バイオレンス&パイロキネシス!新世代スパニッシュホラー映画『エブリワン・ウィル・バーン』レビュー

人間食べ食べカエル

今年も「未体験ゾーンの映画たち」の開催に伴い、様々な映画が国内に入ってきている。アルゼンチン発の暴走SFホラー『プッシーケーキ』や、彼氏が犬の格好をしている人を飼っているのが発覚する『犬人間』など、普通の劇場公開作品では中々出会う事が出来ない独創的なラインナップとなっている。

そんな個性豊かな作品群の中で特に異彩を放つ作品がある。それが今回紹介する『エブリワン・ウィル・バーン』だ。

舞台はスペインの小さな村。主人公の女性マリア(マカレナ・ゴメス)は、数年前に息子を自殺で亡くしていた。彼女はその悲しみを乗り越えることができず、自らもまた身を投げてその人生に終止符を打とうとしたその時。彼女が橋から身を乗り出したところで、目の前に謎の少女ルシア(ソフィア・ガルシア)が現れる……。

本作は、いきなり主人公が自殺を試みるという強烈なスタートを切る。そこに見知らぬ少女が現れたことで、マリアはやむなく飛び降りることを止めて、その子を村に連れ帰ろうとするのだが、道中で2人の警官に呼び止められる。

マリアに対する横暴な取り調べを目の当たりにしたルシアが警官をにらむと、突如警官の1人が動き出してもう片方を殺害!残った方は全身発火して直立不動のまま炎上!!

急激なバイオレンス&パイロキネシス展開に驚愕させられる。そう、この映画は超能力要素の入ったホラー映画なのである。

画作りが格調高く、まるで文芸作品のような趣があるため、余計にそのギャップにビビらされる。ツカミとしてはこれ以上ないほど完璧だ。『エスター』かな?と思わせてからの実は『炎の少女チャーリー』でした!と意表を突かされ、観る者を一気に作品に引き込む。

しかし、本作で人が燃えるのはそこだけ。ルシアがマリアの住む村に訪れてからは、そこに伝わる言い伝えや村人たちの入り組んだ人間関係によって、ストーリーが複雑怪奇にねじ曲がり、ホラー味も増していく。

本作は、70年代を思わせる独特な画作りと美術も相まって、まるで異世界のファンタジー劇を観ているようだ。レトロな作風が本作に独特な味わいをもたらしている。

マリアは村人たちから疎まれ、孤立しながら生活を送っている。そこに謎の少女を引き連れてきたことで、まるで魔女のような扱いを受けることとなる。村人と主人公たちのドロドロの詰り合いは見ていて痛くなりそうになる。不快感を煽り方が非常に巧い。やがて、周りから排除されるマリアの復讐とばかりに、ルシアは超能力を駆使して村人を抹殺し始める。

この殺害描写も一つ一つが全く異なる趣で、かつ手の込んだ死に様を画面に映し出してくれる。風呂やトイレなどで殺される人たち。抗えない力によって自ら死を選ばされる様には、かなりゾッとさせられる。

サイキックを駆使した殺しはこれまで様々な作品でも描かれてきたが、得も言われぬ不気味さで差別化に成功している。いじめっ子たちがサイキックで死んでいく過程の恐怖度が最も高かった。

そんな恐るべき能力を持つルシアを演じるのはソフィア・ガルシア。小人症という身体的特徴を持つ彼女が放つ、得体のしれない不気味なオーラが見事だ。そして、なんといっても表情がいい。どんな時でも仏頂面を崩さない。そして目の圧が凄い。彼女ににらまれたら、思わず腰が引けてしまう。

全体的に落ち着いた作風で、物語のテンポもゆったりとしており、映像の美しさも申し分ない。その中に人をぶっ殺す超能力をブチ込もうものなら、普通の場合だと明らかにその要素だけ浮いてしまうものだが、それを映画の一部としてうまく馴染ませている。

この歪で完璧なバランスを生み出せたのは、ソフィアの説得力と迫力に満ちた演技のおかげだろう。彼女なくして本作は成立しない。

だが、この映画はソフィアだけに頼った一本足打法というわけではない。彼女に相対するマリアを演じるマカレナ・ゴメスの貢献も非常に大きい。序盤では息子の死を受け入れられず悲しみに暮れ、更にはルシアの超能力に翻弄されるといった、悲劇的な様子ばかりが描かれる。しかも村人から蔑まれるという酷いおまけ付きだ。

しかし、ルシアが憎い相手を抹殺し始めるころから、次第にマリアの顔つきや性格に変化が発生する。後半にかけては、彼女はまるで鬼神のような表情も見せるようになる。そして、スペイン語特有の巻き舌を全開にして啖呵を切る!他人を煽りまくる!!

この姿は、もう怖いったらない。序盤とはまるで別人の様相だ。でも決してキャラがブレているわけではなく、あくまでもシームレスに感情の変化を繋ぐ。完全な同一人物なのだ。マカレナによる、振れ幅の広すぎる演技にも圧倒されてしまった。2時間という決して短くない時間を鬼気迫る演技で引っ張り続ける。素晴らしいとしか言いようがない。

序盤は単純な超能力少女モノで進むかと思いきや、2人の演技にビビり散らかしているうちに話がどんどん入り組んでいき、やがて村人全員を巻き込んだ壮大なフォークホラーへと変貌を遂げていく。

40年前に起きた事象と言い伝え。神父たちも入り乱れ、それをルシアとマリアがかき乱し、村全体が混沌と化していく。終盤は更に様子が一変して、スペクタクルを感じさせる展開に突入。この話はどこに転がっていくのかと翻弄され続けた末に待つラスト。
スローテンポではあるものの、先を読ませない起伏に満ちた展開とエネルギーのおかげで、全く飽きることが無い。卓越した映像センスも最後まで尽きることはない。これは間違いなく映画館映えする。

複雑で奥深く、それでいてジャンル映画としての楽しさも忘れていない。かなり良く出来た映画だと思う。本作を手掛けたデビッド・へブレロは、これまで10年以上短編を撮ってきたクリエイターで、長編ではこの作品が2作目とのこと。それでここまで腰の据わった作品を撮るのだから驚きだ。

若干系統は違うが、少しアリ・アスターを思い出した。アート性を感じさせる作風とジャンル的な楽しさの両立(最近のアスターはちょっとアート寄りだが)、そして食事や人間同士の些細なやり取りから不穏な空気を最大限に引き出す手腕。この監督はそのうち物凄い大傑作を生みだしそうな気がする。

スペインと言えば、これまでにも『REC レック』や『ネイムレス 無名恐怖』などのジャウマ・バラゲロや、『MAMA ママ』でデビューし遂にはアメコミ大作まで上り詰めたアンディ・ムスキエティ、そして私の大好きな『永遠のこどもたち』を作り上げたフアン・アントニオ・バヨナ等々、数々のホラー映画監督を生み出したホラー先進国の一つである。

かつてはスパニッシュホラーなんて呼ばれ方もして大盛り上がりしていたこともある。今は少し下火になった感じもあるが、そこに本作が現れた。スペインには、まだまだ面白いホラーが生み出される土壌が豊富にある。それを再確認させてくれる強烈な作品だった

そして、ここからは余談だが、そうした作品を拾い上げる未体験ゾーンの重要性も見逃すことはできない。先日、別のコラムでも書いたのだが、円安が進んでから明らかに日本に来る映画の数が減っている。特にビデオスルーや僅かな劇場で公開するような作品が、だ。未体験ゾーンではそこから零れ落ちた作品をチョイスし、スクリーンに届けてくれる。この功績は大きい。イベントのおかげで出会えた作品は沢山ある。本作もそうだ。これからもこのイベントを通じて多くの作品と出会えることを祈っている。

作品詳細

スペインの小さな村で、マリアは、数年前にいじめによる自殺した息子を乗り越えられず、自らの人生を終えようとしていた。そんな彼女のもとに、奇妙な少女ルシアが訪れる。

オリジナル/タイトル: evryonewillburn
ジャンル :ホラー
製作国: スペイン
製作年: 2021年
収録時間: 125分
上映フォーマット: DCP
言語:スペイン語

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