『ひぐらしのなく頃に』
2006年のコミカライズやアニメ放送をきっかけに当時大流行した作品『ひぐらしのなく頃に』(以下ひぐらし)。
同人サークル『07th Expansion』によるサウンドノベルを原作とし、アニメ、漫画、コンシューマーハードへの移植など数多くのメディアミックス展開を行った作品だが、そうした展開を行う作品に付き物なのは「実写化』だ。
ひぐらしはこれまで実写映像作品が4作リリースされており、それぞれ以下の通りである。
- ひぐらしのなく頃に(2008) 映画
- ひぐらしのなく頃に 誓(2009) 映画
- ひぐらしのなく頃に(2016) TVドラマ
- ひぐらしのなく頃に解(2016) TVドラマ
比較的新しいTVドラマ版と映画版は全くことなるアプローチで制作されており、その差異を原作やアニメ版と比べるのも面白い。
完全新作TVアニメ『ひぐらしのなく頃に 業』が原作を知っているほど予想できない衝撃的な展開で話題を呼んでいる今、そうしたひぐらしの歴史の中に存在した実写映像作品を振り返ってみよう。
以下、『ひぐらしのなく頃に』の基本的な構造についても言及しますので、原作、アニメ、漫画等いずれも未視聴の方にはネタバレも含まれる点をご承知おきください。
実写映画版『ひぐらしのなく頃に』
2008年公開の『ひぐらしのなく頃に』は『富江』(1999)などで知られる及川中が監督を務め、多くの邦画やドラマで目にする前田公輝の初主演作でもある。
原作「鬼隠し編」をベースに、本作独自の展開や、原作での他のパートの要素を組み合わせたような構成となっている。
ひぐらしといえば非常に独特な服装や髪色・口癖などのキャラクター造形が特徴的な作品だが、実写映画ではそうした要素をオミットし、現実に即した形で実写に落とし込んでいる。
公開当時、そうした原作とはかけ離れたキャラクターのイメージに批判的な声が多かったが、漫画やアニメの表現を実写で忠実に再現することが必ずしもプラスになるとは限らないので、直接的なマイナス点にはならないと思う。
しかし、ひぐらしがここまで話題になったきっかけとも言える作品のフックは、所謂「ギャルゲー」のような日常パート、部活パートからホラー展開に急転直下するギャップにある。
それを鑑みると、キャラクター造形もその展開を支える要素の一つなので、実写化に当たって扱いが難しいポイントだろう。
更に、実際に本編を観てみると、そうしたキャラクター造形の他、最序盤からホラー作品を匂わせる描写が目立ち、展開上の「ギャップ」が存在しない。
それにより、ひぐらし原作及びアニメ未視聴の方には全体的に冗長な凡作村ホラーに見えてしまう。
また独自の演出として、おはぎの針が凶悪だったり、山狗だけでなく大量の村人とのチェイス、夢と現実の境界が曖昧なような描写がなされたりと「解答編」視聴済の視聴者にとっては疑問が残るような展開がある一方で、圭一が既に発症していることが劇中で明確に描写されるなど解答編での種明かしのような描写もあり、「ループもので無数の世界を描き、それぞれから少しづつ謎が明かされていく」というひぐらしの醍醐味とも言える構造を短い映画の尺で描くことの難しさも感じられる。
惜しいポイントが有りつつも、興行収入としては単館系作品としては異例の2億円超えを果たしており、当時のひぐらしブームの熱量を伺い知れる。
2008年当時から時を経た今では更に多くの実写映画作品や、所謂2.5次元と呼ばれる舞台版の作品が数多くリリースされ、「原作に忠実であること」がイコール良作ではない例も多数存在する。マシーナリーとも子もそう言っている。
それも踏まえて改めて観てみると、決してつまらない作品ではないと思う。
ただし、当時話題になった件のシーンについては演出がちょっと独特すぎる…
そして、その翌年公開されたのが続編の『ひぐらしのなく頃に 誓』。
「罪滅し編」をベースに、他のパートの要素やオリジナル要素を加えた本作。
前作のテイストで「罪滅し編」を描き、前作の記憶を思い出す圭一や暗躍する鷹野、なんか知ってるっぽい梨花ちゃんなど、ひぐらしの本筋に関わる描写が登場する。
しかし、実写映画版は以降制作されず本作で完結となってしまったため、梨花ちゃんはなんか知ってるっぽいキャラで終わってしまい、原作における「終末作戦」が決行されて終了というなんとも後味の悪い閉幕となっている。
恐らく「祭囃し編」に当たる完結作を含めた3部作の構想があったのではないかと思われるが、結局まったく音沙汰がないため、映画版だけ観た人にとっては原作ひぐらしが描いたテーマや魅力がほとんど伝わってないのではないかと心配になってしまう…
前作を観て演者に愛着が湧いた方や、圭一とレナの戦闘シーンが実写だとどう演出されるのか観たい方などは本作も観て実写映画版の終わりを見届けて欲しい。
総合して、原作とは異なる実写(現実)に寄せたアプローチや、映画の尺に合わせるためのアレンジなど、今の目線で見返したら評価が変わってくるかもしれない印象を受ける実写映画版ひぐらし。
そのあたりを鑑みても理解が難しい描写・演出はあるものの、ぜひフラットな気持ちで観て欲しい作品。
実写ドラマ版『ひぐらしのなく頃に』
2016年に公開されたドラマ版『ひぐらしのなく頃に』/『ひぐらしのなく頃に解』
最もひぐらしブームが盛り上がった2006年前後から約10年経過していることや、BSスカパー!での放送ということもあり映画版と比べると大きな話題とはならなかった本作。
主要キャストはNGT48から選出され、圭一は『仮面ライダードライブ』の詩島剛 / 仮面ライダーマッハ役の稲葉友が演じた。
映画版に対しての批評を意識してか、ストーリー・キャラクター造形共に原作に非常に近い形で描かれた本作は、前半「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」、後半「目明し編」「罪滅し編」と公開された。
映画版同様「罪滅し編」が最終話になるため若干展開が異なるが、キャラクターについては特徴的な服装や口癖を忠実に再現している。
概ね好評なドラマ版を視聴した方が口を揃えて言う感想に「梨花ちゃんがでかい」というものがあり、その辺りからもアニメ・ゲーム作品の「実写化」自体の難しさを感じる。
60分×10話の尺によって原作に沿った展開が可能となったものの、凄惨な事件が続く「出題編」に対し希望が見える「罪滅し編」を経て「皆殺し編」の絶望、「祭囃し編」の大団円と続く展開にカタルシスがあるひぐらしの全体像が描写されないのは実写映画と同様物足りなさは否めない…
まとめ
アニメでも長い期間をかけて描かれた非常に壮大で複雑なひぐらしの世界観を丁寧に描くには非常に多くの尺を要するため、ストーリーやキャラクターのアレンジ・カットはむしろポジティブに受け取りたい。
実際、映画2作目での大杉漣が演じた大石は、原作とはまったく別人なものの良いキャラクターだったと思う。
10年以上経った今でも完全新作が公開される壮大なひぐらしワールドの一部として、数多くの媒体から作品がリリースされたがこうした実写作品も今の視点で改めて振り返ると見えてくるものがある。
ブーム当時中高生だった方は大人になり、新作の公開に胸を熱くしたことだろう。
ぜひこの機会に実写版ひぐらしも見て当時の熱狂を思い出してみてはいかがだろうか。
- ぢごくもよう 第二十九話『金魚鉢』
- 最近のティム・バートン監督事情!35年ぶりの『ビートルジュース』新作前に起きたディズニーとの決裂や大成功作品の登場とは?
- 復讐よりも予想外にもっとおっさん同士のBL見せてくれよ!ってうっかり思ってしまう『碁盤斬り』
- 映画『ディープウェブ/殺人配信』公開決定!『ホステル』×『SAW』に次ぐ超ハードスプラッター上陸!
- 超バニアバトル バニバト! 9話
- 『ヨングと宇宙怪物プルゲリ』の愛すべき点とは?
- サキュバスのメロメロ 13話/マー
- ホイホ・ホイホイホ/ほしつ 6話
- ぢごくもよう 第二十八話『太陽の目』
- 「あなたはもしや僕のお母さんですか?」インターフォンモニター越しにヤンデレ風の美少女の正体を自由に探る推理ADV『Inverted Angel』絵日記