まさかのまさか、あの胸クソ映画『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』が
『アングスト/不安』に改題し7/3からリバイバル上映が決定!
個人的にはどういう経緯でいま劇場公開するのかその裏話を知りたいところですが、以前拝見したことがある身として見どころを紹介しつつ、この作品を借りることができたレンタルビデオ店の思い出でも語らせてください。
公開当時に各地で上映打ち切りやビデオ発売禁止されているものの、実は意外と直接的なグロさはありません。ただそれでも胸糞悪い展開に演技・音楽・カメラワークが合わさることでここまで吐き気に直結するとは……。
ホラー好きでも作品自体から溢れ出る冷酷なトーンで風邪引いちゃうレベル。
「リアリティ」と言っちゃうと薄っぺらいなあと思いつつも、「自身の内面を投影させながら人を殺しているんだろうな……」と“殺人を理解してしまう”ような圧倒的な説得力に溢れています。それは全額自費で撮影した監督の執念から来るものでしょうか。
もし上映禁止されておらず今でも映画を撮り続けていたら今頃どんな怪作が生まれていたろうかと残念に思う次第。
殺人者の内面を見せていくその一方で殺人に対して肯定的ではなく一線を引いている作りが上手いなと。いわゆるこの手にありがちなシリアルキラーものってどうしても動機が芸術的心意に寄りがちだと思いますが、今作の主人公Kに関しては「狂人」と言う他ない動機の不明解さ。そういう意味ではモンスター映画にカテゴライズしてもいいかもしれません。
この“狂人”の異常行動と心理状態を冷酷かつ非常なタッチで描き、思いつきで撮ってないかコレとすら思う不安を煽る斬新なカメラワークで狂気を表現した映画は他に類を見ないです。『吐く自信がある』人以外全員にぜひ観てほしい作品でした。
さてこの『アングスト/不安』こと旧題『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』ですが、日本ではビデオレンタルされたものの見た者がほとんどいないとすら言われています。自分がこのビデオを偶然借りられたのはとあるレンタル店の店長のおかげでした。
当時都会から離れた大学近くのアパートに住んでいた私は、知り合いからテレビデオを譲り受け、DVDレコーダーを手に入れるまではビデオで乗り切っていました。
駅前のツタヤで目ぼしいCDやビデオ(そしてAV)を借りきった私は、その貪欲さ、そして性欲から隣町のレンタルビデオ店へ50分近くかけて徒歩で向かうことに。
ガラケーで必死にgoogleと地図を駆使し辿り着いたその店はスナックを居抜きしたかのような珍妙な佇まいで、窓一つない外装はあまりにも一見さんお断りの面構えでした。
とはいえ映画への果てなき欲求とAVへの欲情を内に秘めた私に怖いものはありません。
お店に入ると意外や意外、ふつうのレンタルショップでした。そう、店長以外は。
ヒゲも髪もモジャモジャのその店長はご新規かつ20前後のガキが珍しかったらしく。メンバー登録する際にいろいろ質問責めにあい、大学名、好きな音楽、今で見た映画、ここに来た理由など根掘り葉掘り1時間近く聞かれました。そのあいだ客がまったく来ない(通った2年ほどの間ですれ違った客はジジイ2人と痴女1人でした)。
何回か通った頃に「大衆ロックしか聴かないお前に、聴かせたいバンドがある」とのことで、とあるCDを貸してくれました。
BOaTの『RORO』です。
今や知る人ぞ知る邦ポストロックの廃盤プレミアアルバムで、「神保町ジャニスに行くならぜったい借りてけ」と勧められていたほどの大名盤(ただ、今おもうと店長の年齢的にちょっと感性が若いなと少し可笑しくなります)。
そりゃあもう衝撃で、こんな凄いバンドがあったのに何故解散してしまったのか、なぜ軽音サークルの友人たちは知らないのか、たった6曲のCDに夢中になり、10枚近くMDに録音しサークルメンバーに配り歩いたのも今ではいい思い出です。
ROROをきっかけに完全に店長を信用しきった私はCDだけでなくビデオもオススメを借りるようになりました。
『ウィッカーマン』や『ナイトウォッチ』のリメイク元などいろいろ色々と借りた中の一つにあったのがそう、『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』。
こちらもROROに匹敵するくらい打ちのめされましたが、当時の私は何を血迷ったか当時いい感じだった子と一緒に観たわけですよ。……まあ結果は分かりますよね。
映画自体は面白かったのに「店長のせいで台無しになった!」と憤慨してしまった当時の私のバカ。
それ以降徐々に行く回数も減り、特に連絡先を交換するわけでもなく大学卒業と共に引っ越してしまいました。
数年前にふと思い出してgoogleマップであの店を探してみたものの、知らないマンションが建っていたのでどうやら潰れてしまったみたい。ブルーレイが普及し始めたくらいなのにDVDよりビデオが多い店だったのでやむなしとは思うものの一抹の寂しさを覚えずにはいられませんでした。
そんなこんなで7/3から上映が始まる『アングスト/不安』、皆さんが得体のしれない感情に包まれているなか、私だけノスタルジーを感じていることでしょう。タイミングを逃すとまた観られなくなるかもしれないのでぜひぜひ。
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