可愛いおばけで終われない『劇場版モノノ怪』が魅せる傘の妖怪の新境地!

ネジムラ89

 恐らくなんですが、みんなそれぞれに“推し妖怪”が居ると思うのです。今回はそんな私の推し妖怪について紹介させてもらいたいのです。
なにを隠そう私が子供のころから大好きな妖怪に“傘おばけ”というものが居まして、2024年の現在“傘おばけ”が熱いのですよ。

最推し妖怪「傘おばけ」って何だ?

 傘おばけといえば、傘の姿でおなじみの妖怪です。唐傘小僧だとか傘化けだとか呼称がいくつかあるのですが、大抵は同じ類です(かつて忍者戦隊カクレンジャーにはカサバケとカラカサが別個体で登場していますが)。
 傘おばけの良さはなんといっても見た目の愛らしさです。特徴として、大きな一つ目に、長い舌を出して、傘の柄が足になっているという姿が主流で、今なお“おばけ”のモチーフとしてよく起用されています。江戸時代の頃にはすでにこの見た目が定着しており、さまざまな道具が進化をしていく中であまり形が変わっていない傘は、現代人にもイメージしやすい道具の妖怪として浸透しているのでしょう。
 そんな傘おばけですが、2024年意外な形でフィーチャーされているのをご存じでしょうか。

『ダンダダン』にアンブレボーイが登場!

https://twitter.com/anime_dandadan/status/1790170162664219097

 現在、少年ジャンプ+で連載中の龍幸伸先生の漫画『ダンダダン』にて傘おばけをモチーフにしたキャラクターが活躍しています。『ダンダダン』といえば主人公の高倉と綾瀬の同級生コンビが、周囲の人間たちを巻き込みながら、霊や宇宙人といったオカルトなキャラクターと戦い、トラブルを解決していく物語。
 2024年7月時点ではまだ単行本化していない、おそらく16巻以降にて登場するキャラクターとして“アンブレボーイ”が登場。名前の通り、明らかに“唐傘小僧”を意識したキャラクターとなっており、従来のひょうきんそうな見た目とは一味違い、一つ目や一本足といった特徴をカッコよく解釈したデザインと、傘ならではのアクションを披露しており、画期的な解釈に感動しました。

『ダンダダン』は2024年10月からTVアニメ化も発表されており、あわよくば人気により長期シリーズとなって、このアンブレボーイの映像化までこぎ着けて欲しいと思っています。なににしても、ここにきて“傘おばけ”の新たな解釈が観られたことに感動させられた上半期の事件でした。

しかし、なんと2024年下半期早々にもう一本“傘おばけ”の新解釈が登場したのです。

『モノノ怪』初の劇場版の題材はまさかの唐傘!

 この夏は映画館でなんと“傘おばけ”がメインキャラクターとして登場する映画が興行をスタートします。『劇場版モノノ怪 唐傘』が7月26日(金)から劇場公開されます。

 『モノノ怪』はもともと2007年にTVアニメとして放送されたシリーズ作品。ある問題を抱えた人間に“アヤカシ”が取り憑いて“モノノ怪”となった時、唯一モノノ怪を斬り祓うことができる退魔の剣を携えた謎の薬売りが、その原因を解き明かしながら戦う物語です。これまでも「座敷童」「のっぺらぼう」「海坊主」などと対峙してきたのですが、まさか劇場版という大ネタに大抜擢されるのが「唐傘」ということで、傘おばけ推しとしては感激の事態です。

 ただ、傘おばけのようなひょうきんな見た目の妖怪が、劇場版という大舞台に果たして耐えうるキャラクターなのかは、推しとはいいつつも不安は少なからずありました。しかし、そこはさすが『モノノ怪』シリーズ。『ダンダダン』とはまた一味違った解釈で傘おばけを映像化!しっかりスクリーン映えするダイナミックなアクションとケレン味のある演出で、「こんな傘おばけ有りなんだ」と衝撃を受ける映像を見せてくれました。

『劇場版モノノ怪 唐傘』に込められた暗示の意味とは?

 『劇場版モノノ怪 唐傘』は傘おばけの映像化という部分の面白さだけでなく、なぜ唐傘を選んだのかにも意味が乗っているであろうことにも面白さがあります。
 今回の映画の舞台は江戸時代の大奥。江戸幕府の将軍の世継ぎを生むための場所として、全国から美女・才女が集められた将軍以外の男子が入ることを禁じられた社会です。そんな大奥にやってきた、新人の女中であるアサとカメ、そして不思議な雰囲気の先輩女中である北川。そして大奥という「自分の大切なもの」を捧げなければいけなかったりといった独自の風習と、そこでこれまでに起きていたであろう事件……それらを手掛かりに観客は薬売りと共に怪異の原因を解き明かしていくことになります。

 そんな手掛かりの一つとして“傘”や“雨”というモチーフが作中に印象的に登場するのは見逃さないでおきたいところ。北川がかつて大切にしていた人形が持っていたのは傘であり、それが今作に登場する“唐傘”に通じていることはすぐに予想できるわけですが、それ以上にいろんな意味を持っているであろうことも予想できます。

 そもそも“傘”自体が隠語として使われることがありました。記憶に新しいものでは『この世界の片隅に』でも映像化を果たしている言い回しで、初夜を迎える際の合図として「傘を持ってきたか」と問いかけるという風習が描かれています。これは地域性のある言い回しのようですが、傘自体が陰部を表す隠語になっています。

 

 また作中で度々登場するフレーズに「乾いてはならない」というものがあります。具体的な意味こそ作中では語られませんが、象徴的に登場する水のモチーフや大奥というシチュエーションを踏まえると潤い自体にもなにかを暗示していることが分かります。

 今回の『劇場版モノノ怪』では上映前に主人公・薬売り役のキャスト変更をした際に、今作が「女性たちの苦しみと救済を描こうとしている」ことが明言されています。大奥以外での男性との交友が制限されたある意味で異常な空間では、多くの女性が各々の思いを秘めながら満たされることなく亡くなっていることが想像できます。
そんな中で、北川が何を思ったのか。
アサとカメの二人の関係性とは。
そして井戸の奥底に隠された“何か”とその“水”の意味とは。
考えれば考えるほど、その物語に練りこまれた真意に惹かれていく作品になっており、今作について、中村健治監督は全てのカットに意味があると明言されているほど。ぜひともその真意を解き明かしに本作に臨んでみるのをオススメします。

 傘おばけというモチーフ自体が生まれて、かなりの年月を経ているわけですが、まさかここに来て新境地を味わえるとは思っていませんでした。今、私の推しが熱いということをこれらの作品で感じて欲しいです。

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