映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』レビュー|ナチス映画に新ジャンル?ネタバレ厳禁のチェスバトルと地獄の監禁生活とは

ヤマダマイ

この時期、毎年必ず製作される映画といえば…夏のホラー映画?

ティーンがときめくスイーツ映画?

いいえ、ナチス映画です!!

毎年多くのナチス・ドイツをテーマにした映画が公開されています。シリアスなヒューマンドラマもあれば、笑っていいのか困ってしまうレベルのコメディまで、そのジャンルは多種多様。

そんな中、7月21日(金)より公開される『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は、ありそうでなかった”バトルもの”、それもチェスを題材にしたサスペンス映画となっています。

ナチスドイツに拘束・監禁された主人公が、監禁生活中にチェスのルールブックを読み込んだ結果、すべての手を暗唱できる最強のチェスプレイヤーに。まさに「闇落ちして手に入れた圧倒的な力」を発揮する、バトルものの十八番を抑えた作品です!

映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』概要

https://royalgame-movie.jp/

主人公の公証人ヨーゼフを演じるのは『帰ってきたヒトラー』で、現代にタイムスリップしてきたヒトラーを演じたオリヴァー・マスッチ。ある種の因縁をビンビンに感じる配役となっています…。

ちなみにオリヴァー・マスッチはアドルフ・ヒトラーを演じた『帰ってきたヒトラー』で、ドイツ映画賞主演男優賞にノミネートされました。

最初は軽い気持ちで笑えるものの、だんだん笑っていいのか戸惑うレベルに発展するブラックコメディです。

原作はオーストリアの作家でユダヤ人のシュテファン・ツヴァイクが執筆した「チェスの話」。完成した直後にツヴァイクが自殺してしまったことで、最期の小説となりました。

主人公ヨーゼフとツヴァイクの状況が重なる部分も多く、ナチスに人生と文化を奪われ続けたツヴァイクによる”ナチスへの抗議書”としてベストセラーとなっています。

闇落ちからの凄腕チェスプレイヤーというアツい展開

© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

シリアスなドラマにこんな表現は不謹慎かもしれませんが…。主人公が”闇落ち”を代償に凄い力を手にする展開は少年漫画のようなアツいものを感じます。

今作では、文化をこよなく愛する公証人ヨーゼフがナチスによって監禁され、自由だけでなく音楽や書物といった文化的楽しみの一切を奪われます。日々精神をむしばまれていく中、偶然手に入れた唯一の書物でさえ、ヨーゼフがこれまでまったく興味のなかったチェスのルールブックでした。

そのおかげで、ヨーゼフは豪華客船の中で行われていたチェス大会で実力を発揮します。そこではチェスの世界王者がたった一人で十数人のプレイヤーを相手していました(こういう1対複数の勝負もバトルものの醍醐味っぽくて好き)

ヨーゼフは百戦錬磨の相手に対して実力を見せつけ、船のオーナーから「ふたりの決闘で乗客を楽しませてほしい」と懇願されますが…。

© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

これまで多くのチェス映画が製作されるなか、『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』もチェスによる駆け引きが見どころのひとつ。

チェスに限らず、囲碁をテーマにした韓国映画『神の一手』『鬼手』では、復讐相手に囲碁で勝つために、目を疑うような過酷な特訓を積み重ね、正気を疑うような極限のシチュエーションで闘い、ときには拳で相手をねじ伏せるタフさを見せつけています(拳…?)

『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』でも、人生を奪われたヨーゼフは監禁生活で頭に叩き込んだチェスを武器に、図らずも世界王者に戦いを挑むこととなります。シリアスなナチス映画でバトルエンタメ要素を見られるとは…!

そして世界王者と一線を交えることが、いかにして「ナチスに仕掛ける」チェスゲームとなるのか…。ネタバレ厳禁の巧妙な展開が見どころです。

文化の大切さを痛感させられる監禁シーン

© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

もしも、ある日突然日々の楽しみを何者かに奪われたら…。映画や小説に限らず、ゲームや推し活…。それらが一切禁止されたら?

『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』では、日々の平和や楽しみが突然終わりを告げる恐怖も描いています。

ヨーゼフは妻を愛し、演劇や読書も嗜む文化人ですが、監禁生活では一切の娯楽は禁止され、外部との関係も遮断されます。しかし、最初はたったそれだけです

監禁されたのは豪華ホテルの一室。風呂もトイレもベッドもあり(一応)食事も出てきます。突然、筋骨隆々の男が殴りこんでくることも、水を浴びせられることも、終始まぶしい光にさらされることもありません。ただ、娯楽と人との関わりが一切ないのです。

最初は飄々としているヨーゼフですが、時計もない部屋で時間の感覚も消え失せ、目に見えて消耗していきます。そんな彼が一番に求めたものが「書物」でした。

公証人であるヨーゼフが管理する貴族の資産の預金番号を聞き出すために、秘密国家警察(ゲシュタポ)はヨーゼフの弱みを掴んで、一切自分の手を汚すことなく追い詰めていきます…。本作を見ると、改めて日々の娯楽がどれほど人を救っているのかを痛感させられます。

コロナ禍によってあらゆる娯楽に制限がかけられた現代だからこそ、ヨーゼフの苦境は身に染みるものがありました。

ネタバレ厳禁!過去と現在が入り乱れる展開

本作はチェスを通したバトルものであり、ヨーゼフの苦しみを痛感するドラマであり、ネタバレ厳禁系のサスペンス映画でもあります。

豪華客船に妻と乗り込むヨーゼフと、彼がナチスドイツにされた非道な仕打ちを回想するシーンが交互に描かれる構成です。

豪華客船ではヨーゼフとチェスの世界王者との一騎打ち。かたや回想では、ヨーゼフがどのように監禁生活から逃れたのかを徐々に解き明かしていきます。

チェスの試合とナチスドイツからの解放。一見交えないような設定がいかにして重なっていくのか。「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」は何を意味するのか?この点に注目しながら観ると、キャッチコピーにもある、ヨーゼフが”何者にも屈する事はなかったのか?”について考えさせられます。

それはチェス映画の域を越えていく、壮大な心理戦でもありました。

まとめ

© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

本作はこれまで数多く製作されてきたナチス映画とチェス映画のどちらから観ても、一風変わった内容となっています。

はたしてヨーゼフはチェスの世界王者とナチスドイツに打ち勝つことができるのか?

ヨーゼフの迎える結末を踏まえ、彼の「何者にも屈したくない」精神が勝利を得たのか注目してみると、本作の面白さが増すかもしれません。

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