映画『ファミリア』レビュー!2023年は陶器職人で心の器がクソデカな役所広司ではじめよう

妻に先立たれた陶芸職人の男と、難民出身の女性と結婚するその息子。そして近隣に住む在日ブラジル人との関係を「家族」という視点で描いた映画『ファミリア』が2023年1月6日(金)より公開されます。

『八日目の蟬』(11)で第35回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞した、成島出監督による重厚なヒューマンドラマです。

役所広司が演じる主人公を中心に、それぞれが抱える悲劇とどう折り合いをつけていくのか。新年早々、おめでたい要素を一切排した骨太なドラマが誕生しました!

映画『ファミリア』あらすじ

陶器職人の神谷誠治は妻を早くに亡くし、山里で独り暮らし。アルジェリアに赴任中の一人息子の学が、難民出身のナディアと結婚し、彼女を連れて一時帰国した。結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に反対する誠治。一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコスは半グレに追われたときに助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つ。そんなある日、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲い……。(公式サイトより引用)

豪華キャストとオーディションを勝ち抜いた在日ブラジル人

(C)2022「ファミリア」製作委員会

主人公・神谷誠治を演じるのは『すばらしき世界』(21)や『孤狼の血』(18)で知られる役所広司。息子・学には『キングダム2 -遙かなる大地へ-』(22)の記憶も新しい吉沢亮が抜擢されました。

脇を固めるキャストには『ヘルドッグス』(21)のMIYAVIが在日ブラジル人を追い詰める半グレのリーダー・榎本役を務めるほか、ドラマ「孤独のグルメ」でおなじみの松重豊が極道役(怖い)で出演しています。

さらに、刑事で神谷誠治の幼馴染を『Fukushima 50』(20)の佐藤浩市が演じました。メンツが渋い…!

ちなみに、作中ではとにかくブラジル人たちにひどいことをするMIYAVIですが、ご本人はUNHCR親善大使を務めるなど、難民問題などにも積極的に発信している方です。

むしろ今回のキャスティング、体どころか芸能生活まで張っていて大丈夫なのか…?と心配になりますが、半グレのリーダー・榎本はイタズラにブラジル人を加虐しているわけではありません。彼にも異常な執念で彼らを痛めつける”理由”がありました。

ちゃんとフィクションと現実を分けて受け止められる構図なので。MIYAVIファンの方も安心してご視聴いただけます。

(C)2022「ファミリア」製作委員会

また在日ブラジル人のキャストはオーディションで選ばれ、誠治と学の元に迷い込んできた在日ブラジル人マルコスと妻エリカを演じたのは、今回が初の演技となるサガエルカスとワケドファジレ。

ほかにも実際に日本で暮らしているブラジル人をはじめ、日系4世らのヒップホップグループ「GREEN KIDS」のメンバーが出演。実在の事件をベースにしている本作で、実際に出稼ぎで日本に移住してきたブラジル人が出演する構図は、作品にこの上ないリアリティを持たせています。

作中に登場する「GREEN KIDS」とは

2013年にペルー人のACHA、ブラジル人のFlight-A、Swag-A、BARCO、DJPIG、唯一の日本人Crazy-Kの6人で結成されたヒップホップグループ。

2018年に制作された「E.N.T」のMVは、メンバーの多くが育った静岡県磐田市の団地で撮影されており『ファミリア』に登場する保丘団地同様に、多くの在日ブラジル人が暮らしています。

メンバーの1人であるFlight-Aことシマダアランは、マヌエルの親友ルイ役で出演しており、作中でも重要な役です。彼らが実際に音楽活動で表現している内容は『ファミリア』でのキャラクターにも反映されています。

役所広司、陶器職人になる

(C)2022「ファミリア」製作委員会

今作で役所広司が演じるのは、山奥に独りで暮らし、陶芸家として生計を立てている神谷誠治。若い頃は”やんちゃ”でしたが、アルジェリアでプラント建設に携わる一人息子を自慢に思う、どこにでもいる普通の父親です。

役所広司の代表作といえば、個人差はあれど『渇き』(14)『孤狼の血』『すばらしき世界』など、堅気とは程遠い強烈なキャラクターを演じる作品ではないでしょうか。本作では上記の作品で見られる野性味や暴力性は封印し、ぶっきらぼうながら器の大きい、優しい男を演じています。

なにより、陶芸家という役と役所広司の相性がめちゃくちゃいい。焼き物の制作シーンは吹き替えではなく、本格的な練習を積んで本人が臨んでいます。その風貌も相まって、マジのベテラン陶芸家そのものでした。人を殴ったり拳銃を構えるより、粘土をこねている姿の方が様になっています。

(C)2022「ファミリア」製作委員会

また、誠治の息子・学を演じる吉沢亮の演技も印象的です。マジで邪心が一切ない青年を演じています。100人中100人が「いい奴!」と言うレベルで真面目。半グレから必死に逃げてきたマルコスを助けようとして殴られるのに、数日後にはマルコスと夢について語るなど、父親に似て心が広いです。

あまりにも邪心がないので(筆者のような)自己肯定感の低い人が対面すると「それに比べて俺はクズじゃん…?」と自傷思考に走り出すほどいい奴でした。なんというか、むきタマゴみたいにつるつるな顔と心を持ち合わせています…。

(C)2022「ファミリア」製作委員会

個人的には誠治の幼馴染を演じた佐藤浩市との共演も激渋。この2人がかまどの前に並んで座って、昔の思い出を語るシーンなんてそれだけでめちゃくちゃ画になっていました。

オーディションを勝ち抜いたブラジル人たちのキャラも良い!

(C)2022「ファミリア」製作委員会

誠治と学の元に迷い込んできた在日ブラジル人・マルコスと、その妻エリカを演じたのはオーディションで選ばれたサガエルカスとワケドファジレ。特にワケドファジレ演じるエリカの明るいキャラクターは、重くシリアスな作風のなかで数少ない“息継ぎ場面“を作っていました。

夫マルコスが不愛想なのに対してエリカは礼儀も愛想もよく、マルコスが世話になった礼を拒んだ誠治に対して「お礼を受け取ってくれないとお母さんに●される!」と慌てる一面も。

おまけに「お母さんの体重◎(自主規制)キロです!プロレスラーより強いです!!」など、さらっと母親の体重をばらす暴露系な一面も見せてくれます。監督曰く「オーディションの段階からずけずけとものを言うので、マルコスを引っ張っていく役にはぴったりだと思った」とのこと。

一方で、なぜお礼の話で母親が登場したのかというと、出稼ぎで日本で暮らす在日ブラジル人の多くは家族と一緒に日本に訪れるケースが多いため。狭い団地の部屋で、大勢の家族が暮らさないといけない問題も垣間見えます。

こうした明るい場面があるからこそ、マルコス・エリカ夫妻、そして誠治や学たちに忍び寄る悲劇の度合いも増すわけで…。キャスティングの良さがあってこそ、本作の闇の部分も際立っていました。

人種の違いや憎しみを越えて「家族」を描く

(C)2022「ファミリア」製作委員会

キャスティングが良すぎて記事の半分を使ってしまいましたが、肝心の内容はかなりシリアスなので、心にゆとりがある時に見て欲しい作品でもあります。

特に人種・国籍などをテーマにした作品と聞くと「理解のない人たちが陰湿な対応をして、相手を傷つける感じでしょ…?」と思うかもしれません。しかし蓋を開けてみると、学の婚約者であるナディアに対して、誠治をはじめとする家族は温かく迎え入れています。

 

一方で、MIYAVI演じる半グレのリーダー・榎本を筆頭に、ブラジル人たちへの執拗な報復は目をそむけたくなるほど非道なものばかり。しかし榎本は単純な人種差別主義ではなく、彼らを忌み嫌うことになった”ある過去”がありました。

そしてマルコスたちもまた、日本へ来た理由にマルコスの父親が大きく関係しているなど「家族」がらみの問題を抱えています。

自分たちと違う人種や、国籍の人に対する差別・偏見だけを描くのが『ファミリア』ではありません。

タイトル通り「家族」をテーマにした事件や問題を捉えることで、誠治をはじめとする人々の葛藤を赤裸々に描く、力強い作品でした。

映画『ファミリア』作品情報

(C)2022「ファミリア」製作委員会

公開日:2023年1月6日(金)
監督:成島出
脚本:いながききよたか
キャスト:役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市

製作:2022年
上映時間:121分(PG12)
配給:キノフィルムズ

公式Twitter:https://twitter.com/familia_movie
公式HP:https://familiar-movie.jp/
劇場情報:https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=famititle

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