コロナ禍で自由に撮影できない状況を逆手にとって撮影された『ズーム/見えない参加者』(2020年)。
監督のロブ・サヴェージは
「ノートPCで観るのに最適だろ?」
と軽口をたたいていたが、実は全編ほぼアドリブで撮影したという意欲作。『ズーム/見えない参加者』はサヴェージの予想を超えて大ヒット。それ故、今では自称「僕はパンデミック暴利監督」と自嘲的に語るが、彼は10年以上の監督キャリアを持つインディーズ界のベテラン。
最新作の『Boogeyman』(2023年・原題)はスティーブン・キング原作、ディズニー制作・配給というとんでもない出世ぶりだ。しかし、彼は『Boogeyman』の前にとんでもなく、ぶっ飛んだ映画をブラムハウス傘下で作り上げている。それが『ダッシュカム』だ。前作はZoomを活用した作品だったが、今作は“ライブストリーム”。しかも迷惑系配信者が主人公なのだ。
アナーキーな迷惑配信者アニー・ハーディ。コロナ禍の中でも、彼女はノリノリで生配信を行っていた。今日も早速、ノーマスクでカフェに入店し、店員と大喧嘩を繰り広げる。視聴者のコメントのノリノリ。
何故アニーは人気なのか?彼女はコメントをピックアップし、お下劣なラップに落とし込んでくれるからだ。しかし、友人のストレッチにとってはいい迷惑。彼はウーバーで小銭を稼いでいるがアニーが同行していては、行く先々でモメ毎をを起こしてしまうからだ。
そんなわけでアニーはストレッチ大喧嘩。腹いせに彼の車を盗んでトンズラぶっこく。ストレッチのふりをしてウーバーの仕事をこなそうとするが、老婆アンジェラの移送を頼まれてしまう。
しかしこの老婆、便意と吐き気と“ある超自然的能力”をコントロールできない化物。しかし、ツヨツヨのアニーは絶対に配信を止めない!はたして血液と糞便まみれのオカルト生配信の行く末は如何に!?
アニーは驚くほど典型的な迷惑配信者。そして友人のストレッチは絵に描いたような常識人だ。この2人が織りなす爆走オカルト紀行は、最初こそ「イラッ」させられるものの、すぐに彼らを応援するようになるだろう。
それはスクリーンの横に常に流れ続ける、コメントが共感を観客に与えるからだ。これは非常に面白い仕掛けだろう。(字幕を追うのが忙しくなってしまうのが難点だ)
またアニーが“思ったよりいい奴”なのだ。常に感情を爆発させる彼女だが、それが窮地に追い込まれれば追いかまれるほど逆に人間味が増してしまう。
多くの人は“ビッチ”と彼女は言うかもしれないが、もはや“ライオット”と言うのがふさわしいだろう。ちなみにアニー・ハーディはアニー・ハーディが演じている。つまり本人役なのだが、実際の彼女は迷惑配信者などではなく、真面目なミュージシャン。しかし、なかなかどうして堂に入った演技を炸裂させている。さて、いろいろ詰まった本作、ロブ・サヴェージ監督に話を伺う機会を頂いた。
––アニーの迷惑配信者ぶりが最高に楽しい作品でした。劇中のアニーのキャラ作りはどのように行われたのでしょうか?彼女を抜擢した理由は?
アニー・ハーディ本人をベースにキャラ作りしているからね、彼女なしではこの映画は成り立たなかったよ。
アニーは実際に、車で走りながらライブストリームで人々にコメントしてもらい、それらの言葉を使って即興で歌を作るショーを配信してるんだよね。
この映画の共同ライターである友人のジェド・シェパードがアニーを知っていて、彼女のショーを紹介してくれたんだ。即興で音楽を作るというキャラクターはホラー映画にぴったりだろ?
アニーの人柄や機知、下品さを映画のDNAの一部にすることが、映画で最も面白い部分になるなとピンと来たんだよ。
––ストレッチは、アニーに迷惑をかけらっぱなしですが、それでも彼女を守ろうと努力します。あの愛情はどこから?
二人の友情って、観ていていいものだと思わない?
アニーが反マスク派の、攻撃的で声の大きなアメリカ人でさ、混沌とした存在の風刺的なキャラクターだよね。その一方でストレッチは自分を主張せず、“自分がどう思われているか?”を常に気にしているリベラル派のキャラクターの風刺的な存在。
二人が政治的には真っ向から対立しているにもかかわらず、お互いに愛情を持ち、深い友情で結ばれているのは、美くて繊細な関係に思えるよ。
世界中でもっとそのようなことが必要だと思ってるんだ。政治を超越して、互いに共通する人間性を見つけ出す。今、もっとも大事な事だと思うよ!
––アメリカの分断は未だ根深い問題ですもんね。さて物語が進行していくに従い、アニーはアウトサイダーでありながらも、温情深いキャラクターであることが明かされます。非常にギャップのあるキャラクターの掘りさげ方だと思いました。
誰もが1つの特徴に簡略化されるわけじゃないよね。一見理解しやすく、決めつけてしまいがちなキャラクターを登場させるのは面白いと思う。でも、シンプルに見えるキャラクターの下には様々な層があるんだ。それが物語を複雑で面白くするんだよね。
その層を一つ一つ明かしていく事で、その人物のことをもっと知りたい衝動に繋がると思う。君もアニーの事を好きになったでしょ?(笑)
––はい、「あれ?いいやつだ!」と思いましたね。
ストレッチもそう思ってアニーについていっているんだよ。アンジェラを世話しようとするアニーの衝動的な行動もアニーの一つの“層”だよね
アニーは矛盾に満ちた性格なんだ。『ダッシュカム』のキャラクターで最も非利己的なキャラクターであり、また時に最も自己中心的なキャラクター
彼女は、命の危険にさらされ続け、何千人もの視聴者に見捨てられる。視聴者たちは互いにやり合うことにしか興味を持っておらず、本気で彼女を助けようなんては思ってない。
––映画の観客も彼女の味方をするときもあるし、背を向けることもありますね。私みたいに。
そのとおり。正直なところ、アニーの面白さやカリスマ性を感じるかどうかに大きく左右されると思うよ。私にとっては、彼女はこれまで一緒に仕事をした中で最も面白く、魅力的なパフォーマーだよ。
––以前製作された短編映画『Dawn of the Deaf』(2018年)でも迷惑配信者が登場しました。日本にも沢山いますが、迷惑配信者についてどう思いますか?
正直なところ、よく知らないんだ(笑)
ネットは役に立つけど、アクセスする度に情報過多に辟易し、何に焦点を合わせるべきか分からなくなって、感覚麻痺してしまうんだよ。『Dawn of the Deaf』や『ダッシュカム』で表現したかった事の一つとして、物事や人々への関心を失わせるような絶え間ない騒音があるんだ。
彼らを騒音とは言わないけど、一体何者なんだ!?と思うところはあるね。聖人?怪物?いくらでも議論の余地はあるけど、あんまり意味はないのかもしれないなあ。
僕はiPhoneで撮影することでストリーミング文化の世界に足を踏み入れることになった。いまやiPhoneで撮影は欠点ではなく、映画の要素として楽しく織り込めるよね。またロックダウンが起きても何かを作ることがきる。つまりは表現としては、ありなんじゃないかな?
––ゲリラ撮影も容易になったと思いますが、“ゲリラ撮影”をしたことはありますか?
もちろん!『ダッシュカム』もそうだし、『ズーム/見えない参加者』でもやったよ。ロックダウンでどこのスタジオも使えないんだから仕方ないよね(笑)
これまでの短編制作やTV番組現場、10代の頃に友達と映画を作った頃の経験がバッチリ生かせたよ。子どもの頃のように、カメラをつかんで森に駆け出して撮影を始めたい気分になって、すぐ『ダッシュカム』と『ズーム/見えない参加者』を作ることができてよかったよ!
––後半の展開は、非常にシンプルかつ不条理でした。説明過多にならないのがとてもホラー的で素晴らしかったです。監督は映画と観客の信頼関係による理解を信じていますか?
理解が得られるかどうか気にしてないんだよ(笑)
コメントを見て、手がかりをつなぎ合わせることで理解できる枠組みは作ったり、映像そのものもよく観ればヒントはあるけどね。それよりも僕はが狂ったような、夢幻的な何かを体験させる作品にしたかったんだよね。
ファウンド・フッテージのいいところは、1人のキャラクターの視点に立てることだよね。主人公は、ただ生き延びたいだけで、陰謀を暴いたり、悪を暴露させたり、世界を救ったりしない。
目標はただ、死なないことです。だから、主人公がある状況から脱出しようとするたびに、新たな状況に遭遇し、追いつ追われつで進んでいく。
彼女と観客は同じ視点で、次に何が起こるかを予測できない状況になります。映画全体を通してアニーは反抗的なキャラクターであり、彼女は広い世界にはあまり関心がなく、自身の命が最優先事項なんだよ。とにかくアニーとの同化を重要視したから、深いことを考えず僕の映画に身を委ねてほしいね!(笑)
––ブラムハウス傘下での映画制作は、これまでとは違っていましたか?
『ダッシュカム』は『ズーム/見えない参加者』と同じ2020年に制作しましたが、他に制作中のものはなく、ブラムハウスへ提案をしたときにはこんな具合さ。
「『ズーム/見えない参加者』って映画を作ったんだ。もう1つ全く別の内容の作品の企画があって、同じクルーを使い、すぐに制作に取り掛かりたい!『ズーム/見えない参加者』と同様に、アドリブを取り入れた作品なんだよ。これに協力してほしいんだけど……」
––つまり、監督のチームとやり方で作らせてほしい……とお願いしたんですね。
うん。やっぱり気心の知れたスタッフでやりたかったし、その方が素早く作品を制作できるかね。で、ブラムハウスの素晴らしいところは、私たちに自由に映画を作らせてくれたことだよ!
彼らはアメリカにいて、僕たちはイギリスで撮影していたけど、彼らのやり方を押しつけるような事はまったくなかったね。逆にゲリラスタイルの撮影をサポートしてくれたよ。
とにかく彼らと一緒にやっていて、最高だったのは何でも理解を示してくれることだよ。ブラムハウスのスタート地点が『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)だからかなぁ。あ、ちなみに『ズーム/見えない参加者』は『パラノーマル・アクティビティ』より低予算だよ(笑)
––監督のファウンド・フッテージ映画原体験はなんだったのでしょうか?
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だね!メチャクチャ怖くてさ、10年間観ることができなかったんだ。ホントだよ!
僕はファウンド・フッテージが大好きでね。何故って、お金があまりないホラー映画製作者にとっては、効果的に怖いものを作り、観客に身につまされるような体験を与える方法だからさ。
観客を登場人物の視点に置くと、頭ではリアルではないとわかっていても、リアルで生々しい感じがするよね?リアルな雰囲気で描かれていると、ホラーは最も怖いものになるんだ。それこそ、僕がホラー映画を撮る理由だよ!
イギリスのファウンド・フッテージホラーTV映画『Ghostwatch』(1992年)や『REC/レック』(2007)には影響を受けたなあ。「ファウンド・フッテージは終わった!」なんて言われることは多いけど、僕はまだまだ楽しめるジャンルだと思うよ。
––ほぼスマートフォンでの撮影のように見えますが、実際はどうだったのでしょうか?照明の問題など、相当苦労が多かったのでは?
そうだね。2台のiPhoneを使って撮影したんだけど、強力な懐中電灯を一緒につかったよ。車のヘッドライトを照明代わりに活用することもあった。臨場感が出るからね。
iPhoneと懐中電灯だけで映画が作れるのは凄くいいことだよ。僕にとって、映画を作るのに必要なのはこの懐中電灯とカメラ、そして素晴らしい俳優たちだけだということはとても自由な気持ちで、森に駆け出して何か撮影しようと思えるような感覚だった。たしかにロックダウン中でスタッフは最小限にしなくてはならなかったし、大変だったけど楽しかったよ。
––ライブストリームスタイルの映画はとても面白いですが、『食人族』(1980年)や『人喰族』(1981年)のようなオールドスタイルなファウンド・フッテージ映画はお好きですか?
大好きだよ。でも、『食人族』はキッツイよね(笑)動物をほら、えーっと……アレだろ?ちょっと苦手でもあるよ。生き物が好きだからね。「あとで食べた」といわれても辛いよ。だから僕が持っているのは規制版さ(笑)
––あらぁ、珍しいですね。
でも『食人族』の構成は素晴らしいよ。実際のフッテージと探索シーンが交互に出てくるスタイルは釘付けになるね。衝撃的な場面が注目されてるけど、映画の構成そのものが魅力的なんだよね。だから未だに評価されているんだと思う。リズ・オルトラーニのサントラもいいよね。
––『死霊のはらわた』、『悪魔のいけにえ』、『ヘルレイザー』などの70年代や80年代のアメリカのホラー映画が好きだということですが、ヨーロッパ映画、イタリアンホラー、フランスのホラー、ルチオ・フルチ監督などの偉大な監督たちの映画はどうですか?
ホラーなら何でも大好きだよ(笑)アートハウス映画も好きだなあ。でも言ったとおり、アメリカンホラーからは多大な影響を受けてる。『悪魔のいけにえ』、『死霊のはらわた』、『ヘルレイザー』がフェイバリットかな。ベタだけど。でもこの3作品が面白いのは1作目と続編で全然別の怖さがあるってことだね。
––たしかに、続編はどちらも“たか”が外れていますね。
そう。抑制が効いている方が好みだけど、派手なのも大好き。振り返ってみると、構築美みたいなのが好きなのかな。
振り返ってみれば、ヒッチコックから映画に見せられたんだ。当然イタリアンホラーも通ったよ。マリオ・バーヴァやダリオ・アルジェントの美しいジャッロも大好き。アルジェントの証明やカメラは本当に勉強になるよ。もちろんJホラーも好きだよ!10歳の時だったかな『リング』(1998年)を観て寝られなくなった。もしかして一生寝られないんじゃないか?と思ったよ。
––Jホラーの話が出たので質問です。『DASHCAM』では、キャラクターの背後で何かが起こるシーンがよく見られます。このような手法はアメリカのホラー映画ではあまり使われませんが、日本や他のアジアのホラー映画ではかなり一般的です。この点において、アジアのホラー映画からの影響はありますか?それとも思い付きで取り入れたものですか?
僕の作品は、僕が今まで観たが観た映画や愛している映画に影響されているといっていい。アジアンホラーはフレームの奥行きを本当に美しく使っており、背景に怖がらせるものや動くものに注目させるよね。こうすることで観客は映画を見ながら探偵のようになって、フレーム内で何が起こっているかに常に緊張状態になる。これは素晴らしい方法だよ。
ホラー映画は観客と遊び、見せたり隠したりして楽しませてくれる。最高だよね。Jホラーは僕の先生さ。今後は『リング』の時に味わった“寝られない怖さ”を持つ映画を撮っていきたいね!
DASHCAM ダッシュカム 作品情報
(公式サイトより引用)
監督:ロブ・サヴェッジ
脚本:ジェマ・ハーリー ロブ・サヴェッジ ジェド・シェパード
出演:アニー・ハーディ、アマル・チャーダ=パテル、アンジェラ・エナホロ、セイラン・バクスター、ジェマ・ムーア
制作年: 2021
7月14日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開
公式HP:https://dashcam-bh.com/
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