寒かった冬も終わりを見せ、徐々に春めきつつある昨今、みなさまいかがお過ごしですか?
暖かくなってきたので、こんな日は外に出るのも良いですね。散歩やピクニック、映画館に行くのも楽しいかもしれませんね。
ほらみなさん、スマホなんて見ている場合じゃありませんよ。
スマホを捨てよ! 街に出よう!
うわっなんだ、目と鼻がグシュグシュする……花粉だこれ!!!
やっぱりお家でムービーナーズを読んでいるのが一番ですね。
さて、そんなインドア宣言から始めりました世界ゴア紀行 3泊目。外に出ても花粉に苦しめられるだけなので、ここは自宅で広い世界について思いを馳せるが吉でしょう。ラドンも、そうだそうだと言っています。
世界ゴア紀行について、正直反省している部分も多分にございまして……。と、申しますのも、あまりに頭が足らなさ過ぎて1泊目で「世界」と銘打っておきながら、北欧を2回もやってしまっていたんですね。これはよくない。広がりが無さすぎる。頭にふと浮かんだ映画についてレビューを書く適当な姿勢が引き起こした惨劇と言えましょう。
ですので! 今回は全てを「神の手」に任せることにいたしました。そう、全てを偶然にゆだねるのです。「暖かくなってきたら頭がおかしいヤツがわくなあ」みたいな目で見ないでください。説明しますから。
こちらをご覧ください。はい、なんの変哲もないティッシュ箱です。これを、こうして……。
そして、世界各国の名前を書いた紙を用意します。
はい、ここでも「思いついた国をランダムに書いていたら、デンマークとドイツが2つある」というバグが発生しました。ヒューマンエラーですね。人生万事この調子。俺はもうだめだ。
気をとりなおして、この紙を二つ折りにして……。
空箱の中に入れます。
はい! 完成いたしました。そう、今回は国を「くじ引き」形式で選択します。ティッシュ箱くじ引きです。これならばノーバイアス。個人の意思や必然が入る余地なしっ……! すべてが委ねられる、偶然にっ……!
どことなくギャンブルの鉄火場のような雰囲気が漂ってきました。
それでは、さっそく初めの国を引いてみましょう。
選択っ……!
マジか。
さっそく北欧です。なんか申し訳ございません。
フィンランドですね。たぶん寒い国だと思います。雪とかけっこう積もってる感じ。雪かきとか大変な気がしますね。それで年間多くの死者が出てると思います。はい。そうですね、夏くらいになったら「フィンランド行きたいな~」とか思うかもしれませんね。まだ少し肌寒いので行こうとは考えませんけど……。え、フィンランドに対しての情報が薄すぎる、行ったことないのかって? うるせえな! こちとら海外なんてタイ以外行ったことがないんだよ!
フィンランド『Black Karma』(02)
どことなく『勇者ストーカー』(84)を思わせる「剣と魔法のファンタジー」ですが、本作はフィンランドの若者たちが作り上げた自主映画。ほどよく裏庭感が漂うスケールに異様に落ち着きを覚えます。なのでもちろん、激しいアクションや迫力のVFXで描かれる魔術バトルなどはございません。もちろん、こちらもハナッからそんなもの期待してはいないのです。
この映画、素晴らしいのはとにかくゴア! 拳でドゴッと顔面貫通、剣で斬られた首が鮮血と共にスポコーン! と吹っ飛ぶ様や、ドグチャと勢いよく潰される眼球など、他のゆるさを補って余りある残酷描写が堪りません。
主人公をサポートする女性の初登場シーンは、死体の臓物を漁っている「羅生門」の老婆もかくやな場面。
「この臓物をな、この臓物を抜いてな、鬘(かずら)にしようと思ったのじゃ」なんて言っているかは定かではありませんが、そんな絵面。とにもかくにも、全てがゴア描写を起点として展開されると言って良い構成でして、「剣だ魔法だ!」という世界観に制作者はさりとて興味が無いのでは? と邪推が働きます。
本作を作り上げたのは、フィンランドは自主スプラッター映画の制作グループ「チーム・スプラッテンシュタイン」。90年代後半から、ゼロ年代前半にかけていくつものスプラッター短編/中編を制作しています。どれもゆるめな仕上がりですが、人体破壊描写に賭ける熱さは北欧の雪を溶かすほど。ひたむきなまでのスプラッター愛に満ちています。
ちなみに、チーム・スプラッテンシュタインのフィルモグラフィは2004年で幕を閉じますが、なんと2022年に新作『2039 Il Ultimo Silenzio』(22)を引き下げて18年ぶりにカムバック!
おそらく、若者だった彼らも就職や結婚などのライフイベントを経て、落ち着いた今また古巣に帰るように当時の面子で映画制作を再開したのでしょう。完全に憶測ですが、彼らが映画制作から離れていた約20年間のドラマを考えるとなんだかグッとくるものがあります。「帰る家」としてのスプラッター映画制作、すごく良いと思います。
さて、では次の国へと行ってみましょう。一度引いた国の紙もまた箱に戻してシャッフル。そして、選択っ……!
開示っ……!
来ました、スイスです。脱北欧! ビバ永世中立国!
なんかいけすかない金持ちがマネーロンダリングするために使っている印象がありますね、スイス。俺は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)を観たから詳しいんだ。……と、思ったら、そうでした。「パナマ文書」の件なども皆様ご記憶にあるかと思いますが、近年は資金洗浄に対する法規制を強めており、国をあげて不正と戦っているようです。いい国ですね、スイス。
スイスと言えば、そう。あの少女の姿が浮かびます。
♪口笛はなぜ 遠くまで きこえるの
♪あの雲はなぜ わたしを 待ってるの
♪おしえて おじいさん
?!
スイス『マッド・ハイジ』(22)
チーズにより人心を支配するファシスト、マウリ大統領が支配するチーズ・ディストピアと化したスイス。ファシズムに徹底抗戦の構えをみせる祖父に育てられたハイジは、黒人の羊飼い(裏の顔は違法チーズのディーラー)ペーターと愛を育みながら雄大な自然の中で暮らしていた。だが、ペーターが殺され、おじいさんは軍の急襲に遭う。女性専門の更生施設へと送られたハイジは、同室のクララと共にマウリ大統領への逆襲を企てる……。
インターネットを中心に話題を呼んだ、スイス発のアクション・コメディ。それが『マッド・ハイジ』! 『アイアン・スカイ』(12)のプロデューサーが名を連ねていることは、作品の質の高さを感じさせると共に、「このプロジェクトは成功するのか?」と不安をも掻き立てました(『アイアン・スカイ』のクラウドファンディングは2作とも十分な形のリターンが行われず、結果としてプロデューサーの映画会社は倒産した)。
しかし! 本作の制作は無事に完了し、クラウドファンディングに参加した人々は問題なく本編を観ることができたのです。
コンセプトの時点で、ある程度「勝ち確」だった本作。本編もそれを裏切ることなく、「チーズ拷問」「スイスの伝統武器を使用した殺害シーン」「お国ギャグ」と見どころの連続。そこだけ取り出してすぐにネットミームにできそうなインパクトに満ちています。
また、基本的には無名なキャストのなかでギラリと光るのが、キャスパー・ヴァン・ディーンの存在感。『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)の主人公役でおなじみの俳優ですね。『スターシップ~』も軍国主義を皮肉った内容でしたが、本作でディーンが演じたのは独裁者。軍国主義へと傾倒する青年から独裁者へ……。なんだか役柄が一本の線で結ばれているようで、ここにもおかしみが感じられます。
何より、やはり気になるのは……そう、ゴア描写。これが思った以上にグッドです。ハイジが憎き敵を文字通り一刀両断にするシーンや、恋人ペーターの頭部が無惨に破壊される様、さらに胴体ひっぺがしなどなど、なかなかの残酷っぷり。
コンセプトとしては「ネタ映画」ではあるのですが、そこに甘えず随所でゴアってくれるのは嬉しい限りです。もちろん、全体的にポップな仕上がりですので、残酷に主眼を置いた作品ではない……という前提の上ですが。
ツボを押さえたうえでタイトにまとまっている印象のある本作。どこに出しても問題ない、楽しく立派な映画だと思います。インディペンデント出身で『69キル』(17)にて監督デビューを果たした俊英、トレント・ハーガが脚本を担っている部分も大きいのでしょうか。その一方で、「観客が求めているもの」に全振りしてしまった感も否めません。「この一点のために映画を作りたいんだ!」というオブセッションに近いパッションに裏打ちされた映画の、強く触れただけでガタガタと崩れ落ちそうな危うさや、ウェルメイドとは程遠いゆえに、通常の映画文法を超えた「何かおそろしいもの」を無配慮に与えてくる鮮烈さに欠けてしまう。そう評してしまうのはあまりに贅沢でしょうか。
もちろん、繰り返しとなりますが映画としての出来は非常に良いです。ゴア、ギャグ、グルーヴィーなバイブスと、3Gを完備した仕上がりとなっており、ジャンル映画を楽しめる方々はビール片手に笑いながらエンジョイできることは請け合いです。現在、日本語字幕を収録した本編の配信も始まっておりますので、ご興味ある方はぜひご覧になってみてください!
ではでは、どうしましょうか、最後にもう一本くらい紹介しておきましょうか。さてさて……。
では、「世界ゴア紀行」また次回~!!
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