アクション映画界を代表する人気スターたちが一堂に会した夢の映画。
2010年にシルベスター・スタローンが中心となって立ち上げた映画シリーズ『エクスペンダブルズ』は、世界中の肉弾アクション好きを大いににぎわせた。
企画・監督・主演を務めたスタローンをはじめ、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、ランディ・クートゥア、テリー・クルーズがチームを組み、アーノルド・シュワルツェネッガーとブルース・ウィリスも顔を出し、敵側にはエリック・ロバーツにストーン・コールド(スティーブ・オースティン)にゲイリー・ダニエルズ、ほとんど判別できないけど何故かノゲイラ兄弟と、ありえないくらい豪華なメンバーが揃い踏みして、撃つわ殴るわ大爆発させるわの大騒ぎを見せてくれたのだ。
これにテンションが上がらないわけがない。
本家エクスペンダブルズが続編を作ったのに加え、それに触発された他のクリエイターや俳優たちも「こっちもエクスペやるぞ!」と言わんばかりに波に乗っかり、似たような集合映画もいくつか作られた。
そして2023年。一旦、そのブームは収まったかに見えたが、ここにきて新たなる最強スター大集合映画が誕生した。これはそんじょそこらのパチモンとは比較にならない。本物のバトル俳優たちが集まった本物のアクション映画。そのタイトルは……『The Last Kumite』である!!!
ラストクミテのあらすじはこうだ。娘を誘拐されたファイターが闇格闘技大会に挑む!以上!これだけ!!
この手の映画に入り組んだストーリーとかいらないからね。これくらいシンプルだと嬉しい。
で、この映画には一体どんなスターが参加しているのかというと、まず主人公のファイターを演じるのはマティス・ラントヴェアー!彼はかつて「ドイツのヴァン・ダム」と呼ばれたイケメンアクション俳優だ。彼は主演を務めた『死亡特急』や『バレット・フィスト』でハイレベルな殺陣を披露し、一部のアクションファンの中で伝説となった。その後しばらくの間みかけなかったが、今回久しぶりに長編映画の主役に返り咲き、動きまくってくれた。これだけでも嬉し涙が出る。
彼の脇を固める共演者たちも物凄い。マティスを鍛える師匠役はビリー・ブランクス!そう、かつてビリーズブートキャンプで一世を風靡した、あのビリー隊長だ。彼はエクササイズをやる前はアクション俳優として数々の映画に出演していた。ウェズリー・スナイプスと同じく黒人格闘スターとしての地位を築いていたのだ。そんなビリーがマティスと共演。凄すぎる!
更には修行を支えるメンバーにシンシア・ロスロック!そして異常高速アクロバットの使い手マイク・メラーも参戦している。あまりにも豪華だ。
ロスロックは皆さんご存じの通り、80年代の香港映画で暴れ倒した伝説的アクションスター。そしてメラーはスタント畑を中心に活躍する新星。マンガチックな振り付けの格闘をやらせたら彼の右に出る者はいないと言っても過言ではない役者である。
これだけでももうおなか一杯なのだが、他にも、闇の格闘技大会の仕切り役にマシアス・ヒューズ。大会の参加者にはあのヤン・スエの息子デヴィッド・ヤンも!そして『シンデレラ・ボーイ』でおなじみカート・マッキニー、『キックボクサー』でヴァン・ダムと激闘を繰り広げた名悪役トン・ポーで知られるミシェル・クイシ、その弟のアブドゥル・クイシ等々、錚々たるメンツである。
こうして見ると、全体的にヴァン・ダム指数が高い。この映画の中身自体が『クエスト』とか『キックボクサー』に近いしね。
そんなわけで本作では、上記のスーパースターたちが次々と画面に映っては戦う、夢のような時間を体験することが出来る。本編はおもに修行パートと大会パートに分かれている。時間の割合は修行の方が多めだ。
マティス演じる格闘家はあくまでも表の格闘家。より残忍な戦い方をする闇格闘技に挑むにはもっと修行が必要だ!そこをビリー隊長をはじめとした頼もしい仲間たちが鍛え上げてくれるというわけだ。Stan Bushのウットリするような美メロのメロハー曲に乗せて、ビリーとマティスが型を披露する映像を眺めていると、果たして本当に今は2024年なのか?と疑問に思えてくる。それくらい80年代臭全開だ。マイク・モラー演じるライトニング(動きが速いからこの名前らしい、安直!!)による高速バトル稽古など見所満載で、修行続きでもダレないのが流石だ。
そして完全に仕上がったマティスがいよいよ大会に参加!ここから終わりまで30分以上、ノンストップでバトルが続くから覚悟してほしい。
大会の参加者はそれぞれバトルスタイルが違うのもグッとくるポイント。主人公はオーソドックスなマーシャルアーツ、他には恐らく中国あたりの謎憲法の使い手、やっぱりここにもいるカポエイラ使い、プロレスラー、喧嘩殺法使いetc……。ほぼ鉄拳である。コテコテの異種格闘技戦をこれでもかと味わうことが出来るのだ。こんなご褒美、そうそうない。
それぞれのバトルも一戦一戦は短めながら、思わずオッとなる振り付けや必殺技が披露されるので満足度はかなり高め。僅かだがゴア描写も入っているのも素晴らしい。こういう細かいところで楽しませてくれるのもラストクミテの好きなところだ。対戦に次ぐ対戦が続き、やがて待ち受けるマティスと喧嘩殺法野郎の大激闘。ゆったりとした殺陣だがパワーを感じる。ヘヴィ級のアクションが骨身に染みる。『キックボクサー』の空気感がそのまま現代によみがえったかのようだ。
懐古主義で単に昔っぽく演出するのではない、ソウルそのものが80~90年代に染まり切った者にしか作れない映像だ。このご時世にこんなピュアなバトルが見られるなんて……。
これでクライマックスも終わりか、と思ったらですよ、なんと、マジで目ん玉が飛び出そうになるほど更なるサプライズが待ち受けているわけですよ。それまで師匠としての立場で型を見せるだけに留めていたあのビリー・ブランクス隊長が直々に闇大会に乗り込み!!!!そして!!!!黒幕のマシアス・ヒューズとタイマンバトルを繰り広げます!!!!
大事件です。これはもう本当にヤバイ。
ビリー隊長が未だ切れ味衰えぬ鋭い蹴りを炸裂させる場面で、誇張なしに本当にうっすら涙が浮かびました。それに対して、これまでにもパチモンエクスペンダブルズに顔を出してはいたものの、そんなに見せ場の無かったマシアス・ヒューズが、久しぶりにガッツリ動いて応戦するんです。ゴジラとガメラが戦うかのような夢の映像。これを奇跡と呼ばずして何が奇跡か。
ここからは多幸感のあまり若干記憶が薄れています。事前の評判で修行パート多すぎてダルイみたいなのがあって、正直なところ少し身構えていたところはある。だが蓋を開けてみたらどうか。超特大ボリュームのバトルが満載だ。サラッと現代的なスピード感の動きを盛り込みつつ、ド迫力のパワーに満ちたアクションをこれでもかと披露してくれる。出てくるアクション俳優たちはしっかりと期待に応えて見せ場を作る。史上初、エクスペンダブルズ以外でドリームチーム映画を成立させたアクション映画が、ラストクミテです。
恐らく今後はもうこれ以上の集合映画は出ないかもしれない。
今や本家エクスペンダブルズだって中々厳しい状況にある(あれはあれでかなり楽しんだけど)。悲しいかなそれが現実なのだ。本作は、そんな状況の中、彗星のごとく現れた、最後の特大の打ち上げ花火だったのだ。こんなの涙なしで見ることなんてできない。購入したUHDに収められていたメイキングも珠玉の出来で、大好きなアクションスターたちが和気あいあいとしながら、見せ場ではプロフェッショナルとして仕事を全うする様が収められている。舞台裏までしっかりと格好良かった。
これは全世界のアクション映画好きに送られた最高のプレゼントだ。欲を言えば、ジェフ・スピークマン辺りにも出てほしかったなあといった思いもあるけど、これだけのものを届けられては文句も出ない。とにかくただ一言「ありがとう」と伝えたい。色々なアクション映画を観てきたが、ここまで頬が緩んでしまう作品は久しぶりだ。本当に面白かった。
肉弾アクションよ永遠に!!!!!
作品詳細
制作年:2024年
上映時間:105分
監督:ロス・W・クラークソン
脚本:ロス・W・クラークソン、シーン・デイビット
出演:マティス・ラントヴェアー、ビリー・ブランクス、シンシア・ロスロック
人間食べ食べカエル 相も変わらず日本にやってこない映画を漁っている。基本セル版を買っているので、外れた時のダメージはとんでもないが、その分、当たりの映画に出会えた時の喜びは大きい。最近、明らかに日本で公開される映画の数が減[…]