8月7日から劇場公開中の最新作「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」。
少年時代に、ウソを隠すためにさらにウソを重ねて親にこっぴどく怒られた経験はないでしょうか?そんな映
画。
監督自らコーエン兄弟の「ファーゴ」に強く影響を受けたと発言していますが、どちらかというと「ビッグ・リボウスキ」を好きな方にオススメしたいです。
『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(原題:The Death of Dick Long)


バカ騒ぎをしていたオープニングシーンから一転、画面が切り替わるとすでに瀕死のディック・ロング。病院に連れていくはずが二人が選んだのはなんと“病院前に置き逃げ”。
もうこの時点でなんてバカなんだと頭を痛める展開なのに、二人は証拠隠滅のために血がべったりついた車を池に沈めようとして失敗したりウソにウソを重ねる始末。
偽証のあまりの杜撰さに追い詰められ、中盤ジークの妻に白状してしまいますが、ディックの死の真相のなんとバカバカしいことか!
そりゃ隠そうとするわと思いつつも、ハッとするのはジークの妻役のいろんな感情が入り交じった演技。


喜怒哀楽とは言いますが人の感情って「喜0:怒100:哀0:楽0」なんて事は早々ないじゃないですか。
おかしさと怒りと悲しみ、そして侮蔑やなさけなさ等が入り混じった言葉で言い表せない彼女の表情に、この映画のすべてが詰まっているように思いました。
ダニエル・シャイナート監督の前作は、あのラドクリフをおならしまくりの喋る死体に起用した「スイス・アーミー・マン」。いくらでも荒唐無稽にくだらなく作れる腕を持ちながらオフビートでシリアス調にまとめたのは、前作の時点でコメディを作りたかったわけではなく、笑えるようで笑えないギリギリのラインを攻めたかったんじゃないかと邪推してしまうほど。
だっていくらでも笑えるように出来るんですよ、ディックの妻が訪ねてくるシーンもそうだし、飼っている馬を逃がそうとするシーンなんて劇場内が爆笑の渦に包まれてもおかしくないはずなのに。
自分自身も心の中では「もう少し笑わせてほしかったな……」という気持ちがある一方、ウソにウソを重ねて怒られた時のあの気まずさを思い出して胸が痛かったり、ガキがするような股間花火や実弾射的ではしゃぐしかないような何もない田舎町の退屈さ、すぐ隣人に会ってしまうコミュニティの狭さに同情したり、自分には今バカ騒ぎできるような友人もいなければ秘密を共有できるベストフレンドもいないなと悲しくなったり、人って登場人物に完璧な所作を求めるけどパニクった状況での選択でパーフェクトな正解を選び続けることって本当はできないよな…と思ったりと様々な感情や思いが駆け巡り、最終的になぜか涙がこみ上げてきました。
「くだらなかった」と一言で切り捨てるのはカンタンですが、そんな映画で泣ける人と僕は友達になりたいなと。ただし、バカ騒ぎはナシで。
「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」は、8月7日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開。
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