ノーマークのイタリア映画を見てみよう
最近ちょくちょくAmazonPrimeのプライムパーティー機能で集まって映画を見ている。いわゆる「同時視聴」をAmazonビデオのシステムを使って行うもので、VCしながら見たりすると楽しいんだなこれが。こいつを使って「名前は何度も聞いたことあるけど実は見たことないド定番の名作」とかを見たりしてる。いい栄養摂取になるぜ。
そんなある日、「たまにはこのメンツで誰も見たことない映画でも見ようや」ということになった。Amazonの作品をみんなでVCしながらdigり、掘っていく……。そんなときに私が「これ良くない?」と見つけてきたのがこれだ。
『Viva! 公務員』。なんだそれは。マジで聞いたことがないがお気楽そうでいい邦題だな。疲れ切った平日の夜にダラダラ見始めるのには良さそうな映画じゃないかということで再生しはじめたところ……おもしろい! これはうれしい。びっくりした。
日本社会でも人気! 公務員の映画だよ
主人公のケッコは子供のころに抱いた「公務員になってド安定の生活をするぞ」という夢を叶え、毎日ハンコを押し、賄賂を受け取り、実家暮らしで母親の作ったメシをうまいうまいとむさぼりつつ父親をウザったがっては寝る順風満帆独身男性。もうこの段階で「夢を叶える」ってことは別にスポーツ選手になりたいとかじゃなくてもいいし、いい先生になりたいとかじゃなくてもいいんだよなみたいな良さが溢れている。彼にあるのは「生涯収入に困らない生活を手にしてダラダラ過ごしたい」という意識の低さだけ。夢がキラキラしてなきゃいけないなんて誰が決めたんだ?
ところがある日、国が政策を変更し公務員を削減する方針を固める。ケッコも整理の対象となり、希望退職ならたくさん退職金やるぞと甘い言葉をかけられるが彼は「夢」を諦めない。断固として拒否し、公務員の座に居座ろうとする。国はなんとしても彼に退職させるため、北極やマフィアの巣窟などはちゃめちゃに厳しい職場環境に送り、退職金を吊り上げ誘惑するがそれでも強固な「夢」への意思を持つケッコはそれに対抗する……というお話だ。
カスはカスのまま生きていい
この映画のチャームポイントは「主人公のケッコがカス」というところだ。いや、マジで痛快なほどカス。例えば最序盤では「結婚してるものは解雇の対象にならないらしい」と聞くやユルく付き合ってる恋人と結婚しようと画策する。が、プロポーズの場で上司から「今からじゃ遅いよ」と言われるが否や指輪を奪い取り歩いて帰れと怒鳴りつける。やべえ。なんかノンキなBGMとかでごまかしてるけど相当やべぇーぞこの男。
ほかにも人事局の部長が女と知ると悪気もなく「え? 女なのに? 秘書じゃなくて?」と言い放ったり、イタリア人以外のすべてのヨーロッパ人や有色人種を素で見下していたりとパーフェクトナチュラルレイシスト。視聴感はぜんぜん異なるが「これ『テコンダー朴』見せられてんのか?」とサイボーグもドン引きするレベルのヒヤヒヤヘイトスピーチがガンガン出てくる。「全方位に攻撃する」ことで中立性を保ってる感じは完全に同じなんだよな……。
さらにマザコンなうえ無能でまったく仕事はできず、ヘタレですぐにビビるといいとこナシ。長所といえばいつでも明るく、謎に自信に溢れ、舌だけはペラペラよく回ることくらい。そしてその自信の根拠は自らの「夢」、「公務員として終身雇用を得ること」を強固に保つことから来ている……。すげえ。理想とされる主人公像とは真逆に生きていやがるぜ。
ひとつのことを極め抜け
憎たらしいことにこの男、まあまあ以上にユーモアのセンスがあり、割と人に好かれやがる。典型的なイタリア人ムーブであらゆる局面をのらりくらりとやり過ごし、すべての戦いに勝利を収めていくんだな。これがこの映画の素晴らしいところで、作品全体を通して主人公は……あまり成長しない。さすがに物語には起伏ってものが必要なので、途中でちょっと谷があったり、多少成長を見せたり、そうしてライバルとの戦いに勝利したりとかはまあまあある。あるんだが、それもほかの映画の
尺度に当てはめたら大したことはなく、どちらかというと彼は強烈に自分を自分のまま生きていくことで成功していく。それがなんか……痛快なんだよな。見ていてずっと「うわ~! こいつ早く死んだほうが地球のためだぞ」って思えるんだけど、そんなカスが、カスのまま自分を自分のまま維持してやっていけてる様子は謎の感動をもたらしてくれ、勇気すら与えてくれる。つまりカラテだ。カスを極めることができれば、カスってカスのまま成功してもいいのか! というあまり得ないほうがいい感動を得ることができる。見終わったあと「よぉ~し! 私も怠惰、頑張るぞ~!」という気持ちになれる。なっていいのかはわかりませんが……。
まあ最大限ポジティブな言い方をすれば「自分を貫けば道は開けるよ」という映画なんだと取れないことも無いが……この映画からそんな高尚なメッセージは受け取りたくねえな!
そしてなぜか最終的に登場人物全員がハッピーになり、謎の多幸感を得られてしまう。それも含めて「なんだったんだこの映画…」ってなる稀有な作品ではあったぜ。とにかく全体的にユルユルで笑えて、ストレスシーンもアクションシーンも皆無でまったく体力の消費なく楽しくなれる映画なのでクサクサした夜なんかに酒を飲みながら見るのがおすすめです。
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