映画をおもしろく見られたけどちゃんと読み取れたのかしら? という不安『ベルリン天使の詩』

マシーナリーとも子

世の中にはまだ名も知らぬ「ド定番名作」がたくさんあるらしく怖い

うーん なんか……良さそうな映画って匂いがすごくするぜっ! って思ってウォッチリストに入れっぱなしだった作品を見ました。

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良さそうですよねッ

でも見終わった後で軽く調べて知ったんですが、なんか普通に名作としてバリバリ有名な映画だったみたいですね。「知ってるけど見たことなかった」とかじゃなくて本当にまったく知らなかったよ……。世の中って未来に進めば進むほど名作の数って増え続けるだけで減らないのって怖くなりませんか? あなたは摂取したことがないど定番の名作がいくつありますか? 全部摂取し終わる前に死ぬんだぞ!

でも大丈夫。死んだら天使になれるからね。

そんなわけで映画の話です。

おもしろいけど眠くなる映画です!

天使ダミエル(左)とその親友カシエル(右)。本作の天使は基本コートとマフラー

舞台は1987年、東西に分たれたドイツの都市ベルリン。
その街には天使が闊歩し、人々の心を読み取り、集め、記録するという仕事に従事していた。

主人公の天使、ダミエルは長く天使の仕事を続けるうちに人間の生き方に深い興味を持つ。
ある日ダミエルは、サーカスで天使に扮して空中ブランコをする女性・マリオンに恋をしてしまい……。

というのが大雑把なあらすじと言える。

孤独で鬱々としている女性マリオン

コレだけ読むと「ああ、そういう系のお話ね」と思うことだろう。私もそう思っていました。下々の者に憧れた天使が、不老不死の身体を捨てて定命の者になり、ほんとうの幸せを手にする! 定命とか恋愛って最高! これぞ人生だ! みたいな……。で、まあ実際そういう話ではあるんだマジで。

が、「そういう話」ではあるんだが「そういう映画」なのかと言われるとそうではないというか……。

この映画、いわゆるハリウッド映画とか日本のマンガみたいな構成をしてないんですよね。こう、このくらいのところに1盛り上がりがあって、次のターンに進んで、そこでまた葛藤だの盛り上がりだのがって……みたいな「段階を踏むような構成」をしていない。

先述したとおりこの映画の天使たちは人間たちの心を読み、寄り添うことができる。そしてこの映画、2時間のうち半分くらいはその、「様々な人間たちの心のなか」を滔々と聞かされるのだ。

例えばあなたが家を出て、近くの駅とか繁華街とかに行く。すると無数の人間たちがいるわけだ。

当然、彼らには「物語」のような統一された筋のようなものはないので、各々考えていることが違う。
晩飯のことを考えている人がいれば、恋人のことを考えている人もいる。
死にたいと考えている人もいるだろうし、幸福の絶頂にいる人もいるだろう。
人はみんな、バラバラにそれぞれの人生を生きているのだ。

と、いうメッセージなのかどうなのかは私には判断できなかったが、この映画はそんなふうにひたすら、ザッピングのように街行く人たちの思考を聞かせてくる。

正直「なんだこれは」って気持ちになってくるのだが、段々とその意図らしきものも見えてくる。

これは作中の天使の毎日を追体験させられているのではないか?

金も持たず腹も空かず、同僚とのトラブルも無いし家を追い出されたりすることも無い。老いに嘆くこともなければ自らの無成長に悲しむこともない。

一見それは人生を荒立てる波のない、平穏な暮らしに思えるかもしれないが、そんな起伏がなく毎日を人間の感情を読み取って何百年も生きる暮らしはこんなにも退屈なのだ。

いや、そこまで退屈というわけではないが(ちょっと眠くはなったけども)、こうしてずっと見せられるとなるほど、定命の者になってあくせく働いたり自己実現を目指してみるのも悪くはないのかもしれないなあと思わされますね。

会釈にすら憧れるという描写は秀逸に感じた

おもしろいけど全部読み取れてない気もする だけどまあ天使じゃないからな

またこの映画、白黒映画として始まるのだが公開は1987年であり、当然世の中のあらゆる映像は基本的にカラーになっている。『トップガン』が上映されて『タートルズ』のアニメやってる頃だぞ。

これは何かというと、天使視点の映像という演出なんですね。
天使の世界には色彩がない。

そしてたまに、本当にたまぁ~に視点が人間に映ったときだけカラー映像になる。

この演出チェンジも、劇的ではなくふわっと自然にやってくるのが侘び寂びの映画ってカンジがするわね。

当然、終盤にダミエルが人間となってからはほとんどの映像がカラーになるわけなんだが、こうなるとやはりストーリーにも急に軸のようなものを感じてくるから不思議です。

ダミエルが「色」を知る際に効果的にベルリンの壁が使われる

「なにが永遠の命だ! 命は限りあるからこそ尊いんだ!」的なメッセージは物語としてあまりにも擦られすぎていて、最近は「意外とそうでもないんじゃないか?」「永遠の命ってけっこうおもしろいんじゃないか?」って思ったりすることも多かったんですが、本作のアプローチは「やっぱ定命の者って……悪くねえかも!」と思わせられるなるほどさがありました。

派手な部分はないけど思い返せば思い返すほど「うーん よく出来とったな」と思えてくる味わいのある映画だった。名作と言われることだけはあるぜ。
あとはまあ東西分割とかベルリンの街自体の文脈とか、そもそもの欧州においてのWW2の影響とかも踏まえるとまた違った味わいが出てくるんでしょうけど、なかなかそのへんな島国出身かつ不勉強だと難しいですわな。あるいは天使というのもなにかの比喩だったりするのかもしれませんね。全然わからないけど……。

でもまあ仕方ない。私たちは天使ではないので。全知ではないので。うなずくだけの挨拶をしていくしかないんですね。

しかしまあ最近はほんとヨーロッパ史ってもっと勉強しないと娯楽にも差し支えがあるな~と思うことが多くなりましたわ。図書館行こうかね。

いやー いい映画だった。

えっ!?!?!??!?!?! 次回に続く!?!??!
ジョジョ!??!?!?!

あ ほんとだ続編あるわ!

 

あと

ピーター・フォークが本人役かつ重要なキャラとして出てきたりします。驚いた。

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