メッセージとコンセプトを映画の作りそのものが示しているのがカッコよすぎる!『大長編タローマン 万博大爆発』

マシーナリーとも子

勝とうが負けようがどっちでもいい

『大長編タローマン 万博大爆発』見てきました!
これはすごいわ。みんなの脳内にできていたであろう高すぎるハードルをバゴッッと飛び越えて行きやがりました。

でもいま、この書き出しを書いていて思ったんだけど、こういう「高いハードルを飛び越えた」みたいな比喩を書くときってつい「易々と飛び越えた」って書きそうになってしまう。

しかしこの映画は決して「易々と」なんて飛び越えてはいない。タローマンという己が作った唯一無二すぎる作品に対して、そしてなによりも岡本太郎というモチーフに対して、全力でがっぷりと組み合うことで飛び越えることができている! 

そう、「易々と」ではないが、また決して「ようやく」でもない。全力で戦った結果として、飛び越えることができた。そんな映画だ。

──勝とうが負けようがどっちでもいい。平気なんだ。 勝って結構、負けて結構。 ただ、完全燃焼、全力をつくす。

そう、岡本太郎も言っていた!

劇場で見ることにとても意味がある作品なので、配信やディスク化を待たずに今すぐ映画館に行きましょう!

そう、山口一郎も言っていた!

というのも単純に、「わざとレトロ風に作った映像を映画館で見るのがおもしろい」というのがあるんですよね。

この辺は監督である藤井亮氏の真骨頂ではありますし、テレビ放送時も楽しんで見てはいたんですが、劇場のスクリーンで見るとこんなにただただ面白くて満足感があるのか! と開始数秒で思わされてニヤニヤしちゃいましたね。

この時点でもうおもしろい

思い切ってのびのびと踏み出してみる

とはいえこの映画、初報のときはそんなに期待していなかったんですよ。

とくに心配だったのは105分というボリューム。
テレビ本編はめちゃくちゃおもしろがっていましたが、やはりあれは5分番組という枠組みの中でやっていたからこそのおもしろさだったんじゃないか? と。
短い時間の中にぶち込まれるあまりにも濃厚な体験こそが『タローマン』だったんじゃないか? それを2時間近く見せられるって大丈夫? 間延びしない?

──制約があるからこそ、自分のしたいことを貫くのが本当の行動になると思う。

岡本太郎もそう言っていたじゃないか。

あと以前放送された、本編より少し長い『タローマン大統領』についてちょっとパンチが弱いなと思っていた経験もあった。『タローマンヒストリア』はめちゃくちゃおもしろかったが、アレはイマイチだった。
「やはりタローマンは5分だからおもしろいのか……」
と噛みしめされられた。

タローマンヒストリア、夢みたいな時間でしたね

が、『万博大爆発』はヤバかった。
全然間延びしてない!! なんだこれは。
タローマンを105分ぶっ通しで見せられてるような気持ちになってくる! 
あの高速テンポをずっとやってくるんですよ。すごいぞ。圧縮とかじゃなくてポンポンポンポン! と出してくるあの感じを。
岡本太郎の言葉もバンバン出てくるし。

というか、そうだよな。テレビ本編が
「岡本太郎の言葉をモチーフにして1話を作る」、
つまり5分でひと言岡本太郎の言葉を出すことで落とす(オチをつける)というスタイルであったのに対して、この映画は「岡本太郎の言葉を5分ごとに出す」ことでテレビ本編と同じスピード感を出しているんじゃないか!? 多分。
数えてないけど間違いなく岡本太郎の言葉は20以上出ているはずだ(30くらい出てるかもしれない)。
なんて手段を取りやがるんだ、この映画。

また、本作は劇場版タローマンであると同時に劇場版藤井亮の側面もあり、「あの感じ」の映像がバンバン出てきます。たまらん。

この感じ。
そうだこの人「こっち」もできたんだった。というかなんならこっちが本業なんだった! すごいぞ。
あと未来世界の万博のマスコットキャラがとてもかわいい。ミャクミャクとコラボして欲しい。

見るものをあるがままに突き出す

テレビ版に引き続きの、決してふざけやナメで作られてない、時々息を呑んでしまうような特撮表現も健在で、アクションシーンとかは行われていることは馬鹿馬鹿しくてもかなり見応えのあるものになっています。

特に巨大絵画『明日の神話』をモチーフにした奇獣の着ぐるみは立体としての解釈も素晴らしく、怪獣としてものすごくカッコいい! マジでソフビとかガシャポンとかで立体化して欲しいくらいツボなデザインでした。

いや、テレビ版の奇獣を見たときも思ったけどさ、そもそもタローマンのレファレンス元であるウルトラマンとウルトラ怪獣のデザインの根っこにあるのはやっぱり成田亨じゃないですか。

で、岡本太郎と成田亨って親交があったし……それこそ「太陽の塔」内部の「生命の樹」の制作には成田亨関わってますからね。

以前大阪観光行ったときに見に行ったんですが、高くて足場が不安定(高所恐怖症なので怖い)+異様な雰囲気で恥ずかしながら半パニック状態になってしまい半泣きで高速で駆け抜けたので生命の樹の詳細を見ることはできなかった。1Fから見上げてこの写真撮るのが精一杯だった。いやすごいんですけどね太陽の塔。みんぱくもすごいし万博記念公園には一度行った方がいい

なんというかこういう言い方自体が良くない、岡本太郎的でない自覚はあるんですがやはりこの2者って同格なんですよね。芸術パワーが。
だから岡本太郎の描いた絵を着ぐるみにするとウルトラ怪獣に引けを取らない存在感が醸し出されてくる、という事実がなんだかうれしくて。
その完成形を今回の新奇獣では見せてもらった感じがあって感動してしまいました。

そもそも『明日の神話』って第五福竜丸の被爆事件が着想の元にあるわけじゃないですか。それって『ゴジラ』と同じなわけで、それが改めて今回怪獣になるって……。なんなんだ、引力があるよなあ。

本編の内容もすごく良くて……なんというかちゃんとホンがいいんですよ。
そこはタローマンなので、1シーン1シーンを抜き出すとデタラメをやってはいるけど全体的にはどこかで見たような「あるある」に満ちたお話で、正直言って新規性自体は無い。無いんですがだからこそなんか膝を打ってしまうものがあり、デタラメさにケムに巻かれてしまっているせいか「あるある」展開のはずなのに割と素直に「あっ! そうかー! あれは伏線だったのかー!」みたいなのに引っかかってしまう。

そして何よりも「岡本太郎のことなら真実である」というコンセプトの一貫性!
すべてのシーンの裏打ちに岡本太郎の言葉がある! 
そしてそれをすぐさま答え合わせのように劇中人物に言わせる! が、その言葉の強度よ! なのでそのすべてが見事にシナジーを起こして妙に感情を湧き立てられる!

なのでタローマン見てるのに、泣くというのをついやってしまいます。正直数回グスッとした。そのたびに博士がキレッキレのギャグやってきて劇場のみんなで笑っちゃうんだけど。

メッセージ自体も結構響くものがあって、今回の敵役の「デタラメができるもんならやりたい」という悲鳴のような悪態は結構響くものがありました。私も結構、混沌ってカッコいいなと心では思いながら根っこは秩序みたいなところがあるので。お前は俺…!

でも作中、繰り返し「それではダメだ」と言われているように、デタラメというのは外から見て「デタラメなことをしているなあ」と客観的に思えることを、俺もやる! ではダメなんですよね。それでは中二病の初カキコと何も変わりません。
みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは」では、デタラメたり得ないんです。

──見る。見るものをあるがままに突き出す。それだけ。
岡本太郎もそう言っていました。

芸術は太陽のエネルギーだ

そしてこの映画は、そんな岡本太郎のデタラメさ、芸術は爆発だという想いを映画そのもので体現しているのがカッコいいんですよね。
同じことを繰り返すなら死んでしまえ、と岡本太郎も過去のタローマンでも言っていたように、この映画はまだ舞えるぞとどんどん新しいデタラメを繰り出してくる!
その引き出しの多さに圧倒される!
そんな映画の作り自体が映画のメッセージの、映画のコンセプトを体現しているのがあまりにもカッコよすぎて、なんだこの映画すごい名作なんじゃないか!? と思えてきてなんかすごいんですよ。すごい。

──芸術は太陽のエネルギーだ。経済原則のギブ・アンド・テイクは成り立たない。陽光のごとく無制限にエネルギーを放出し、怖いほど与える。
岡本太郎もそう言っていた。

なのでぜひみなさんには劇場でご覧いただきたい、この映画に売れて欲しいと思うんですが ですが

映画のメッセージ的にがんばれ、大長編タローマン売れてくれと応援するのは

もしかしたら 違う……?

大長編タローマンは応援しない方がいい……?
むしろもしかしてネガティブキャンペーンを打つべきなのか……?

──芸術が商品になるのはイヤだね。基本無償、無条件なんだよ。

岡本太郎もそう言っていたしな……。

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