みなさま! 2024年あけましておめでとうございます。
え? 新年の挨拶には遅すぎるって?
大丈夫です。ムービーナーズを読んでいる方々は、日時の感覚が欠如しているタイプの人種だって僕は知ってるから…。
昨年、2023年はウサギ年でした。新年早々「ウサギ年のアルバート・ピュン、アルバート・ピョン」なるギャグを飛ばしたところ、およそ全ての人々から無視された瞬間から僕の2023年の終わりは始まっていたのでしょうね。
そして本年、2024年は辰年です!
辰、そうそれはドラゴン。
ドラゴンと言えば『燃えよドラゴン』(1973)! 毎日頭の片隅でブルース・リーのことを考えている方も世の中には多いのではないでしょうか。
キレのあるアクション、そして時にはクセの強い作品にも出演してなお放つその存在感ときたら。
「人肉への欲求を抑えられない帰還兵」なる突飛な設定を哀愁たっぷりに魅せる演技力、奇形ミュータントたちを従えてグルグル模様の壁の前に仁王立ちしてなお失わぬ風格!
あ、これジョン・サクソンでした。
さておいて、せっかくのドラゴン・イヤー。ここは一発景気よく「ドラゴン感」あふれる映画を開陳し、血圧高めに新年のスタートを切ろうではありませんか!
それでは「DIY格闘映画選手権」開幕です!
ドラゴォ~ンッ!(ドラの音)
『Lost Faith』(1992・未公開)
あらすじ:妹が殺された! 金髪お椀ヘアーの主人公は「カラテ」と書かれたTシャツ姿で愛する家族の死の真相を追う。そして彼は知ることになる…悪の麻薬組織の存在を。街にはびこる悪を一掃すべく、主人公は拳に怒りと正義を込め、悪党どもに叩きつける!
金髪ドラゴンの登場です!
『Blood and Steel』というタイトルは『燃えよドラゴン』のタイトル候補のひとつ。この題を冠したところからも制作者のブルース・リーに対する熱量がうかがえますね。
本作の監督はマーク・スウェットランド。
金髪ドラゴンその人です。
つまり、この映画はスウェットランド氏による「オレの、オレによる、オレのための」映画なんですね。
そんなナルシシズムが大爆発している作品ではあるのですが、一笑に付せない気迫にも満ちております。
オレ主演をやってしまうだけあり、スウェットランドのアクションは実に見事。瞬足の蹴り、重みを感じさせるパンチ、さらに体を張ったスタントもアリと、出来る限りのことを全てやっている印象です。
特に走行中の車に対してのアクションシーンは、一歩間違えば確実に負傷必至。本作は16ミリ撮りの激低予算映画。それゆえ十分な安全対策を行っているとは露ほども思えず、その危険さに、映画の持つ安全圏を超えたハラハラ感を味わえます。
ちなみに、似たような鑑賞体験を与えてくれる映画に『Deadbeat At Dawn』(1988・未公開)があります。
こちらは恋人を殺された男による復讐アクション。この映画もご多分に漏れず、ジム・ヴァンベッバー監督によるオレ劇場。
高所からの落下や車相手のアクションなど、文字通り体当たりのアクションを監督自ら見せつけ観客をヒヤヒヤさせてくれる一本です。
さらに「アクション」の域を逸脱し「陰惨な暴力」に突入するバイオレンス表現、そしてその先にあるゴア描写と、血みどろ映画がお好きな方にもレコメンドでございます。
さておき『Blood and Steel』に話を戻しますと、先に申した通りこの映画はアクション面において充実を見せています。
ただ、それは主人公に限った話。
スウェットランドはサマになっているのですが、それ以外の面々は通知表「体育:1」な感じがヒシヒシと漂う「暴力」という言葉とは無縁そうな…友達づきあいするにはいい感じの見てくればかりなのです。
そのため終盤の主人公サイドの人々と麻薬組織の混戦は、なんだか「ごっこ遊び」なバイブス漂う仕上がりに。
そこにスウェットランドが「今だ!」とばかりにトラックスーツで大登場するので、ヘナヘナと脱力。テレビを前に足から崩れ落ちたのでした。
そんな自家製ドラゴン映画である本作、スウェットランドの本気アクションと周囲の緩さが衝突する珍事こそ起きているものの、やはり見どころが多いことは事実です。
自主映画にもかかわらず劇中にヘリコプターまで登場させる気合いの入りっぷりは、今なお人々を魅了してやみません。
それは本作が制作から30年経った今でも忘れ去られることなく、Blu-ray化まで果たしたことが証明しているのではないでしょうか。
この映画でスウェットランドは全てを出し切ったのか、以後映画制作は行っておらず、本作が唯一の監督作となっております。
みんなもここでしか観れない金髪ドラゴンの雄姿を目に焼き付けよう!
『Lost Faith』(1992・未公開)
あらすじ:「チャック・ノリスの映画が観てえんだ!」と妻を振り切りレンタルビデオ屋に駆け込んだ男の名はスティーヴ・ネコダ。休日パパみたいな見た目だが、実はカラテの達人だ。彼がビデオを山のように借りている最中に、妻は悪の人身売買組織に誘拐されてしまう。ショックから神への信仰を失うスティーヴ。神は死んだ! 頼れるのは自分だけだ! 妻も信仰も失った男は、人身売買組織のボス「マスター」に対し、単身戦いを挑むのだった。
みなさんが好きなアクション・ヒーローは誰でしょうか。
ジョン・メイトリックス?
それともケイシー・ライバック?
僕はスティーヴ・ネコダ!
こちらがスティーヴ・ネコダです。
ちょっとお顔がいかつい休日パパではなく、カラテの達人なんです。
ホントだよ。
主人公を演じるのは、本作の監督でもあるジョエル・ウィンクープ!
(またこのパターン…)
ウィンクープは『虐殺仮面/禁断の不倫殺人鬼』(1986)でおなじみ、フロリダのスプラッター野郎、ティム・リッター監督作品の常連俳優。リッターが監督する映画のほとんどで殺され役として出演しているほか『Creep』(1995・未公開)では主演も務めております。
ウィンクープとリッターはご近所さんだったこともあり、リッターの映画を中心に俳優業を開始。そして現在に至るまで、約200本の低予算映画に出演。フロリダにおける自主映画シーンの顔と言って良い存在なのです
そんなウィンクープが自分自身を主演に迎えて作った単独監督第1作が本作。つまり、ウィンクープ史、ひいてはフロリダ映画史においてエポックメイキングな一本なんですね。
フロリダにおける自主映画シーンは実に興味深いものでして、それが特にスプラッターに重きを置いたものであることは特筆に…
あれ、大丈夫? みんなこの話、興味ある?
さてさて、『Lost Faith』ですね。
この映画はとにかくウィンクープが八面六臂の大活躍。それに尽きます。
ギャングを回し蹴りで撃退するウィンクープ
突然大声で叫びだし襲って来るふとましい女性を回し蹴りで撃退するウィンクープ
奥さんが美人でご満悦なウィンクープ
やたらとモテるウィンクープ…。
オレ様もここまで極まると気持ち良くもあり、次のシーンではどんなウィンクープを見せてくれるのかと、もう脳内でウィンクープがゲシュタルト崩壊する勢い。
もうアタイ、ウィンクープのことしか考えられない!
ただ、無敵のウィンクープも、悪の人身売買組織のボス「マスター」には大苦戦。
それまであまり足が上がっていない回し蹴りで敵を華麗に撃退していたウィンクープが、いきなり赤子のように弱体化してしまうのです。
立派な口ひげをたくわえ、たるんだ裸身を惜しまず披露する「マスター」。
その強さは作中で全く描かれなかったのですが、ここでウィンクープ渾身の演出「片方を弱くすることでもう一方を強く見せる」が炸裂。天才的と言わざるを得ません。
ウィンクープが唐突に弱くなる不自然さにさえ目をつぶれば、ですが。
マスターとウィンクープの最終決戦…はたから見たら休日パパ同士のケンカですが、ここはフロリダを揺るがす大決戦であると脳内補正をかけて観るのが正解でしょう!
圧倒的な戦闘力を誇るマスターに手も足も出ないウィンクープ。
絶望の中で、彼はついに失っていたものを取り戻します。
それは…信仰(Lost Faith)!
「神よっ!」
タイトルが回収されると同時にウィンクープは前半の輝きを取り戻し、それまで手も足も出なかったマスターを一瞬でサンドバッグに。
見事に勝利を収め、さらわれた妻を奪還。
映画は大団円を迎えます。
…ここまで観てようやっと気づいたのですが、この映画、なんと宗教映画なんです。
言わばクリスチャン・アクション・ムービー。
つまるところ、信仰の喪失と再生なる点において、ウィリアム・ピーター・ブラッティによる『エクソシスト』(1973)原作や『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』(1980)と同じことを描いた映画なのです。
そう考えると、このボロボロのビデオ撮り映画が、なんだか格調高く見えてきませんか?
余談ながら、フロリダ州知事のロン・デサンティス氏はキリスト教保守の価値観を重んじることを度々表明しており、デモ騒ぎにまで発展したこともあったりします。陽光が降り注ぐフロリダ、神に対する考え方も映画も一筋縄では行かない土地柄のようで…。
『Lethal Force』(2001・未公開)
あらすじ:裏社会の組織に妻を殺された男ジャックは息子の命と引き換えに、ある男の殺害を命じられる。ターゲットはジャックの親友でもある凄腕の殺し屋サヴィッチ。友情か、殺しか。男たちの葛藤が銃弾と血飛沫の中、激しく燃え上がる!
先の2本はマーシャルアーツ感全開の作品でしたが、この映画は『男たちの挽歌』(1986)リスペクト系。
銃撃もあり、格闘もあり、剣戟もあり、な大盤振る舞いです。
どことなくコミカルなトーンも漂わせており、その点も往年の香港映画を思い起こさせます。
演出も編集も歯切れがよく、全体的に器用な映画という印象。
もちろん、自主映画の範疇で…ではありますが。
そう言うと、少しばかり優等生っぽい映画に思えるかもしれませんが、決してそうではないのが本作のステキなところ。
表現の「行き過ぎ」っぷりにこそ本作の魅力が詰まっているのです。
組織が送り込む刺客を撃退するも、親友への情にほだされ、殺し屋サヴィッチは組織の手に落ちてしまいます。哀れなサヴィッチは拷問を受ける羽目に。両手をナイフで刺され椅子に固定され、こめかみをドリルで抉られてしまうのです。
ドリッ! ドリドリッ!
電動ドリルが唸り、サヴィッチの頭蓋骨に深く突き刺さります。
「よし、抜け」
サングラスの男が命じ、血に染まった刃先がサヴィッチの頭からズルリと抜き取られたところで…
「もう一度だ!」
ドリッ! ドリドリッ!
叫ぶサヴィッチ!
脳を掘削するドリル!
…って、これは拷問じゃないよ、サヴィッチもう何度も死んでるよ!
かようにオーバーな表現に満ち満ちております。
この直後にサヴィッチは拘束を解き、拷問人たちを両手に刺さったナイフで真っ二つにしてゆくのです。
突き抜けた表現とそこから生まれるケレン味を、うまく映画におけるアクションへと上乗せする手腕こそが本作の独自性に結実していると言えましょう。
ベースは香港映画ながら、ブラックスプロイテーション映画(特に黒人アクション)や、拷問シーンを筆頭にスプラッター映画への目配せが効いているのも嬉しいところ。
おそらくフィルムで撮影されているのですが、マスターをビデオテープに焼いているのか、フィルムとビデオ撮りの中間のような画質なのも結果として「グライドハウス映画に敬意を払った2000年代の映画」なる本作のテイストにマッチしているように思います。
さて、いかがでしたでしょうか。
あなたのお気に入りのアクション映画は見つかりましたか?
今回取り上げた作品は、スクリーンで観ることができるキレッキレのアクション映画とは程遠いかもしれません。
しかし、誰もが心の中に秘めているドラゴン…それを自主映画という形で作り、世に放ったことには大きな意味があるように思いませんか?
そう、もうウェルメイドなアクション映画なんて必要ない!
「カッコいいオレ」を見せるためだけに作られた、ボロボロのビデオ撮り映画を観よう!
同じフレーズがループするだけのメインテーマを聞いて涙を流そう!
フリー音源と思しき打撃音が響くアクションシーンに胸を躍らせよう!
そんな映画を観ないと俺たちの2024年、始まんねェだろ…?
ドラゴォ~ン!(ドラの音)
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