映画『ハード・ヒット 発信制限』レビュー!生きたければ己のキャリアと財産を切り捨てろ!

ライフワークバランスが注目される昨今ですが、まだまだ日本は成長意欲や意識の高い人が評価される時代。高収入じゃなくてもいいから、のんびり暮らしたいなあ〜なんて思っても、未だに風当たりが強いです。

そんな(筆者のように)意識高い系の人を見るのもしんどい…という人に刺さる、アクション・サスペンス映画『ハード・ヒット 発信制限』が2月25日(金)に公開されました。

いつもの日常が、何者かが仕掛けた爆弾で一変する…。誰が、何のために爆弾を仕掛け、なぜ主人公はこんな目に遭うのか?

スリルだけではなく、主人公に重くのしかかる多方からの重圧も半端ない作品でした。中間管理職は涙なしには見られません…!

『ハード・ヒット 発信制限』あらすじ

銀行支店長として働くソンギュは、毎朝車で子どもたちを学校へ送り届けそのまま職場へと向かう。それはいつもと変わらない、当たり前の日常のはずだった。しかし一本の電話が彼の運命を一変させる。運転中にかかってきたそれは「発信番号表示制限電話(非通知電話)」。声の主がソンギュに告げる「車から降りれば、仕掛けた爆弾が爆発するだろう」と。タチの悪いイタズラだと電話を切ろうとするソンギュ、しかし目の前で同僚の車が大爆発を起こす。警察に助けを求めることも、そして車を降りることも許されない絶体絶命の状況の中、ソンギュの日常は制御不能の悪夢へと塗り替えられてゆくのだが…。(https://klockworx-asia.com/hardhit/#smooth-scroll-top)

主人公・ソンギュを演じるのはSFアクション映画『SEOBOK/ソボク』(21)にも出演したチョ・ウジン。その娘・へインを『サバハ』(19)で一人二役を演じたイ・ジェインが熱演しています。

爆弾処理班のリーダーには『ベテラン』(15)のチン・ギョン、そして謎の脅迫者には『操作された都市』(17)で主演を務めたチ・チャンウクが抜擢されました。

監督は『The Witch/魔女』(18)『ヒットマン エージェント:ジュン』(20)など、多くのアクション映画の編集を手掛けてきたキム・チャンジュです(祝!初長編監督作品)

ちなみに映画『ハード・ヒット 発信制限』は、2015年に製作されたスペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』のリメイク作品です。

予告編を見比べてみると、かなりオリジナルを意識したカメラワークを観ることができます(ヘリが低空飛行で車を食い止める、拳銃を持った警官が車を取り囲むシーンなど)

Copyright @ VACA FILMS STUDIO, S.L. – ANTENA 3 FILMS, S.L.U.
©2021 CJ ENM, TPS COMPANY ALL RIGHTS RESERVED
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1,3枚目はリメイク元の『暴走車 ランナウェイ・カー』、2,4枚目は『ハード・ヒット 発信制限』の公式予告からワンシーン。

キャリアを削りまくって金を集めろ!

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金持ちからお金を奪おうと思ったら、その人の家族など、身近な存在をさらって身代金を要求するのが王道です。しかし本作では、金を要求したい本人(主人公・ソンギュ)を爆弾付きの車に乗せて脅迫し、本人に金を集めさせます。

なぜなら、ソンギュは仕事一筋で家族とうまくいっていない様子。犯人にとって最悪の場合、ソンギュが『ゲティ家の身代金』よろしく「身内だろうが俺の金は一銭も払わねえ…」と、言い出す可能性があります…。

…それは流石に考えすぎだとしても、犯人はどうしてもこの方法で、ソンギュから金を集めなければならない理由がありました…。

さらに、ソンギュは銀行の支店長というゴリゴリの成功者。己のコネとスキルを活かして、顧客から身代金を集めようと奔走します。もちろん「自分の身代金をちょうだい」とは言えないので、「上手い投資の話がある」などとごまかしながら、詐欺まがいな手段を取るしかありません。

家族のために積み上げてきた経歴を崩さないと、自分と子どもを守れない演出はなかなかに皮肉が効いています…。犯人の口から出る「テキトーに生きていれば、こうはならなかった」という言葉に大きくうなずいてしまいました(自分もテキトーなので)

バリキャリであるほど死ぬ事件

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↑「爆弾?そんなことより仕事だ!」といった人の末路

爆弾が仕掛けられた当日はソンギュをはじめ、銀行のキャリア組にとって大切な会合の日。そのため、ソンギュは爆弾を仕掛けたという犯人からの連絡も、イタズラだと思って相手にしません。

しかし、目の前で同僚の車が爆発したことで事態は一転。そして同僚が爆死した理由は、助手席にいた妻が犯人の言葉を無視し、仕事を優先して車を降りたためでした。仕事に対する意識が高くなければ、こんなことにはならなかったのに…。

このようなキャリアを意識しすぎる人間を批判するような演出も印象的です。韓国では受験戦争が大きく取り上げられるくらい、キャリア・経歴に対する意識が強いので、この展開はかなりショッキングなはず…。何でもかんでも、キャリアや成功ばかりに気を配っていると、こういう目に遭うかもしれません。これは今の日本にも刺さる演出だと感じました。

犯人・警察・上司からも責められる四面楚歌

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『ハード・ヒット 発信制限』の犯人は身代金を手にするだけでなく、事件が明るみになっても自分の存在を知られないよう、主人公にあらゆる濡れ衣を着せようとします。お金はソンギュが太客をだまして集めたものだし、「爆弾を仕掛けられた」と口外すれば、犯人の持つ起爆装置で爆破させられる八方ふさがり。

おまけに、後部座席には子どもが乗っているので、はたから見れば無理心中をしようとしている父親に見えるという状態です…。

会合をほっぽり出してカーチェイスしたりしているので、上司から怒られることも必須。もうここまでくると、仕事で成功しようとするのがアホらしく感じられます。金なんていらない…テキトー万歳!

ただし、後部座席に座っている子どもたちは気の毒で成りません。この車に乗っていて一番のダメージを受けているのは、爆破した同僚の車の破片で大ケガする小学生の息子なのです…。しかし、この事件に巻き込まれたことで、ソンギュと子どもたちの間に意外な感情が芽生えます。

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さっきまで街中で激しいカーチェイスを繰り広げていたのに、突然見晴らしの良い海辺で包囲されながら、家族の絆を確かめ合う演出を挟むなど、ストーリー、映像ともに緩急の付け方がユニークな作品でした。

映画『ハード・ヒット 発信制限』まとめ

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これを観ても、あなたはあらゆる犠牲を払ってキャリアを手にしたいですか…?

自分は通勤中に爆死するのだけは絶対嫌なので、仕事なんてほどほどにして、のんびり生活したいと思いました。皆様もぜひ本作を観て、仕事との向き合い方を考えてみてはいかがでしょうか…?

映画『ハード・ヒット 発信制限』作品情報

監督:キム・チャンジュ 
出演:チョ・ウジン、イ・ジェイン、チ・チャンウク、チン・ギョンほか

2021年/韓国/韓国語/94分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:福留友子/原題:발신제한(英題:HARD HIT)/配給:クロックワークス/G
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