『ベニー・ラブズ・ユー』:キモいが定番のおもちゃホラーに一石を投じる、“Kawaii”殺戮ぬいぐるみベニー!!

本作のメインキャラであるぬいぐるみのベニーを見たとき、皆さんはどう思われただろうか?やはり

「かーわーいーいー!」

と思ったのではないだろうか?
“おもちゃ(Toy)”が活躍するホラーは沢山ある。『パペットマスター』シリーズ、『チャイルドプレイ』シリーズ、ギリギリで『アナベル』も“おもちゃ”ホラーに入るだろう。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

いずれも人気キャラクターであることは間違いない。『パペットマスター』は約30年前にシリーズが開始されてから、今もコンスタント作られ続けている作品。登場するパペット達はファンから長く愛され続ており、フィギュアも人気。筆者も看板キャラである“ガリガリ博士”こと“ブレイド”は大好きだ。『チャイルドプレイ』のチャッキーは、どちらかというと声を担当しているブラット・ドゥーリフの変態演技が気に入っていたり、アナベルは映画本編より実際のウォーレン夫妻の倉庫に眠る本物のアナベル人形の方が好みだったりするが……。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

冒頭から話が逸れた。何が言いたいか?というと、これら従来の“おもちゃホラー”に登場する“おもちゃ”には共通点がある。どれもこれも“なんか気持ち悪い”のだ。馴れれば可愛いと感じられるのかも知れないが、そこはやはりホラーキャラ。一見して不気味さを感じさせなければならない悲しい運命を背負わされているのである。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

例えば、前述した『アナベル』シリーズは、実在する呪いの人形、アナベルをモチーフにした作品。当然、作中に登場するアナベルの容姿はやたらとキモい。子供が傍らに置いておくおもちゃとして考えてみると

「子供はこんな気持ち悪いツラ構えの人形、絶対好きじゃないだろ!こんなのを部屋に置いたら怖くて寝られないだろ!」

と思うほど不気味だ。ご存じの方も多いと思うが、実物のアナベル人形は手作り感溢れるチープなぬいぐるみで、怖さを微塵も感じさせない。『アナベル』シリーズはジャンプスケアをメインの『死霊館』シリーズのスピンオフであるが故に、見た目の怖さや不気味さを優先し、このような容姿の改変がなされたのだろう。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

しかし、筆者はリアルアナベルのチープぬいぐるみでも十分やりようがあったのではないか?と考える。『パペット・マスター』シリーズがシル○ニアファミリーで構成されていても、チャイルドプレイのチャッキーがミッキーマ○スでも、アナベルが実際の容姿のままでも、可愛さを活用したホラー映画を作ることができるのではないだろうか?

可愛さとホラーの両立を見事にやってのけたのが、今回紹介する『ベニー・ラブズ・ユー』だ。
前述した彼らに比べてベニーの可愛さは格別。海外では人気が非常に高く、実物大ベニー付きBlu-rayも発売されるほど。ベニー付きBlu-rayは限定販売であったため、現在、ぬいぐるみが欲しいコレクターを狙って、低品質のパチもの「コレジャナイ」ベニーが流通しているほどである。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

何故、こんなにベニーが人気なのか?それは本編を見てみればわかる。ベニーがあまりにも邪悪なまでに無邪気だからだ。この邪悪な可愛さCuteというより混沌とした“愛で言葉”、カワイイ(Kawaii)が似合うかもしれない。

ジャックは玩具メーカーでデザイン部長だ。今、彼は窮地にいた。両親をひょんな事故で亡くし、残された家のローンの支払いに悩まれてた。さらにはデザイン部の若手、リチャードの才能に圧され解雇、温情措置の低賃金雇用という憂き目に。
落ち込むジャックだったが、自己啓発テープ––なぜかカセットテープだ––を聞いて、一念発起。要らない物をトコトン捨て、仕事に打ち込むことを決意。後ろ髪を引かれながら、幼い頃から欠かさず側に置いていたぬいぐるみのベニーもガラクタ箱にしまい込む。
とはいえ、テープを一聴したところで人生が好転するわけもなく、彼のアイディアは社長のロンからも一蹴され、リチャードからはバカにされる始末。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

ローンの支払いも滞り、家の差し押さえも間近。仕事も家も失ってしまう!と絶望しかけていたある朝。起きてみると税金の差し押さえにやってきた弁護士の生首がジャックの隣に転がっているではないか!!

「なんじゃぁぁこりゃぁあぁ!」

驚くジャック。そんな彼を尻目にシレッと現れ「愛しているよ!」と話しかけてくる愛玩のベニー。どういうわけか、ベニーは普通のぬいぐるみから、魂をもったぬいぐるみに変身。愛しのジャックの為になんでもやる、素敵な「殺人マシーン」に変貌していたのだ。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

ジャックは、焦りながら死体を片付けると、ベニーを元ネタに「愛くるしいキラーロボット」という玩具を思いつき、商品化を提案。すると彼の斬新なアイディアは採用され、ジャックの人生に回復の兆しが現れる。ところが、ベニーはジャックのために次々と殺人を繰り返し……。

リアリティは一切無いし、一見、コメディのように……実際殆どコメディなのだが……みえる。しかし、本作、イギリス映画らしい人を突き放した毒っ気があり、笑えるものの、それなりに怖いし異様なのだ。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

なんといっても怖いのは、ベニーが決まった言葉しか話さないことだ。彼の「ベニーは君を愛しているよ!」「抱きしめて!」「遊んで!」「了解!」「ウィーーー!」「フニューー」程度。何をしてもこの言葉しか発しない。首チョンパしようが、ナイフを首に突き刺そうが、これだけである。『チャイルドプレイ』のチャッキーは意思疎通のため会話をしていたが、ベニーは全く何を考えているのか?何をしでかそうとしているか?サッパリ分からないのだ。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

次にエイリアン顔負けの殺人マシーンであることも挙げられる。ジャック以外の動物や人形含む生き物の形をしたものは、全てズタズタに破壊あるいは殺してしまう。とにかく容赦が無い。最初のウチは笑ってみていられるかも知れないが、だんだん恐ろしくなってくる。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

加えてイギリスらしい奇妙なジョークも本作の異様さを加速させている。腹に杭を突き刺され、瀕死状態の男にお茶を入れる場面がある。ベニーはタップリと時間を掛け、お湯を沸かし紅茶を淹れる。それにビスケットを添え、男の目の前にやってくるやいなや、熱々の紅茶をぶっかけるのだ。
捜査にやってきた警官がジャックの家で紅茶を振る舞われた際にくどくどビスケットを要求したり、家のローンの取り立てにやってきた男も妙にビスケットにこだわったりと、とにかく紅茶とビスケットネタをクドクドと繰り返す。異常なまでに繰り返されるイギリス的な紅茶&ビスケットネタ。意味が無いとおもいきや、各場面において重要なネタになるのが憎い。

もちろん下ネタ、不謹慎ネタも目白押し。動物も容赦なく殺して、死体を弄ぶ。動物陵辱シーンが予想を遙かに上回るもので、こういった描写を平気な顔して映画にブチ込んでくるのはイギリス人と三池崇史くらいなものだろう。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

さて本作、実は相当な時間を掛けて作られている。基となったのは、ジャック演じ、かつベニーの声も担当した監督、カール・ホルトが2006年に制作した『Eddie Loves You』。

ベニーではなくエディだ。しかもエディといいながらも、キャラクター自体は、セサミストリートのエルモである。ベニーとの共通点は“赤色である”のみだが、これについてホルト監督は「ホラー映画といえば赤!夜の場面でも映えるからね」と述べている。ちなみに彼が星が描かれた青色のベストを着ているのは、初期設定では“魔法で殺人を犯す”設定だった名残だそうだ。

©MMXX DARKLINE ENTERTAINMENT. All Right Reserved.

さて『Eddie Loves You』から数年後、ホルトは40歳になりジャックのように中年の危機に瀕していた。焦燥感に駆られた彼は「やりたいことをやるのは今しかねぇ!」と友人と家族総出で『ベニー・ラブズ・ユー』の撮影を開始する。クランクアップは2015年のこと。それから2019年の公開まで、彼は何をしていたか?実はベニーのCGを延々と作り続けていたのだ。ベニー、ガチの人形に見えるが、殆どCGなのだ。
カール・ホルト監督が淡々と作りづけた『ベニー・ラブズ・ユー』。

「これ、本当にインディーズ制作?」

と疑いたくなる、この監督の執念もなかなか恐ろしい。彼の言葉を最後に引用しよう。

「『ベニー・ラブズ・ユー』はくだらないくて、怖くて、とてもドタバタしてるよ。コメディ・ホラー的でもある。でも、映画全体を通して、観客にベニーを好きになってもらいたいと思うんだ。ベニーを愛おしいと存在だと理解して欲しい。でも、それがわかるのは“最後”だけです。楽しんで」

ベニー・ラブズ・ユーは未体験ゾーン2023にて公開

思い出を捨てないで…
ジャックは35歳の誕生日に事故で両親を失ってしまう。仕事でも失敗し、お金に困ったジャックは家を売る決意をし、子供の頃大切にしていたぬいぐるみベニーを捨ててしまう…。

[ 未体験ゾーンの映画たち2023 上映作品 ]
2月3日(金)より上映 ヒューマントラストシネマ渋谷

未体験ゾーンの映画たちHP:https://ttcg.jp/movie/0935200.html
劇場HP:https://ttcg.jp/human_shibuya/

2/3 16:50 ~ 
2/4 18:50 ~ 
2/5 12:50 ~  
2/6 14:50 ~  
2/7 16:50 ~
2/8 18:50 ~  
2/9 12:50 ~

最新情報をチェックしよう!