映画好きが集う我がタイムラインにて、突如として複数のフォロワーが『1日外出録ハンチョウ』の女将になっていた。どういうことかというと、皆口々に「観といたほうがいいですよ、『赤い糸 輪廻のひみつ』は…!」と言い出したのである。そして二の句は、「配信やソフト化は絶望的なので…!」と続く。
良識あるフォロワーを福本漫画みたいな喋り方に変えてしまう映画とは一体どんなものなのか。その答えを求めて先日、意気揚々と映画館に向かったのだけれど、女将たちの言う事は正しかった。確実に“今”観といた方がいい、いや、観ておかねばならない傑作であり、この映画がより多くの人の元に届くためには、今この記事を読んでくださっているあなたの力が必要なのである。
というわけで、「いずれ観られなくなってしまう」という未来を変えるためにも、今回は『赤い糸 輪廻のひみつ』をご紹介。そして、皆様にお願いがあります。こちらの記事を読み終わったらSNS等でシェアの後、映画館の座席をご予約いただきたいのです。これは掲載メディア様の意向ではなく、ライター一個人からのお願いでございます。お願いだから『赤い糸 輪廻のひみつ』を観てくれェーッ!!
オモロい要素の満漢全席!?信じられないくらいてんこ盛りエンタメ傑作
して、困ったことに、出来ることなら『赤い糸 輪廻のひみつ』については何も知らずに観てほしい、そんなタイプの映画なのである。あらすじも監督の名前も知らず丸腰で劇場の座席に座り、二時間あなたの感性をスクリーンに委ね、「そういう映画!?!?」が連発するあの感じを味わってほしい。編集部の方に怒られるかもしれないけれど、本音としては「今すぐ行って!!!!!!!!」のお気持ちで、この記事を締めたいところではある。
しかしそれでは紹介記事にならないので、映画という名の濃厚なスープをものすご〜〜〜〜〜〜〜〜く薄めたあらすじを書いてみたい。なお、本稿では読みやすさを優先するため、キャラクター名などはカタカナ表記とさせていただくことを、何卒ご容赦いただきたい。


舞台は現代の台湾。公園でバスケを楽しんでいた青年シャオルンは、不幸にも落雷で命を落とすことに。ところが、死んだシャオルンは冥界で目覚め、再び人間に転生するために月老(ユエラオ)の職を目指すことになる。“ユエラオ”とは人々の縁結びをするお仕事で、シャオルンはパートナーとなった女性ピンキーとともに人々を幸せにして得を積んでいくのだが、彼には生前に果たせなかったある約束があった。しかしシャオルンはその約束を交わした女性シャオミーを見つけたことで、失っていた現世での記憶を取り戻していく。
このように、出だしから「主人公の死」「冥界」とおどろおどろしい表現が続くものの、基本的には人と人を運命的な恋で結びつける「赤い糸」の迷信をモチーフにした、ラブファンタジーものである。問題は、本作の場合は同じ丼に「三角関係モノ」「殺人鬼スリラー」「ドラゴンボールみたいなバトル」「健気なワンちゃん」が乗っかってきて、しかしそれらが128分に綺麗にまとまっているという奇跡みたいな盛り付けをしているところなのだ。


果たしてそんな映画を、どういうジャンルでくくればよいのだろうか。本作はユエラオ=縁結びのキューピットたちの日常を描くお仕事ドラマをしていたかと思いきや、カットが変われば復讐のために転生を果たした凶悪な男グイトウチェンによって襲われた人間の身体がありえない方向に曲がり、またカットが変われば可愛いワンちゃんをひたすらに愛でる時間が始まっている。このように、本作は忙しなくジャンル間を反復横跳びしながら進み、全く関係ないように思われたそれらはしかし、「輪廻」という一本の糸によって結ばれていく。
この流れがとにかく見事であり、情報量は多いのに見やすく、観客がその時々の主題を逃さないようかなり丁寧に作られており、(あの『怪怪怪怪物!』の!)ギデンズ・コー監督の手腕は凄まじいものがある。複数のジャンルがまたがる映画は多々あれど、本作の濃厚さとテンポの良さは、「信じられない」という言葉しか頭に浮かばなかった。どうしてこれだけ盛り込んでおいて、破綻せず、ずっと面白いままなのか。これは「5億年ぶりに絵書いたw」のようなオタク誇張表現などではなく、マジのマジで「信じられない」くらいに面白いので、どうかそれを体感いただきたいのである。
好感度が天元突破な主人公と、可愛すぎるヒロインたち
本作のキュートな魅力を後押ししているのが、主人公のシャオルンの人となりと、彼を演じるクー・チェンドンさんの演技にあることは間違いない。竹内涼真くんを彷彿とさせる顔立ちと笑顔に、全国の映画ファンが恋に落ちている。


シャオルンは落雷によって生前の記憶を失っているのだけれど、落ち込むことなく、再び人間に転生するためユエラオのお仕事に真っ直ぐであり、他者を陥れたり傷つけたりといったことはせず、素直に他者の幸せを祈ることのできる好青年である。そんな彼の人の良さは、シャオミーという女性との再会を経て記憶を取り戻しても一切変わることがなく、むしろその好青年ぶりは彼の根っこで不変の部分であることが示されてゆく。
バディとなったピンキーと軽口を叩き合いながら、彼女を傷つけたクズ男への粋な仕返しをして、シャオミーの幸せのためならどんなことも厭わない。彼が誠実で清らかな人格であるからこそ、シャオミーへの一途な想いも、ピンキーが彼に振り向いてほしいと思ってしまうのも、観客は自然と納得できてしまう。そんな彼とシャオミーの微笑ましい関係性は、まさにカップルオブザイヤー級で、本作を観る誰もが彼らの幸せを願わずにはいられない。あの山崎貴監督もそうであるように。
シャオミーを演じるビビアン・ソンさんは、高校生時代の真面目な委員長タイプのメガネをかけている頃のご尊顔がマジで可愛すぎるので、これから映画をご覧になる方は恋をしてしまわないようご注意いただきたい。彼女の清楚な佇まいと、シャオルンや仲のいいご老人たちの前だけに見せる茶目っ気のある個性のギャップが素敵なのだが、シャオルンとの馴れ初めを見守っていく中盤のパートは悶絶するくらい甘酸っぱくて、ついこちらも口元が緩んでしまう。


もう一人のヒロインにして主人公の相棒となるピンキーを演じるのは、同名ホラーゲームの映画化『返校』にて主演を務めたワン・ジンで、打って変わってこちらではピンクの髪と笑顔がキュートな女の子を嬉々と演じている。シャオルンにとって同性のように気兼ねなく接していられる女の子のようでありながら、彼女も健気で一途なところがあり、シャオルンとシャオミーの関係をやきもきしながら見守りつつ、自分の複雑な想いに気づき始めるところは、愛おしくてたまらない。そんなピンキーのカワイイが弾ける中盤のダンスシーン、そしてクライマックスのとある決断に、私個人は萌え燃えしていたことをお伝えしたい。


その他にも魅力的なキャラクターが多数登場する本作なれど、まずはこの三人の微笑ましく可愛らしい三角関係を押さえていれば、映画から置いていかれることはなくなり、存分に感情移入できるはず。なお一つだけ付け加えておくと、私が絶賛メロつき中のお方ということで「牛頭(ごず)様」という御名前を、頭の片隅に置いておいてほしい。前述した「ドラゴンボールみたいなバトル」を担当する、マジでカッコイイ女性が登場します。
「輪廻」のドラマは号泣必死!お願いだから映画館に行ってくれ!!
霊体のシャオルンはシャオミーの幸せを願い赤い糸が結ばれる相手を探し、ピンキーはその光景に胸を痛めつつも突破口を開き、ついに物語が動き出す。そのタイミングでマジの殺意と共にエントリーしてくる殺人鬼グイトウチェン、弱っていく犬、『呪怨』と『リング』のパロディ!というごった煮すぎる映画『赤い糸 輪廻のひみつ』は、ただいま全国で絶賛公開中である。最新情報はXの公式アカウントから、劇場情報は映画の公式サイトからご確認いただきたい。
https://taiwanfilm.net/yuelao/
さて、実はこちらの文章は、ライターである私個人が本編を鑑賞直後に書き始め、ムービーナーズ様に掲載をお願いして、それが叶ったものである。どうしてこんなに焦ってキーボードを叩いているのかといえば、本作の日本での上映権は2025年11月末までとなっており、諸事情によりソフト化や配信がされないことが現時点で明言されているからである。
つまり、今年の12月以降、本作を観る手段が絶たれてしまい、どんなに気になったとて観られない、という悲劇が起こってしまうのだ。そうならないためにも、“今”のうちに“劇場で”観ておかねばならない、ということを広めたくて、この文章をしたためているのである。本作に心打たれ、ハンカチをビショビショにするまでに泣かされた身としては、万人に薦められる傑作として『赤い糸 輪廻のひみつ』を宣伝し、たった一人でも劇場に足を運ぶきっかけになれたらという「祈り」を込めて、ここまで書き進められている。


ただし、ここで言う「祈り」は12月以降もこの映画を観られる世界になってほしい、の意も含んでいる。少しだけ自分語りをさせていただくと、私がこうしてライター活動をさせていただくきっかけの一つとなったとあるインド映画は、口コミを介してのヒットから熱気が広まり、監督やキャストの来日、本国と同じバージョンの“凱旋”といった様々な奇跡を起こしてきた。その映画のキャッチコピーを借りるのなら、“願えば叶う“ことを、目の当たりにしてきたのである。
もちろんそれらは配給会社様など様々な「公式」の皆様の粉骨砕身の先に叶った景色だとは承知している。けれども、そうしたムーブメントの火種にファンである私達もなれるはずだと信じているし、すでに本作には根強いファンの方が全国にいて、今なお草の根活動がSNS等で展開され、公開劇場も続々と増え続けている。こうした活動が、「いずれ観られなくなる」という悲しい未来を変えられるのではと、そういう望みをまだ捨てたくないのだ。


そんな願いが叶うかはわからない。ただ今言えるのは、『赤い糸 輪廻のひみつ』を観てほしい、ただそれだけだ。「輪廻」が織りなす数奇なドラマがもたらす深い感動を、ぜひとも味わっていただきたい。その時あなたが抱いた想いが、未来を変えるかもしれないのだから。
映画『赤い糸 輪廻のひみつ』は2025年11月まで絶賛公開中
https://taiwanfilm.net/yuelao/