イッツ・ゴアタスティック!『テリファー2』最速レビュー

もうピエロはお腹いっぱいだよう!

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』(17)の大ヒット以降、ピエロホラーは粗製乱造の一途を辿った。日本に入ってくるホラー映画は海外で制作されたもののうち、ほんの一握りなのだが、『IT』のヒットに便乗しようとあっちもピエロ、こっちもクラウンと、レンタルビデオ店の「ホラー新作」のコーナーが道化一色だったことは記憶に新しい。

さらにダメ押しのごとく『ジョーカー』(19)がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞してしまったものだからもう大変。ピエロ旋風はもはや旋風……などという生易しいものを超えて竜巻の域に。実際に『Clownado(ピエロ竜巻)』(19)などという映画も制作されてしまったので頭を抱えるほかない。あまりの殺人ピエロ人口の増加っぷりに、地獄にいるゲイシーも苦笑いだろう。

一目で分かる「あぁ…」感。でも案外面白いよ。
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そんなわけでビデオ屋の中心で冒頭の文句を叫んだわけだが、その最中にヒッソリと話題になった作品があった。それが『テリファー』(16)だ。本国で制作されてから約3年後に日本にやってきたこの作品は「ピエロ姿の男が人間を殺す」というひたむきなまでにシンプルな内容ながら、その残酷描写の強烈さが多くのホラー・ファンの目を惹いた。

鉤鼻に鋭い眼光、凶悪な歯並び……強すぎる顔面力を誇る、アート・ザ・クラウンと呼ばれるピエロが、ただ出くわしただけの人間たちを必要以上に残虐に殺害する。その殺害方法たるや、とにかく悲惨。ひたすら無残。特に『テリファー』の白眉である人体両断「ギコギコしちゃうぞ」シーンは、残酷耐性のある人間でも「何もそこまで……」と思ってしまうこと請け合いだ。

とにかくこのゴア描写の悪辣さ、質の高さにおいて『テリファー』は蟲毒のごときピエロホラー・シーンにおいて頭一つ抜けたと言ってよいだろう。

これは1作目
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この『テリファー』の持つ「残酷」というポテンシャルには、2つの要素が潜んでいる。

ひとつは監督のダミアン・レオーネの特殊効果マンとしての腕前だ。自主ホラーやアクション映画、戦争映画に特殊効果マンとして参加しているレオーネがクリエイトする残酷特殊効果は「切断面を見せきる」「破壊された人体の細部を大写しにする」あたりからも窺えるように質が高く、自信に満ち溢れたものだ。実際に特殊効果マンが手掛けたホラー映画はどれも残酷度が高いように思える。
ホラー廃人の諸兄はマーカス・コッチやライアン・ニコルソンの映画を思い出してほしい。知らない方はググって! 今すぐに!

そして残るは「話運びの粗雑さ」あるいは「無造作性」だ。

『テリファー』という作品には起伏が少ない
本来、劇映画においては必要不可欠だと思われるそれも、この映画においては取り除かれることで大きな効果をあげている。平坦なまでにひた続く殺戮。さらに殺人鬼に追われる被害者との攻防は、スラッシャー映画の「禁じ手」により、一切れのカタルシスなく、いともたやすく決着される。

スラッシャー映画は観客の目線を被害者と同化させるが、本作においてそれは常に突き放され続ける。いわば高揚感の排除だ。それにより観客にもたらされるものは、圧倒的な狂気と暴力を前にした絶望感、それに由来する胸糞悪さ、「イヤなものを観ちゃった」という嫌悪感だ。この喚起される感情が、視覚的なもの(惨殺された死体など)に合わさり、本作の残酷度を高めている。これはスナッフ・フィルムに近しい構成だ。

さらに言えば、60年代から70年代にかけて制作された「残酷な見せ場だけ用意したよ。あとはどうでもいいよね!」な映画愛など皆無に等しいエクスプロイテーション・ムービーに近い手触りと言える。

ダミアン・レオーネ監督がどこまでそれを意識したかは定かではない。それまで短編しか撮っていないがゆえの拙さか、あるいはエンタメ志向への反発か。その答えを見出す機会が訪れた。それが続編の『テリファー2』(22)だ。

ようやっと本題ですね、お待たせしました。

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『テリファー2』の制作がアナウンスされた際には、残酷映画大好き人でなし界隈が沸きに沸いた。
クラウドファンディングでおよそ3,000万円を集め「かつてないホラー映画を作ってやるぜ!」とレオーネ監督が意気込み、ポスプロの時点で公表された本編の時間は、およそ3時間近く。

ホラー映画においてロメロ以外は本編の尺が2時間を超えてはならない法律を大きく破ったそれは、期待を煽るとともに不安をも抱かせた。

最終的には138分とアナウンスされたが、前作の持っていたポテンシャルを活かすのであれば、ひたすら平坦に残虐な殺戮が138分続くことになる。

それはそれで最高だが、正直キツいなあ……と思わざるを得なかった。

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だが、蓋を開けてみると『テリファー2』は小規模公開ながら大ヒット。鬼畜映画『August Underground』(01)を監督したフレッド・ヴォーゲルは「ゴアタスティック!」と叫び、あるホラー・ファンは「俺の中で『死霊のはらわた』(81)を超えた!」と狂喜した。

また、一部の観客が失神、嘔吐したことはネットニュースとなり日本にも流入。「そんな映画があるのか! 観たい!」と、あたかも東宝東和のような宣伝効果がネット上で発生するまでに至った。そんなわけで期待値はドルのごとく爆上がり。早速観てみることにした。

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……冒頭からとんでもないことになっていた。

前作のラストで死から復活を遂げたアート・ザ・クラウンが時を置かずして人間を惨殺、惨殺、また惨殺。少し休め、と言いたくなる天晴な勤労精神だ。頭部を粉砕し、顔面を破壊し、脳味噌を引きずり出す容赦なきゴア表現に、恐いもの見たさの観客はショックを受け、血に飢えたスプラッターマニアは歓喜に震え天を仰ぐだろう。

その後もアート・ザ・クラウンはあくせくと人体を破壊し続ける。殺される人間のほとんどが罪なき人々であるというインモラルさも、前作に引き続き胸糞が悪く、素晴らしい。

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まさかの延々と人体破壊の138分か! と思わせるも、映画らしい物語が姿を見せ始める。どうやらアート・ザ・クラウンはシエナという女学生を狙っているらしい。アート・ザ・クラウンの悪夢に憑りつかれるシエナ、そしてシエナの周囲の人間を巻き込み触手を伸ばすアート・ザ・クラウン……。

この構図、どこかで見たことがないだろうか。そう、『ハロウィン』(78)だ。『テリファー2』はエクストリームな残酷描写でこちらの度肝を抜いて目くらませをしながらも、その実は極めて正統派なスラッシャー映画へと舵を切っていた。前作のラストガール、ビクトリアが物語で大きな役割を果たすのも実に劇映画らしい。

監督のダミアン・レオーネは本作のクラウドファンディングにあたってこう述べていた。「デヴィッド・リンチ・ミーツ・『マニアック』(80)!」と。これは比喩ではなく、かなり「そのまんま」な映像表現が映画の中で繰り出される。前作において、スナッフ・フィルムに近い「無造作性」を見せたレオーネ監督は、ピュアなホラー・ファンであったことが判明してしまった。

謎の女児ピエロも登場
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さらに『テリファー2』では「なぜアート・ザ・クラウンは不死身なのか?」という疑問にも一応の答えを出している。それもかなりファンタスティックな方法で。これは映画のリアリティを損なうものであり、前作にあった「路地裏での殺人を目撃してしまったような不安感」を大きく低減する。

「なぜ?」「どうして?」という疑問に答えを出すことは、ホラー映画の持つ「正体不明がゆえの不安感」を消去してしまう。その点において、この続編で提示されるいくつかの要素は賛否分かれる部分であると思う。

だが、見方を変えると『テリファー』というシリーズはファンタスティックな要素を内包することで、物語の自由度という大きな武器を得たとも言える。前作の「無造作性」に惹かれた人間は多少の失望を覚えるかもしれないが、物語を展開させる幅を設けたことで、アート・ザ・クラウンというキャラクターは羽根を広げて様々な物語を展開させることが出来るようになったのだ。極端な話、『テリファー』3作目の舞台が中世ヨーロッパであっても不思議ではない。この点において、アート・ザ・クラウンはまさしく新世代のホラー・アイコンになったと断言できる。

個人的にはこの部分は肯定的に捉えたい。

キャラクターとしての遊びも持ちはじめたアートさん
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ゴア映画慣れした人間でも「これはひどい!」と目を覆ってしまうようなエクストリームな残酷描写(特に中盤における殺害シーンはホラー映画史に残る「やりすぎっぷり」だ。ここは必見!)、そして劇映画としてのカタルシスを持った主人公と殺人鬼の攻防戦、さらにファンタスティックな要素を加えた『テリファー2』は138分という長尺を難なく乗り切ってみせた。まさにゴア+ファンタスティック=ゴアタスティック! な残酷快作である。

思えば2022年は『真・事故物件/本当に怖い住民たち』(22)『哭悲 The Sadness』(22)『セルビアン・フィルム 4Kリマスター完全版』(22)と残酷映画の当たり年であった。その決定打として現れた『テリファー2』が一刻も早く日本にやってくることを望んでやまない。そして願わくはスクリーンで公開されてほしい。

みんなでラーメン二郎を食べてからゲロ袋片手に観に行って、壮絶すぎるゴア描写を前に盛大に吐こうではないか!

テリファー1はこちら

ABOUT US

残酷なホラー映画ばかり観て暮らしている終わりまくっている生き物。世界中のゴア・ホラーをリリースする地下レーベル〈VIDEO VIOLENCE RELEASING〉代表。書籍・雑誌・映画パンフレット・Blu-rayブックレットなどに寄稿しています。

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