映画『配信犯罪』レビュー!違法な配信をあえて「魅せる」理由とは?巧妙な罠を見抜け!

ヤマダマイ

2018年から2020年にかけて韓国で起きたサイバー性的搾取事件「n番部屋事件」

韓国のみならず、世界中に大きな衝撃を与えると同時に、ネットの闇に葬られ続けていたデジタル性犯罪を暴きました。

こうしたネットでの性犯罪における加害者・被害者の構図を浮き彫りにした、現代ならではのスリラー『配信犯罪』が10 月 13 日(金)よりシネマート新宿、10 月 20 日(金)よりシネマート心斎橋にて公開されます。

現代社会の大きな闇のひとつである「違法配信」や「デジタル性犯罪」をテーマに、被害者となった女性の恋人である青年と、配信を取り仕切る謎の男「ジェントルマン」による熾烈な攻防が描かれた作品です。

映画『配信犯罪』概要

友人から違法ライブ配信のリンクを受信していたことがバレてしまい、恋人のスジンに振られそうなフリーランスプロデューサーのドンジュ。大企業への就職活動に挑みつつ、スジンのサプライズ誕生日パーティーの準備をしていると、彼のPCに謎のライブ配信リンクが送られてくる。違法なサイトと思われるその画面には、スジンと「ジェントルマン」と名乗る仮面を付けた不気味な男が。あらゆる伝手、人脈、SNSそして頭脳を使いスジンを救うべく奔走するドンジュ。彼はスジンを救えるのか。そして「ジェントルマン」のスジン誘拐の真の目的とは―!?(公式サイトより)

大御所 VS 若手の戦いが実現!

ⓒ 2023 Triple Pictures Inc All Rights Reserved.

本作で違法配信を取り仕切る謎の男「ジェントルマン」を演じるのは映画『新しき世界』(13)のイ・ジュング役で注目を集め、その後も『オペレーション・クロマイト』(16)や『ノンストップ』(20)などに出演するパク・ソンウン。

韓国では映画のみならず、ドラマやバラエティー、CMなど幅広く出演しており、高い認知度を持つ俳優です。

『配信犯罪』では主人公ドンジュの恋人・スジンを盗撮する違法配信を行いながら、わざと紳士的なふるまいでドンジュを嘲笑う狡猾な男を演じています。

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「ジェントルマン」の配信を止め、恋人スジンを救おうとする青年ドンジュは若手俳優パク・ソンホが熱演。

ドラマ「黄金の虹」で俳優デビューを果たし、パク・ソンウンも出演しているNetflixオリジナルドラマ「RUGAL /ルーガル」などに出演。映画ではマ・ドンソク主演の『ファイティン!』(18)などに出演しました。

今作では自分の恋人が盗撮されている違法配信ルームに招待されたことで、あらゆる手を使って配信を止めようと奔走するフリーランスのプロデューサーに扮しています。

常に相手は画面の向こう側にいながらも、恐怖や怒りを「ジェントルマン」にむけて爆発させる、緊張感ある演技は必見です!

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恋人スジン役には、子役時代からキャリアを積み重ね「王女ピョンガン 月が浮かぶ川」(21)や『漢江ブルース』(16)などのドラマ・映画で活躍するキム・ヒジョンが抜擢。

監督・脚本は韓国で実際に起きた拉致監禁事件をベースにしたスリラー映画『消された女』(17)の企画・脚本を手掛け、今作が初の長編監督となったチェ・ジュヨン。

デジタル性犯罪による被害者が、今後増えないことを祈る気持ちで本作を制作したと語っています。

危険な配信をあえて「魅せる」演出

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『配信犯罪』は昨今のデジタル犯罪に警鐘を鳴らす内容となっている一方で「ジェントルマン」による違法配信が、まるで選ばれた人だけに提供されたラグジュアリーな雰囲気さえ感じられます。

例えるなら、ちょっと危ない雰囲気がするけど、足を運んだことを人に自慢できるクラブのような…そんな様子さえ見て取れます。

なぜ違法な配信をそんな魅力的に描くのか?むしろこれでは「自分も配信を見てみたい!」と思ってしまう人もいるのではないでしょうか。

しかし話が進むに連れて、それこそがデジタル犯罪が社会問題になる理由だと気付かされていきます。

違法な配信を見たいという視聴者の歪んだ好奇心や、自分は選ばれた人間だと思わせる配信方法が「ジェントルマン」のような配信者に金銭を落とす…。「違法配信」は犯罪でありながら、ビジネスの形としてむしろ王道な構図をしていたことに恐怖さえ覚えました。

実際「ジェントルマン」は違法配信を「上質なコンテンツ」と自称しており、そのためには視聴者にも独自のルールを守らせようとしています。

視聴者は「違法配信」にアンダーグラウンドなだけではなく、選ばれた人だけが配信を見られる選民的な空間(配信が見れる人をVIPとも呼んでいた)に憧れていました。

人のプライバシーを踏みにじり、優越感にも近い感情を得る視聴者もまた、配信者と同じく加害者の一部ではないのか?そんなことを思わせる演出も印象的です。

未熟な若者vs手練れの中年

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本作の怖い点として、配信者「ジェントルマン」の狡猾さがあります。普通に考えれば主人公ドンジュの意見が全く持って正しいはずなのに、「ジェントルマン」はまさに「ああ言えばこう言う」のスタンスで、ドンジュの正義感を捻じ曲げ、自分の違法配信を正当化してきます。

自分の配信はあくまでビジネスであると言い切り、それを邪魔するドンジュのほうが犯罪者のような口ぶりまでしてくる始末。

一方のドンジュは人生経験の浅さからか「ジェントルマン」との口論はもちろん、配信を阻止しようとすればするほど、なぜか金銭的にも社会的にも追い詰められていく罠にじわじわと陥ります。

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とにかくこの「ジェントルマン」が掴みどころのない不気味で憎たらしい男なのです…!

最初ドンジュは若さゆえに挑発に乗ってしまい、熱くなっているのかと思いましたが、こんなヤツ身近にいたら老若男女問わず手が出るレベルです。

セリフのあちこちで感じる保身と責任転嫁

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本作は世界を騒然とさせた韓国のデジタル性犯罪「n番部屋事件」を連想させるスリラーとなっています。しかし、監督のチェ・ジュヨンが本作のシナリオを書き始めたのは、事件が明るみになる以前だったと語っています。

そこから監督はデジタル性犯罪を通して、人間の本質に迫るようになったと話しており、その答えのようなものが登場人物のセリフや行動から感じ取ることができます。

面白半分で違法配信を見て、安全なところから他人を傷つけて、都合が悪くなれば強気な態度に出て…。デジタル性犯罪に限らず、ネット上での誹謗中傷などにも共通する、人間の卑劣な部分も描いています。それは「ジェントルマン」だけではなく配信を見ている視聴者にも共通しています。

そして卑劣なだけでなく、自分の都合が悪くなると突然知らないフリをして、自分の社会的立場を守るために保身に徹するものの多いこと…。そして保身のためなら、目の前で被害にあっている人さえ平気で見捨てる残酷さ…。

本作は単にドンジュと「ジェントルマン」の対立構造だけではなく、デジタルならではの被害者・加害者の構図に切り込む作品となっています。

何より、そうした傍観者たちはネットだけの存在ではないことが、この作品では強く描かれていると感じました。

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なぜスジンは違法配信の餌食になってしまったのか?なぜドンジュのもとに「ジェントルマン」から違法配信の招待URLが届いたのか?

そしてドンジュは「ジェントルマン」に打ち勝ち、配信を止めることはできるのか?

驚き、ハッとさせられるラストはネタバレ厳禁です!

映画『配信犯罪』詳細情報

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公開日:10月13日(金)シネマート新宿、10月20日(金)シネマート心斎橋にて公開

監督・脚本:チェ・ジュヨン
出演:パク・ソンウン『ノンストップ』、パク・ソンホ「RUGAL/ルーガル」、キム・ヒジョン「王女ピョンガン 月が浮かぶ川」
2021/韓国/韓国語/カラー/90分 
配給:ファインフィルムズ 
原題:라방  
HP:haishinhanzai-movie.com

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