インドネシアホラーの存在感と勢いが年々増している。
そんな中、ここ日本で2023年2月に『呪餐 悪魔の奴隷』が公開される。これは2017年に製作された『悪魔の奴隷』の続編で、なんとIMAXカメラで撮影もされた相当気合の入った作品である。
これを機にこのジャンルの日本上陸がもっと進んでほしい!というわけで、今回はインドネシアホラーにスポットを当てて、見どころいっぱいの作品を5本紹介する。
あらかじめ書いておくと、私自身もまだまだこのジャンルを掘り切れておらず、鑑賞できていない作品も多い。そういった作品はいつか観ることが出来たら、第2弾という形で紹介できたらと思う。というわけで、早速本題に入っていこう。
まずは『悪魔に呼ばれる前に』だ。インドネシアホラーといえば、過剰なまでのショックシーンと強烈なゴア描写だが、本作はまさにそれを体現した作品。
監督はモー・ブラザーズとして、キモ・スタンボエルとともに『マカブル 永遠の血族』を手掛けて知名度を上げたティモ・ジャヤント。インドネシア出身の映画監督で今、最も勢いのある人物だ。アクションを撮っても下手なホラーより血しぶきが飛び交う作品に仕上がる彼が、久しぶりにホラーに全振りしたのが本作である。
あらすじは、父親に起因する呪いに巻き込まれた姉と腹違いの兄弟が体験する恐怖を描くというもの。物凄くザックリ言えばインドネシア版『死霊のはらわた』みたいな感じだ。ただ、パチモンと一言で言って片づけられない魅力に満ち溢れている。
やはり欧米の作品にはない、また日本のそれとも違う独特の湿り気がある。それに本家並みの勢いと血しぶきと凄まじい顔芸の悪霊が加わり、唯一無二の面白さが生み出されている。前半は静かに不穏を煽り、後半に差し掛かってからタガが外れてショックシーンが乱打される鉄板の構成。
ああ、ジャヤント監督はブレないなあと観ていて安心する。悪魔憑きを懐中電灯でタコ殴りにするとか、やはり暴力描写の強さが光る。ネットフリックスで鑑賞できるため、他の作品より比較的鑑賞が容易なのも嬉しいところだ。
続いては、冒頭でも少し触れた『悪魔の奴隷』について。これは1981年のホラー『夜霧のジョギジョギモンスター』をリメイクした作品だ。ある家族の母親が謎の病に侵される。治療費がかさみ、一家は住んでいた家を手放して祖母が住んでいた田舎の家に引っ越す。だが母は遂に死んでしまう。それから一家を恐怖が襲う……、というあらすじ。
この映画は個人的にはインドネシアホラーで一番好きな作品だ。人間ドラマ、恐怖度、ショックレベル、撮影技術その他あらゆる面がハイレベルな一級品のホラーである。
「アメリカに死霊館あらばインドネシアに悪魔の奴隷あり」という言葉を作っても良さそうなくらい出来が良く、幅広い観客の鑑賞にも耐えうる作品だと思う。悪霊だけでなくカルト宗教までも絡んでくる特盛仕様な展開も嬉しい。
サービス精神に溢れていて、鑑賞後は『死霊館 エンフィールド事件』を観たときに近い満足感を得られた。
監督はインドネシアホラー界を牽引するジョコ・アンワル監督。ティモ・ジャヤント監督に近い、勢いの良いショックシーンを得意とするが、アンワル監督はよりエンタメ性に特化しており、半ばアクションジャンルに片足か半身くらい突っ込んでいるのが特徴だ。
彼の作品も打率が凄く高いので、この国のホラーを掘るなら要チェックの人物だ。そしてこちらの続編『呪餐 悪魔の奴隷』が、前述の通り遂に日本に上陸する。前作で生き延びた家族が引っ越した先の高層マンションがヤバイ土地だった!という、あまりにも運が悪すぎるストーリー。今回は前回以上に大惨劇が繰り広げられると評判なので、今から鑑賞するのが楽しみだ。
続いては『Impetigore』。こちらも『悪魔の奴隷』シリーズのジョコ・アンワル監督による作品だ。
道路料金所で働く女性が、ある日鉈を持った男性に襲われる。その事件を機に、彼女は自身の出自にまつわる謎に向き合うため、生まれ故郷の村に戻ることにしたのだが……。
この映画はアンワル監督作の中でも勢いは抑え目。だがその代わり、恐怖と邪悪さに満ち満ちたドス黒い内容となっている。冒頭から恐怖度はMAXだ。外に逃げ出すことが出来ない主人公に鉈男がジワリジワリと近づいてくるシーン、この時の長回しシーンの怖いこと怖いこと!この時点で十分すぎるほどにツカミはバッチリである。そして、主人公が同僚とともに村へと戻った後は、田舎ホラーを煮詰めたような展開が続き、厭な気分にさせてくれる。
血しぶきは控えめだけど、その代わりに地味に痛い描写が多く、結果としてキツさが増している。村の閉そく感、村人たちの得体のしれない動向、その中でゆっくりと真綿で締め付けられるような恐怖に支配されるストーリー。そのどれもが効果的に作用している。
アンワル監督が、元々得意としていた勢い重視のものだけでなく、テクニカルなホラーも撮れることを証明してくれた。
次に紹介するのは『The Queen of Black Magic』だ。孤児院出身の主人公たちが、かつて自分たちが暮らした施設の院長が間もなく亡くなるとの報せを受けて、家族とともに舞い戻る。だがそこで地獄絵図が始まる!という素敵なストーリー。これも1981年製作の同名ホラーのリメイク作。
本作を一言で表すと「大(おお)ゲテモノ」だ。黒魔術由来の呪いが孤児院の者たちに降りかかるのだが、その効果が体に無数の虫が入り込むわ、それが体から出てこようとするわ、気が狂って大量の毛虫を食おうとするわと、虫にまつわるものが多い!ある程度ホラー耐性が付いている人でもかなりキツイこと間違いなし。更にそれだけでなく、子供たちが全員死んだ上に怪現象に使われるなど、一切容赦のない展開も襲い掛かる。
物語中盤で、無人と思われたバスの中に乗り込んだ男を襲う恐怖シーンは本作の白眉とも言える。虫と霊のダブルパンチで生理的嫌悪感とシンプルな恐怖を一気に味わうことが出来る。クライマックスでは、それまでの展開を塗り替えるベスト・オブ・地獄絵図が待ち受けており、「も、も、もうおなか一杯です!!!」と懇願したくなるほどに凄い。間違いなく万人受けはしないだろう。そもそも日本にすら来ていないし。
だが、インドネシアホラーのエクストリームな一面を味わうには本作が最適だ。運が良ければ、YesAsiaなどの通販サイトでDVDを手に入れることが出来ると思うので、気になる人は探してみてほしい。ちなみに本作を手掛けたのは『マカブル~』でティモ・ジャヤントとモー・ブラザーズをやっていたもう一人の男キモ・スタンボエル。そして脚本はジョコ・アンワル。鉄壁の布陣ってわけです。そりゃこんなヤバイ映画に仕上がるわけですよ。
最後に紹介するのは『IVANNA』だ。本作は、インドネシアが放つホラーシネマティックユニバース『DANUR』シリーズの番外編。
こちらの監督もキモ・スタンボエルが務めている。私は『DANUR』シリーズは未見だが、それでも普通に楽しめた。かつて残虐な旧日本兵によって人々が蹂躙された曰くつきの土地。そこには今も怨念が渦巻いている。ある時、一人の女性が地下室で等身大の首なし人形を発見する。それがきっかけで、恐るべき首切り大惨劇が開幕することとなる……。あらすじの時点で満点ですね。
前半は控えめな恐怖描写で不穏な空気を練り上げていく。暗い地下室で見つかる不気味な土人形。それが映るだけでだいぶ怖い。不穏さが極まり、女性が人形に対して背を向けた瞬間、ふわーっと立ち上がって音もなく近づいてくるシーンはかなり鳥肌が立った。
今のインドネシア映画って、こういうマジの怖がらせ方が出来るんですよね。その他にもさりげない技巧派スケアシーンの目白押し。この積み重ねで緊張感を高めてお膳立てが完了したら、いよいよ始まる後半のカーニバル(首狩り祭り)!!!ここからはいよいよインドネシアエンタメの暴虐要素が本領発揮!インドネシアの霊は首を切るのではなく、千切り取る!首無し女が物凄い怪力で相手の頭部を持ち上げ、ブッチィィと取る映像は凄まじいインパクトです。
静かな前半とは打って変わっての残虐祭りだけど、決して作品が空中分解しているわけではなく、1つのトーンの中でバリエーションが付いているような感じなのが素晴らしい。100%活かしきっているとは言えないが、主人公の弱視設定も恐怖を倍増させる。
過去の惨劇を現代にリンクさせる際の映像センスもいい。ぶっ飛んだ映画だが、大味ではなく、細部まで作りこまれている。スピンオフでこの満足度なら、きっとDANUR本編も面白いんだろうなあ。どこかの配給さん、日本に持ってきてくれませんか!!
以上5本の作品を紹介しました。インドネシアホラーって中々日本に来なくて、見られない作品がとても多いんですよね。呪餐が売れて、まだ見ぬ多数の作品が日本に来ることを願っています。
今回紹介した映画の予告編たち
©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC. これまで、世には沢山の殺人アニマル映画が生まれてきた。サメ映画は、『ジョーズ』を筆頭にアニマルパニックというジャンルの拡大に最[…]
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