【再見再考】シャイニング【ウルトラスーパーマスターピース】

ムービーナーズ読者の皆さん、おコンバンハ!始条 明(しじょう・あきら)です。タイトルだけは誰でも知ってる超絶大傑作を改めて観てみよう、という本連載『再見再考!ウルトラスーパーマスターピース』第二回は……スティーヴン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980)!

人里離れたロッキー山脈に建つオーバールック・ホテル。深い雪に閉ざされるためシーズンオフとなる冬の間の管理人として、ジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)一家がやってくる。アルコール依存症に苦しみながら小説家を目指すジャックと、彼を献身的に支えようとする妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)、そして息子のダニー(ダニー・ロイド)は、過去に起こった惨劇の記憶が色濃く刻み込まれたホテルで起こる、数々の超常現象に追い詰められていく……

言わずと知れたホラー映画の金字塔……ホラーっていうか まあ サイコスリラー?このへんの分類は人によっても違うからなあ。とにかく怖い映画の代表と言ってもいいでしょう。
2019年には40年後を描いた続編の『ドクター・スリープ』(正確には原作の続編の映画化?なんだけど まあ実質続編ってことで)が公開されたり、2018年の『レディ・プレイヤー1』でもガッツリオマージュされたシーンがあったりと、現代まで影響を及ぼし続ける本作。このへんをキッカケに初めて観た!って人も多いかも。

この映画のみどころ……というか有名ポイントをまず挙げるなら、やっぱりこの顔!怖い映画には怖い顔ですよ。名優ジャック・ニコルソンが演じた怖すぎパパのジャックはもちろん、ウェンディ役のシェリー・デュヴァルのビビりまくる顔がまた怖い。お化け屋敷とかでも「怖がる人の叫び声の方が怖い!」ってよく言いますけども。やっぱりこういうホラー映画、怖がらせてくる方よりリアクションのインパクトがあってこそ恐ろしさが補完されるんじゃあないでしょうか。

小説執筆に行き詰まって焦燥と苛立ちを抱えたジャックがホテルに渦巻く”何か”にだんだんと魅入られていき、とうとう愛していたはずの家族に斧を向けるように……というのがオーバールック・ホテルの怪異、なんですけども。ぶっちゃけこのジャック・ニコルソン、最初からだいぶ怖いんですよね。常に罵声を浴びせてくるとかじゃあないんだけど、言い訳ばっかり垂れながら何でも人のせいにする薄っぺらい野郎で、それでいて”一家の主”ぶってるヤな感じ。

このへんのキャラクター解釈は原作小説とかなり違ってたりして(原作だと”善人だったのに依存症やホテルのせいで”って感じがもっと強い)……この『シャイニング』、よく言われるのが「違いすぎて原作者激怒!」みたいなやつね。そういう話の例としてよく挙げられちゃうんですけど、まあ実際……読んでみると……だいぶ違う!そもそも『シャイニング』ってタイトルの通り、主題として描かれてるのは息子のダニーが持つある種の超能力(コレの呼称が”シャイニング”)であって、ホテルに取り憑かれたおっちゃんではないんです。

とはいえ!この怖すぎるジャックと怖すぎるホテルが世界中の観客を恐怖のドン底に叩き落としたのもまた事実。なんなら、トランス一家がホテルに向かう車中の場面からもう怖い。ジャックがいつブチキレるかわかんないんですよね。当時5歳だった息子役のダニー・ロイドには、撮影している作品がこんなに怖いホラーだとは知らされていなかったという逸話もあったり……(これホントかよ!?ダニーの演技がいちばん怖いぞ!)

あとはやっぱり、惨劇の舞台となるオーバールック・ホテルの魅力は外せないでしょう。名作には名舞台がつきもの、特にホラー映画には変なお屋敷がよく登場しますが、オーバールック・ホテルといえばその最たるもの。雪によって外界と隔絶されたためか、過去の惨劇の記憶のせいか、はたまたホテルの建つ土地のせいか、時空すら超越した怪現象が次々と現れ……っていう。言うなれば家系ホラー?お化け屋敷、だとちょっと可愛すぎるか。

ところでここ数年、インターネット上では“Liminal Spaces”って概念が流行ってるんですけども。一見は普通の部屋なのに、ひと気がなくてなんとな〜く不気味な、不安をかき立てられるような……それでいて、どこか懐かしさを感じさせるような……でもやっぱり居心地の悪い空間というか……そんな感じの。誰もいない地下鉄駅の通路とか、百貨店の薄暗い階段とか、妙に明るい古びたショッピングモールとか。人によってビビッとくる場所は違いつつ、みんな何かしら体験したことはあるんじゃあないでしょうか。

で、このLiminal Spacesにインスパイアされて製作された短編ホラー『The Backrooms (Found Footage)』も、こんど長編映画になるとかで。こういう“なんかヤな空間”がね。ナウなヤングにバカウケなんです。個人的には「あ、この感覚って割とメジャーだったんだ……」って若干落ち込みつつ(めんどくさいオタクなので)、世界中のこういう風景が集まってくるのはうれしかったりもしつつ。こういう感覚の原体験のひとつが『シャイニング』だったって人、けっこういるんじゃないかなあ〜〜。あとは『バイオハザード』(ゲームの方)の洋館とか。

ステディカム(手ブレを抑えてスムーズに移動できるスタビライザーつきのカメラ)が撮影に使用された最初期の作品としても知られるのが『シャイニング』。豪華で重厚なんだけど、どこか寒々しくて”死”の気配がずっと漂っているかのような、閉め切られた無人のホテルの廊下や室内を……シンメトリー(対称的)に捉えながらヌ〜ッと追いかけるショットの数々。これがなんとも不気味なんですよね。ワッ!て驚かせるワケでもなく、お話が怖くてゾッとするワケでもなく、とにかく映ってる空間が怖い、っていう。映像芸術として歴史に残る一本なのも確かにうなずける迫力があります。ホテルの内部はロケじゃなくてスタジオ撮影ですが、実際あったとしたら絶対近付きたくないですし……いや むしろ行きたいような気もする……けどやっぱりヤかな……

ただね〜〜。凝りに凝った映像芸術、を極めようとするあまり、ちょっと……いや だいぶやりすぎちゃったエピソードに事欠かない本作。100回以上のリテイクを重ねた、とか シェリー・デュヴァルの怯える演技を引き出すために撮影現場でも彼女を追い詰めた、とか。完璧主義者として有名な巨匠キューブリックとはいえ、現代だと絶対ダメ……というか当時でも普通にダメだったとは思うんですが、そういったハラスメント一直線な手法がまかり通ってしまっていたのが悪しき過去。

映画は人間が作るものであって、しかも時代を超えて楽しめちゃうだけに、こういう……内容とはまた別の部分でキツさが出てきちゃう作品ってのは、どうしてもあるんですよね。それが役者なのか製作陣なのか、はたまた作品のための行為ゆえなのか私利私欲のためなのか(これは本当にダメだけど)……ケースバイケース、って言っちゃうとかなり乱暴ですけども。特に過去の作品を楽しむにあたっては、こういう線引きって人それぞれ、おのおの自分勝手に引いちゃっていいんじゃあないかなと思っていて。
メチャ好きな作品だったけどこの人が無理だからもう観ない!っていうのも まあ〜辛いと思うし、逆に それはそれとして切り離して楽しもうぜ!っていうのも そんな簡単に割り切れる話でもないと思うので……そのキツさ無理さの発端、問題点についてちゃんと考えていくことも それはそれで別に進めつつ、最終的には自分の中でどう折り合いをつけるか、の問題になってくるんじゃあないかな〜と思います。

最後に本作で一番のみどころをご紹介しておくと、料理長ハロランさんの自室の壁に飾ってあるエッチポスターです。なんでこの部屋までシンメトリーなんだ。

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ムービーナーズ読者の皆さん、こんにちは!始条 明(しじょう・あきら)と申します。ムービーのナードをやっています。やっていたところお声がけいただき、今回から記事を連載させていただくことになりました。 僕と同じくムービーのナードな皆様に[…]

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