ、自分で対応できない範囲は「避ける」ことが重要になってきます。周りから「逃げているだけだ」と言われようが、無理に苦しい状況に身を置いて、体や精神を壊しては元も子もありません。
EOの「避ける」という行為を見習い、人間も置かれた状況に対して正直な行動ができるようになれば、もっと生きやすいのかも…なんてことをEOを通して感じました。
ちなみに監督は本作を「自分や人間ドラマから切り離して作った」と語っており、今作の存在自体が、監督にとっての現実への”回避”として受け止めることができます。
普通にロバが可愛いので、動物好きは必見!
辛気臭い感じになってしまいましたが、今作ではEOの愛くるしさやマイペースっぷりもしっかり堪能できました!
動物映画好きはマストで見た方がいいです。とことこ歩くEOの姿もキュートです。あと鳴き声がめちゃくちゃデカくてびっくりします。
個人的には変なナレーションや演出がついた番組や映画が苦手な人にこそおすすめしたい!
非常にシンプルなストーリーなので、監督の過去作『イレブン・ミニッツ』を見て「???」となった人も、身構えずに楽しむことができます。
動物好き(と人間嫌い)な人はぜひ見てみてください!!
映画『EO イーオー』詳細情報
【STAFF】
監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本・製作:エヴァ・ピアスコフスカ、イエジー・スコリモフスキ
撮影:ミハウ・ディメク
音楽:パヴェウ・ミキェティン
編集:アグニェシュカ・グリンスカ
調教師:アガタ・コルドス
【CAST】
EO:タコ、オラ、マリエッタ、エットーレ、ロッコ、メラ
カサンドラ:サンドラ・ジマルスカ
マテオ:マテウシュ・コシチュキェヴィチ
ヴィトー:ロレンツォ・ズルゾロ
伯爵夫人:イザベル・ユペール
2022/ポーランド、イタリア/カラー/ポーランド語、イタリア語、英語、フランス語/88 分 映倫:G
後援:ポーランド広報文化センター 配給:ファインフィルムズ
© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn,
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公式HP:https://eo-movie.com/
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