

孤独のグルメ……じゃねえじゃん!
さて今月はなにを見ようかな…。
そういえば周囲でおもしろいと評判だった『劇映画 孤独のグルメ』がアマプラに来たんだよな~。見ようかな~と思ってPrimeVideoを見たらすごいタイトルに目が吸い込まれてしまった。


『孤独のススメ』。
やばい。狙いすぎだろ。
あまりにもあんまりな邦題に目が吸い込まれてしまった。原題がこうでないのは調べるまでもなく明白である。


ポスターに至ってはもはや『食の軍師』『夜行』に片足を突っ込んでいる。
だがどうせそんな映画じゃないんだろ!!!!
ちなみに左下に「Matterhorn(マッターホルン)」と書かれているが、これが原題だ。
山じゃねえか!!!!!!!!!!!!!!!!!
見惚れてしまったのも何かの縁。ジャンルもコメディってことで視聴感も軽そうだし、時間も1時間半と短いし今回はサクッとこれを見てみよう。


が、そんな軽い気持ちで見てみると予想と反してかなりものすごくいい映画だったので参ってしまった。困ったな! こういうことされると!


本作は2013年に制作され、本邦では2016年に公開されたオランダ映画。
オランダのとある信心深い田舎町に済む主人公・フレッド。彼はかつて妻子ある身だったが、いまは広い家でひとりぼっちで暮らす孤独なオッサンである。


そんな彼の前に、不思議な男テオが現れる。
彼は常に眼の前をまっすぐ見ていて……同時になにも見てないようでいて、失語症かと疑うほど言葉少なで、虚言の癖もあり、記憶も無いようで子どものように行儀も悪く常識もなく……一言で言えば精神に疾患があるとしか思えないオッサンであった。
ひょんなことから──というかまさに降って湧いたような状況なのだが──フレッドはテオを家に置いてやり、奇妙な共同生活を送るようになる。
……というのが本作のあらすじだ。
めちゃくちゃ「信仰」と「愛」の話を見せられるぜ!


ものすごくいい映画ではあったのでみんなにおすすめしたいんだけどさて。
この映画についてどう話したものか……。
というのも結構、展開が唐突というか「それアリなの!?」みたいな剛腕で話を転がしていくタイプの映画なので……「予想もつかなかった結末ッッ!」とか「すごいメタな映画だッッ!」とかそういうタイプの「ネタバレ厳禁だぜ!」みたいな話ではないんだけど、あくまで穏やかな人間の心の話の映画ではあるんだけど、かといってあんまり積極的に内容についてこうなったよねこうなったよねみたいなのを話す映画でもないんだよな……。
あと意外なほど「あれ伏線だったのかよ!(わかるわけないだろ)」みたいなのは多いっちゃ多いので……。決して「複雑な展開」でもないし「難しい、謎めいた作品」でも無いんですけどね。不思議な映画だ。


まず声を大にして言いたいんだけど、最初からわかってはいたんだけど本作は全然『孤独のグルメ』的な作品ではないです。
食事のシーンや料理のシーンはあるけど、そんなにそこの描写に力入れてないし。ジャガイモとインゲンと肉、みたいな食事ばっかりだし。
もっと言えば『孤独のススメ』というタイトルそのものがぜんぜん内容について芯食ってない。どちらかというと真逆の話で、孤独に陥っていた人間が新たな出会い、人間関係を得て生き生きとしていくという話であってまったくススメていない。
どういう映画かというとかなり「宗教と愛」の話なんですよね。
愛も、どちらかというと同性愛の要素がかなり強い。
だからどっちかと言うと『孤独のグルメ』というよりは『きのう何食べた?』だろ!! って言いたくなってしまう。いやだからメシの話じゃねえんだって!!


最初は、露頭に迷っているように見えるテオを匿い、世話をしてやるフレッドはまあまあ肯定的に受け止められている。
だが、徐々にフレッドは孤独な生活の隙間をテオに埋めてもらうことに自覚的になっていき、また幻覚で保守的な周囲の住人からは白い目で見られていくことになる。








ここが結構考えどころで……「別にほっときゃええやん」と思ってしまうんだよな。
ヤらしいことしてるわけでもないし……。いや、もしかしたらのシーンはあることにはあるし、妻の服を着せるのはちょっとどうなんだってのもあるけど。ほっときゃええじゃないですか他人のことなんか。
そもそも、他人に施しを与えるのはキリスト教的にも善行なんとちゃうんか。






別に互いに救われあってるんならええんとちゃいますかと思うんですけどね。そこはやはり宗教的タブーとしてあるんでしょうか。いま現在もいろいろと見解があるみたいで揉めてるっちゃ揉めてますけども。そういえばなんとなく同性愛って大体どこの宗教でもNGなイメージあるけど仏教はとくに無いっちゃ無いみたいですね。そうなんだ。
隣人を愛せと聖書は言ってるけど、それが同性愛になるとダメなのはなんでなんだろ? やっぱ生物である以上、繁殖しないとダメだからなんかな。同性愛だと繁殖の可能性が無いから肉欲オンリーでダメってこと? でも両方やればいいんじゃないの?
それに本作の同性愛ってかなりプラトニックだけどな。まあ作品的に描写しなかっただけかもしれんけど……。
と、こんな感じで本作は始終、宗教と同性愛についてどうなんや、どうするべきなんや、というのを語りかけてきます。


フレッドとテオは、ふとしたことからパーティ芸人として人気を得ることになるのですが(この辺の展開がまたトントン拍子なんだな)


映画冒頭では信心深かったフレッドが、ミサをシカトしてテオと仕事に出かけるシーンは示唆的です。ええんか!?


この映画、まあLGBT映画と言うこともできるんですよ。実際そうっちゃそうだし。
ただ、どちらかというそれは前提というか……「もうそういうのどうでも良くないですかって人が増えてきてますけど、そんななかで昔からある宗教とか信仰ってどうなんすか?」って問いかけるような、宗教映画だと思うんですよね。あるいは単なる信仰とかより教会ってどうなん? とか。
そのあたりが興味深いし、自分にはよくわからないなというのもある。わからないのもあって強く興味を惹かれましたね。
もう、やっぱ私ら仏教と神道の国に生きてるじゃないですか。だからいくら本で読んだり映画やゲームで触れたりしても、結局は「キリスト教的な価値観」ってわからないんですよね。
「宗教的タブー」を破るという行為がどれくらいの悪いことなのか。
「悪魔」という存在がどれくらい恐ろしいものなのかわからない。
どちらもふだんからデフォルメしすぎて需要してるから、本来の文明を営んでいくためのルールづくりとして発生していたそうしたものに対する恐怖や、恐怖に対抗するための心構え……規範……みたいなものが本質的なところでよくわからない。
わかったらもっと違う受け止め方ができるのかなあとどうしても思っちゃいますね。
んなこといったら本邦の映画やアニメだってほかの地域から見たらよくわからないんだろうけど。


本当に、展開は「まだ転がるの!?」ってくらい二転三転しつつも、変にスケールがデカくなっていったりしないし、善性の物語として終わるので良かったね~って感じになれて素直に感動、ジーンとする映画なんで単純にオススメです。うお~!! 楽しく生きるぞ!!! 楽しく生きてこそ人生!!!! という映画で、前向きな気持ちには間違いなくなれます。山、また登りてえよ。


一方でさっき書いたみたいに宗教的モチーフが散りばめられているので、そうしたものを「拾いきれない悔しさ」みたいなのは残っちゃいましたねやはり…。
例えば本作、食事のシーンを中心にハエが飛んでるって描写がよく挟まるんですよ。
最初はオランダの気候とかのせいなのかな? とか不衛生さの表現? とも思ってたんですが、これもキリスト教的な比喩表現だったらしいんですよね……。いやだからわかんねーんだって!!
そもそもタイトルにも使われている「マッターホルン」からしてそうした意味があるらしい。
そうしたキリスト教的比喩については下記のnoteの考察記事がかなりおもしろかったので、本作を見終わった人にはおすすめです。展開は冒頭からオチまでしっかり書いてしまっているので、未見の方は読まないでください。
https://note.com/chinaco_cinema/n/n6492786e8e66

