アンチ物価高! ワンコインDVD謝肉祭

ヒロシニコフ

あの頃、僕たちにとっては500円が大金だった。
手にした500円玉で何だってできる気がしていた。
僕たちはスーパーの雑誌コーナーのそばで、街のCD屋で、ホームセンターで、黄金に輝く硬貨を握りしめてワゴンを覗き込んだ。
そのワゴンの中には、広い世界が広がっていた。
500円で買えるDVDたちが……。

RADWIMPSの歌詞ですか? いいえ、ワンコインDVDに対する郷愁めいた記憶です。

そう、ワンコインDVD。皆さんはこの存在をご存じですか?

ゼロ年代、DVDが普及を果たしてから数年後、突如としてスーパーやCD屋の店先に姿を現した存在、それがワンコインDVDです。

ブロックバスター作品の廉価版とは異なり、実にマイナーな臭いをまとった正体不明な映画たちが新品500円という価格でワラワラと店先を飾り立てました。

今でこそビッグバジェット作品の廉価版DVDも1,000円あれば購入できますが、当時は1,500円~2,000円ほど。その半分以下の価格でDVDが所有できてしまうという驚きと興奮に身を包まれ、僕も毎日のように学校帰りに地元のダイエーに通っては、数あるタイトルから吟味してはDVDを買ったものでした。

時は流れ現在、ワンコインDVDはあまり見かけなくなりました。

物理メディアが売れる時代ではないから、というのが大きな理由だと思います。物価高もあるでしょう。しかし、毎日ワゴンを覗き込んで、お気に入りの一本を探していたあのワクワク感、DVDをプレイヤーに投げ込んで本編を再生した時の、ほとんどは落胆、たまの感動に(そう、たいていはカス・オブ・カスな映画だったのです……ご想像の通り)脳をすっかりやられ、安くてギトギトした映画のジャンキーと化した人も少なくはないのではないでしょうか。

本稿は、そんな映画たちから今なお愛する作品をピックアップし紹介するレビュー記事であると共に、ワンコインDVDにまみれた青春を送った人々に捧げる、オレから貴方たちへの鎮魂歌(レクイエム)です。

なに、そんな惨めな青春を送った人間はいないって? 

そこの棚に金槌があるだろ。こいつが何のためにそこにあるか知っているか? 

日曜大工の道具じゃないぞ。お前の脳ミソに向かって全力で振り下ろすためにあるんだ。

『ザ・スタッフ ゾンビのデザート』(85)

『悪魔の赤ちゃん』(74)でおなじみBムービーの巨匠、ラリー・コーエン監督作品。

アイスによく似た不定形生物(おいしい)が、それを食べた人間の体を乗っ取り、地球制服を企んでいる! そんな素っ頓狂な真実に気付いた産業スパイが、おいしい侵略者「スタッフ」から人類を守るべく東奔西走する奇想作。

このDVDを手に取ったのは小学生のころ、自宅近くのヤマダ電機でした。
燦然と輝く「名作映画500円」というキャッチ、そして顔面の穴という穴から白いドロドロを垂らしている男の絵。「名作映画」という言葉と、このジャケットの低俗な絵の印象の乖離からヒロシニコフ少年は異常な関心を示し、父親にDVDをねだったのでした。

アイスが世界を征服する? どんな映画だ? という興味から、車中のDVDプレイヤーに早速ディスクを突っ込み、ヤマダ電機からの帰路早々に鑑賞を開始。

冒頭、地中からゴボゴボと湧き出した白い物体をドカタのオッチャンが「うまそうだなあ、食べてみんベエ」と口にするシーンに、幼いヒロシちゃん大ショック。

「アメリカのおじは正体不明のものをすぐ口に入れるんだなあ」と、その類まれなるフロンティアスピリッツに父親と一緒に愕然としたものです。

本編に関しては、やはり小学生の時分では早かったのか、あまり理解ができず。しかし、終盤でスタッフに寄生された登場人物が千切れんばかりに大口を開け、腹の中からスタッフがウニョ~と這い出てくる特撮シーンは脳裏にこびりつき、ホラー映画が「ビジュアル・ショック」とでも言うべきものを持っている存在だと認識するきっかけとなりました。

このDVDは中学か高校の頃に、小説家の人間無骨さん(ムービーナーズに記事を書いている気がするぞ)にあげてしまい軽く後悔していたのですが、数年前に英Arrow VideoからリリースされたBlu-rayを買って再鑑賞。

世界が破滅に向かうと知りながらも「スタッフ」で金儲けを企む大企業、資本家に雇われつつも世界を救うべく奮闘する主人公と、アンチ資本主義な姿勢、さらには今日の陰謀論にもつながる作劇と、奇想一本では終わらない味わいを多分に含んだ傑作でございました。

もちろん、顔面が破壊され中から白いドロドロが漏れ出る悪趣味な見せ場も目に楽しく、やっぱりラリー・コーエンって映画の達人だなあと思った次第です。

本作が500円で買えた……。いま改めて考えると、何とも夢のような話ではありませんか。

『エイリアン・シンドローム』(05)

もしかしたら同名のゲームを思い浮かべる方もいらっしゃるかもですが、こちらはエリック・フォースバーグ監督によるビデオ映画。

『ザ・スタッフ ゾンビのデザート』との邂逅から数年後、500円DVDがワンサカ出回ってきた中学生時代に我がハートをわしづかみにした一本です。

裏山みたいなところでチルしていた大学生たちがUFOにアブダクションされ、気づいたら倉庫みたいな場所に監禁されていた……という映画。ロケーション含めてなんともシケまくっており、黒いゴミ袋を壁に貼っただけと思しきUFO内部のテキトーな美術、目がビカビカ光る宇宙人のすっとぼけた外見に、さすがに中学生でも「貧乏くせえ映画だな」と大苦笑。

“『エイリアン』の衝撃! 『SAW』の恐怖!”なるキャッチコピーをまんまと信じ込んだ純朴な少年に対する大きな裏切り行為ですよ、これは!

……なんて思っていた直後に登場したのが、妙に気合いが入ったゴア表現。

人間の頭をカチ割って粘液と共に登場するエイリアンの幼体、グシャグシャに破壊された顔面、容赦なく敵対する人物の頭にドリルを突き刺す主人公。

ストーリーの進行において不要と思える場所で炸裂し、大きなインパクトを残すこれらの残酷描写に殴りまくられ「そうか! この映画はこれがやりたかったのか!」と膝ポン。それまでは、あくまで映画の本筋に対するフックと思っていたゴア描写が「映画の面白さ」のメインを担う存在となり得る。そんな気付きを与えてくれた心の一本となった瞬間でした。

本作を監督したエリック・フォースバーグは8ミリ撮りの残酷短編『It Took Guts』(79)からキャリアを開始した筋金入りのゴア人(ごあんちゅ)。

特に『ゾンビ・オブ・ザ・デッド 感染病棟』(06)は氏の最高傑作でして、容赦ないゴア表現とツイストの効いたストーリーが乱れ咲く全人類必見作。

フォースバーグの映画にハズレなし! と言いたいところですが、近年は「お仕事」感あふれるものばかり作っているので、ここらで一発ゴアってほしいところ。

ちなみに、『エイリアン・シンドローム』を製作したのは、現在はサメ映画乱造工場として悪名高いアサイラム。

初期は『案山子男』(02)スチュアート・ゴードン監督作『キング・オブ・バイオレンス』(03)などホラー映画を専門に心ある作品を発表していたのですが、いつしかモックバスター(便乗パチ映画)の専門会社に。

2006年くらいからコバンザメ商法が顕著になり、今の体たらく。目を覚ましてくれよ!!

『プテラノドン』(05)

『コマンドー』(85)でおなじみ、マーク・L・レスター監督が放った恐竜映画。
このDVDはダイエーで買ったのですが、「すてきな奥さん」などの主婦むけ雑誌の真横に陳列されており、マダムと恐竜のアヴァンギャルドな組み合わせに面食らった記憶が色濃く残っています。

こちらはSyFy(サイファイ)チャンネルが製作した低予算映画。

現代に復活したプテラノドンと軍人たちがエッサホイサと戦うシンプルなお話ですが、特筆すべきはそのゴアっぷり。

ヒューと飛んできたプテラノドンの翼が一閃、人間の胴体がチューペットのように真っ二つになるシーンを筆頭に、ひな鳥が内臓をついばむシーンなど、これまた不要なまでに人体破壊の大盛り定食。これには現代恐竜映画の顔、安達祐実もビックリでしょう。

マーク・L・レスターの職人監督としての腕は皆様もご存じの通り。しかしこれはいかなるご乱心なのでしょうか。泣いちゃうよ。恐竜映画だと思って観た子供たちは。

ただ、これもまたマーク・L・レスターの計算だったようにも思えます。

本作におけるプテラノドンのCGは悲しくなるほどお安く、そのままでは「CGがしょっぱい映画」という印象で終わってしまいます。

そこで、あえて残酷描写を盛り付けることで、そのネガティブな印象を上書きしようと図ったのではないか。そのように思えてなりません。

さすがマーク・L・レスター! 職人監督の技、ここにあり。

あるいは老境に入り、血に狂ったかのどちらかでしょう。

さて皆さん、ワンコインDVDの日々を思い出されたでしょうか。あるいはその時代を体験されなかった方々も、その豊潤さを少しでも感じていただけたら嬉しいです。

物価が高騰し、物理メディアも衰退を見せる今、やはり配信が主流となっていることは否めません。

しかし検索窓を通し、自分が興味を持ったものにのみアクセスする配信とは違い、ワンコインDVDのように未知の作品からの選択を楽しむ環境は、これまで意識していなかった興味の領域へとあなたを導いてくれるのではないでしょうか。

なに、配信で優れた映画を定額で観れる時代にワンコインDVDなんて不要な存在? 時代遅れのノスタルジーを押し付けるなって? 

……たしかに、それもその通りかもしれないな。

見てみろ。あそこの壁にショットガンが掛けてあるだろ。

こいつが何のためにそこにあるか知ってるか? 防犯用じゃないぞ。

オレの口に突っ込んで、脳ミソで壁をデコレーションするためにあるんだ。こんな感じにな。

ーー銃声。

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