日々色んな映画が国外から日本へとやってきている。だが、日本未上陸の作品はまだまだ沢山ある。
そんな作品をなんとか日本に持ってきてほしいという思いを込めて、以前『Unseen』と『V/H/S 94』の2本を紹介したが、今回はその第2弾を行いたいと思う。テーマは、優れたニュージェネレーション・スラッシャーホラーでありながらも全く日本公開の気配がない映画。そんな不遇の作品を3本紹介していく。
まずは『Sick』だ。
コロナウイルスが猛威を振るう2020年。人々はマスクを着けて、感染におびえながら生活を送っていた。ある日、若い女性2人が感染を避けるために、人里離れた山荘を訪れる。そこで平穏な日々を過ごそう……と思ったのも束の間、なんと殺人鬼が現れる!!
ホラー映画の面白みの一つは社会問題の反映だが、本作はウィズコロナという全世界が関わる一大トピックをテーマに盛り込んでいる。
冒頭からコロナ禍の中での生活が与える閉塞感やストレスといった問題を丁寧に拾い上げる。それらの要素が物語の本筋に繋がっていく作りが上手い。キャラ紹介もサクッと切り上げると早々に殺人鬼が登場し、あとはひたすら過酷なサバイバルが繰り広げられる。
非常にソリッドで、シンプルにサバイバルホラーとして面白い。『スクリーム』シリーズや『ラストサマー』といったティーン向けホラーで知られるケヴィン・ウィリアムソンの手腕が存分に発揮されている。この人が関わったら、この手の映画はまず間違いなく面白くなるね。
そして、本作のもう一つのウリがアクションシーンだ。本作では若者たちと殺人鬼が激しい攻防を繰り広げる場面がいくつかある。その見せ場がメチャクチャ良く出来ているのだ。
カット割りは控えめにして、引きのシーンもバランスよく挟んで、視認性を確保。だがそれだけでは迫力が失われるので、演者の身体の動きや刃物の切っ先に合わせてカメラを振り動かす。これによりダイナミズムも生まれる。
殺陣の方向性はもちろん全然違うのだが、演出面でやっていることが『ザ・レイド』に近いと感じる。かなりアクションリテラシーが高い。
それもそのはず。監督が『ユニバーサル・ソルジャー ニュージェネレーション』やその続編『ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録』などでアクションファンから高い信頼を得るジョン・ハイアムズだからだ!!
彼は、どの作品も毎回期待を超えてくるから凄い。本作の1つ前に撮った、誘拐された女性の決死の生還を描いた『ストーカー 3日目の逆襲』で、純スリラーを作るのも巧いことを証明していたが、今回はその方向性が更にアップデートされている。劇場公開レベルの秀作なので、是非とも日本で上映してほしいところだ。
続いて紹介するのは『Hunt Her,Kill Her』。なんて物騒なタイトルなんだ。
こちらもあらすじは非常にシンプル。とあるホームセンターで夜勤をする1人の女性。勤務初日に職場に4人の覆面野郎が侵入!奴らに捕まったら間違いなく命はない。彼女はたった一人で、ホームセンターの中を駆け回って生き延びなければならない!!
いやー、なんてワクワクする設定でしょうか。このシチュエーションの時点でもう大喜び。
こういうの大好物なんですよ。その中身も、設定を聞いて期待していたものが全て入った、非常に素晴らしいものだった。この作品も、導入から本題に入るまでが非常に短く無駄がない。
主人公が勤務場所を訪れて、簡単な説明を受ける。その過程で、どんな舞台かを観客に見せる。それが一通り済んだら殺人鬼が突入してきて、いざ殺し合い開始!!というわけだ。世のダラダラしている映画は、もれなくこれを見習ってほしい。
本作の最大の魅力は、ホームセンター(主にバックヤード)のあらゆるスペースを駆使したかくれんぼ&鬼ごっこである。これに尽きる。
だだっ広い倉庫から身体一つ入るかどうかのダクトまで、所狭しと駆け巡る。なんたって敵が4人もいるので、主人公は数分と同じ場所にとどまることが出来ない。素早く動いて身を隠しながら、敵の次の動きを読んで逃げ続けなければならない。落ち着く暇なんて片時もない。
しかも、犯人のナイフで切り付けられるなどして、段々と主人公の全身にダメージが蓄積していくため、どんどん生存難易度が上がっていく。危機に次ぐ危機を盛り込んで、これ以上ないスリルを生み出している。
ただ逃げ回るだけでも十分面白いが、本作はそこから更にもう一段階エンタメを突き詰める。
犯人から逃げ回る主人公。だが、それだけでは身が持たない。なので、ここぞというところで反撃を開始するのだ!やったね!反撃パートは殺人鬼映画の華だよ!!
幸い、ホームセンターには沢山のアイテムがある。彼女はこれらを武器にして犯人に強烈な一撃を喰らわせるのだ。主人公はただの一般人なのだが、時が経つにつれて段々と精悍な顔つきへと変わっていく。そして徐々に立ち回りも洗練される。この決死の逃走劇の中で、サバイバル方面に成長していっているのだ!!
戦いの中で成長するというバトル漫画のような燃える展開まで楽しむことが出来る。終盤はもう手に汗握りっぱなし!久々に心から満足できるサバイバル劇を堪能した。これもマジで劇場公開してくださいよ!!
最後に紹介するのは『Sissy』だ。
こちらも強烈に印象に残るスラッシャー映画である。タイトルのSissyというのは、主人公の女の子セシリアが付けられたあだ名だ。彼女は承認欲求が強く、SNSに積極的に発信して大きな反響を得ているインフルエンサー。ネット越しに見る彼女の姿は楽しげに輝いて見えるが(タイトルもめちゃくちゃキラキラしている)、その実態は大きくかけ離れている。
そんな彼女には小さい頃に仲の良かった同性の友達がいた。しばらく離れて過ごしていたが、また一緒になる機会が出てきたのだ。その幼馴染からパーティに誘われ、喜んで参加したセシリア。だがリアルでの距離の取り方に難があり、うまく他のメンバーとなじめない。孤独感や恥ずかしさ、そしてトラウマチックな過去の思い出が一気に蘇った彼女は、他の参加メンバーの殺戮を開始する!!
先に紹介した2作は、いずれもマスク姿の野郎が襲ってくるのだが、『Sissy』はそれと異なり、一見普通のどこにでもいる女の子がキラーとなる。彼女の抱えるものが非常に複雑かつ闇の深いものとなっており、それが滲み出るドラマが、並みのスラッシャーとは一線を画す面白さを生み出している。
セシリアは非常に脆く、うたれ弱い。少しのストレスがきっかけで過去のビジョンがフラッシュバックしてパニックを引き起こしてしまう。その衝動で目の前の相手に手が出てしまい、結果的に血の惨劇に発展してしまうのだ。
最初のきっかけは、故意ではないっちゃないのだが、それにしてはあまりに攻撃が残虐だ。この残虐な殺人シーンも大きな見どころである。
痛々しさと豪快な人体破壊を両立した、まさに理想的なゴア描写を拝むことができる。頬にでっけえスコップを突き刺すなど、思わずウオオと声が漏れ出そうになる映像が目白押し。
個人的に一番好きなのは、タイヤで顔面が潰される場面だ。顔が潰れるタイミングで一瞬スローになって、グシャッとなるところをハッキリと見せつけるのだ。このゴア親切なシーンには感心してしまった。目を覆うような血の惨劇を繰り広げた後の意地悪な結末も最高。最後まで文句なしの一作だった。当然これも日本に持ってきてほしい。
というわけで今回は3本の未公開スラッシャーホラーを紹介した。
いずれも素敵な作品ので、なんとか配給会社さん買い付けを頑張ってほしい。アレがこない、コレがこないと、色々あーだこーだ言っているが、配給側の怠惰だと責めるつもりは全くない。特にここ最近は、円安がキツイのも大きな要因だろう。円安は本当にどうにかならんかなあと思う。
安いのは、映画の中の命だけで十分だ。
人間食べ食べカエル 今年も次から次へと様々なホラー映画が日本に上陸している。14年越しの公開となったスラッシャーホラー『クロムスカル』や、全米が吐いたことで話題の『テリファー 終わらない惨劇』など、これ本当に劇場でかかるの!?と思[…]
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