

これでお前とも縁ができたな
縁という言葉がある。主に人と人との巡り合わせに使われる言葉だが、調べてみると元は仏教用語で、要するに「因果」のことらしい。
個人的にちょくちょく、読んでる本や見た映画について縁というか……もっと砕けた言い方をするとコンボ? チェーン? が繋がるような感覚を覚える時がある。
わざと極端な例を挙げるとすれば……例えば「量子論」について噛み砕いた本を読んだとする。で、次に全然関係ない宇宙SFを読んだら作中のSFギミックの説明に二重スリット実験の逸話が出てくる、次にサスペンス小説を読んだら登場人物の雑談としてシュレディンガーの猫が出てくる……みたいな具合だ。


単に「ふーん」ってなって、新しい言葉を知ったから以前より注目しやすくなったってだけかもしれないし、もっとただ単に完全に偶然そうなっただけかもしれないが、こういうときに一番しっくり来る感触としては「最近この話題に”縁”があるな」って感じだ。
今回見た『ファストフード店の住人たち』もそんな縁を感じた映画でした。


アマプラで見た
本作は2019年の香港映画。主演の男側は『トワイライト・ウォリアーズ』であの「殺人王」を演じたアーロン・クックである。


主人公のポックは、元金融ブローカーとして豪奢な生活を謳歌していた。
だが公金の横領という罪を犯してしまい投獄。すべてを失ったいまは24時間営業のファストフード店の住人……いわゆる「マック難民」として糊口をしのいでいた。
根城にするファストフード店にはほかにも路上で絵を描いて売るオッサン、夫を喪ったシングルマザーながら義母の借金を肩代わりしてるママ、金はあるけど毎晩来ては「ある人」を待つ通称「待つおじさん」などクセの強い面々が住み着いている。


ポックは昔取った杵柄ということで彼らに仕事を斡旋したり、世話を見てやったりしていた。そんなとき、根暗な家出少年のサムチャイが現れて……
というお話。
家は場所や機能ではなく人なんだ系の映画です


映画の序盤は、新人浮浪者のサムチャイの目を通してファストフード店に住まう人たちやその生活を紹介していく流れなのだがここがおもしろい。
宿にも泊まれない浮浪者なので当然金はない。だが生きるためには金がいるのが現代社会ってもんだ。なのでその凌ぎ方が色々出てくる。


腹が減ったときはフードバンクを使う……香港のフードバンクって路上の、しかも冷蔵庫に入ってるんですね!


歯磨きは公衆トイレで行い……


人が余らせたポイントシールをコンプリートして売ったり…


捨てられた靴をキレイにして10倍の値段で売ったり! 当然洗剤はトイレの石鹸だ。ワクワクするね。


そんな浮浪者たちの活き活きとした姿を描きながら、だんだんと視点はポックと、もうひとりの主人公ジェーン(ミリアム・ヨン)に移っていき、彼らが擬似的な家族として愛し合い支え合っている姿をいじらしく描き……あとなんか各々のトラウマとかいま抱えてる問題とかと向き合っていき……無理解なゴロツキに泣かされたり、悲しい別れがあったりしつつも、若者は未来に進んでオッサンは悲しいことになる……そんな話です。


この浮浪者たちの疑似家族っぷりがとにかくいいのよね。無いもの同士で肩を寄せ合って生きる。この暖かさだよな。なんでこんなに疑似家族描写って刺さるんでしょうね。というか偽物が本物になるというストーリーが好きすぎるのかもしれない我々は。重音テトとか。


日本の感覚だと「マック難民」という言葉の意味はわかりつつも、そこまでピンとはこなくて……どちらかというと「ネカフェ難民」のほうが言われてなかった?
だけどネカフェだとこうはいかないもんな。パーテーションがあるもんな。
あと、原題がまたいいんですよ。


『I’m livin’ it』だぜ?
音MADのせいもあって耳にタコができるほど聞いたマクドナルドのキャッチコピー「i’m lovin’ it」をこうもじるとは。泣けるね。
しみったれた気分になり、オーウェルを読む


しかし先述した通り、後半物語はだんだん切ない方向に舵を切ります。
貧困から生まれる苦しみ……。貧困者がなにをしたというのか(いやポックは横領してんだけど)、貧困は罪なのか……。そんな方向に話は転がっていきます。
その結末は救いが見えつつも悲しく、ある種の無情さすら感じる閉じ方をします。
そんなわけでこの映画とっても好きなんだけど、やっぱり中盤以降より序盤の「どうサバイバルするか」に心奪われたな~と思ってしまいました。
そして何より、そこが「縁」を感じたところなんだよな。


いやねえ今、金が無いんですよ。景気の悪い話で申し訳ないけど。
いや、金が無いのはいつものことなんだ。単に口座に金が入ってねえというよりは「なんか月々の出費が多い」って感じなんですよここ数ヶ月。
先月のクレジットカードの支払いなんかちょっと、前人未到の領域に達してしまって、確かに同人誌の印刷費とかも入ってたんだけどそれにしたってこの金額はおかしい。それにしてもこんな金額になるはずはないって感じなんですよ。


で、顧みてみても贅沢をしているわけではない。高い飯を買ったわけでも極端にオモチャやスマホゲーに金を使ったわけじゃない。これはどういうことなんだろうって考えてみたんだけどアレだな。ふつうに物価がすげえ上がってるんだわ。
すべてのものが1.5倍くらいになってるから出費も1.5倍くらいになってるんだわ生きるだけで。うわ〜〜。
しかも折り悪く、自信作の新しいネームがボツった。多分先方からするとよくある感じの足りなさで、アイディアはいいので直せば良くなる可能性は充分にある、よくあるボツだって感じなんですけど個人的なもろもろの諸事情が重なって「喰らった」。金もないしな。
仕方がないので今月から今までガバガバだった食費を節制することにしました。もうすぐに外食したり喫茶店に行ったりしないし、ちゃんと週の予算を決めて買い物するわ……。


で、落ち込んでるのでインターネットを眺める気にもならず、積んでるKindleの本たちを連日読みまくった。
小説を数冊読んだあと、そろそろ違う口当たりのものが読みたいなと開いたのが『パリ・ロンドン放浪記』だった。


これは『1984』で有名なジョージ・オーウェルが極貧時代に書いたもので、タイトルのとおりパリとロンドンで後の大作家とは思えないほど凄まじい生活をした様を綴った本です。超面白い。例えばこんなことが載っている。


オーウェルはパリではほぼ一文なし、餓死寸前の状態からなんとか皿洗いの仕事を得てなんとか人間らしい生活を手にする。ロンドンでは思わぬ事故から10日間の文無し生活を送ることになり、服をみんな質に入れて浮浪者向けの宿泊施設を転々とする。
ロンドンの悪名高き「4ペニーの棺桶」や「ロープによりかかって眠る安宿」も登場し、「これかあ!!!」と興奮した。


本書の中ではオーウェルとその周囲の人間たちは常に飢えており、その日のパンやタバコを得るためになんとか金を得ようと工夫を凝らす。工夫といっても服を質に入れたり職業とは呼べないような仕事で糊口を凌いでいるに過ぎないのだが、なんだかそういうひとつひとつの行為に一種のエネルギッシュさというか──死にそうではあるんだけども──やたらと生命力のようなものを感じてしまうんですね。
そして、この本を読んで元気が出た直後に、完全に関係なく「そろそろ映画を見るか」と適当にウォッチリストに突っ込んでいた──多分それこそ、単に『トワイライト・ウォリアーズ』関連で耳にして気になったから入れておいただけに過ぎない──『ファストフード店の住人たち』を見たんですよ。すると「あっ! また浮浪者の貧困とガッツの話だ!」ってなっちゃったわけです。これを「縁」と言わずになんと呼ぼうか。


この「もらった靴を売っちゃう」くだりなんて、やってることは真逆だけど完全に『ファストフード店の住人たち』にもあったじゃないか!!


なんというか、こういう描写を見るとなぜか一種のうれしさというか、励ましのようなものを感じてしまう。
いま私は金が無いと嘆いているが、間違いなく私は当時のオーウェルやポックたちよりは余裕がある。しかもオーウェルは私の1日分の食費以下の金で何日も……絶食だったり、パン半ポンドだったりはするが、とにかく生きているのである。
つまり私は一文なしになったとしても家賃が払えなくなっても死なないし、なんなら小銭の稼ぎ方すら本や映画で学べているのだ。これは大きな希望だ。


そういえば『ファイト・クラブ』でもいちばん好きなのは殴り合いとかネタバラシのところじゃなくて「吸引した脂肪で石鹸作って売るシーン」だった。あれほんといいよな。あれで食おうかなって考えさせられる。
多分『ファストフード店の住人たち』も、『パリ・ロンドン放浪記』も、伝えたいのは「貧困者という存在を無視しないでほしい」「社会の悪とみなさないでほしい」ということだと思うんです。同時にどちらも、彼らとそうでない者の差は本質的には紙一重であり、分断しようとしているのは秩序という名の壁と差別であるということも言ってるんです。そういう話ではあるんです。


でもなぜか私はこの両作を見て「貧しくなってもたつきは立てられる」というふうに思ってしまった。おそらく、そういう受け止めかたをするべきではない。するべきではないのだが作品というのは究極、摂取したものの心のなかの所有物であり、この私が抱いてしまった感想というか感情というかは原作者にも監督にも奪えないものなのです。だからまあ仕方ないね! 私は勝手に摂取して勝手に救われました。それでいいじゃあないですか。
今回もいい縁でした。
マシーナリーとも子 すいません龍捲風兄貴 毎回卵入れてます みんな〜! 叉焼飯食ってる!?!?!?!?! なんの話って『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』の話ですよ。 劇中、主人[…]