皆さん! 世界、行ってますか?

突然かつ雑な出だしで申し訳ございません。ヒロシニコフと申します。
世界中で作られている残酷なホラー映画ばかり観て暮らしているかわいそうな生き物です。以後よろしくお願いいたします。

私事で恐縮ですが、先日、勤め先の労働組合のレクリエーションがありました。普段なら組合員で食事に行くとか、飲みにいくとか、そんな感じのところ、今回はコロナ禍を受けて「リモート世界一周」でした。

みんなで自宅のPCから海外の風景の動画とかを観て、オンラインで歓談するんですね。家族で参加している組合員もいまして「ほうら、コアラだよ。すごいねー」とか子供に言ってたりして……。

いや、マジで勘弁してくれ。
俺が組合レクに参加するのは飯代を浮かすためだけなんだから! 
組合費、返せよ!

そんなわけで「リモート世界一周」をしながら僕は「あんたらが子供に雄大な景色を見せて悦に浸っているその国でも残酷な映画が作られてるんやで……」などとドス黒い感情を募らせていた次第です。

さておき、時節柄なかなか海外に行けていないなーという諸兄も多いのではないでしょうか。そこで今回はリモート世界一周の精神に則り、世界のいろいろな国で作られている残酷(ゴア)なホラーを紹介してしまおう! という企画です。
ちなみに僕はタイ以外の国に行ったことがありません。

それではレッツ、世界ゴア紀行!

ブラジル『ZOMBIO』(1999)

日本の裏側にブラジルという国があります。とても暑いところらしいのですが、みなさんご存じですか? 僕はタイしか行ったことがないので詳しくありません。
漢字で表記すると「伯剌西爾」となるこの国でも残酷なホラーが作られています。そこで紹介したいのがこちらの『ZOMBIO』です。

〈『ZOMBIO』あらすじ〉

カップルはバカンスのため離れ小島に。そこでは女魔術師が奇妙な儀式を行っており、死者が蘇り始めたのだった……。

こちらは自主制作のスプラッター。安価なビデオ機材で撮影されているので、再生しすぎた裏ビデオのようなボロボロの画質です。とはいえ、ゾンビメイクは安っぽくなく、『サンゲリア』(79)を思わせる腐乱ゾンビがたくさん登場します。これだけでも胸キュンですが、女魔術師が怪物に変身するなど、特殊効果も見応えたっぷり。もちろん、人間やゾンビの体がグチャグチャになり、内臓がボッコンボッコンほじくり返されるゴア描写も大きな見どころとなっています。

画面の安さや湿地というロケーションも相まって全体的に小汚い印象の映画ですが、それもまた魅力のひとつ。キレイな映画ばかり観ていたら「世界はなんて素晴らしいんだろう!」と勘違いをしてしまい、脳みそお花畑で社会生活を送り、取り返しのつかない失敗を犯すこと請け合いなので、こういった映画を観てバランスよく生きてくださいね。

ちなみに、本作を監督したのはペッター・バイエストーフという御仁。この方は90年代から現在に至るまで、ブラジルでひたすらスプラッター映画を作り続けております。監督作は30本以上! とんでもない情熱です。

その情熱に引き寄せられるように、ブラジルでは自主スプラッター映画のムーブメントが発生しました。多くの映画制作者たちがビデオカメラを片手にトランスグレッシヴな作品を作り始めたのです。
それらの作品群は今日「ゴアチャンチャダ」(「ゴア=血みどろ」と「チャンチャダ=ブラジルの伝統映画」を組み合わせた造語)と呼ばれています。
『デス・マングローヴ ゾンビ沼』(08)『シー・オブ・ザ・デッド』(13)を撮ったロドリゴ・アラガォン監督も、ゴアチャンチャダの渦中の一人です。

(C) 2014 Fábulas Negras – All Rights Reserved.
(C)2008 Fábulas Negras – All Rights Reserved.

そう、ゴア映画は世界のあらゆるところで作られているのです。では、次の国に行ってみましょう!ます。
まだまだ続くよ、世界ゴア紀行!

デンマーク『Glubsk: The God of Hunger』(1990)

「マッツ・ミケルセンです。こたつに入っています」でおなじみ、デンマークの映画です。

(画像はドクター・ストレンジ公式Twitterから)

え、デンマークの知識が薄いって? だってタイにしか行ったことがないからね!

『Glubsk: The God of Hunger』あらすじ

デンマークの街に佇む画廊。その中では画商が「とっておきの一枚」を上客に紹介していた。そこに描かれているものは暴食の神「グルブスク」。画商が呪文を唱えると絵からグルブスクが実体化し……。

先ほどの「ゴアチャンチャダ」もそうであったように、80年代後半より世界中で「ビデオ撮りスプラッター」が数多く作られました。これは高価だったフィルムより安価、かつ撮り直しも可能なビデオカメラ(カムコーダー)の台頭によるものです。
マッツの国、デンマークでも多くのビデオ撮りスプラッターが作られました。僕が把握しているのはおよそ20本近く。ただ、中心となる監督の不在により、ひとまとめに出来る呼称は存在していないように思えます。『Glubsk: The God of Hunger』もそんな中の一本です。マヌケ面の着ぐるみ怪物=グルブスクが腰をシャカシャカ振りながら、人間の腕や脊椎をブッコ抜く姿は、スプラッター描写こそ壮絶ながら何とも言えない珍妙さ。

「ゆるキャラ」っぽい着ぐるみと、中の人の奇妙な動きが相まって、なんだか観ていてほのぼのとしてしまいます。「まんがタイムきらら」のほのぼの指数を70とするなら、『Glubsk』は85くらい。

そんなほのぼのムービー『Glubsk』ですが、この映画にはひとつ大きな秘密があるのです。
そう、それはグルブスクの中の人の正体。

ドーピングした間寛平のような動きを繰り出すグルブスクの中の人。

その正体は……

ニコラス・ウィンディング・レフン

え?

©2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved.

ニコラス・ウィンディング・レフン

マジです。

そう、『ドライヴ』(11)などの作品で知られ、映画ファンなら誰もがその名を耳にしたことのある映画監督、ニコラス・ウィンディング・レフンがグルブスクを演じていたのです。

20歳のレフンは自主スプラッターに出演していた! となると、一見「黒歴史」的なものに思えます。だがしかし、レフンを舐めてはいけない……!

レフンは映画監督であると共に、重度のフィルム・コレクターでもあります。そして、その多くがニューヨーク42番街で上映されていた、いわゆる「グラインドハウス映画」のもの。さらにレフンは「サイテー映画監督」と名高いアンディ・ミリガン監督作品のフィルムを買い、リマスターまで行っています。気合いの入りまくったクズ映画コレクターなのです。

レフンがこの映画について公式に語ったことはありませんが(そもそもこの映画を誰も知らない)、おそらく誇りに思って……まではいないものの、決して嫌ってはいないのではないでしょうか。

最近「ニコラス・ウィンディング・レフン レトロスペクティブ」という特集上映が行われていたようですが、『Glubsk』が入っていないレトロスペクティブなんて俺は認めないね!! カーッ! ペッ! さあ次の国いくぞ次の国!!

フィンランド『The Defiler』(2016)

はい。あまりに頭が悪すぎるせいで、フィンランドもデンマークと同じく北欧であることを知らずダダ被りセレクトしてしまいました。だって学校で教えてくれないじゃない……。そんなの……。「世界」ゴア紀行と銘打ちながら3か国中2つが北欧です。許してくれるね?

『The Defiler』あらすじ

毒々しいネオンが輝く近未来の街。カルト集団に誘拐された恋人を取り戻すべく、バカ強い女が銃で、刀で、拳で悪党どもを抹殺する!

とにかく痛快、爽快、グロッとさわやか! 
柴田ヨクサルの漫画に出てきそうな強い姐さんが悪党どもの人体を破壊しまくる様がとにかく最高。これでご飯を無限におかわり出来る! 美味しいヤミー。
銃を撃てば頭部が破裂し、刀で2人まとめて首チョンパ! 「アクション」の域を超えたスプラッターっぷりに拍手喝采です。

また、映像の質も非常に高い! 『ブレードランナー』(82)直系な近未来ゲットーのビジュアルは胸が高鳴りますし、VFXとSFXの合わせ技はインディーズとは思えないほど。極めて現代的な映像感覚ですが、フィルムに直接描き込むタイプのアニメーション(ホラー好きの皆さんは『ヘル・レイザー』(87)を思い出していただきたい)を時にオマージュするなど「分かってる感」も全開。非の打ちどころがありません。

この映画を作った才人はアルトゥッリ・ロステン。2000年代前半より映画を制作し始め、これまでに15本近くの作品を作っています。

Artturi Olavi Rostén Linkd inより

デンマークしかり、北欧はスプラッターの選手層が厚いなあ、と思うばかり。
そういえばこんな言葉を聞いたことがあります。
「北欧では、スキーかメタルしかやることがない。あとは自殺するかだ」
運動神経もない、楽器もできない。僕みたいな人間は自死への一本道を爆走必至ですが、もしかしたらそれゆえ、ゴア映画制作が生きる糧になっている人々も少なくないのかもしれません。

たかがゴア映画、されどゴア映画。
世間的には忌み嫌われるこの存在が、もしかしたら誰かの救いとなっているのではないしょうか。

そんなちょっとキレイな言葉で世界ゴア紀行、逃げるように締めさせていただいたいと思います! 
ブラジルから北欧と寒暖差の激しすぎる移動をしてしまいました。皆さま、お風邪など召されませぬよう! ではまた!

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