おしごとモノはよく出来てたら出来てたでウッとなるよね『騙し絵の牙』

マシーナリーとも子

編集とかいう嫌われてるのはわかるけど何やってるか謎の仕事

インターネットで嫌われがちな職業というものがある。編集もその一つだよな。特にマンガ編集はインターネットでは悪者にされがちだし、実際「やべーなこいつ……」という実体験もあるっちゃある。だけどそうした話をどうしても一歩引いた目線で見てしまうというか、ちょっと同情的に思ってしまうところがあるんだよね。なぜなら……

こんにちは。元雑誌編集のマシーナリーとも子です。今回は『騙し絵の牙』っていう映画を見てみたよ。
特に前もって「いつか見たいぜ〜」とか考えてたわけじゃないんだけど、ネトフリをdigってる時にサムネが目について「なんとなくおもしろそうな映画だな」と思ってウォッチリストに突っ込んでたんだよね。

この大泉洋の映り方はなんとなく期待値が上がる

それにあらすじを読んでみると出版社の、雑誌の話だという。ウッ! それは……ワイに刺さるで!?
ってことで見てみたところ期待通り……いや、期待以上におもしろかった。ふつうにエンタメ映画としてもかなり楽しめたんだけど、それ以上に「出版社が舞台のお仕事もの」としてかなりブッ刺さりました。いや、良かったよ……良かったのか?? なんか必要以上にダメージを負ったとも言えないか??

映画のあらすじはこんなふうだ。
大手出版社の薫風社はもともと文芸と雑誌で派閥争いが激しかったのだが、社長の急逝により争いが激化。雑誌派閥を取り仕切る専務側についた大泉洋(よその出版社から転職してきた)は、その手腕を買われるも編集長を担当する雑誌がこのままじゃ廃刊だあと脅される。廃刊を避けるため時には大胆なスターの起用、時には炎上商法と手を替え品を替え奔走するのだが、果たしてその思惑は……。そしてもう一人の主人公として大泉洋に振り回され続ける新人編集はどうなるのか……。
そんなお話です。

もうひとりの主人公である新人編集の高野。状況に振り回され続けるがこいつはこいつでヤバい

大げさじゃないんですこれがリアルなんです

で、繰り返しになるけど私、以前出版関係の仕事してたんですよ。と、言っても本作に出てくるような大きな出版社ではなくて、いわば出版社からの下請けで雑誌や書籍を作る編集プロダクションで働いてたんですけど。そこで毎月鼻血吹き出しながら月刊誌の編集やってたんだよね。

文字面では同じ編集だけど、冒頭で話題に出した漫画編集や、本作でも出てくる文芸編集とはちょっと仕事の性格が違う。もちろんライターさんからもらった文章に赤入れ提案したりリライトしたりってのはあるけど、雑誌編集ってとにかくなんでもやらされるんだよな……。ライティングもかなりの量やらされたし取材もした、写真撮影もカメラマンの付き添いが主だけどめちゃくちゃやらされたし、そもそも毎号毎号どんな本を作るかっていう企画だのディレクションだのも編集の仕事だ。雑誌編集ってなんでも屋なんだよなあ……。

当然営業だってするしさ

で、そんな生活を送っていた過去がある上で本作の雑誌編集描写。これがかなり細部にわたってまで「うわ〜! わかる〜〜!」となるものになっていて転んだ。かなりクるものがあった。

ギャッって声が出たシーン

例えばこの机の散らかり具合とかさあ、結構「うわっ」ってなったよ。これ映画だからビジュアルでわかりやすく盛ってるんだろとかではないんですよ。マジで雑誌編集の机ってこうなるんですよ。私の机も毎月こうなったもん。ほんと雑誌作ってる時ってとにかくこうやって資料だのなんだのを集めてさあ、ひっきりなしに見ながら吸い込みながら作るから元のところに戻してる暇なんか校了までないんですよ。だからこの描写はかなりリアルでウワーッ! ってなりました。お前が机片付けてなかっただけだろと思うかもしれないけどほんとなんだって!

「成立する」、死ぬほど言う

あとこのセリフ! これさあ! これめっちゃ言うよなあ!!
雑誌編集に限らず、Web上のコンテンツ作ってる人とかリアイベとか仕切ってる人とかも普通に使うと思うけど! 「成立する/しない」って言うよなあ〜! 言う言う! 
……とまあ、終始こんな感じで細かいところで感心というか魂が10年弱くらい前に戻ってしまった。「成り立つ」とかも言うよな……。なんか「おいこのままだとこの企画事故るぞ! もうちょっと要素増やさないと成り立たん!」=読めたものじゃない的な……ことをさ! 言うんだよ! うわー

ちょうどこのあいだ喫茶店で適当に読んだ雑誌の特集が「著名人の本棚」と「あんこ特集」だったのでホワイトボード見て怖くなっちゃった

会議してるとこのシーンの質感もすごくそれっぽくて当時を思い出して胸が熱くなるやら寒気がするやらですよ……。この感じ、この感じとかもなー…うわー。懐かしい。懐かしいわすでに。「もうその巻頭特集マンネリだろ」VS「でもこれが一番売れるから定期的にやらんと死ぬで!」みたいな争いさ、あるんだよ。あるの。あと本当にしょうもない発言をする奴とかね(私のことですよ)。でも編集会議で、特にネタ出しのための会議でいちばん罪なのは何も発言せずに地蔵になっていることなのでとにかく何っでもいいから発言したほうがいいんです。そこから色々発展していったりするからね。

編集会議、マジでこんな感じ(『1日外出録ハンチョウ』①p92より)

大泉が人たらしの役をやるとあまりにも怖すぎる

で、恐ろしいのが全編にわたって主役級の活躍をする雑誌編集長役の大泉洋。なんでも原作の時点で当て書きをされていたらしい。とにかく異常なコミュニケーション能力と瞬発力の高さを持ち、グイグイと雑誌を引っ張っていって台頭していくんだけど……。

大泉演じる編集長の速水。エネルギッシュすぎて周囲に毒を撒き散らし続ける人たらし

未読だけど原作ではもっと「ザッツ大泉洋」なキャラだったところ、映画化の煽りでだいぶキャラが変わってしまったらしい。そーなの? 原作も読んどくべきかなぁ〜

何が恐ろしいってその牽引力の高いキャラクター性、という物語の中での活躍も恐ろしいんだけどさ、もっと恐ろしいのは「マジでいるんだよなこういう奴!!!」ってところ!!! 
いるの!!! こう言う人たらしでグイグイすごい勢いで引っ張っていって「死ぬのが怖くないんか……?」って感じで泳ぎ続けてるマグロ人間ねえ、マジでいるんですよ編集って言う人種には……。なんかその、解像度の高さとフィクション的な痛快さを持ち合わせてるのが怖ぇ、怖ったよ!

ヌルッと人の心に入り込む、というのを予備動作なくできる人間がこの世にはいる。それを大泉の演技でやられるので怖さが倍。こんなやつが生活圏内にいたら取り込まれると思う

作中繰り広げられる派閥争いみたいなのはあんまり「あるある」的にはピンと来なかったんだけど、目まぐるしく変わる勢力図とか優劣みたいなのは素直にエンタメとして楽しかったな。そうそうこの映画、シーンごとのぶった斬りというか「はい! ここまで見せたから後はどうなったかわかるでしょ? だから“結果”じゃなくて“それを受けてどうなったか”をとっとと見せてあげるねっ!」って感じの展開のされ方で、そこがいい感じのスピード感になってた気がするな。中ダルみを感じず見られるのも気持ちよかった。

そんなわけで非常にいい映画でした。変な湿っぽさもないし全体的に気持ちがいい、スカッとできるエンタメ映画でした。いやしかし……現役編集時代にこの映画見てたらめっちゃ「アテられてた」かもしれねえなぁ〜! そういうエネルギーはあった。編集やってた時にこの映画がなくてよかったのか悪かったのか……。なんにせよ「編集ってさあ、どんな仕事やってんだよ!!」ってよくわからないがちなので、そういうイメージが湧かない人にもおすすめです。雑誌や文芸の編集って、漫画の編集とはまたちょっと違ったお仕事なんだけどね。いやいいお仕事ものを見たわね。

あと編集の校正、赤入れという仕事の価値に向き合ってるのも良かったですね
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