【『哭声/コクソン』の続編…?】ホラー映画『女神の継承』レビュー|鑑賞後の疲労感がスゴいのでメンタルケアもご紹介

『チェイサー』(08)『哭声/コクソン』(16)で知られる韓国の鬼才・ナ・ホンジンが、タイのオカルト要素を題材に描いたホラー映画『女神の継承』が7月29日(金)より公開されます。

本作は今も古い風習が残るタイ東北部・イサーン地方を舞台に、祈祷師一族に降りかかる悲劇を禍々しい演出やストーリーで見せてきます。

マスコミ試写の案内には「是非(元気な時に)ご高覧ください。」と、()部分が赤文字で書かれているという、おどろおどろしい文言も…。

実際、『女神の継承』は『哭声/コクソン』に負けないダークな世界観かつ圧倒的な脅威が待ち受けていました。

『女神の継承』概要

小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないかー。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。
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ここでいう”後継者”とはミンや母親、その妹で祈祷師のニムが代々受け継ぐとされる女神の精霊バヤンを憑依させる存在。精霊を宿した人は「巫女」と呼ばれ、バヤンが憑依するニムはその力を祈祷師として使い、村人を救っています。

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(↑『哭声/コクソン』の祈祷シーン。野次馬が集まってもおかしくないレベルで派手)

ちなみに祈祷師は『哭声/コクソン』でも扱われています。韓国の田舎で巻き起こる不可解な殺人事件と、ひとりの日本人(國村隼)が恐怖を招くオカルトホラー映画ですが、その中でも強烈だったのが、ファン・ジョンミン演じる祈祷師・イルグァンです。野外フェスかと見まがうほどの祈祷シーンは、ホラーの枠を超えた興奮を覚えました。

『女神の継承』は、このイルグァンの生い立ちを描こうとした監督のアイデアが出発点。舞台も登場人物も異なりますが『哭声/コクソン』とはまた違った、容赦ない展開がずっと続く怪作となっています。それゆえ、鑑賞後はぐったりすること必須です(嬉)

ラブコメも撮る監督に狂気の映画を作らせたナ・ホンジン

『女神の継承』で監督を務めるのはタイのバンジョン・ピサンタナクーン監督。そのキャリアは落合正幸監督のハリウッド映画『シャッター』(08)のリメイク元である『心霊写真』(04)で(共同監督として)長編デビューを果たします。

ホラーのほかには、2011年の大阪アジアン映画祭で上映されたラブ・コメディ『アンニョン!君の名は』(10・未)や、ホラーコメディ『愛しのゴースト』(13)などを手掛けています。

フィルモグラフィーを見る感じ、コメディや恋愛映画も作っている方なだけに、ナ・ホンジンのアイデアがどこまで息づいているのかも注目ポイントです。

モキュメンタリーの手法でリアリティある恐怖を味わえる

(C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.

本作はモキュメンタリーとなっており、タイの祈祷師に密着していたはずが、思いもよらぬ「憑依」の映像を収めようとする展開になっていきます。そのため、手持ちカメラによる臨場感をはじめ、監視カメラの映像など、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)や『コンジアム』(18)にも通ずる演出が観られます。(上記画像もよく見ると…?)

ちなみに本作は「『哭声/コクソン』を観てないと楽しめないのか?」というと、そんなことは全くありません。登場人物やストーリーに直接的な関連性はないので、本作からの鑑賞でも大丈夫。とはいえ、本作を観た後に『哭声/コクソン』を観ると、様々な考察がはかどることも事実です。

ココがヤバいよ!『女神の継承』見どころ3選

※「たった3選?」と思うかもしれませんが、一つ一つの要素が重いのでご安心ください。

①現場の祈祷師が全員引くレベルのヤバさ

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『女神の継承』でも豪華かつハイテンションな祈祷シーンが登場しますが、ミンに憑依しているものは非常に強力。次々と巻き起こる怪現象に、ほかの祈祷師がめっちゃ引いているのがその証拠です。プロが現場で引いちゃってます。

あれやこれやと対策を講じるニムたちをあざ笑うかのように、ミンの行為は次第に倫理観が欠如していくのです。

今作はR-18指定となっていますが、それは性的な意味以上に、モラルが著しく欠如したシーンが登場するためだと思われます。グロ要素以上に倫理的にぶっ飛んでしまった演出があるので、観終わったあとの疲労感も、多分ほとんどコレが原因です。

② 体感スピードのヤバさ

131分と少し長めの印象を受ける本作ですが、実際に観てみると「2時間ないんじゃないか?」というくらいの体感スピードです。これは上映時間156分の『哭声/コクソン』でも感じた体感スピードです。

ちなみに祈祷シーンに関しては、『哭声/コクソン』でファン・ジョンミンが披露した野外フェス並みのテンションが強すぎて、どうしても少し弱い感じがしました。しかし『女神の継承』で祈祷師たちが対峙するミンに憑りつく存在は『哭声/コクソン』を超える脅威とパワーで襲い掛かってきます。

次々と襲い掛かる怪現象。まるでメタモルフォーゼかと思うほど具合が悪化していくミン。さらにはミンの母親やニムだけに留まらない悲劇の連続など…。休む間も無く続く不気味な展開の数々によって、131分という時間も短く感じられました。

③ミンやニムの一族が背負うモノのヤバさ

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『女神の継承』では、ミンが「なにか」の憑依に苦しむのには明確な理由があります。その理由が果てしないうえに、とばっちり感が凄い点が、より今作の絶望感を引き立てています。

ミンたちに襲い掛かる脅威は「数こそ力なり!」と言わんばかりのスケール。祈祷とか精霊とか聞くと、なんだかオカルトすぎて小難しい印象を抱きそうですが、そこはシンプルかつ分かりやすくヤバい感じが伝わってきてよかったです。

『女神の継承』では、ミンに憑りつく正体を知ったとき、あまりにも果てしなさすぎて「そんなことあるんだ…」と普通に驚いてしまいました。ネタバレになるのであまり多くは言えませんが、ミンに取りついたモノのヤバさをはじめ、ニムなど祈祷師たちの抱える秘密も散りばめられています。

鑑賞後のメンタル回復推奨行為

上記の理由から鑑賞後の疲労感(いい意味で)すさまじい本作ですが、ここでは鑑賞した人が素早く体力を回復できるようにライフハックをご紹介します!しっかり鑑賞して、しっかり元気になろう!

日の光に当たろう

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『女神の継承』はほとんど夜か曇り、果ては霧が濃い日ばかりで、気分がどんどん滅入っていきます。儀式を行う場所も廃墟だし、とにかく徹底的にロケーションにポジティブな要素がありません。そのため、鑑賞後はいっぱいお日様にあたることが大切。雨の日に鑑賞した方は、もう電気でもなんでもいいので、めちゃ明るいところか、にぎやかな場所に行くのもおすすめです。

仕事のことは忘れよう

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(↑例に漏れず(?)祈祷師の仕事はあまりうまくいかない様子…)

ミンはハローワークに勤めていますが、憑依による体調不良が続き、仕事どころではなくなってしまいます。上司の理解も得られず(正確には、上司の理解の範疇を越える行動をミンがしてしまう…)、職場にミンの味方は1人もいません。

職場のシーンに関しては、ほとんどミンが苦しむ様子だけを切り取っているので、自分の仕事のことを考えたとき、ミンの不遇な姿がフラッシュバックしそう。そのため、鑑賞後は仕事のことを考えず、趣味や娯楽に時間を費やすのが吉。「外回りのついでに観ようかな~」とかは避けた方が無難です。お休みの日に観よう!

一人の時間を大事にしよう

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本作はミンだけが大変な目に遭う映画かと思いきや、彼女に関わる人々は大体恐ろしい目に遭います。特に本作は「血縁」というものに対して、おぞましいほどの負荷をかけているので、鑑賞後に離れて暮らす家族や、親戚とも連絡を取るのはやめた方がよさそう。いろいろ思い返してしまいそうなので…。

正しい倫理観を上書きしよう

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本作がR-18なのは倫理観ぶっ壊れの表現が多いためと推測できます。鑑賞後は「一番人間離れしているのはナ・ホンジンの道徳心では…」と思う場面もありました。そのため、見終わったあとは綺麗な映像や可愛くて尊いコンテンツを見て、倫理観を上書きしましょう(ただし、一部ジャンルは逆効果の恐れあり)

まとめ

「元気な時に鑑賞して下さい」

その言葉に偽りがないほど、(いい意味で)体力が持っていかれる『女神の継承』。夏バテしやすい時期での上映ですが、体力とメンタル力をつけて鑑賞しましょう!

映画『女神の継承』作品情報

© 2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED. 

原案・プロデュース:ナ・ホンジン『チェイサー』 『哭声/コクソン』
監督:バンジョン・ピサンタナクーン
キャスト:サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカン
2021年/タイ・韓国/タイ語/131分/カラー/1.78:1/5.1CH/R18+
原題:랑종
英題:THE MEDIUM 
字幕翻訳:横井和子
配給:シンカ
提供:シンカ、エスピーオー
後援:タイ国政府観光庁
協力:OSOREZONE
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