隣人ガチャ。それは自宅の隣から映画館の座席の隣に至るまで、隣人に対するアタリ・ハズレを指す言葉。
たとえば筆者は現在、上の階の騒音(天井が薄いのか、もう肌寒いのに井上陽水の「少年時代」が聴こえてくる)と隣家の騒音(朝5時からクソデカくしゃみで起こされる)に悩まされています。これはハズレの隣人ガチャです。
しかし映画の世界を覗くと、井上陽水もくしゃみもたいしたことないんだなあ…と痛感させられる強烈な隣人ガチャ案件の映画が存在します。
今回は「隣に住む(いる)ヤツがヤバい奴だった」をメインテーマに、隣人ガチャ映画をまとめてみました。
バカンスで引く地獄の隣人ガチャ『ファニー・ゲームU.S.A.』
胸糞映画の代表格にして、隣人ガチャ映画としてはもっとも出くわしたくないタイプの隣人二人組が参戦。なにせバカンスに来てウッキウキな家族のところに「卵を譲って欲しい」と隣人の方からやってきて、その卵を何度も割って相手を逆上させる→怒ったところで逆ギレし、家族を血祭りにあげるという、文字にしているだけでもメチャクチャな破綻した展開の作品。逃げ場がなさ過ぎて怖い。まだクマとかに遭遇した時の方が生存率高そうです。
隣人ガチャというと、自分が暮らす家の近隣をイメージしがちですが、外出先でも隣人ガチャはいくらでも発生するということを改めて思い知らされます。
あまりにも浮世離れした設定・展開ですが、この映画のもっとも怖い点が、対策のしようがほぼない点です。自宅の隣人であれば、今後ずっとこの人と付き合うのは嫌すぎる…となって、外部に相談したり、引っ越すなどして何とか避けることは可能です。
しかしバカンスや旅行先となると「まあたった数日だし…」という発想に至り、なかなか対策行動に出ずらい…。
変に坂恨みされるリスクもあり、ホテルならまだしも、今回のような別荘だと、なおのこと管理人などに連絡するのが億劫で「まあ、いっか」っと半ば諦めモードになりやすい一面も…。
ましてや『ファニーゲーム』の隣人は向こうからズカズカとやってくるので、ほぼ通り魔的な凶行となっています。怖い。
遭遇率は限りなく低くても、出くわしてしまったらほぼ対策不可能というタイプの隣人ガチャ映画です。
世界共通のいや~な隣人ガチャ映画『M3GAN/ミーガン』
人間のように様々なことを学習するAI人形「ミーガン」を開発したジェマと、親を事故でなくしたジェマの姪・ケイディが次第に暴走していくミーガンに翻弄されるホラー映画。
今回はあくまで隣人ガチャという要素に注目しているので、ミーガンの狂気的な愛情やキレキレのダンスについては触れず、ジェマのお隣に住むおばさんにフォーカスします。
家の塀を直さず凶暴な飼い犬が侵入寸前なのは朝飯前。ジェマ宅への不法侵入まで行い、案の定、犬はケイディに噛みついてしまいます。おばさんは謝罪もなければ反省の様子もなく、ジェマだけでなくミーガンからの怒りを買うなど、隣人ガチャ案件としてはかなり王道(?)なキャラです。
海外が舞台でありながら、隣人関係の事案がミニマムなスケールなこともあって、観客の不快感を増大させています。こんなおばさん、実際にいそうだし、隣に暮らしてたら嫌すぎる…。そりゃミーガンの力も借りたくなるような…。
この隣人おばさんに限らず、『M3GAN/ミーガン』では日常に潜むトラブルをミーガンが(力業で)解決してくれる要素があります。ホラー映画でありながら、心のどこかで「ミーガンがいれば心の平穏も保てるのでは…?」と考えてしまいそうな演出がまた怖いところです。
自分に置き換えて想像しやすい規模感のガチャ案件が精神をソワソワさせる映画です。(個人的には犬が好きなので、余計に心をざわつかせます…汗)
移住したい人はマストで見るべし!『理想郷』
隣人ガチャ要素に“移住しくじり先生”要素をかけ合わせた異色の心理スリラー映画。
スローライフに憧れて、都会からスペインの田舎町に越してきた夫婦ですが、よそ者を嫌う隣家の兄弟からあらゆる嫌がらせを受けます。
おまけに夫が村に大きな利益をもたらす風力発電プロジェクトに反対票を入れたことがきっかけで、兄弟からの嫌がらせは悪化し、ある事件が起きてしまう…。
移住を始め、引っ越しなどで気がかりなのは近所関係です。今は近所付き合いが希薄なのも珍しいことではないですが、この映画の舞台である閉塞的な田舎町の場合はそうもいきません。
移住を成功させるためには、村人たちとの付き合いや、その土地の習慣を受け入れる「郷に入れば郷に従え」の気持ちが大切とあります。
しかし主人公で夫のアントワーヌは自信のある計画のために、村人との付き合いをはじめ、村人の殆どが賛同している風力発電プロジェクトにも反対票をぶち込みます。
このアントワーヌ、ことごとく「郷に入っては郷に従え」精神を無視しているため、隣人ガチャだけが問題ではないことが明らかになってきます。
アントワーヌをしくじり先生としてみれば、自分から積極的に行動することで、隣人ガチャの当たる確率を上げることも可能である希望も少し感じられるのです。
本編を見るとかなり卑劣な嫌がらせを受けるだけでなく、普通に銃とかちらつかせているので、移住に関してはやはり隣人や村人と仲良くすることがすべてのような気さえしてきます。
移住はもちろん、転勤など引っ越しでできるだけ隣人トラブルを避けたい人には反面教師としても見られる作品です。
隣人ガチャとサスペンスの相性は抜群?『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』
『つぐない』『ハンナ』のジョー・ライト監督によるサスペンス映画。主人公アナ(エイミー・アダムス)は広場恐怖症をかかえており、ストーリーはほぼアナの住む家の中で進みます。
向かいの家に越してきた隣人がDVをしている現場を目撃したアナは、自宅の窓から隣人を覗き見るように。
暴力を振るう夫(ゲイリー・オールドマン)が、妻を殺害する様子を目撃しますが、通報したアナの前に父親が連れてきた妻は全くの別人。アナは薬の副作用や精神疾患を疑われて、殺人現場も彼女の見た幻覚だとされるが…?
「隣人ガチャを避けるなら、近所付き合いを無くせばいいじゃない!」という発想をことごとくぶち壊すパワー系隣人ガチャ映画です。部屋から一歩も出なくても、主人公は事件に巻き込まれてしまいます。
似たような設定に、電車の窓から他人の生活を覗き見る『ガール・イン・ザ・トレイン』もありますが、『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』は受け身の状態でいろいろなトラブルに巻き込まれる展開が印象的。彼女は外に出られないので、お隣さんに挨拶すら行けない状態です。
それにも関わらず、隣人家族の息子をかばえば小児性愛者扱いされ、服用している薬の副作用を疑われ、警察からも白い目で見られ…。八方塞がりとなったことで、アナが決意した行動もまた悲しい…。
ちなみに、アナを不安に貶めるのは向かいの家の住人だけではありません。彼女は地下室をデイヴィッドという青年に間借りさせており、向かいからも下からも不安要素に悩まされる事態にまで発展していました。
改めて隣人という概念を考えさせられます。この場合はあれか…デイヴィッドはルームシェアと隣人の間みたいな関係性なのでしょうか…。ルームシェアガチャ…対人関係が不得意な筆者からしたら文字を目にしただけで目眩を覚えます…。
家から一歩も出なくても、隣人ガチャを引かされてしまうという点ではかなり衝撃作です。もう「ポツンと一軒家」に住むしかない!
隣人関係の暗部を描く『クリーピー 偽りの隣人』
香川照之演じるサイコパスもさることながら、西島秀俊もなかなか相手を無視して調査を”面白がる”姿が若干サイコっぽい、ある種ミラーマッチ的なサイコ隣人ガチャ映画。
隣人から受ける仕打ちとしては『ファニーゲーム』に並ぶヤバさであり、舞台が日本の閉塞感あふれる土地というのも、妙に生々しく本当に近所付き合いが怖くなりそうな作品です。
個人的には主人公の夫・康子(竹内結子)が、辞めておけばいいものの、何度も西野(香川照之)宅に足を運んでしまう冒頭が怖いです。
康子が引っ越し先の隣人宅へ挨拶に行った際、西野が時折見せる横柄な態度に苛立ち、手土産をゴミ箱にぶち込むシーンがあります。しかし、しばらくして西野に再度会うと、態度が丸くなっており、かと思えばまた感じの悪い態度を見せる…。
もし自分が康子の立場なら「さっきまで優しかったのに…。急に怒るということは、自分がなにか気に障るようなことをしてしまったのか…?」と不安にかられてしまいます。その結果、不安を払拭したい一心で、また相手に会いに行き、自分に落ち度はなかったか知ろうとしてしまいます。
隣人に限らず、学校の友人、会社の同僚など、嫌われてしまうことに何らかのデメリットがあると「何か嫌われるようなことをしてしまったかな…」と思い、不安を払拭したいためにまた接触してしまう心理が妙にリアルに描かれていました。
もしも隣人が毒親だったら…『ユージュアル・ネイバー』
ボーイ・ミーツ・ガール要素と、毒親スリラーを足して2で割ったようなサスペンス映画。親を亡くして、親戚の家に引き取られた少女・マリアンが近所の家を見に行くと、足が不自由で体の弱い少年アンディが暮らしていました。
お互い友達のいなかった二人はすぐに仲良くなりますが、何故かアンディの母・キャサリン(サマンサ・モートン) は二人の関係を許さない…。そしてマリアンは偶然にもアンディの両親の秘密を見てしまい…。
めちゃくちゃ漂うインディーズ感に反して、主演は「ウォーキング・デッド」シリーズのサマンサ・モートンと『テイク・シェルター』のマイケル・シャノンという豪華なキャスティング。
これまで隣人ガチャがハズレてしまったパターンを紹介してきましたが、本作は人によってはアタリにもなる隣人ガチャ映画です。
マリアン側からすると、近所に毒親とも言える母親が暮らしていて怖い思いをしますが、アンディからすればマリアンは友達であり、過保護すぎる親から解放してくれる救世主のようでもあります。
ちょっと『RUN/ラン』っぽい世界観ではありますが、サマンサ・モートンのブチギレ演技がなかなかに怖いのでオススメ。ちなみに原題は「The Harvest」であり「neighbor」 という単語はありません。なんならマリアンがアンディ家へ遊びに行くにはまあまあ歩いています。川とか渡ってるし…。
原題はかなりネタバレ要素を含んでいるので、ある意味、隣人ガチャ映画として見たほうが純粋に楽しめる…かも?
マジヤバ隣人だけど笑えます『ネイバーズ』
隣人ガチャ映画はホラーやスリラーになりがちかと思いきや、おバカコメディでも隣人ガチャ映画は存在します。
セス・ローゲンとローズ・バーンが夫婦役を務め、ザック・エフロンが脳みその栄養がすべて筋肉に持っていかれたおバカ大学生を熱演する『ネイバーズ』では、静かな暮らしを求めて郊外に越してきた夫婦をパリピ大学生が馬鹿騒ぎしてぶち壊します。
ただ騒ぐだけならまだしも(まだしも?)、こいつらはともかくモラル面で攻めてきます。
おまけにサークルで一軒家を購入しているので多勢に無勢。クサ・露出・セクハラ・フェス並みのギグetc…。これらをすべて閑静な住宅街でやってのける恐ろしさ。スケールがアホすぎて笑えますが、現実にこんなヤツいたら本当に嫌だなあ…(嫌)
おまけにパリピ隣人たちに文句を言えば、職場にまで嫌がらせをする陰湿さも持ち合わせています。その行動力をもっとほかに活かそう。コメディ映画にして隣人ガチャのハズレ具合では屈指のレベルを誇ります。『理想郷』の兄弟の嫌がらせが可愛く見える…。
とはいえ、日本ではまずありえないスケールの隣人ガチャ案件なので、他人事として安心して笑えるのが救いです。次作『ネイバーズ2』では主演のザック・エフロンが味方になってくれますが、果たして筋肉は隣人トラブルの解決の助けになるのか…?
まとめ
映画でも現実でも、隣人トラブルはちゃんとほかへ相談して解決した方がよさそうです…。(映画の場合は出会った時点で死が約束されるケースもありましたが…怖)
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