――始まりがあれば終わりがあるように、終わりにもまた始まりがある…。
すみません! なんか頭の良さそうなことを言おうと思って、よく分かんない感じになっちゃいました。いやはや、気づけばもう3月。マーチ。関関同立。…はい、3月と言えば終わりの月。学生の皆さんは今のクラスメイトともお別れ、あるいは卒業式が控えてますね。
えっ、学生なのにムービーナーズ読んでるんですか?
ダメだよ! 勉強しろ勉強。
さておいて、3月はきたる4月…進級や入学式、入社式といった人生の新しいステップに備えるシーズンと言えましょう。終わりであると同時に「始まり」を目前に控えた時期です。
始まり…無限の可能性を感じるいい言葉ですね。そう、全てに始まりがあるのです。あの有名な映画監督にだって、キャリアの第一歩目がありました。
『スパイダーマン』(02)のサム・ライミは仲間と『死霊のはらわた』(81)を作り、『ロード・オブ・ザ・リング』(01)のピーター・ジャクソンはニュージーランドの片田舎で休日にセコセコと『バッド・テイスト』(87)を涙ぐましく撮っていました。そしてなんと『ドライヴ』(11)のニコラス・ウィンディング・レフンでさえ、ビデオ撮りスプラッター映画で着ぐるみモンスターを演じていたのですから!
えっ、どの例も全部スプラッター映画じゃないかって?
そうだ! 記事のタイトルに騙されたな! 世界ゴア紀行 4泊目にようこそ!
この記事では4月という人生の節目を迎える皆さんを応援するフリをして、世界中のヘンなゴアムービーを紹介していくぞ。今回は第一線で活躍する監督がキャリアの出発点として撮った血みどろ映画を大紹介。入学する学校や新しいクラス、入社した会社でこの話をしたら大盛り上がり確実! 人気者になっちゃうかも? イエス、ヒアウィーゴア!
イギリス『Bad Karma』(91)
有名メタルバンド、クレイドル・オブ・フィルスのMV監督として、そして本邦では劇場公開作『インブレッド』(11)の監督として有名なアレックス・シャンドン。氏のキャリアの始まりはビデオ撮りスプラッターでした。
ボンヤリ系の主人公、シェイプシフター、SMマニア、田舎者たちが織りなすゴア大饗宴! それが本作『Bad Karma』です。自主制作ながら、姿を変える怪物(シェイプシフター)の特殊効果・造型や、四肢がポンポン飛び、顔面が破壊されるゴア描写は見応え抜群。
また、多くの登場人物が渋滞気味に登場するも、それらを華麗にさばく軽快な演出にも驚かされます。この感覚、いずこかで…と思うと、そう。ガイ・リッチー監督の映画で見られるそれに近いと言えましょう。ちなみにアレックス・シャンドン監督は後に美術班として『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)に参加していたりします。
予算をものともしない圧倒的な才能を感じさせられると共に、SMマニアがボンテージ・ファッションに身を包み「グルーヴィ!(いかすぜ)」と『死霊のはらわた2』(87)ギャグをかますなど、若気の至り的なギャグが散見されるのもほほえましいのです。
若さ…と言えば、本編でフィーチャーされるパンク・ロックの数々も無視できません。本作を含むシャンドン監督の初期作品ではアナーコ・パンク(CRASSを代表格とする、アナキズムに基づく行動的・実践的なアティチュードを有したパンク・ジャンル)界でブイブイ言わせていた人々がこぞって出演していたりします。アポストルスのメンバーも出ておりますので、パンクヘッズは必見!
本作を含み、複数本のビデオ撮りホラーを監督した後にシャンドン監督は、しっかりと予算が組まれた長編映画へと進出。『バーバレラ』(68)ミーツ『カリギュラ』(79)な『Pervirella』(98)や、クレイドル・オブ・フィルスのボーカル、ダニ・フィルスを主演に迎えた『Cradle of Fear』(01)、そして日本でも公開された田舎ホラー『インブレッド』を世に放ちます。
シャンドン監督のフィルモグラフィはいずれも傑作ぞろい。なかなか日本に入ってこないのが残念ではありますが、特に初期の作品は使用している音楽の権利関係もあって、オフィシャルリリースが難しいのだとか…。近年は脚本やVFXなど、裏方仕事が多く、監督作品は少なめなシャンドン監督。また新作が観たいものです。
ノルウェー『Snorr』(93)
皆さんは『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(18)を観ましたか? ニック・フロストが出ていましたね! あとは…、ニック・フロストが…出ていましたね…。
あのようなハリウッド超大作の監督ローアル・ユートハウグも、もともとは自主ホラーを作っていた若者だったのです。なぜか近年ポッドキャストでも取り上げられ、監督が苦笑いしていた作品…『Snorr』なんてものを撮っておりました。
ある実験施設で薬品が漏れ、人々は鼻水をズルズル垂らす緑色のゾンビになってしまいます。そんな鼻水ゾンビに立ち向かうのはイケてない清掃員のあんちゃん! がんばれあんちゃん! 鼻水なんて吹き飛ばせ! そろそろ花粉シーズンですね。いやだなあ。
『Snorr』とは英訳すると「Snot」つまり鼻水の意味。決してゴアゴアしい映画ではないのですが、緑色のゾンビたちの不気味なグロテスクさは、『吐きだめの悪魔』(87)チックと言いますか、悪趣味でグッときますね。
シンプルなプロットからも見受けられるように、どことなく漂う児戯っぽさ…と言いますか、アマチュアの臭いがむせかえっている映画となっています。しかし、撮影の構図や話運びのスムーズさは、後の大成を想像させる光るものがあるように思えます。あ、後付けじゃないですよ…。
ユートハウグ監督は『Snorr』の後に短編を何本も制作し、初長編『コールドプレイ』(06)を完成させました。この凍てつくスラッシャー・ホラーは高い評価を受け、日本でもDVDが発売されることに。成功に弾みをつけ、その続編『ザ・コールデスト』(08)も製作されました。
その後は脱ホラーを果たし、歴史アクション『エスケープ 暗黒の狩人と逃亡者』(12)やディザスター映画『THE WAVE ザ・ウェイブ』(15)を監督。堂々のハリウッドを経て、現在はネットフリックス映画『トロール』(22)がフィルモグラフィ上の最新作。こう見ると、そのフィルモグラフィのほとんどが日本でも鑑賞可能ですね。全体的に丁寧な筆致が好評を博しているようで、ノルウェーを代表する監督のひとりといって差し支えない存在感を放っています。
アルゼンチン『Plaga Zombie』(97)
エイリアンによってバラまかれたウイルスで、アルゼンチンにゾンビが大発生! ボンクラ若造3人衆がゾンビ退治に挑む!
監督はアマチュア、低予算のビデオ撮り、こんなよくあるプロットの映画であっても、それが歴史を変えてしまうこともあるのです…。『Plaga Zombie』は若干17歳のパブロ・パレスが仲間と共に30万円ほどで作った自主ホラー。本来ならば世界からスルーされても文句のいえないものです。しかし、この映画はアルゼンチンで大事件となりました。
そう、本作はなんと「アルゼンチンで初めて作られたゾンビホラー」だったのです! 噂は話題を呼び、手売りしていたビデオは国内で爆売れ。さらに「南米のゾンビホラーですと?」と興味深々な欧米のホラーマニアたちの耳目がワラワラと集まり、一躍、話題作へ。
これがしょーもない出来なら、本作は映画史の谷底で朽ち果て、誰からも忘れられたのでしょう。しかし、この映画…メチャクチャ面白い。南米ながらの垢抜けなさ、そして手作り感溢れるスプラッター描写の小汚さ、それらが小気味よい編集でテキパキと繰り出される、なんとも言えないアンマッチな個性。全てがビビビとスパークし、本作に登場するカラフルなゾンビたち同様にユニークな個性を発しているのです。
この映画を観て真っ先に思い出すのがピーター・ジャクソンの『バッド・テイスト』! ローファイなスプラッターながら、ユーモアと創意工夫に溢れる魅せ方を忘れないその姿勢は、両者に共通するものです。
結果として本作は世界中の好き者たちから大支持を受け、パブロ・パレス監督は予算を増大させた続編の制作に着手。しかし、制作は難航。4年の月日を要することに…。ですが難産の続編『Plaga Zombie: Zona Mutante』(01)は完成と同時に、待ち受けていた世界中のファンからの大歓待を受ける運びとなったのでした。さらに北米での配給を買って出たのが、あの名門ホラー誌「ファンゴリア」というのだから、これぞアメリカン・ゾンビ・ドリーム!
結果として『Plaga Zombie』のシリーズは、続編2作+アメリカ編の計4作が、四半世紀にわたって作られることに。映画学者ジョナサン・リスナーは、1997年の第1作の誕生をして「現代アルゼンチン・ホラーの始まり」と位置づけました。さらには、南米全体でのホラー・ムーブメントの嚆矢とも指摘し、この映画が無ければコフィン・ジョー以降のブラジル産ホラーなども存在しなかったのではないか、と目されているのです。まさしく! 本作は歴史を変えた一本と言えましょう!
さて、その後のパレス監督の歩みはと言うと…今なおホラー映画を作り続けてくれています。『Plaga Zombie』トリロジーと並行していくつもの作品を監督。悪魔やSF、ファンタジー、なんでもアリのごった煮ホラー『悪魔の協定』(15)と世紀末ゾンビアクション『マッド・レイジZ』(18・こちらは共同監督)は日本でも配信やDVDで観ることが可能です。
低予算極まりない環境からキャリアを開始したパレス監督が、徐々に潤沢な資金を得て作品を制作するようになり、さらに演出も洗練されゆくにつれ、その姿に「ホラーを捨てなかったピーター・ジャクソン」なんてイフ世界を幻視してしまいます。そんなパレス監督、今後もさらなる活躍を…え、なんですって?
パレス監督の! 新作が! 日本に! 来てる?!?!
『プッシーケーキ』
人間に卵を産み、苗床とする寄生エイリアンが異次元から襲来。卵を産み付けられた人間たちはゾンビになってしまう。そんな危機も知らずに、ガールズバンド「プッシーケーキ」は絶賛ゾンビ禍の街へ。さらにそこに異形の闖入者が…。
これ、ノリがまんま『Plaga Zombie』やないかい! さらに人間に卵を産み付ける方法が、ゾンビが顔面にゲロを吐きかけるなど、演出は洗練されつつも、まだまだ健在な悪趣味グロっぷりが…泣ける!
『プッシーケーキ』が日本で観れてしまうことに驚きと感動を覚えつつ「買い付けた映画会社、正気か?」とも思ってしまいます。これ、「未体験ゾーンの映画たち2024」でスクリーンにかかってたんですよね…。でも、南米産スプラッターが日本に入って来るうちは、まだ日本の映画文化は大丈夫! そんな根拠なき自身が湧いてきます。
四半世紀の時を超えて好きなものを作り続ける…。パレス監督のみならず、今回紹介した監督たち全員が、多くの苦難があったでしょうが映画を作り続けて、今そこに立っています。
3月、終わりと別れの月。でも、あらゆるものに終わりはなく、人生はどこまでも続いてゆきます。一区切りはあるかもしれません。でも、もしあなたが何かを望むなら、それを追うことを決してあきらめず、ひたすら走り続けてください。その先に、きっと今回紹介した監督たちの背中があるはず。
――区切りが点ならば、その点が集まりできた線、それが人生だ。
少年「ハカセ、これって何が言いたいの?」
博士「書いた人間も分かってないぞい」
ヒロシニコフ 寒かった冬も終わりを見せ、徐々に春めきつつある昨今、みなさまいかがお過ごしですか?暖かくなってきたので、こんな日は外に出るのも良いですね。散歩やピクニック、映画館に行くのも楽しいかもしれませんね。 […]
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