「KING OF PRISM -Your Endless Call- み〜んなきらめけ!プリズム☆ツアーズ(以下、キンツア)」を観ました。


映画の公開前のある日、友達との待ち合わせに行くと、友達が胸に「キンツア」というカタカナ四文字の入ったシャツを着ており、「ピエテヅさんはキンツアを観に行く予定はありますか?」と問われました。僕は「もちろん観に行きますよ」と答えたました。するとその友達は「ピエテヅさんに観に行く予定がなければ、ムビチケを一枚差し上げて観に行って貰おうと思っていたのですが、観に行くとのことなので、2枚差し上げます!」という、金の斧銀の斧の話のようなことがあり、結果ムビチケを2枚頂きました。
そして観に行って来たのですが、すごかったです。
この映画はわずか60分の映画ですが、見終わったあと、なんか3時間ぐらいの映画を観たんじゃないかと思えるような感覚になりました。それはつまり、短い時間の中に詰まった自分の処理能力を超える情報量を流し込まれたように感じたからだと思います。
15回(+α)、これはキンツアの中で行われたライブの数です。+αの部分は週替わりで部分的に入れ替わる内容があり、その中で行われるライブの部分です。多い。60分の映画の中で行われるにしては異常な多さです。仮に1回3分だったとして、45分になります。60分の映画なのに!!
実はライブという表現は正確ではありません。プリズムショーです。プリズムショーはフィギュアスケートの演技に歌とダンスのアイドルライブを掛け合わせたようなものです。そして、大きな特徴はプリズムジャンプです。フィギュアスケートのようなジャンプを行ったあとに、物理法則を超えた特殊な演出が流れます。さらには、プリズムジャンプは連続ジャンプで繰り返すことができ、ジャンプの回数が重なるたびに演出はどんどんすごいものになっていきます。そのどんどんインフレしていく演出を観ることで、見ている側もどんどんすごい気持ちになっていきます。
「プリズムジャンプは心の飛躍」、これはKING OF PRISMも含まれるプリティーシリーズのアニメ第一作、「プリティーリズム・オーロラドリーム」に登場する言葉ですが、プリズムジャンプの後に発生する演出は、それぞれのプリズムスタァ(プリズムショーの演者のこと)たちの心と、その人生の表現を集約した内容となっており、その光景は、圧縮されたそれぞれのスタァの物語を解凍するための鍵のようなものです。
つまり、その物理法則を超えた光景によって、頭の中にこれまでのプリズムスタァたちの人生が広がっていくような感覚があり、それが連続ジャンプでより強まりながら繰り返されることで、脳が処理できる許容量を超えてしまった瞬間から、感情がドバドバと溢れ出し、とても気持ちよくなってしまう効果があります。
僕は特にKING OF PRISMの映画2作目、「KING OF PRISM -PRIDE THE HERO-」の最後にある速水ヒロのプリズムショーが好きなのですが、せいぜいここまでがすごさの限界だろうと思ったところから、さらにアクセルが踏まれ、ある瞬間を超えたところから受け止めきれなくなったものが笑いとして出て止まらなくなり、とにかくこの映画はすごいということを、演出の腕力で分からされたような気持ちになりました。
キンツアはおかしな映画です。
より正確には、KING OF PRISMがおかしなシリーズです。それは作り手と受け手の間の距離がとても狭く、互いに協力して開催している祭りのような物だと思うからです。
KING OF PRISMの最大のピンチは、その特徴である応援上映ができなくなったコロナ禍にあったと思います。映画館に密集して声を上げて応援するということができなくなってしまった間、そのきらめきは光を失ってしまっているように思えました(ちなみに僕はその時期に遅れて観たので、火は灯され続けていたのだと思いますが)。
しかし、昨年ついに再始動として、「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」の総集編映画である「KING OF PRISM Dramatic Prism.1(以下キンドラ)」が発表されました。しかし、僕はあまりそこに期待をせずに観に行きました。
再始動するにも予算も必要ですし、再びお客さんが来てくれるとは分からないため、その試金石として、まずは低予算で出来る総集編を作ったのかな?と思ったからです。なので、続いてくれという思いはありましたが、内容自体にはさほど期待はしていませんでした。
ですが、見せられたものはその大半が見たことがある映像であったにも関わらず、全く新しい面白さのある映画でした。期待を大きく超えるものとして興奮する内容でした。総集編であろうが最大限の「面白いものを見せてやろう」「楽しませてやろう」という気概を感じられたからです。
どのような内容であったかというと、元となったShiny Seven Starsは各キャラクターが様々な葛藤を経て、独自のプリズムショーに至り、Prism.1という大会に出場する話なのですが、キンドラはその建付けを使って、Prism.1がテレビ放映された番組という形に仕立てるというまとめ方をしていました。テレビ放映されたものだけ限定なので、背後に起こっていたことを大胆に省略でき、全12話の物語を1本の映画に圧縮して見せるという見事な手腕です。そして、異様なサービス精神は放送の合間に挟まるCMという新規映像でも発揮されます。
それによって一本の映画として、いや、一本のテレビ番組として、映画の観客をテレビの前の視聴者というロールプレイに巻き込む形で、キンドラは成立していました。
そのような「制限のある中でも、最大限皆を楽しませてやる」というパワーは本作キンツアでも発揮されています。他のプリティーシリーズの男子ユニットを、作品を混線させて巻き込み、時間いっぱいの大量のプリズムショーを描いて、そのうえで、それぞれのショーはブツ切りではなく、最小手数で物語として繋がりを作りながら、素晴らしいエンターテイメントとして成立させていました。
新作のプリズムショーが全て良かったです。特に三強と呼ばれる上の世代のプリズムショーをタイムマシンで観る場面は、TKサウンドの楽曲を使い、カッコよさとトンチキさを兼ね備えた、何度見ても新しい発見のあるような豪華な映像になっていました(実際既に4回に観に行っていますが、まだまだ新鮮に面白かったです)。
まだKING OF PRISMシリーズを観たことがない人は本作が最初になってもいいと思います。内容はよく分からないかもしれません。でも、大丈夫です。過去作を観ている僕も作中で何が起こっていたのかよく分かっていません。何か重大なことが起こっているようで、その意味もよく分かりませんし、でも、「面白かった」という気持ちだけが本当です。
ストーリーが詳細に知りたくて観に行っているわけではなく、その空間に滞在しているということが喜びになるような映画です。だから何度でも観られますし、自分は応援をしなくても応援上映に行ってみるのもいいかもしれません。
僕自身、初回が応援上映だったのですが、スクリーンの中で赤く光る棒を振る観客の中で主人公の一条シンくんがプリズムショーを始めたとき、僕の周囲の席でも、実際に赤く光る棒を持った人たちが応援を初めていました。スクリーンの中と外は地続きなんです。映画と観客の間でコールアンドレスポンスが行われます。映画の外の観客たちを含めて成立している映画です。
これは祭りであり、現象であり、この時だけ存在している場所であります。それは観客を絶対に楽しませてやると思って作っている人たちと、それを全力で楽しむつもりで通う観客たちの相互作用によって成立しているものです。続いて欲しいから、支えるつもりで義務感で観に行くのではなく、毎回楽しむつもりで訪れる場所です。
映画は4種類のルートがあり、週替わりで内容が一部変わりますが、その部分を含めて楽しみにして見に行っていますし。それは、何度見ても退屈せずに観に行ける映画がそこにあるからです。変わる内容もそれぞれが映画の別の部分とリンクして、演出として意味を成しています。
そして4週目を観た人は、発見があったと思います。祭りが続いていくことを期待させられるものを(この文章が公開される頃には明らかになっているのかもしれませんが)。
とにかく素晴らしい興行をやっていると僕は感じていて、今後も参加していきたいと僕は思っています。
ここからは未見の人は読まなくてもいい、映画の中の個別の話のオタクの早口の羅列です。
・法月仁のプリズムショーを観ましたか?「恋しさとせつなさと心強さと」に乗せて行われるかつてのキングとしてのショー。法月仁の心がまだ強く歪んでいく前の王としての風格、そしてプリズムアクト。プリズムアクトが法月仁がたった一人辿り着いたパフォーマンスであるため、採点基準をつけられず誰にも継承されずに終わってしまったということ、氷室聖の連続ジャンプに流れを奪われてしまい、彼のプリズムアクトが評価されないまま、誰にも継承されぬままに歴史の中に消えていったという事実。しかし、そんな仁のショーに魅せられた聖の姿があり、そして、本作の最後では、セプテントリオンの7人によってついにプリズムアクトを継承する者が現れたそのプリズムアクトこそが本作のタイトルである「Your Endless Call」であったという構成がとても感動出来てでした。ルート4では「オーロラドリーム」「ディアマイフューチャー」の映像が流れましたが、ディアマイフューチャーはプリズムアクトが評価された世界で、誰もがプリズムアクトに挑戦した中で戦った物語です。法月仁がこの世界では辿り着かなかった光景です。その光景をセプテントリオンの7人が観る機会があったことによって、全体の構成により深みが感じられてとても良かったですね。
採点基準のつけられず消えていった法月仁のプリズムアクトに憧れた氷室聖が、「プリティーリズム・レインボーライブ」では、新しい表現であったプリズムライブを認める立場になったということも感慨深いことでした。
・氷室聖のプリズムショーを観ましたか?「Get Wild」に乗せて行われる、太刀花ユキノジョウくんが子供の頃に観て憧れたショーです。連続ジャンプによってプリズムショーの時代を変えた聖のショーには圧倒的な花がある。KING OF PRISMシリーズは元々女の子の「可愛い」を表現していた3DCGのショーを土台にしているため、男の子たちもその「可愛い」の上で表現されることが特徴的な味にもなっていて良かったシリーズであると思いますが、今回の三強のパフォーマンスは特に、「かっこいい」を前面に押し出すような新しい3DCGのモデルによる新しいショーであったと思います。プリズムジャンプによって、発生する電車、それに乗ろうとする女性を置いて「時間厳守、定刻発車、次の電車をお待ちください」で普通に置いていくところが、聖の空気の読めなさの人間性(スタァ性)が現れていて面白かったのと、その後に電車のプリズムジャンプを継承するオーバーザレインボーが現れること、そして本作の最後に、未来の月の上で一条シンくんが「みんなはきっと来てくれる」と待つところとも重なって、聖はおかしな奴で色々あるが、それでも彼の作った轍の上を後進が走っているのだと思えるところがとても良かったです。
・黒川冷のプリズムショーを観ましたか?「Survival dAnce~no no cry more~」に乗せて行われる、大和アレクサンダーくん(以下、アレク)が子供の頃に憧れたショーです。アレクは同じ曲に合わせたパフォーマンスをPrism.1で行い、憧れた黒川冷の継承者となろうとしていることがより見て取れて良かったです。黒川冷のダンスはかつてTRFで見たSAMのダンスを思い出させるもので、僕はバリバリ世代なので、そこが良かったですし、黒川冷はのちにDJ Cooとなることで、TRFのDJ KOOとSAMを一人で再現し、YU-KIの歌唱部分も担うという一人TRFだなと思えて良かったです。
・三強のパフォーマンスはそれぞれ、後の誰かがそれを継承するというコンセプトのもとに構成されていたように思えて、その法月仁の部分も埋まったので、法月仁が好きなのでとても良かったなと思いました。
・Callingsの「1/1000永遠の美学」のプリズムショー、なんかめちゃくちゃ良くなかったですか?「1/1000永遠の美学」は知っていたはずなのに、新しく作られた3DCGのショーとともに見ることで改めて、この曲ってこんなに良かったのかと思って、その後めちゃくちゃリピートして聞いています。プリズムショーというスケートで滑る空間をダイナミックに使う動きや、3人で踊りながらも全員が同じ動きをするのではなく、それぞれ異なる動きを見せながら一つのショーを構成している豪華さ、シリーズを重ねた結果としての先輩風の風格を含めて、圧巻のショーであったように思いました。
・WITHの「スーパー・ダーリン」のライブもすごく良かったですね。Withのいる男プリは、男のプリパラアイドルが男のファンに向かってパフォーマンスを行っているという構図を思い出させてくれる内容で、カッコよさと可愛さと美しさを兼ね備えたライブでとても良かったです。この歌はプリパラのテレビアニメが終わたあとにライブで新曲として発表されたもので、3DCGのライブ映像がついたことも良かったですし、そこに現実の声優さんによるライブが反映されていたと感じたのも嬉しいポイントでした。
・この調子では全部のショーやライブの話をしてしまいそうなので、この辺にしておきますが全部が良かったです。山田リョウのデッキブラシがスキャンダルでプリズムスタァを続けられなくてトレードマークになった分けではなくプリズムスタァの時点でトレードマークだったんだなと分かるところ、プリズムのきらめきが無くなった絶望的な未来の世界を見て涼野ユウくんがなんだそんなことかという態度を見せるところにかつてその姉たちも同じ問題に直面していたのを見ていたもんなと思うところとか、マリオがちゃんと人の輪の中に入っていたところとか、この前のプリプリライブでプリマジのライブを観た後に観るプリマジの映像やTRUTHのライブとか、神無月アヰくんのこと何にも分からなかったけど、チラ見せされる歌とダンスがめちゃくちゃよくて、早く新作を見せてくれと思ったこととか、とにかく色々あった!全部とても良かった。
・応援上映に行ったら、聖のライブのときにシティーハンターのように銃を扱う場面で、隣の人が拳銃型の光やつをおもむろに取り出し始めて、それどこで売ってるの??と思うと同時にめちゃくちゃ面白くなったこととか、みんな手間暇をかけて真剣に観に来ているし、自分自身はそんなに大声を出して応援したりしないけど、そういう人たちに囲まれて映画を観るのがとても嬉しい気持ちになるので、通常上映も行きましたが、それだと寂しい感じもします。でも、バルト9が一番熱量が高くておかしいので、バルト9で観たい気持ちも大きいですね。また行こうと思います。
とにかく良かった。まだ観たことのない人も最初は困惑したり何も分からなかったりするとは思いますが、それで正常です。超オススメです。