作家ライダーやってる! これが見たかった『仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』

『仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』

えっ おもしろいじゃんこっちも

 1月も半ばに差し掛かったあたりになってよ〜〜やく今年の仮面ライダーの冬映画を見に行きました。12月下旬からやってたんだけどなんか忙しかったり、年明けたら緊急事態宣言出てたりしてさ〜。タイミング無かったのよね。とはいえなんだかんだ初日に無理してでも見に行かなかったあたりあんまり気乗りしてなかったというのもあるのかもしれない。

 んで見てきた感想だけど……おもしろかった! ゼロワンは本サイトでも過去書かれている通り、劇場版らしいリッチな内容でとても良かった。私的には「え? こういう方向に舵切るの?」という感じで、もうちょっとヒューマギアの話を見てみたかったなという気もするんだけど、各キャラの掛け合いは絶妙だし戦闘シーンは見応えあってとってもいい劇場版だったぜ。
 反面、セイバーについては周囲では「ゼロワンは良かったけどセイバーはまあ普通にセイバーだったわ」って冷めた反応をよく見たんだよね。それもあってあんまり見る前は期待してなかったんだけど……えっ! おもしろいじゃん! これだよこれ! むしろ単純な「好き嫌い」で言うとセイバー映画の方が良かったかもしれない。なので今回はセイバー映画の話をしていくぞ。

いきなりクライマックス

 世界をワンダーワールドもろとも虚無に帰そうとする謎の剣士・バハトの野望を阻止せんと飛羽真たちソードオブロゴスの仮面ライダーが立ち向かうというあらすじの本作。なにせ上映時間が23分しかないので導入もそこそこに開始3分くらいで「破滅の本」なる書籍が開かれ、高層ビルがガシガシ消滅していく。似たような描写では『仮面ライダービルド』終盤のエボルトのブラックホール攻撃を思い出すが、一棟ずつ消滅させてたあちらと異なり、こっちは視界に入るビルが丸ごとぶっ壊されてるので「開始時間に対して破壊の規模がデカすぎるだろ」とビビらされる。ライダーたちも、特にバハトとの因縁的なものは描写されず「とりあえずやっつけるぞ!」的なノリで変身。バトルがスタートする。尺的には夏の戦隊映画に近いものがあるんだけど、本作はそれを遥かに超えるスピード感。起承転結のうち転と結だけで作りました! という感じで思い切りがいい。

スーパーヒーロープロジェクト (C) 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映
この敵は何者なのか、という情報をタッセルに話させることで10秒で視聴者に紹介するという荒業で畳み掛けてくるセイバー映画。とにかく展開が速いというかバトルをたっぷり見てくれという割り切ったつくりになってる
https://www.youtube.com/watch?v=tIxhIhhlmiA

 で、その後の展開がめちゃくそ響いた。何というかテレビシリーズ含めて初めて「これが仮面ライダーセイバーだ!」と思えるものがあって感慨深い気持ちになっちゃったよ。

文豪で剣豪のお話になってるじゃん

 バハトの目的は若干不明瞭ながらも、「争いに満ちた世界を元どおり虚無に戻す」と言うもの。確かに人類は争ったりしてて愚かだね。その辺りは殺人サイボーグとしても同意できます。そんなバハトを止めようと戦いを挑む飛羽真は人類は色々問題あるけど乗り越えられるぞ! と反論するわけなんだがバハトは「でもお前も今争いで俺を止めようとしてるじゃん!」と論破。痛いところを突かれた飛羽真はううっとなって劣勢に追い込まれてしまう。まあこの辺りは反論含めて「よくある話」だ。確かに現段階で人類は愚かだけど、成長できるしそれが尊いんじゃん的な話ね。今まで3億回くらい聞いた弁護だわ。もうその理屈で人類褒めるの、飽きたんスよねと思っていた。でもこの映画の好きなところはここからだったんだよな。

スーパーヒーロープロジェクト (C) 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映
尾上さんが大秦寺さんに話しかけられて「え?」って振り向いたらみんな土豪剣でなぎ倒されそうでハラハラする並び

 戦いを続けるソードオブロゴスの剣士達、倫太郎、賢人、尾上さん、蓮たちはそれぞれの戦うモチベーション、そして人類を想う気持ちを口にしながら必殺技を放つ。ホモ・サピエンスは常に己の持つ信念や技を研鑽すること、子を育むこと、技術を紡いでいくことで成長してきた。そしてその成長には……これは本編で語られてなくて私が勝手にそう思ったことなんだが、当然争いもあり、必要なことではあった。そしてそうした、争いをも含めた人類の歩みから何が生まれたのか? それは「物語」だと思うんだよ。バハトが否定しようとする「争い」ですら、物語が紡がれるためには必要な材料なんだ。だって私ら、今実際に『仮面ライダー』と言う争いの物語を見ているんだもんな。
 そして作家である飛羽真には、当然そんな物語という概念そのものを否定する「虚無」は絶対に許せないわけだよ! だからこそ飛羽真は立ち上がり、バハトを討つわけだ。この構図がものすごくいい! 作家ライダーとしてここまでふさわしい目的があるだろうか? 正直テレビシリーズの飛羽真の戦うモチベーションって今ひとつピンと来ないんだよな。幼馴染の少女や、賢人との約束を守るために戦うってのがなんか……単に描写不足なんだと思うが見ていて「そこまでのもんか?」って感じてしまう。もちろん、主人公として戦う力を得たなら世界を守るために戦うってのはわかるんだが、何と言うかもう少し「エゴが欲しいな」と思ってたんだよな。あと、作家要素が今ひとつ活きてないなあと思ってたし。劇場版は、その辺の「飛羽真の戦うモチベーション」と「作家ライダーという個性」がガッチリ噛み合っていて「これだー! セイバーで見たかったやつこれー!!」と興奮してしまった。強化フォームの名称がエモーショナルドラゴンってのもいいよな。虚無に立ち向かうのにエモさで対抗するってのはものすごく納得がいくぜ。エモいって感情は物語が生み出すものだしな。
 
 また、テレビシリーズで何故か描かれない飛羽真の著作がようやく出てきたことや、市民から見守られ、少年に勇気を与えるヒーローという図もありがちながら絶対にアツくなってしまう私の弱点シーンなので本当に大満足してしまったよ。テレビシリーズも第2クールに突入したけど、願わくばこの劇場版のように作家的な要素を入れてくれたら嬉しいな〜。そういえばバハトはテレビ本編への登場も示唆されてるね。どうなるのかしら。というわけでセイバー映画、激おすすめです。そろそろ劇場公開もおわっちゃうタイミングだとは思うが、ぜひ見てみてほしい傑作……まで言うと褒めすぎかもしれないけど、満腹感のあるいい短編だったよ!

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