サメやワニの次はこれだ!新時代のアニマルパニック映画『キラーカブトガニ』レビュー

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

これまで、世には沢山の殺人アニマル映画が生まれてきた。サメ映画は、『ジョーズ』を筆頭にアニマルパニックというジャンルの拡大に最も大きな貢献をしたジャンルだ。また、巨大な体格と殺傷能力を持ち、現実の世界でも脅威となるクマを題材にした映画も多い。『グリズリー』や『ワイルド・グリズリー』などが製作され、2023年にはコカインを食べたクマが暴走する期待作『Cocain Bear』も控える人気ジャンルだ。

ワニは水陸両用という優れた性能もあって、あらゆるシチュエーションで使われてきた。『アリゲーター』や『U.M.A レイク・プラシッド』、『クロール 凶暴領域』など打率が高いのがワニ映画の特徴である。『アナコンダ』や『パイソン』などの名作ヘビ映画も忘れてはならない。

クロール 凶暴領域
(C) 2019 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

ここら辺がアニマルパニック映画の代表だろう。ここに追従する形で犬パニックや魚パニックなど様々な生物の襲撃映画が存在する。近年ではクラゲホラーなどの珍作も出現、サメ・ワニ・ヘビ・クマもここ数年でまた新作が増えてきており、2週目に入っている感がある。そんな状況もあり、流石にもうこの手の映画は出尽くしただろう、と思っていた。……あったんですよ、まだ人間に反旗を翻していない生物が。しかも、人間どもに復讐する動機もある奴ら。そう、カブトガニである。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

まず、あらすじから紹介していこう。舞台となるのは、とある海沿いの田舎町。一見何の変哲もないように見えるが、実はここには原子力発電所があった。それは廃炉となり爆破処理された何事もなく無事完了したかに思えた。しかしそれから町では人が行方不明になり、見るも無残に損壊した死体が発見された。一体何がこんなむごい事を……。サメか?ワニか?どれもこんな傷は残さない。こんなことが出来るのはカブトガニしかいない!実は、放射能の影響により突然変異し、凶暴化して殺傷能力が増した殺人カブトガニの群れが、一連の惨劇を引き起こしていたのだ!!

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

この映画、実はかなりちゃんとした映画だ。カブトガニが人を襲うという、一見頭がおかしい設定にも思えるが、よくよく考えたらカブトガニはこれまで人間に捕らえられては血液を抜き続けられてきたわけで、これまで容赦ない扱いを受けてきたため動機は十分だ。カブトガニを殺人動物として扱うのは理がかなっていると言えるだろう。ストーリーも無茶苦茶ではなく、上述したあらすじからも分かるが、ド直球の王道である。『ジョーズ』のような、街で少しずつ異変が起き始め、それに皆が気付くころには手の付けられないことになるという展開だ。徐々に異変を積み重ねて、話を盛り上げていく。ド頭で一発、ビーチセックスをしているカップルを挨拶代わりに惨殺するツカミもバッチリだ。こうして振り返ってみると、その真っ当な仕上がりに感心させられる。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

優れているのは話の組み立てだけではない。物語の核となるキャラクターの描写も抜かりが無い。本作でカブトガニと戦うメインキャラは、足が不自由で車椅子生活を送る少年フィル(ディラン・ライリー・スナイダー)と、彼とクラスメイトの少女マディ(アリー・ジェニングス)だ。この2人が本当に魅力的なのだ。

フィルは少し自分の身体にコンプレックスを持っているが、明るく快活なマディは彼にフラットで接してくれる。友情とか一緒につるむみたいな感じだったが、いろいろあってちょっとだけ男女の関係を意識してしまう場面も。そんな日常ドラマが予想外に甘酸っぱく、カブトガニが出ていない場面でも違う意味でドキドキさせられる。マディが本当にチャーミングで、これはジャンプのラブコメ漫画の実写化か!?と錯覚してしまう場面もある。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

繰り広げられるのは、少年少女の青春だけではない。マディの母親アナリス(ジェシカ・モリス)は彼女たちが通う学校の教師で、更にはフィルの兄で警官のハンター(ブライス・ダーフィー)はその元教え子。ハンターは学生時代にアナリスに恋をしていた。弟と娘が仲良くすることで、2人も再び関係が近くなるという大人の関係性も盛り込まれているのだ。そんな2Way恋模様がカブトガニ連続殺人事件に違和感なく組み込まれているという、にわかには信じがたい離れ業が見事に決まっている。これを1本の映画として成立させた監督の手腕を評価せざるを得ない。

こんな素敵な作品を手掛けたのは、ピアース・ペロルゼイマーという男だ。聞いたことのない名前だが、それもそのはず。彼はこれまでプロデューサーとして映画製作にかかわったことがあるものの、監督として手掛けたのは本作が初めてなのだ。1作目でいきなりこのクオリティとは。彼は本作を完成させるまでに6年もの歳月を費やしている。2015~17年にかけて撮影を行い、視覚効果の完成までに2年以上もかけ、更に音響デザインには1年ほど使い、ようやく完成に至った。苦労に苦労を重ねて作り上げられた渾身の一作というわけだ。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

いったい何故デビュー作でこんなに面白い作品を作る事が出来たのだろうか。監督は海外メディアのインタビューで、とあることを語っていた。映画を形にするうえでキャラクターがいかに大切か、ということだ。観客が登場人物に愛着を持たなければ、どんなにキャッチーな題材でも、どんなにクールな特殊効果や物語があっても、ストーリーに入り込んで貰えない。だから、登場人物がどれだけ魅力的に描けるかに最も注力したのだと。

これは本当にその通りで、本作はまさにその狙い通りになっていると思う。前述した通り、フィルとマディの二人やその家族は非常に愛着を持てる素敵なキャラクターで、カブトガニが出ていない場面でも十分引き込まれるし、なんならカブトガニなしの日常ドラマ映画であっても楽しめたと思う。人物描写をしっかりと行ったうえで、カブトガニという飛び道具をブチ込むことで、最大限の楽しさを引き出している。ただ突飛なアイデアを放り込むだけでは映画としては二流。ピアース監督は、それをちゃんと分かっている。あと先ほどは書いてなかったが、メイン4人と行動を共にするラドゥ君(チェイス・パジェット)というキャラもかなり強烈で最高だ。脇のキャラクターの存在感を出すことも忘れない。全てのキャラから生命を感じる。こうした丁寧な仕事ぶりが、本作をその他の映画と一線を画す存在へと引き上げている。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

また、監督が本作を作るうえでもう一つ意識していたのが、「14歳の自分が楽しめる作品にする」ということだ。彼が好きなあらゆる要素を詰め込んだホラーコメディにしたいというコンセプトが大元になっている。確かに、グロくはあるが陰惨ではなく、『グレムリン』や『クリッター』などに近いコミカルさが前面に出ている。他にも、『スパイダー・パニック!』からもインスピレーションを受けているとの事。作品のチョイスが最高ですね。確かに、カブトガニがピーギャーかわいい声で鳴いていたところは完全に『スパイダー~』だった。

街を襲い始めたカブトガニがDJをしてノリノリな曲を流したり、バーを乗っ取って酒を浴びるように飲むというオモシロシーンもある。後半はゲラゲラ笑える見せ場が特盛で、監督が心の底から楽しんでいることが画面からヒシヒシと伝わる。カブトガニとカブトガニ海神の大暴れだけでも十分元が取れるが、終盤はそれに輪をかけてヤバイことになる。クライマックスには、目を疑うような凄い見せ場が待ち受けている。カブトガニのポテンシャルをこれ一作で全て引き出すという強固な意志を感じる。こういう出し惜しみのない作品は本当に好きです。

©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

監督が良い映画を生み出すには何が大事かを明確に理解しており、更に自分自身が楽しむ姿勢を崩さない。客観的な感覚を持ち、自分のやりたいビジョンを明確にしているからこそ、初長編でここまでの作品を生み出すことが出来たのだろう。本作は、お世辞抜きで名作なので、新たなモンスターパニック映画の大当たりを求めている人は絶対に観ましょう。きっと救いになるから。

ちなみに、ペロルゼイマー監督は早速次作の構想も始めている。今回は初めての長編かつ手探りのところも多かったこともあり、製作にかなり長い時間を費やしてしまったが、今回の経験でノウハウを積んだので、次作の完成にはそれほど時間はかからないという。その気になる内容は、一言で言えば中世版『ザ・レイド』、もしくは剣の『ジョン・ウィック』だそうだ。『キラー・カブトガニ』とは真逆のひたすらシンプルな復讐劇になるだろう、とのこと。これも非常に楽しみだ。一体どんな映画になるのだろうか。ピアース・ペロルゼイマーは、これからも追っていきたい監督の一人となった。

キラーカブトガニ作品情報

廃炉となった原発が爆破処理されたカリフォルニアのある海辺の町で、謎の行方不明事件が続発し、白骨と化した人間たちが発見される。保安官は当初、人喰いザメの出現を疑ったが、被害者たちを襲ったのはサメではなく、なんとカブトガニ。それも放射能の影響で凶暴化し、さらに巨大化したカブトガニの群れだった!
やがて一匹の殺人カブトガニがゴジラ級に巨大化し、町は壊滅の危機に陥る…。

公式HP:https://killer-kabutogani.com/

監督・脚本・製作:ピアース・ベロルゼイマー
出演:カート・カーリー/ロバート・クレイグヘッド/
アリー・ジェニングス/プライス・ダーフィー/他
2021 年/カナダ/カラー/DCP/R15/80 分/
協力:エデン/配給:エクストリーム
©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

2023年1月20日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、
新宿シネマカリテ 他 全国ロードショー!

created by Rinker
¥1,650 (2023/02/01 21:13:42時点 楽天市場調べ-詳細)
真・事故物件/本当に怖い住民たち
最新情報をチェックしよう!