1月の下半期に公開される映画を3作ご紹介!
中国の名優ファン・ビンビンの復帰作から、「音を出したら”最期”」系のホラー、香港を舞台にした難民の少年とおじさんドライバーの絆を描いたヒューマンドラマまで揃っています!
1月19日(金)公開:『緑の夜』
韓国で保安検査場の仕事に就くジン・シャ(ファン・ビンビン)は、苦しかった過去から逃れるため、故郷の中国から離れて暮らしている。
ある日、保安検査場に緑の髪をした女(イ・ジュヨン)が現れる。女から不審な気配を感じ取ったジン・シャだが、その出会いをきっかけにアンダーグラウンドな世界に足を踏み込んでいく。
中国の有名俳優ファン・ビンビンの復帰作として注目を集めた本作。社会から抑圧され、マイノリティとして生きづらさを感じるふたりの女性が街をさまよいます。その様子は『薄氷の殺人』のディアオ・イーナン監督を彷彿させる幻想的な魅力がありました。
マイノリティの生きづらさを真っ向から描くのではなく、あえて加害者目線から残酷さや卑劣さを伝える演出がなかなかに胸くそ悪い…。こうした価値観を持った人間がいるのかと思い知らされる演出に凄さを感じました。
ジン・シャと緑の髪の女(明確な役名がない)が少しずつ惹かれ合うさまや、二人の逃避行の結末が気になるのはもちろん、苦境に立たされても自分にとって正しい選択を選ぼうとするジン・シャの姿に力強さや希望も見いだせる作品です。
『緑の夜』公式サイト
1月26日(金)公開『サウンド・オブ・サイレンス』
ニューヨークで歌手を目指すエマは何度もオーディションを受けるも、本番になればパニックになってしまい、全く結果を出せずに悩んでいた。同棲する恋人セバに励まされるエマだが、ある日実家の母親から父親が入院したと言われ、セバとともに故郷イタリアへ駆けつける。
エマの父は面会謝絶になるほどの重症なうえに、母には父に襲われたときのアザが残っていた。医者から家庭内暴力の可能性があると伝えられたエマだが、母は父親がまるで別人になったように襲ってきたと話す。そして頑なに「実家には行かないで」とエマに訴える。
しかし様子が気になったエマとセバは、実家で一夜を過ごすことに。エマは父の隠し部屋で古びたラジオを見つけるが、突然音楽が流れ始める。エマ以外はいないはずなのに、どこからか「静かに…」と声がする。再びエマがラジオのスイッチを入れると、そこにいるはずのない”なにか”が現れて…。
“音が鳴ったら最後系”の映画といえば、家族で極限状態をサバイブする『クワイエット・プレイス』や、”スポイトおじさん”の異名を爆誕させた『ドント・ブリーズ』があります。『サウンド・オブ・サイレンス』は、これら大味な作品とどう差別化を図ってるのかが気になるところ。
基本的な設定は似ていますが、本作では”なにか”の種類がちょっと特殊で、スリラーホラーというよりはミステリーホラーに近いと感じました。(ただし作品の設定上、ジャンプスケアはじゃんじゃん起きます)
一方で、主人公エマが”なにか”に立ち向かうシーンでは、ホラー映画の王道とは真逆な立ち回りでユニークでした。なかなかあの戦い方は珍しい気がします。
ネタバレになるため多くは書けませんが、地獄のような一家団欒シーンは、怖いというより胃がキュッとなりました。あそこだけはなるべく元気な時に鑑賞するのがオススメです。
『サウンド・オブ・サイレンス』公式サイト
1月26日(金)公開『白日青春-生きてこそ-』
香港でタクシー運転手として働くチャン・バクヤッ(陳白日・演:アンソニー・ウォン)は1970年代に本土から香港へ密入境した過去を持つ男である。息子は警察官として働くも、ある理由からバクヤッとは不仲だった。
一方、パキスタンの両親のもとに生まれ、台湾で育ったハッサン(香港名:モク・チンチョン/ 莫青春・演:サハル・ザマン)は、家族とともにカナダへ移住することを夢見ている。
香港はあくまで難民の国際中継地であり、毎年多くの難民が香港で政府の承認を待ち続けるが、現地の人からの差別や待遇の劣悪さに苦しんでいる。
ある日、ハッサンは突然の交通事故で父を亡くしてしまい、家族でカナダ移住の夢が絶たれてしまう。その事故を起こしたのは、難民に対して差別的な態度をとっていたバクヤッだった。父を亡くして難民で構成されたギャングに入ったハッサン。そしてその身を案じるバクヤッ。2人の間には奇妙な絆が芽生え始めるが…。
タイトルに「青春」とありますが、内容は少年の瑞々しい青春ドラマ…。というわけではなく、台湾における難民問題を軸に、世代や人種を越えた絆の誕生を描いたヒューマンドラマとなっています。
社会派と人情のバランスが絶妙なためか『白日青春』は映倫による「次世代への映画推薦委員会」の推薦作品に抜擢されてます。(実際、ちょっと難しい作品設定ですが、ハッサンと同じ10代くらいの人に見て欲しい!)
難民問題の描き方としても、単に台湾人と難民の間に生まれる差別や冷遇だけでなく、同じ難民の間でも就労ビザの有無などで優劣が産まれている現状など、細かな点も描かれています。
ハッサンを演じたパキスタン系の香港俳優サハル・ザマンや、本作の監督を務めたラウ・コックルイがマレーシア生まれで香港に移住した過去があるなど、登場人物たちと近い境遇のキャスト・スタッフが集まりました。作品の説得力もまたひとしおです。
個人的にはアンソニー・ウォン演じる、実の息子と不仲なバクヤッのキャラクターにもグッときました。人の言うことを聞かず、酒ばかり飲んで肝臓をぶっ壊し、難民に対しても平気で差別的な態度をとる…。それにもかかわらず、どこか哀愁を帯びた表情がとても良き…。
スタートがどうしようもないダメ親父なだけに、ハッサンと築いていく絆の尊さもまた良かったです。去年の今頃に公開された『ファミリア』(役所広司主演)と近い内容だと感じたので、こちらの作品が好きな人にもぜひチェックしてほしいです!(かつ『ファミリア』よりも全年齢向けな内容になっていました)
『白日青春-生きてこそ-』公式サイト
https://hs-ikite-movie.musashino-k.jp/
まとめ
今回だけでなく、前回執筆した1月上半期公開の映画レビューでも、移民や難民をテーマにした作品を紹介しました。
映画界隈では常に題材となってきたテーマですが、単に社会派作品として描くのではなく、青春や人間ドラマを交えた作品が増えてきたと感じるラインナップでした!