映画『スイング・ステート』おバカなコメディかと思いきや、設定の凝った政治エンタメ映画でした

どうも、政治と聞くだけでどうしてもネガティブな感情に襲われがちなヤマダです。あのなんとも言えない殺伐とした空気感が正直しんどい…。

近年はSNSでの批判も拡散されやすく、筆者が暮らす地域の市長も金メダルを噛んで死ぬほど叩かれていたことも記憶に新しいです。生活をする上で政治に関心を持つのは大切と分かっていても、こうした風潮により距離をとってしまいます…。

この感情を抱くのは政治をテーマにした映画でも同様です。政治コメディでも内容が理解できなかったり「これ、笑っていいものだろうか…」と神経質になってしまったり…。

ネガティブ・殺伐・難解という距離を取りたい三要素が備わりやすい政治映画ですが、9/17(金)に公開される映画『スイング・ステート』はこの要素を見事クリアし、かつ見ごたえばっちりのエンタメ映画となっていました。政治無理!という人もきっと楽しめるはず…!

映画『スイング・ステート』あらすじ

民主党の選挙参謀ゲイリー・ジマー(スティーヴ・カレル)は、ヒラリー・クリントンが大敗したことで意気消沈していた。そんなとき、ウィスコンシン州の小さな町ディアラケンの役場で不法移民のために演説をした退役軍人ジャック・ヘイスティングス(クリス・クーパー)のYouTube動画を知る。彼こそ中西部の農村で民主党の票を取り戻すカギになると考えたゲイリーは、激戦州(スイング・ステート)のウィスコンシンに単身アポなしで訪問。ジャックに町長選出馬を頼み込む。ゲイリーが指揮を執る形ならと出馬の意向を固めたジャックだが、この動きを嗅ぎ付けたのはゲイリー因縁のライバルでトランプ選挙参謀のフェイス・ブルースター(ローズ・バーン)だった。小さな田舎町で繰り広げられる、手段を選ばない選挙戦の勝敗はいかに…?

(C)2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved

スティーヴ・カレルといえば、『ゲット スマート』(08)でどこか抜けているスパイを演じたかと思えば『フォックスキャッチャー』(14)で闇が深すぎる実在の人物ジョン・デュポンを怪演した俳優です。敵役のローズ・バーン『ピーターラビット』(18、21)シリーズのヒロインや『ネイバーズ』(14、16)シリーズでキレたら怖い元パリピの人妻を演じました。

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全然本編とは関係ないのですが、ローズ・バーンは『ネイバーズ』でスティーヴ・カレルが出演する番組のセリフからパリピを倒すヒントを得たにも関わらず、『スイング・ステート』では師匠ともいえる(?)カレルのプライドを終始ズタズタにしようとしてきます。これが守破離か…

監督・脚本を務めたのはコメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショー」の司会兼脚本・プロデュースを16年間も務めたほか、アカデミー賞授賞式では2度も司会を担当したことがあるジョン・スチュワート。映画『ロビン・ウィリアムズの もしも私が大統領だったら・・・』(06)の主人公トムのモデルにもなった彼はアメリカ政治への知識が豊富なだけでなく、持ち前のユーモアセンスを活かして本作を完成させました。

【NOT 難解】アメリカ政治を知らなくても大丈夫!登場人物の8割も知らないので

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映画『スイング・ステート』は政治映画というより、選挙戦に勝つためにあらゆる手段を講じるバトル映画に近い作風となっています。ぶっちゃけ(筆者のように)与野党とかリベラルだの保守だのチンプンカンプンです!ブイ(^^)v みたいな人でもバトル展開で楽しめます。なぜなら、舞台となるウィスコンシン州ディアラケンの住人もそんなに詳しくないので…。ジャックを町長にしようと盛り上がるも、選挙活動なんて住民はみんな素人同然。なのでチームを率いるスティーヴ・カレルはずっと笑いながらイライラしていました。

ギャグのレベルも政治レベルで難しいもの(?)はあまりなく、牛の肛門にフィストを突っ込んで微笑むマッケンジー・デイヴィス(『ターミネーター:ニュー・フェイト』で女性兵士グレースを演じた俳優)など、子どもをはじめ「う〇ち」などで笑える大人も楽しめるシーンが多数あるほどです。この辺はやはり『ゲット スマート』などに出演しているスティーヴ・カレルの腕の見せ所でしょうか。個人的には風刺の効いた政治ギャグより、下品でおバカなギャグのほうが好きなので大満足です。

【NOT ネガティブ】これを見れば選挙が楽しくなる?

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日本は投票率が低いと耳にしますが、アメリカで選挙ネタが豊富なのはやっぱり一種の”バトルもの”として見ることもできるからと感じます。

特に本作は選挙の勝敗を握るロビー活動の様子もバンバン取り上げているのが痛快です。そして選挙参謀のふたりがよそ様の地域でバチバチに火花を散らす節操のなさも見ていて楽しい…。平気で嘘とかつくし。(しかもその行為さえ一種の戦法になっている)

民主党とはなにか?共和党とはなにか?という目線で見るのも良いですが、単純にスティーヴ・カレルVSローズ・バーンという構図で観るのも面白いです。「とにかくお前にだけは負けたくねえ!」という気迫がビンビンに伝わる下ネタの応酬。罵倒の数々…。そんな面白要素に乗せてアメリカの選挙の仕組みや、票を獲得するうえで必要な情報とお金の流れがわかるので一石二鳥な作品でもありました。

ちなみに『スイング・ステート』を見た後にNetflixオリジナル映画『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』を観ると、なんで2人はこんなに躍起になっているのかがリアルな目線で分かるかもしれません。

【NOT 殺伐】コメディと見せかけてかなり凝ったストーリー

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↑これは演説をしたいのに近所の牛がモーモー鳴いてイライラするスティーヴ・カレル

『スイング・ステート』は決して強烈かつ痛烈な批判系の作風ではありません(あったとしてもスティーヴ・カレルの存在により、いい感じにマイルドになっている)。そうした作風が苦手な人でも安心して鑑賞できます。

しかし本作の魅力はコメディ要素だけではありません。選挙戦とは別の”裏テーマ”があり、その描き方が最高でした。正直、政治映画でこんな気持ちになったことは初めてかもしれません…。そして本作のエンドロールには作中の解説(とても丁寧)があり、この解説を聞いた後に本編を思い返すと見方がかなり変わってきます。

演出としてはシンプルですが、あえてエンドロールに持ってくることで凝った内容の映画が完成していました。絶対エンドロールの途中で退席しないほうがいいです。

政治映画としてかなり異色な作風・展開の本作は派手さこそあまりないけれど、その分”田舎あるある”(カレルの来訪が牛の交尾よりも早く広まる、wi-fiがない)などのユルめなコメディが楽しめます。

個人的には同じ「PLAN B」制作の政治映画『バイス』(18)より『スイング・ステート』のほうが好感度高めでした。この辺は本当に好みの問題ですが…。本作を見れば投票所か田舎に行きたくなること間違いなし!

映画『スイング・ステート』は、9月17日に東京・TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国で公開。

映画『スイング・ステート』作品情報

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出演:スティーヴ・カレル/ローズ・バーン/クリス・クーパー/マッケンジー・デイヴィス
監督・脚本:ジョン・スチュワート

2020年/アメリカ/102分/カラー/ヴィスタ/原題:IRRESISTIBLE/配給:パルコ ユニバーサル映画 ©2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved

公式サイト:https://swingstate-movie.com/

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