原始人対旧式直立恐竜!韓国版恐竜100万年? 『ティラノの爪』(1994年)

かに三匹

韓国で造られた『ティラノの爪』という映画を紹介したい。原始時代に人間と恐竜が共存しているという設定の作品だ。韓国産ではあるが登場人物の原始人はほとんど言葉を話さないので韓国語がわからなくても大丈夫な作品である。

実は子供向けコンテンツでは恐竜ものが非常に人気が高い。多くの恐竜モチーフのアニメや特撮(近年日本でも放送された『アーマードサウルス』など)が製作されている。

この作品は少々古いが、それらの先祖ともいうべきものの一つかもしれない。とはいえ出来の悪い祖先であるが……。1994年という時期から考えて『ジュラシックパーク』の影響を受けているのかもしれない(とはいえ恐竜と人間が共存しているという以外は『ジュラシックパーク』とは共通点がない、むしろ『恐竜100万年』の方に影響を受けていると感じる)。

というわけで映画の紹介に移りたい。この映画の魅力は安っぽいが真剣な演技を見せる原始人たちと人が入っていることがまる分かりの着ぐるみで表現される恐竜たちだ。恐竜だけでなく翼竜や巨大なネズミも着ぐるみで登場する。

そして意外と残酷な描写が多いのもこの映画の特徴である。だが恐竜と原始人が頭突き合戦をするシーンや、プテラノドンとの戦いのシーンなど、作品自体はシリアスに作っているのにもかかわらずコメディにしか見えないのが特徴のB級映画だ。

映画の舞台は5万年前。
ティラノサウルスを崇拝し生贄を捧げている原始人の一族の若者が、族長に反乱し、一族を離れるが後に一族に戻りティラノサウルスを倒すというものだ。

冒頭のティラノサウルスが生贄を食らうシーンは異様な怖さがある。B級映画にあるまじき迫力だ。しかし、原始人の暮らしの描写などは岩壁に原始人の扮装をしたおっさんがぶらぶらしているようにしか見えない。そして問題はこうした映画のセールスポイントともいえる恐竜の描写だ。

特に着ぐるみの恐竜たちには、どう見ても人が入って動かしている雰囲気がにじみ出ている。1994年といえばすでに直立の二足歩行の恐竜復元図は古いものとなっていたはずだが、この作品に登場するパキケファロサウルスは人間と同じように直立二足歩行である。

そうした考証の不十分さも、映画の安っぽさを醸し出している。さらにこのパキケファロサウルスは頭突きで原始人を殺し、あろうことか他の原始人と頭突き対決を行うのである。演出も無残で小山の上に棒立ちになるパキケファロサウルスが大便を排泄中の原始人を襲うという下品なシーンである。

次はプテラノドンである。二足歩行こそしないが着ぐるみに人が入ったままワイヤーでつるされたプテラノドンが人間をさらい、空を飛ぶのである。さらった原始人は子供に食べさせるのだ。

主人公と格闘を繰り広げる巨大ネズミもすごい。ほぼ人間大の大きさのネズミが主人公を襲うのだが、息詰まるはずの乱闘も、その手足に人間が入っている雰囲気がにじみ出ているため台無しである。もちろん巨大ネズミも2足歩行で襲ってくるのである。

また原始人に子供を奪われた家畜のトリケラトプスも登場する。この母親トリケラトプスは推定2メートル程度の大きさである。微妙な大きさが逆に怖い感じがするのだ。

本来は草食動物のトリケラトプスが子供を取り返すために人間を襲うのである。強い顎で原始人の頭をがぶりと食いつく。しかし人こそ着ぐるみの中に入っているものの四本足のトリケラトプスは動かしづらかったのか、最初に原始人を襲ったあとは、地上に棒立ちになっているだけで動かないのである(大人の事情で動けないのだろうなあ)。

最初の勢いはどこへ!?

なすすべもなく原始人に殺されるトリケラトプスが不憫でならない。トリケラトプスについてだけは造形も自然で恐竜に見える。子供のトリケラトプスの造形はやたらと可愛いのも魅力だ。

この作品のプロデューサーであり監督のシム・ヒョンレは韓国ではB級映画を量産していたことで知られている有名コメディアン・俳優だ。シム・ヒョンレは『ティラノの爪』では主役も務めている。

この『ティラノの爪』と同様に巨大な生物が登場する作品には日本でも公開された『怪獣大決戦ヤンガリー』や『D-WARS』に、日本でも未公開だが展開が『ゴルゴ』や『大巨獣ガッパ』と展開が似ているという『ヨングと恐竜チュチュ』(人間に奪われた子供恐竜チュチュを助けに親恐竜がソウルの街を暴れまわるというもの)といったものがある。

この作品はカンヌ映画祭にも出品されたそうであるが上映会場で嘲笑されたらしい。そして興行的にも大失敗(製作費24億ウォンに対して収益が1億ウォンしかなかった)してシム・ヒョンレの会社ヨングアートムービーを倒産寸前にまで追い込んだのだという。

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