『ジェイコブス・ラダー』のリメイク版を発見したので、オリジナルと比較してみた(ネタバレあり)【誰得】

公開されると、ほぼ100%賛否両論を巻き起こすといっても過言ではない映画のリメイク

あれだけ完成度も高い『サスペリア』(18)でさえ、リメイク版は賛否を巻き起こしました。(私はリメイク版のほうが好きです。人体がブレイクダンスするシーンとか…)

実は2020年1月に、あるカルトムービーのリメイク作がひっそりと公開されていました。

それは1990年に制作された『ジェイコブス・ラダー』です。

ティム・ロビンスが主人公のジェイコブを演じ、戦争から戻ってきてもなお、夢と現実の区別がつかなくなる苦悩を描いたサイコスリラーです。

私は劇場公開を見逃しましたが、最近レンタル店でリメイク版『ジェイコブス・ラダー』を発見。オリジナル版も未見だったので、この機会に2作品を連続で見て比較してみました。

(2本ぶっ通しで鑑賞しました。リメイク版は上映時間1時間半です。)

オリジナル版『ジェイコブス・ラダー』について

(海外版予告)

1971年、ベトナム戦争に出兵していたジェイコブ・シンガーは敵兵の奇襲を受け、仲間を次々と失ってしまう。さらにジェイコブ自身も瀕死の怪我を負うと、次の瞬間にはニューヨークの地下鉄で目を覚ました。しかし地下鉄には得体のしれない化け物が乗り込んでおり、この時を境に、ジェイコブは奇妙な幻覚や悪夢に襲われるようになる。ジェイコブは1971年のベトナム戦争で、軍が何かを隠しているのではないかと考えるが…。

(C)1990 StudioCanal. All Rights Reserved.

ジェイコブの見る悪夢やグロテスクな化け物は、ストーリーの怪奇さも相まって、今なおカルト的人気を誇っています。一方、リメイク版『ジェイコブス・ラダー』はと言うと…。

リメイク版『ジェイコブス・ラダー』について

(C)2019 SIX FINGERS LLC. All Rights Reserved

ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催された「未体験ゾーンの映画たち2020」で上映されたリメイク版『ジェイコブス・ラダー』。

ビジュアルから溢れんばかりのビデオスルー感が出ていますが…ちゃんと劇場公開されました。

あらすじ

アフガニスタンで兄を亡くしたジェイコブは、現在は退役軍人病院の外科医として成功し、愛する妻子にも恵まれて悲しみを乗り越えつつあった。そんなある日、彼は見知らぬ男から、兄が生きており他の退役軍人たちとともに地下シェルターで暮らしていると告げられる。その日から、ジェイコブの身に様々な異変が起こるようになり……。

あらすじの段階から、オリジナルにはなかった兄の存在が…。どうやらかなり大胆な改変がなされている様子です。

■ストーリー面を比較してみた(ネタバレあり)

(C)2019 SIX FINGERS LLC. All Rights Reserved

わかりやすいように、まずはストーリー面で『ジェイコブス・ラダー』の違いを箇条書きにしてみました。

・リメイク版には兄(アイザック・シンガー)がいる。
・オリジナルは退役後、郵便配達員だが、リメイクは外科医として裕福な生活
・オリジナルでは別れているが、リメイクには一緒に暮らす妻と子どもがいる
・ラダーと呼ばれる薬物の効果が違う。オリジナルは恐怖や怒りの感情を増幅させる。リメイクはPTSDを抑える、開発途中の薬物。
・オリジナルは現実と夢の区別がつかないのに対し、リメイクはジェイコブが自らドラッグ中毒になっている。

リメイク版『ジェイコブス・ラダー』ではジェイコブに兄(アイザック・シンガー)が登場します。オリジナル版にはない設定がいきなりぶち込まれていました。

軍に所属していた過去はオリジナルと同じですが、リメイク版では弟・ジェイコブが衛生兵、兄・アイザックは戦前で活躍する兵士です。しかしアイザックは戦死。ジェイコブだけが帰還しました。

性格は真面目なジェイコブに対して、アイザックは問題児。それゆえ兄弟仲はあまり良くない様子…。

このアイザック、本当は戦死しておらず、地下シェルターでホームレスとして生きていたのです。しかし戦争のトラウマから逃れるため、HDA(通称・ラダー)と呼ばれる薬物に溺れていました。

しかし、アイザックの生存が明らかになったことで、ジェイコブの日常はどんどん狂っていきます。

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それもそのはず、実は薬漬けになっているのはジェイコブの方で、アイザックとジェイコブの立場はずっと逆転していたのです。

…という具合に、およそオリジナルとは別物のようなストーリー展開が巻き起こります。

オリジナルではジェイコブをはじめとする、当時戦争に参加したメンバーが、知らない間にラダーという薬物を投与されていた事実が発覚。
さらに、それまで観客が見ていたジェイコブの日々は夢(走馬灯?)で、その夢から覚めること無くジェイコブは戦死するというラストでした。

ものすごくざっくばらんに言うなら、リメイク版はジャンキーの話なのです。
そのせいもあって、オリジナルがはらむカルト的要素は殆どなくなっていました。

演出面を比較してみた

(C)1990 StudioCanal. All Rights Reserved.

一方で、演出面に関してはオリジナルをオマージュする場面がいくつか見られます。

例えば最も印象的なシーンとして知られる、ジェイコブが氷水の張ったバスタブに突っ込まれる場面。
ご丁寧にバスタブの色や形までオリジナルに近づけていました。

しかし、リメイク版でバスタブに突っ込まれているのは、ジェイコブではなく兄のアイザックです。(ただし立場が逆転しているので、実際入っているのはジェイコブ。文字にするとややこしい…)

(C)2019 SIX FINGERS LLC. All Rights Reserved

ほかにも地下鉄で化け物を見るシーンや、突然車に追いかけ回されるシーンのオマージュも見られました。

さらにリメイク版では、オリジナル版のネタバレ要素がチラチラと見えたのが気になります。
例えば地下鉄の広告枠に、「この光景は夢の中の夢に過ぎない」と書かれていたり、ジェイコブのカウンセラーはオリジナルのラストで語られた台詞をそのまま引用して喋っていました。

(C)2019 SIX FINGERS LLC. All Rights Reserved
(リメイク版のワンシーン。オリジナルはこのとおりですが、リメイク版は違う気も…)

とはいえ、ストーリーがかなり別物なので、オマージュを見てもイマイチ乗り切れないのもまた事実。

そんな中でも、リメイク版できらりと光る演出は、ジェイコブがラダーでバッド・トリップをしてしまい、現実から逃げるようにゆきずりの女性とセックスするシーン
ここで見る幻覚がかなりギラついており、めちゃくちゃ強そうなサキュバスとファックしてるみたいになっていました。これはなかなか見られない幻覚シーンです。

『ジェイコブス・ラダー』リメイクから見るか、オリジナルから見るか。

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結論から言うと、やっぱり『ジェイコブス・ラダー』はオリジナル版が強いです。

今から30年前の作品にも関わらず、不気味なクリーチャーの造形や、精神を病んだジェイコブが見る幻覚のグロさなどが脳裏に焼き付いて離れません。
忖度抜きにして、私は断然オリジナル派です。

ただオリジナル版『ジェイコブス・ラダー』は、あまりにも精神世界を禍々しく描いているため、「最近映画を見始めました!」みたいなライト層には勧めづらい…。

その点、リメイク版は(ちょっと強引な気もしますが)ジェイコブとアイザックの立場が逆転するどんでん返しが待ち構えているため、オリジナルを見ていなければ、純粋に驚きの展開となります。

ぶっちゃけリメイク版を見る上で、演出面のオマージュは知らなくてもあまり困らないです。
むしろリメイク版を見てからオリジナルを見て「あのシーンは本来こういう場面で使われたのか!」と感動できてお得かも…。

ということで、『ジェイコブス・ラダー』はオリジナルが好きな人は見なくても困らないけど、映画にハマり始めた人に勧めるならリメイク版のほうが吉です!

ただし個人的に、リメイク版で最も賛否が分かれるのは、本編よりエンドロール曲だと思っています。

その点も含めて気になる人は、是非リメイク版も観てみて下さい…!

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