『ヨングと宇宙怪物プルゲリ』の愛すべき点とは?

かに三匹

今回紹介するのは1994年の韓国映画『ヨングと宇宙怪物プルゲリ』だ。
ニューヨングシリーズ第一弾と銘打たれている。今作にはタイトルにもなっているヨング(演じるのはシム・ヒョンレ)が登場している。以前紹介した『ティラノの爪』の次に韓国のスター、シム・ヒョンレが監督・出演した映画だ。

シム・ヒョンレは1958年生まれの、1980~90年代を代表する韓国のお笑い芸人である。
多くの映画にも出演して(例えばSF特撮シリーズ『宇宙から来たウレメ』シリーズでは主役であるエスパーマンを演じた)、後に映画監督業にも進出して、いくつもの作品を制作している。また大学でも教鞭をとったり、飲食業にも進出したという。
彼の当たり役はテレビ番組で演じたヨングという役柄である。おバカなキャラクターが人気となった。

その人気ぶりからヨングを主役にした映画がいくつも製作された。子供たちに大人気で韓国のこどもの日には毎年テレビ放送されていたのだという。この作品も、そんなヨング映画の一つだ。しかもSFだ。
ストーリーは、シューメーカー・レヴィ第9彗星と木星の衝突(映画が製作された1994年に起こった)を観測しようとヨングが夜空を眺めているとエイリアンが地球へ侵入しようとするのを見つけてしまう。何と言う偶然!

アンドロメダから、彗星との衝突で星を失い宇宙を放浪してやって来たエイリアンが地球を狙っていたのである。観測していた場所の近くに宇宙船が着陸しミニ飛行ロボットやプルゲリがヨングに襲い掛かって来る!

しかもエイリアンが侵入してきたことを多くの人が信じてくれない中、エイリアンは実験のためにヨングのクラスメートであるヨンヒを誘拐しようと宇宙怪物プルゲリを使って襲うが、ヨングにより阻止されてしまう(なおヨングの友人たちを演じるのはいい年をした大人なので、ヨングの通っている学校の3年1組クラスの場面では小学生に交じり大人が半ズボン姿で子供たちと共に授業を受けている)。
侵略が失敗だと悟ったエイリアンは「私たちは戻って来る」と宣言し地球から去るのだった。

まあ、こう書くと、何という特徴もないSFモンスター映画だと思われるだろうが、その通りである。

おそらく予算はエイリアンのスーツとモンスターであるプルゲリの着ぐるみとセットの制作費が大半なのではと思われる。あとは郊外の村でロケしているだけ。緊張感もないまま始まり、終わる。

挿入される学校での先生、村の住人や警察官とのやりとりはドタバタコメディーで、意思を強く持たないと、これがSF映画だという事を忘れそうになるほどだ(なお今作ではヨングの父親は死んだという言及があるがヨングも苦労しているのだろう)。

しかし愛すべき作品である。その理由は3つある。小ネタが色々仕込まれているのである。

1つ目は主人公ヨングの活躍ぶりである。この作品ではヨングはカンフーでエイリアンと戦う。強い。
意外と言っては失礼だが主人公らしい活躍を見せるのである。特に宇宙怪物プルゲリとの戦いではパチンコ(!)を使う。そして変幻自在にプルゲリの弱点を攻めるのだ。この時は撮影に火薬も大量に使っておりプルゲリの背後で爆発・爆炎がすさまじい事になっている。

さすが「ニューヨングシリーズ」である。ビデオジャケットには「緑の星地球は私が守る!!」と書いてあるが、まさにその通りである。

2つ目は宇宙怪物プルゲリの描写である。イノシシの頭と恐竜の身体を持つプルゲリは、そのシルエットが凡庸で一目も見ただけでは印象には残らない。こうした脱力系モンスター映画では欠かせない特徴だ。しかも弱点はお酢! 
筆者は韓国製のお酢飲料を愛飲しているが、これも韓国らしい弱点だ。室内で暴れるプルゲリにたまたまヨングが手に取ったお酢瓶を投げたことからプルゲリが悶絶し、ヨングに弱点だと知られてしまう。なんとお酢が体に触れると体が燃えて大変なことになってしまうのである。そしてヨングによる火薬とお酢による攻撃でタジタジになってしまうのだ。

いくら弱点を見極められたとはいえヨングのパチンコにより倒されてしまうプルゲリが、いとあわれである。さらに大量の爆薬が使用される中、動きづらい着ぐるみを装着しての演技はいかにも危険で大変そうであり、役者さんがかわいそうになるレベルである。

3つ目はエイリアンの描写だ。先ほども述べた通りヨングはカンフーで戦うが、エイリアンたちも武術の心得があるようで、ヨングと体術を駆使して戦う。しかしヨングに押されて不利になるとレーザー銃でヨングを殺しにくる。

だがヨングが持っていた鏡で反射されてしまい死ぬ。それにしても地球に降りてきたエイリアンはたった4人。プルゲリ、そしてミニ飛行ロボットもいるとはいえ、地球侵略を実行するには少な過ぎないか?

それで地球侵略が出来るのであろうか。と、これも脱力系モンスター映画らしくて笑ってしまうのだった。こうした愛らしい点も含めて、楽しい作品であった。

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