ドリッ! ドリドリッ!(訳:こんにちは!)
人間が殺される映画って最高ですよね。でも、ただ殺されるだけではなんだか物足りない……。そう! 凶器の選定もまた大事なのです。チェーンソー、ハンマー、包丁、ハサミ、カッター、ナイフ、ドス、キリ……。様々な凶器がある中で、我々の心をひときわ惹きつける存在、それがドリル!
金属の刃が回転し、硬い木材を、強靭な鉄を破壊して穴を空ける。これがもし人体に向けられたら……。我々の日常でよく目にする工具ということもあり、その危険さは百も承知。それが「殺人」と結びついた瞬間の恐ろしさときたら!
そんなわけで、今回は「ドリル殺人」に焦点を当てた映画を紹介させていただきたいと思います! レッツ・ドリリング!
※ドリルは本来人を殺すための道具ではありません。生活を豊かにするための目的で、安全に使用してくださいね。
『ドリラー DRILLER』(2006)
ビジュ爆発!
とにかく観るものの想定を超える悪趣味ビジュアルが連続する一本。主人公が誘拐される宇宙船内部の描写は特にスゴい。口の先端から内臓のようなものを「チュルルル」と出す宇宙人の非知的なグロテスクさ、突如登場する嚢胞頭の怪人。蠢く臓器。確実に他の映画では拝めない、ワケの分からないゴア特殊効果の目白押し。なんだかサイケな気分になるわね。
こうなってきたらメインディッシュ、ドリルによる殺害がマトモに思えてきます。でもご安心を。ドリルで破壊された頭部から、なぜか大腸のようなものが突如逆流するという理外のゴア描写もございます。ここは本気で理解が追い付いていないのですが、きっとこれが「SF(すこしふしぎ)」ってやつなのでしょう。
『ドリラー DRILLER』は天然なのか確信犯的なのか……とにかく訳の分からない表現が連続します。ただ、我々は現実や既存の文法を軽々と超越する「映画の暴走」とでも言うべき表現(いわゆるセンス・オブ・ワンダー)を求めて映画を観ているのではないでしょうか。その意味ではこの映画以上に「映画らしい」ものはないように思えるのです!
ちなみに「ドリラー」というタイトルですが、ドリルは宇宙人から与えられた武器ではなく、主人公がその辺の民家でパクってきたものです。生きるって大変だ。
『ドリル・マーダーズ 美少女猟奇殺人事件』(2010)
「娘が殺された!」と連絡を受けた父親。しかし娘は家に帰ってきている。ハテ? と思い娘を見ると、どうも様子がおかしい。なんか口から黒い液体をダラダラ垂らしてるし、いきなり襲い掛かってくるし。困ったなあ! 同時に街ではドリルによる連続殺人事件が発生。作業着を着た男たちが人間の頭にドリルで穴を開け、黒い液体を注入し「人ならざるもの」へと変えていたのだった。はたして男たちの目的は?
なんとも不思議な雰囲気のノルウェー産ホラーです。ドリルで頭蓋骨に穴を開けられ殺害された女性たちが蘇るという、スラッシャー映画なのかゾンビ映画なのか判別できないプロット、そして目的不明のドリルを手にした作業服の殺人鬼たち。謎が全編を浮遊するそのファジイさに「明快なオチ」を求める方々は満足できないかもしれません。しかし、「何かよくわからないもの」、さらに言うと劇中で語られないものの隙間に面白みを見出だせる方には激しくオススメ。
頭をドリられ殺害された女性たちは、「黒い液体」を注入され蘇生します。その液体の正体は……なんと「石油」。実はこの映画、ノルウェーにおける石油産業への依存=人々が石油で生きていることへの皮肉から着想されたもの。ですので、全編シリアスなトーンなのですが、実は社会派ブラック・コメディの面も持ち合わせているのです。
さらに、石油産業とドリル殺人鬼集団を重ねてみますと、今日の陰謀論につながるものも見えてきます。ですので、発表当時は芳しくない評価を受けた作品ながら、いまこの時代に改めて評価するのも面白いかもしれません。ちなみに、本作の6年後にノルウェーは石油産業の危機を宣言、現在は再生可能エネルギー産業との狭間に揺れ続けています。
『ジェフリー・ダーマー ミルウォーキー連続虐殺食人鬼』(1993)
17名の人間を拉致・監禁し殺害、さらにはその死体を弄び食したアメリカ史上に名を残すこの殺人鬼は、これまで何度も映像化されています。昨年にはNETFLIXのシリーズ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』(22)が配信開始。ランキング1位を記録したのは記憶に新しいところ。みんな人殺しが大好きなんだね!
また、『アベンジャーズ』(12)でホークアイを演じた俳優ジェレミー・レナーも、そのキャリアの初期にダーマーを演じています。この『ジェフリー・ダーマー』(02)は、それまで中古屋の隅にDVDが打ち捨てられていたような作品だったにも関わらず、ジェレミー・レナー人気の高まりにより近年は価格高騰。みんなジェレミー・レナーが大好きなんだね!
さてそんな人気者のダーマーさんですが、その残忍極まりない犯行において「ゾンビ実験」というものを行っています。ダーマーのターゲットは基本的に「好みの男性」。彼らを生ける屍にして永遠に手元に置いておこう、とダーマーは思い立ったのです。方法は、彼らの頭蓋骨にドリルで穴を開け、そこに塩酸のお湯割りを注入する……というもの。この「ゾンビ実験」を正面から映像化した作品は実は少なく、先に述べたジェレミー・レナー版やNETFLIX版でも直接的な描写は無し。
ですが、この1993年に製作された『ジェフリー・ダーマー ミルウォーキー連続虐殺食人鬼』は臆することなくその描写をガッツリ盛り込んでいます。ゴーグルを着用し、昏倒しているアフリカ系男性の頭にドリルで穴を開けるダーマー。目を覚まし「オッ! 頭に穴が開いてるじゃねえか! ウワー! 何を注入するんだ!」と狼狽する犠牲者。ニタニタして「安心して」と外科医を気取るダーマー。固定アングルで切り取られたこのショットは、なんだかコントっぽく見えるのですが、それゆえその状況の異常さ、そしてそれが実際に起きたことであるゆえゾッとさせられます。
本当に怖いのはドリルそのものではなく、それを使う人間なのかもしれませんね……。
『Detroit Driller Killer』(2020)
お待たせしました! アベル・フェラーラ監督『ドリラー・キラー』(79)の非公式リメイクです! え? まずは『ドリラー・キラー』を紹介すべき……?
バカ野郎! ここはムービーナーズだぞ! 映画メディア界の西成だ!
今さら名作『ドリラー・キラー』を語ることなんてできっかよ……!
さて、気を取り直して。
巨根ゾンビと空飛ぶ赤ちゃんゾンビが格闘する映画『The Necro Files』(97)で世界中のホラーファンの腰をガックンさせたマット・ジェイスル監督が、なぜか今になって『ドリラー・キラー』をリメイク。舞台はニューヨークからデトロイトへ。プロットも基本的にはオリジナルを踏襲しており、単なるおふざけではないように思えます。
ただ、目を惹く強い何かがあるか? と、問われると……。うーん。とにかく冗長な会話(おそらく尺稼ぎ)が目立ち、かつゴア描写も今ひとつインパクトに欠け、正直なところ良くも悪くも突き抜けたところの無い映画という印象です。
ですが、そもそも『ドリラー・キラー』はシケきった人間の内観を刹那的な凶行に仮託した映画ですので、それを映画全体で語ってみせた本作は、やはり正統に『ドリラー・キラー』の精神を継いでいるのかもしれません。
『スランバー・パーティ大虐殺』(1982)
本・命・登・場!
やはりドリル殺人映画と言えばこれ!
日本では続編が『マッドロック・キラー』(87)として国内公開済みだったこともあり、そちらの方が高い知名度を誇っておりますが、実は前作である『スランバー・パーティ大虐殺』こそ、今の時世ゆえに楽しめる大きなポテンシャルを持った作品なのです。しかしながら、これまで残念ながら日本未公開。これはもったいない! ……と思っていたところ、なんと製作から約40年を経て、ようやっと日本公開! DVDとブルーレイも発売され、ついに皆の手に届く存在となりました。めでたい!
惜しげなく裸になるチャンネー達や、それをジットリ狙う殺人鬼の凶行、ドリルによる眼球潰しなど、どうしても「ジャンル映画らしい」方向に目が向いてしまう本作。もちろんそれも魅力のひとつ! だって製作はロジャー・コーマンなのだから。しかし、先に述べたように「今日だからこそ」見えてくる先駆的な魅力も持ち合わせております。
まず、女性監督エイミー・ジョーンズの洒脱な演出。もともと優秀な映画編集者であったジョーンズ監督は、そこで得たスキルを全力で映画に投入しています。
冗長過ぎない会話、やらしさが前面に出ない程度に散布されたお色気描写、スラッシャー映画のお約束を逆手に取ったギャグ、そして殺人鬼と女子高生の限定空間でのバトル。さらにはスリリングな攻防戦が行われている場所に、ノンキな第三者の目線を持ち込みユーモア投入。楽しい要素を数多く配置しながらも、ダレることなく76分という尺で見事に本編を駆け抜けます。
そして本作の脚本を手掛けたのは、なんとリタ・メイ・ブラウン。高名なフェミニスト作家です。彼女がスラッシャー映画のパロディとして書いた脚本(それ自体は没になっていた)が本作に採用されたのです。それゆえ、殺人鬼に狙われる女子高生たちは「単なる犠牲者」以上の役割が与えられています。彼女たちに漂うシスターフッドの空気や、殺人鬼に立ち向かう果敢さは、当時製作されたホラー映画の中でも異彩を放っています。
また、殺人鬼の造型もその点から紐解くと実に面白いのです。手にしたドリルで人々を殺害するラス・ソーン。この男は「俺の愛を受け止めてくれ!」と叫び女性の柔肌にドリルをブチ込みます。つまり、ソーンにとって殺人は性行為の代替、ドリルは男性器の表象であることが明示されます。
これをミソジニスティックな加害性と受け取るか、あるいは『色情狂ライフル魔』(70)のように、性的不能に陥った人間の凶行として人物像に深みを与える要素として受け取るか、それは観客に託されています。しかし、今日なら大きくテーマとして取り上げられるこの要素をサラリと映画に忍び込ませているクールさは特筆すべきことではないでしょうか。
愉快なスラッシャー映画でありながら、今日的な「ジェンダー・フェミニズム」(クリスティーナ・ホフ・ソマーズ曰く)の視点も持ち込まれている本作。今ならDVD・ブルーレイで手軽に鑑賞できるのが嬉しいところ。もし本作のセルが好調なら、もしかしたら続編『マッドロック・キラー』も再上陸を果たす可能性がある……というウワサもありますので、手に入るうちに買っておきましょう! 物理メディア最高!
さあさあ、ブラウザを閉じて。お近くのショップに映画ソフトを買いに行ってよ!
ドリッ! ドリリリ~!(訳:では、またお会いしましょう!)
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