復讐よりも予想外にもっとおっさん同士のBL見せてくれよ!ってうっかり思ってしまう『碁盤斬り』

マシーナリーとも子

えっ 時代劇じゃん 知らなかった

今月は今年5月に公開された映画『碁盤斬り』を観たぜ!
なんか連続で時代劇映画を取り上げてるけど完全に偶然です。

AmazonPrimeVideoにて早くも配信中。

というのも私、この作品のタイトルを何度かSNSで見かけて、見かけたんだけどなぜかそのときは勝手に脳が「これはラノベとかなろう系のアニメ化のことを話してるんだな」と認識してしまったんだよね。なんでだよ。

なんか……ほんとうに「考えた結果」とかじゃなくて反射的にそう思ってそのまま過ごしていた。なんか……前世囲碁で得た戦術眼を活かして活躍する系のなんかだろって瞬時に頭のなかに転スラみたいな架空のロゴすらぼんやりと浮かんだんだけど、ある日アマプラ見たらチョンマゲ結った草彅剛が出てきて「時代劇やんけ!!!!!!!」ってなった。なんて勘違いだ。

でもまあこれも何かの縁だなと思って観てみたところ、おもしろかったので良かったです(小学生)。

草彅剛と國村隼の……BL!!!

本作は古典落語『柳田格之進』を元ネタにしている。今回は元ネタ知らずのまま見ました。冒頭のあらすじはこんな感じだ。

粗末な長屋に娘とふたりで暮らす浪人・柳田格之進。彼は代々受け継いだ刀もとうに売り払ってしまい、それでも月々の家賃を支払うのにも苦労する始末。だがその穏やかな性分と正直な生き方から周囲には慕われていた。

そんなある日、行きつけの囲碁小屋にケチで有名な両替商、源兵衛が現れ意地悪な囲碁を打って小屋の常連を総なめにしていた。偶然、その場に居合わせ賭け碁に応じるための金も持っていた柳田は彼と囲碁を指すことにするのだが……

そんな感じで序盤は草彅剛演じる主人公・柳田と、國村隼演じる両替商・源兵衛のあいだに囲碁を通じて育まれる友情がていねいに描かれる。
あのね! これがね……実にいいんですよ!

最初に手合わせしたときの意外な顛末と、その後の偶然の再会から両者が接近し、これからも一緒に囲碁を打とうとどんどん仲良くなっていく。穏やかな柳田の表情からは正も負もあまり感情が疑えないんだけど、それでも源兵衛と囲碁を打っているときはどことなく楽しそうな雰囲気が伝わってきて、源兵衛も意地悪な性格だったのが柳田の影響でどんどん実直になってきてね……。

いやこれが本当にいい。静かに心に沁み渡ってくる。なんとなく感じた縁で見た映画だけど、まさか草彅剛と國村隼のBLが見られたうえにそれがものすごく心地いいなんて思わないじゃあないですか。私はびっくりしましたよ。

めちゃくちゃ盛ってんじゃん!

で 先述したとおり私ね、元ネタの落語知らなかったんですよ!
だからまったくこの話がこの先どうなるか未知でさ……。なんか。てっきりこのさきどんどん源兵衛が改心していってさ、「やっぱ……正直っていいよね! 友情!」みたいな話になるのかなって思ってたわけ。クリスマス・キャロルみたいな話なんかなと思ってたわけ。そしたらさ ぜんぜん違うじゃん。そういう話ではなかった。悲しいお話です。

柳田と源兵衛はちょっとしたすれ違いから決定的に断絶してしまう。そこにあるのが本人たち同士の直接の憎しみではなく、周囲からの声が大いに混じっているのがまた悲しいところだ。とくに源兵衛から柳田の感情はとくに損なわれていないのがまた悲しみを誘う。起こっていることからすればどちらかといえば加害側なのにも関わらずだ。

ろにちらっと映ってる番頭。こいつ超むかつく。こいつを斬れよと誰もが思うがそれもそのはずで原作での役割を分割されてヘイトだけ残されてるむかつき人間らしい。おのれ

さらに中盤以降、柳田は自分が陥れられた策謀の糸口を掴み、復讐の旅へと出る。ここでまた風合いが変わり、なんとなく博打うちの旅みたいな空気が醸し出されるのがちょっとおもしろいところ。いや別に賭け碁をして路銀を稼いでる描写は無いんですが。

宿敵の落ちぶれ浪人を演じる斎藤工もいいぜ。ちょっと影のあるアウトローな感じがただ粗暴で強そう、ではなく次の瞬間突然爆発しいそうなおっかなさを称えていて怖みがあった。それで囲碁で食ってるくらい囲碁が強いってんだからたまらんよな。

そんなわけで途中からこの作品は復讐譚になる。えっ!? そういう話!? さっきまで見ていたBLは!?

ていうか各種プロモーション見るとそっちをアピールしてるんだよ! 復讐の話しかしてない!

あっ っていうか映画見終わったあとに予告映像を見たんですけど(よくやる)これ映画館で見たことあるかもしれない。なんかうっすら記憶が蘇ってきた……。いやマジで復讐の話しかしてないんじゃん!? えっ? だから映画館で予告見た時あんまりソソらなかったのかな。もっと囲碁と友情の話したほうがいいよ! めちゃくちゃよく出来てたじゃん!


いや全然ね 復讐譚部分もおもしろいんですよ。殺陣とかもね、ものすげえかっこいい!!! ってワケではないんだけど見逃してはならない迫力がある。

ちょっと斎藤工が謎に強すぎるというかごろつきどもが弱すぎるみたいなところはあるけど仮面ライダー王蛇を見ているときのような危なっかしさがある

だから全然文句とかはねえ! 無いんですよ! 物語としては悲しい、武士の不器用さとかそういったもの悲しさもあるし、あの序盤の友情があってこそのこの悲しさだというのは勿論ある。あるんだけど……もっと見たかったぜ! 草彅剛と國村隼のBL!!

守りたい、この笑顔

でもまあ、最近とみに思うけど物語って、もしかしたら「あーあお腹いっぱいになって満足したッ!」って思えるよりも「もっとさあ! もっと欲しかったのになあ!」ってさらなる食欲を喚起させるほうが刺さるのかもしれないっスね……。強い余韻が残るというかさ。

っていうか後で確認してみたら元ネタの落語は「復讐譚」部分ゼロじゃん! 囲碁友達と諍いになって〜……って話じゃん! え!? あれ全部盛ったの!? 予告編でアピールしてるところは全部「盛り」!?
なんてこった。いや〜〜……いや、おもしろかったけどね!

しかしこの手のゲームものの話見たり読んだりするたび思うけど、この映画も囲碁がわかったらもっとおもしろかったんだろうなあ。一手に込めた感情の比喩とかすごいされてる気がするけど全然わからないから登場人物が「うーん 強気の一手だな」「勝負あったな」みたいなことを言ってるのを見て「そうなのか」って思うことしか私にはできない! いつもそうなんだよ将棋とか麻雀とかでもそう! いや麻雀は2ミリくらいわかるかな。囲碁はほんとに世界のアソビ大全でちょっとやっただけだしヒカルの碁も読んだことないから全然わからないです。うーんでもパチパチやってるのかっこよかったな。ちょっとやってみたくなったぞ。

そんなわけで非常に楽しめる、心に沁みる時代劇でした。本作の英題は『BUSHIDO』とのこと。んな直球な……とちょっとおもしろみも覚えてしまうタイトルではあるけど、なるほど考えれば考えるほど武士道に内包された美学やジレンマが詰まったお話ではあるし、いい英題かもしれないなと思えてきた。オススメです。見ましょうアマプラで。

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