以前、職場で「最近奥さんに怒られたこと」という話題になったとき、主婦のパートさんが「怒られているうちはいい方ですよ」と言って、その場が戦慄したことがあります。9/23(金)から全国ロードショーとなる『犬も食わねどチャーリーは笑う』は、まさにそんな映画です。
『犬も食わねどチャーリーは笑う』概要
この物語の主人公、裕次郎と日和は結婚4年目の仲良し夫婦? というのは(もちろん)表向き。鈍感夫にイライラする日和は、積もりに積もった鬱憤を吐き出さなきゃやってらんないわー! と、出会ってしまったのは、SNSの〈旦那デスノート〉。そこには妻たちの恐ろしい? 本音、旦那たちが見たらゾッとするようなエグイ投稿がびっしり書き込まれていた。そしてある日、裕次郎もその存在を知ってしまう!「これって俺のことか?」気になる投稿のペンネームはチャーリー。日和と一緒に飼っているフクロウの名前もチャーリー…ってことは! 夫婦ゲンカのゴングの鐘が、いま鳴り響く!!(https://inu-charlie.jp/より引用)
香取慎吾が『凪待ち』以来3年ぶりに主演を務め、『神は見返りを求める』でヒロインを演じた岸井ゆきのが主人公の妻役を熱演。監督は『箱入り息子の恋』や『台風家族』で知られる市井昌秀です。
脇を固めるのは『猫は逃げた』の井之脇海や、Vシネマでおなじみの的場浩司など。的場浩司はホームセンターの店長役を、哀愁に満ちた切ない表情で演じています。さらに、本名で「旦那デスノート」に書き込みをする猛者を『ノイズ』などに出演する余貴美子が怪演していました。
・旦那デスノートとは
妻が夫にた溜まった不満をぶちまけ、同じく不満を持つ妻たちが共感しあうサイト。実際に「だんなDEATH NOTE」というサイトが存在し、テレビなどで取り上げられると書籍化されるほどの注目を集めました。この現状を憂いだある男性が、対抗馬(?)として「俺の嫁が可愛い」という真逆のサイトを立ち上げたことも有名。
劇中の「旦那デスノート」は5・7・5で夫への愚痴を書き込んでいるパターンもあり、割とネタっぽく聞こえますが、実際のサイトはかなりキツいです…。こんなの書かれていたと夫が知ったら、それこそショック死するだろうというレベルの書き込みがたくさんあります。
(↓)地味にリアルで怖いと思った、旦那は愛されずファブリーズが愛されている投稿
ファブリーズすごい!ファブリーズだーいすき! – 30代主婦のストレス悩み解消なら だんなデスノート<旦那デスノート> 旦那死ね.com (danna-shine.com)
香取慎吾が3年ぶりの主演!世の夫たちへの呪いを一人背負う
この映画の最も笑えて怖い点は、主人公・裕次郎が自分のことが書かれている旦那デスノートを読んでしまうことです。さながらTwitterでエアリプされているのを目撃したかのような地獄をスクリーン越しに味わえます。
さらに裕次郎の場合は「自分では夫婦仲がいい方だと思っていたら、そんなこと全然なかった」という、良くないギャップが追い打ちをかけています。この展開によって、裕次郎と同じ既婚者男性(筆者含む)は「俺も陰で妻に悪口を言われていないだろうか…」「このシーンを笑う資格が俺にはあるのだろうか…」など、疑心暗鬼による自問自答を繰り返す、非常に奇妙な映画体験をすることになるのです。
「旦那デスノート」を読んで精神的に追いつめられて行く裕次郎の様子はまさにホラー。「本来知るはずもなかった自分への陰口」を見たことで、世の旦那たちが経験しないような呪いを一人背負うシリアスな演技は必見です。
親密だからこその感じる”もやもや”を見事に体現
一方、妻・日和の書き込みは、皮肉にも「旦那デスノート」の中でひときわ注目を集めています。
しかし、日和自身はその状況を喜んでいるわけではない様子。日和は陰口を書いてうっぷんを晴らすと同時に、これで夫婦の問題が解決するのか?と考えているように見えます。
ここでは妻が夫に不満を募らせるケースですが、パートナーに対する不満は男女問わず溜まる可能性があります。だからこそ、日和のような「愚痴を吐いてはどこかモヤモヤしてしまう気持ち」は、男女問わずに通ずるのではないかと感じました。
近しい存在だからこそ、問題から目を背けることが「とりあえずの最善策」だと思いがち。かといって、ネットで陰口を吐いて根本的な問題が解決する訳ではない。そんなことは分かっているけど、つい目を背けてしまうのはなぜなのか?この問題に対する田村夫妻の答えが本作の最大のテーマであり、とても印象的です。
現代における「結婚」というシステムに対して、改めて考えさせられるラストにも注目してほしい…!
コメディ映画なので決して説教臭い内容ではなく「人の振り見て我が振り直そう」と思える内容もよかったです。
個人的にツボだった「労働」に対する不満の爆発
個人的に「裏テーマ」とも感じ取れたのが労働面の描き方です。
裕次郎と日和は共働きで、裕次郎はホームセンターの副店長、日和はコールセンターで働いています。裕次郎は良かれと思い「日和が大変なら、そんな仕事いつでもやめていいよ」と言ってしまい、日和から「私の仕事を見下してるの?」と詰められるシーンがありました。
さらに裕次郎の職場環境は比較的良好なのに対し、日和の務めるコールセンターでは自信過剰なセクハラ&パワハラ上司、カスハラの対応が常態化していました。この被害を被っているのは日和だけではなく、ほかの従業員も不満を抱えています。しかし、決定的な打開策はなく、皆が不満を抱えたまま働く日々…。
考えてみると、多くの人間は歳を重ねるほど、家族よりも仕事仲間や学校の人と過ごす時間が多くなります。ある意味で、夫婦の問題から目をそむけたくなる心理は(良くも悪くも)一緒にいる時間が長い職場や学校の人間関係でも、同じことが言えるのではないかと思いました。
だからこそ、本作のラストシーンは夫婦の問題とはまた別の意味で、全鑑賞者に刺さるエネルギッシュなものです。家庭以外の人間関係でストレスが溜まっている人は、思わず拳を突き上げたくなること必須!
まとめ
家族、恋人、職場、友人関係…身近だからこそ溜まっていく不満。最近ではネットでさえ、愚痴を吐き出すのもはばかられることもあるので、本作を観てスッキリすると同時に、問題と向き合うことの大切さも学べました。
テーマがリアルなだけにちょっと突飛な演出もあるけど、全体的に軽快なトーンなので楽しく(人によっては恐怖におののきながら)観ることができます。
あとフクロウのチャーリーがめっかわです。映画を観た後はフクロウカフェに行きたくなるかもしれません。
『犬も食わねどチャーリーは笑う』詳細情報
公開日:2022年9月23日(金・祝)
監督・脚本:市井昌秀
音楽:安部勇磨
主題歌:never young beach
キャスト:香取慎吾、岸井ゆきの、井之脇海、的場浩司、眞島秀和、きたろう、浅田美代子、余貴美子ほか
製作:2022年(日本)
配給:キノフィルムズ
上映時間:117分
公式サイト:https://inu-charlie.jp/
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