変わらなくてもいいじゃないかボンクラだもの『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』

マシーナリーとも子

ハエが速ぇー

こんにちは。マシーナリーとも子です。
みんなはさ、映画を見るときにさ、あまり普段意識してないかもしれないけど……いや私もあまり意識しないで見るけど、見る前ってなんらかの「期待」があるよな?

その映画を見ることによって楽しい気分になりたいとか、前向きな気分になりたいとか、あるいは逆に怖い気分になりたいとか思いっきり泣きたいとかさ……なんとなくあるわけじゃん。多少は。

私もこのあいだ『ミュータントタートルズ:ミュータントパニック!』を見に行ったんだけど当然、「きっと楽しい映画、すごい映画に違いない」とか「タートルズが好きだから久々に新作が見られてうれしいなあ」とかそういう期待は見る前からあったわけよ。あえて言語化するならね(ちなみにかなりおもしろかったです。スプリンターの声ジャッキー・チェンだぜ!?)。

で、その期待に対して映画を見たという結果があって満足するわけだ。楽しい映画を期待して楽しそうな映画を見に行き、楽しかったら100点だし案外そうでもなかったら50点だなとかあるわけじゃん。大体。

ダラダラした前置きだったけど今回見た映画はなんかこう……いや満足はしたのよ!? したんだけどこう……ひと言で言えば「何もなかった」

AmazonPrimeVideoで配信中の『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』が今回のネタです兄貴。どうだい、このバナーから発せられるどことなくボンクラな雰囲気は……。
先述したような「この映画に何を期待しているか」を挙げるとしたら「変そう」「マヌケな映画そう」ってところかな……。いや、そういった意味では「期待通りの映画だった」んだけどなんか……すごく「何もなかった」んだ! ある意味衝撃を受けるくらいに。

とくに理由なく乳首が丸見えだし役割を果たしたあとはスーッと消えていく謎の男

開始1分でシャツが薄すぎて乳首丸見えの男が登場して緊張感が高まるけどこいつの出番は3分で終わるので安心して欲しい。本作のあらすじは以下のような感じだ。

特に働かずにぷらぷらしている中年男性・マヌは乳首丸見え男から運び屋の仕事を請け負う。脚として適当な車を盗み、幼馴染のジャン・ギャブを誘って仕事に取り掛かったマヌだが、なんと車のトランクには巨大なハエが閉じ込められていた。

ジャンの「ハエを飼い慣らして大儲けしよう」というアイデアに乗ったマヌは、運び屋の任務を放り出し、その辺のおっさんが住んでいたトレーラーハウスを乗っ取るのだが……。

このおっさんもひたすらひどい目にあった末になんとなく消える

いろいろあるけど何も起きない

というわけでいかにもなにか起こりそうなスタートじゃないですか!?
主人公2人はバカなので「ハエを調教しよう!」まではいいとして、そんなら芸を仕込んでテレビとかYouTubeに出て金を儲ければいいものを「ドローンみたいに使って盗みをやろう!」とか言い出すし、そこからノンストップでその辺のおっさんを襲撃する展開は正直おもしろい。すでに相当な起伏が発生していると言えるだろう。

ここからどんどん悪いことを重ねていってハエを使ってのしあがっていく、『GTA』とか見たいな話になるかもしれないし、あるいはハエが言うことを聞かずに暴走してしまうモンスターパニックものになるかもしれない! そう期待してしまう展開じゃないですか!?
だが……この映画は……そこから何も起きないんだ!!

いや何も起きないというのは正確じゃないな……。いろいろと細かい事件は起きるっちゃ起きるのよ。奪い取ったトレーラーハウスは速攻で火事になって失うし。でも別にそれも巨大ハエとは関係なく、ただ主人公が火の不始末をしただけ。

炎の料理人

後半ではひょんなことから知らねえやつがバカンス中の別荘に同居することになったりと、かなりのすったもんだはあるんだけどこれまたハエは特に関係なく……。一応事件らしいことも起こるし、結構、意外な展開もあることはあるんだけど……。なんか、なんか虚無なんだよ。この感覚はちょっとキミたちの目で確認してみて欲しいんだけど!

1メートルあるハエはかわいい

そしてただただ巨大ハエ「ドミニク」がかわいい。ハエがかわいいなんて嘘だろって思うかもしれないけど本当なんだ。

ありゃ~~かわいいねぇ~~
飛んで行かないようにドミニクの羽はテープで留められてる(かわいそう!)のだが、これがまたオムツのようでユーモラスだ
えらいねぇ~~
寝息がまたかわいい
なかなか起きないご主人に業を煮やしてシーツを引っ張るこの姿!
お水おいしいねぇ~

造形はかなりリアルだから不気味なはずなんだが、なぜだが愛嬌がある。ほとんど犬のような扱いだ。まあハエ、デカくなったらポケモンとかデジモンみたいなもんだもんな。かわいく見えて当然かもしれん。

平和がいちばん

そう、主役であるハエはかわいい。ハエはかわいいが……しかしこの映画やっぱり「何もない」。別荘に滞在している脳障害を持つ女性がすげえ突っかかってくる(なんて映画だよ)とか、それになんとか対応するとかいろいろドラマは事件は起こってる、起こってるはずなんだがこの「何も起きてないな」という感覚はなんだ……?

すったもんだはね、あるんですよいろいろと

なんでこうも「何も起きてない」感があるんだと思ってたら主人公ふたりに「何も変化がない」からなんですね。
こう、映画に限らず物語ってさ、進むにつれて主人公が何かを得るとか……成長するとか……あるいは何かを失う、ひどく落ち込む見たいな……なんらかの変化が起こるもんだろ?

でもこの映画は舞台やシチュエーションこそ変化するものの、主役ふたりはずっと変わらない。凄まじいまでのマイペースで、大喜びすることもなく大落ち込みすることもなく、しょうもないことで「イェー」って言い合ってるだけ。延々!

作中ふたりで何度も繰り返す「トロ(雄牛)」と言いながら指を立てた拳を突き合わせるジェスチャー。なんかフランスではこういうの流行ってるのかと思ってたらこのふたりだけの文化だった。なに???

そしてふたりはなんとなくあらゆる事件をやり過ごしていき……特にアガリもサガりもせず……けっこうなんとなく映画も終わっていく……。

こいつらずっとこの映画のようになんとなーく生きていくんだろうな。一見、大事件に思える巨大ハエとの遭遇すらこいつらには「なんとなく」の一部なのかもしれない。そんなふんわりした気分と、ほんのちょっぴりだけ胸が暖かくなるような期待を踏まえつつ映画はしめやかに終わっていく。

見終わった感想としては最初に書いた通り「何もなかった」。でも決してネガティブな感想ではないんですよ本当。なんだかんだけっこういいものを見たなって実感はある。だって「何もない」ってことは平和ってことだろ? 平和な生活、平和な毎日がいちばんだ。

この映画、不思議と癒され要素はたくさんあるんだよな。主人公ふたりは相当狼藉働いてはいるんだけど。でもまあ、人も殺してないし大金をかっぱらったわけでもない。ただちょっとボンクラなだけだ。そのふたりがハエとのほほんとイェーって暮らしていく空気は間違いなく「癒し」だ。
「こいつらみたいに暮らしたい!」とは決して思わないが……「こいつらみたいな精神状態で暮らしたい!」とは結構思うね。平穏が一番っスよ。

……あれ? ということは結構、こいつらって映画の主人公らしい「視聴者が憧れるような主人公像!」みたいになってるってこと!? あれ!? おかしいな。原稿を書き始めたときはこんな結論にするつもりはなかった。でも結構本心だなこれは……私は結構マヌとジャンみたいに生きたいと思ってしまっている……なんてこった!

ま、まあつまり言語化することでね! こういう心の変化というか確認というか、自分で自分に「そうだったのか!!!」と気づくことって結構あるので映画とかゲームとかを楽しんだら感想書くのおすすめです。なんだこりゃ。こんな締め方になるとは……恐ろしい映画だぜ『マンディブル』!

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