倍速視聴の伝道師 春原ハルアインタビュー

ふぢのやまい

コミティアにて配布した漫画「本当にカッコイイ倍速視聴のしかた」がごく一部で話題になっている漫画家、春原ハルアさん。本作で、倍速視聴の伝道師ともなっている春原ハルアさんにお越しいただき、お話をお聞かせいただきました。

――周りで誰か倍速で見ている人がいたんですか?

俺の倍速は漫画描いたことで、ハッタリだけど、本当にやってもいいかなってなったんですよ。だから後天性の倍速です。

――そもそもどうして倍速視聴をするんですか?

倍速することで感動をなくしたいんです。
いつだったかの千葉雅也のツイートで「ラーメン屋で平井堅が流れていると集中できない」ってのがあって、それを見ておもれーってなったんですよね。

――なんでそれから感動を無くしたい!になったんですか?

はっきりとは言えないんだけど、感動って過剰じゃないですか。
元々体力ないんで、つかれたくないんです。肉体以上に精神も。

――心を持ってかれたくないみたいな?

泣きたい時は泣きたいんですけど、音楽とかで過剰な情緒不安定な涙によって持ってかれたくないんすよ。
この前公開されたゼメキスの「HERE」泣いたんですけど、
明日のための涙って感じで涙が出たんですよね。

――自分の身体が勝手な涙によってコントロールされるのが嫌、不快だってこと?

そうっすね。「家ついてっていいですか」って番組あるじゃないですか、
あれって、最後にレットイットビーが流れて取材の相手が感動的な独白して…で泣かせにきてる部分が泣いちゃう。弱いんで、俺は。
弱いんで、自制の意味も込めて対抗手段として倍速があるのかもしれない。

――泣くこと自体は快?

「感動しました」って言っちゃうと自分の物語として位相トークしやすいんですよ。こういう風に思うこと自体就活時期だったのもあるかもしれないんですが。

――今、話聞いてて思ったのは、タイパとかコスパの話は関係ないんですね?

でも俺、軽薄なんでタイパとかコスパももちろん求めてます!

――大体普段は何倍速なんですか?

基本的には5倍速で7倍速とか8倍速も全然見れるんですけど、UNEXTは通信速度的に5倍速が限界です。
あと弊害がありまして…8倍速で見てると夢も速くなる。悪夢ばっか見ちゃう人に試して欲しい。ありえない速度の悪夢をずっと体験するのか、速すぎて悪夢だと認知できないから怖くなくなるのか知りたい。
知恵熱と一緒ですよ、8倍速は。
フラッシュ演算ですよ、やってることは。
倍速視聴はフラッシュ演算が得意な人がやったらどうなるか知りたいです。

――フラッシュ暗算得意でした?

やってないですけど今やったらいい結果になるかもです。

――字幕が爆速で流れていくことの気持ちよさって大量の文字を読むことによる読書みたいな気持ちよさなんですかね?

もちろんそれがあります。
言葉の滝みたいなサイトあるじゃないですか?
あのサイトが好きなんです

――例えば1.5とか2.0だったら体に影響は出ないし、そこまで楽しくないってこと?

そうですね。自分も歳をとったと思います。逆に高校生って人生が早いじゃないですか。パンクバンドとか10代ばっかりじゃないですか。若さと早さによってしかあの爽快感は出ない。

――画面見ない派なの?

見てはいるんですけど、画面は見ていたら追いつかない気がしますね。
字幕で映画って作られてるんだって感じですね。

でも、セリフない映画も全然楽しいっすね。

セリフない映画とかも倍速で見る気がする。
一回ジャンヌディエルマン倍速はやりたいっすね。

――何倍?

8倍で

――1日に何本も見たりする?

そこまで大量には見ないすね。頭の中に圧縮したものを入れてるんでそこで解凍されてる気がします。脳の容量的なものを大量に使っているんで
だから3本4本くらいが限界な気がする。10本ノックとかはできない気が。

――見る映画のジャンルとかかぶせたりするの?

いや、単にマイリストで見たかったやつをバンバン見てる気がしますよ。

――見ることのハードルは当然下がるよね?

全然興味ないやつとか見れるんでそこはサイコーっすね。

――当然映画館で映画観た時におそいなって感じる?

遅いなって感じたことないですね。なんでだろ?
スマホとか見れないじゃないですか、頭の中で別なことを考えて、気になったセリフとかをこねくり回して、それでやりすごしてる気がします。

――そこに優劣はついたりする? 

あんま変わんないん気がする。映画館で見るやつは結局自分が観たかったやつなんで、等倍でも見れるって感じがするんですけど。

――速度ごとに何倍がいいとかありますか?

1.5倍は逆にどうでもいいよねって感じっすね。ってか1.5倍はやらないす。やらないすけど、家族とかは1.3(倍)とかで見るんすよ。
視聴形態によって、作品自体も変わっているんだなって思います。

――それはやっぱり自分にとって早いほうがいいってこと?

そうです。だから絶対に見逃しているって感覚が、(自分にとっては)安心につながる。だからこそ見れる。軽薄だからこそ安心して付き合える。

5.0倍速はどの映画も等しくつまらなくなる。

――自分の好きな作品を5倍速で見返すみたいなことはしないの?

それだったら新しい作品を見返した方がいいと思ってるんで。

――5倍速で?

5倍速で。
普通の速度だとショットばっか気になっちゃう気がする。でも5倍速だと一つの総体として楽しめる感じになる。

――この作品はこの速度だなって決めたりするの?

アクションはあんまり倍速くしたりしないっすね。元から倍速になっていたりするし。

――どうやって倍速にしている?

Chromeの拡張機能Video Speed Controllerを使って、プリセットから5倍にしてます。

――倍速で見たからこそよかった映画ってあります?

エミール・クストリッツァのアンダーグラウンドは3倍か4倍で見たんですけど、パチンコみたいな音楽になっているのだけじゃなくて、ずっとキャラクターが回転しているのが良かったです。同線の自転的な運動もあるし、太陽の公転的な運動があって。

あと好きとはまた違いますけど、『パリテキサス』も全然意味わかんねえって、意味で覚えてます。映画と一緒に情緒的なものを養う映画特有のわかんなさがずっと残ってて、それがまたあーいいなって思う気がします。
結局はやさしさだけじゃ解決できないって感じで。

――面白そうだったら1倍速にしたりはする?
全然してますよ。
倍速にこだわりはないです。

――途中から等倍にした映画ってある?

『ファンダンゴ』って映画があって、出兵前の男たちがメキシコに向かって馬鹿騒ぎするみたいな映画だったんですけど、ロードムービーは基本5倍にするんですけど、キャラクターたちが死ぬことの緊張感があって、それを見逃さないようにって感じでした。

――倍速で泣けたことある?

『素晴らしき哉、人生』ですね。
その映画では5倍速で涙ぐんだので8倍速にすればよかったって思いましたよ。

――どうしてそこまで泣きたくないの?

偶然性で泣きたくないなって感覚があるのかもしれないです
自己物語化が嫌だなぁって感じです。

東出昌大の『草の響き』って映画を昔見たら、中学校のとき嫌いだったら同級生が出てて、3倍速が嫌で、5倍速にしました。
気を抜いたら映画が自分のものであるかのような物語化が始まってしまうから、こういう話をしたら誰かが喜んでくれるかなとか考えちゃいますしね。
全然関係ないかもしれないんですけど、飼い犬が一匹、結構前に死んで、
焼いたんすよ。頭蓋骨が残って、頭の部分を触ったら、生きてた頃って皮が薄くて、死んでも触れるんだっておもったんですけど、こうして物語化するシステムが自分の中でできてるんだなって。

――それがちょっとやだった?

いや、っていうか、あざといなって、あんまり好きじゃないって。

――好きじゃないっていうのは物語化するシステムが自分の中にあるということが?

思い出を物語にしてる気持ちよさってないですか?
そこには抗いたいです。抗えないだけに。

――目指すものは?

倍速することで映画予告の速さになっていく、それを目指してはいます。
映画本編に映画予告の速さを期待していくとどうしても違う。
それの面白さに近づけたい。映画予告編以上に面白い本編はないって思ってるんで。
藤本タツキも映画予告ばっか見てたらしいですし、
鶴巻和哉も石井克人との対談の中で「僕、cmもすごく好きなんです。cmだけビデオに録っていたこともある。cmって15秒30秒の限られた時間で、ものすごいドラマやストーリーを見せるでしょう。高いテンションで多くの情報量を詰め込んだりする。あれが好きなんです。だから『フリクリ』も最初に構想をプロデューサーや脚本家に話した時、全編コマーシャルみたいなテンションの作品、みたいな説明をしたことがあります。」って言ってたのを思い出しました。倍速視聴にすることですべての映画が高テンション・高密度へと加工できるのが嬉しい。そして過剰に画一化されることで、すべて等しくつまらなくなっていってくれる。

――本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

本当にカッコイイ倍速視聴のしかた note:https://note.com/shampoofordogs/n/n9c754f7d0a51

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