劇場版『風都探偵』公開記念!過去作で振り返る、吉川晃司=仮面ライダースカルが体現するハードボイルドな生き様

ツナ缶食べたい

 11月8日(金)に劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』が公開される。桐山漣と菅田将暉がW主演を努めた2009年放送の『仮面ライダーW』のその後を描く漫画作品『風都探偵』初の劇場アニメ化、というやや特殊な経緯により生まれた本作だが、注目すべきは『仮面ライダーW』という物語の原点である「ビギンズナイト」が初めてアニメ化される、ということ。

 今回は、ビギンズナイトとは切っても切り離せない存在であり、タイトルにその名が刻まれた仮面ライダースカルと、それを演じた吉川晃司の軌跡を振り返ることでよりアニメを楽しめるだけでなく、『W』という作品に鳴海荘吉という男が加えた大人の味わい、“ハードボイルド”な生き様についても思いを馳せる、そんなテキストをお届けしたい。

 『仮面ライダーW』の記念すべき1話の冒頭、白いスーツの男が、敵の凶弾に倒れる。その光景を目にした少年・フィリップは、男から帽子を託された青年・左翔太郎に「悪魔と相乗りする勇気」を尋ね、二人はガイアメモリによって変身する戦士「ダブル」になる―。後に「仮面ライダーダブル」と名乗ることになる二人が初めて変身したはじまりの夜、翔太郎にとっては苦い別れの一夜を、二人は「ビギンズナイト」と名付けた。

 そのビギンズナイトで命を落とした男こそが鳴海荘吉であり、翔太郎が弟子入りを頼み込むほどに憧れた男の中の男にして、ハードボイルドな私立探偵。いわゆる「おやっさん」的な立ち位置であり、物語開始時点で死亡しながらも、主人公の憧れとして常にその存在が語られていた男。そんな荘吉の姿と、ビギンズナイトの詳細が初めて明かされたのは、2009年公開の映画『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』にて。

 これまで顔が明かされていなかった鳴海荘吉を演じるのは、なんとあの吉川晃司ということで、発表当時かなり話題を呼んだことを覚えている。そんなビッグキャストだが、関連書籍のインタビューを読むと吉川へのオファーはなんとクランクインの2週間前という突貫工事ぶりで、しかし初代『仮面ライダー』や『キイハンター』をこよなく愛する吉川はこの突発なオファーを快諾。かくして、『W』はじまりの物語が形を得たのである。

 『仮面ライダーW』の制作陣は、日曜朝放送かつ子どもが観る番組で探偵物語には欠かせない「ハードボイルド」を描く難しさを語っており、主人公の左翔太郎はハードボイルドに憧れる半人前の「ハーフボイルド」として設定され、その成長を描いていく方針を立てるのだが、その翔太郎が憧れる師匠ともなれば、そうはいかない。劇場版とはいえ『W』単体のドラマに割り当てられた尺は限られており、その中で観客の誰もが納得できるハードボイルド像を、キャラクターとして成立させなければならない。

 その点において、鳴海荘吉=吉川晃司は、完璧だった。立ちふるまいに、佇まいに、指先の動きに至るまでの細部に、TVシリーズにはなかった大人の色気が立ちすぎている。まさに、男が惚れる大人の男。彼がスクリーンに登場した瞬間から、鳴海荘吉と吉川晃司は完璧なシンクロを披露していた。本作でメガホンを取った田崎竜太監督によれば、衣装合わせであの印象的な白いスーツを着た吉川晃司を見た瞬間に「鳴海荘吉がここにいる」と思ったと証言しているが、それと全く同じ感情を観客もこの映画で味わうことが出来たのだ。

 吉川は本作にて、生身のアクションも自ら務めている。敵の戦闘員を蹴散らすシーンでは、吉川のトレードマークであるシンバルキックも披露。背中で語りたい、という本人の意向によりわかりにくいものの、アクション監督の宮崎剛氏によれば、ほとんどのシーンを素面で演じているというのだから、驚きである。

 物語においても、鳴海荘吉の存在が『W』の全ての根幹であることが明かされていく。人を怪人へと変える「ガイアメモリ」を流通させる謎の組織に囚われた少年を救うべく、とある島の施設にやってきた荘吉は、敵の襲撃を受けやむを得ず仮面ライダースカルに変身する。その光景に驚く翔太郎だったが、手柄を立て認められたい一心で、荘吉の命令を破ってしまう。そのことが、荘吉の死を招いてしまう。

 死者を蘇らせる敵の能力によって現れたスカル=荘吉にそのトラウマを掘り返され、一時は探偵と仮面ライダーの両方から逃げ出してしまう翔太郎。そんな彼に、相棒であるフィリップはあの夜のもう一つの真実を語る。ガイアメモリを造る道具として幽閉されていた少年は、その日初めて自分の名前を得た。フィリップ。それは、自身の決断で全てを解決する男の名。あの夜、名前さえ持たなかった少年は、鳴海荘吉によって、一人の人間として生きる決心をする。

 左翔太郎とフィリップ、仮面ライダーダブルに変身する二人の精神的な父親としての鳴海荘吉の生前の姿を思い出すことで、二人は改めて「二人で一人の探偵で、仮面ライダー」に復帰する。敵がなりすましたスカルを倒し乗り越えることで、二人は本物の鳴海荘吉の意思を継ぎ、彼が愛した風都という街を守り闘う決心を固めるのだ。そうしたドラマの果て、前作『仮面ライダーディケイド』とのクロスオーバーだからこそ可能になったラストの展開が、翔太郎のドラマの中で一つの区切りを示す巨大な感動を生むのであった。

 吉川晃司はその後ミュージシャンとして、鳴海荘吉名義で『Nobody’s Perfect』をリリース。この楽曲はTVシリーズ32話の挿入歌として流れ、ダブルが最終形態であるサイクロンジョーカーエクストリームに至るまでのドラマを盛り上げただけでなく、荘吉と若き翔太郎が関わった事件を描く形で製作されたミュージックビデオが『W』の番外編としても渋い味わいを醸し出しているため、ぜひこちらの公式動画をご覧いただきたい。

 そして、吉川晃司が仮面ライダーの世界にカムバックするのは、初登場から1年後の劇場版『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE』にて。鳴海荘吉待望論が大きかったのか、なんと今作では初めてスカルに変身するまでの、鳴海荘吉のビギンズナイトが描かれることになった。

 TVシリーズから時代は遡り1999年、風都の街で起こる最初のガイアメモリ犯罪を描く本作では、鳴海荘吉はマツ(演:山本太郎)という相棒と二人で探偵業を営んでいた。そんな折、密かに荘吉に想いを寄せる歌姫のメリッサは彼に身辺警護を依頼するのだが、彼女の前に突如クモの姿を模した怪人が現れた。荘吉は自身がガイアメモリを使用することを拒み続けてきたが、幼馴染であり協力者のシュラウドの手によって変身、骸骨の戦士「スカル」へとその姿を変える。

 吉川晃司は鳴海荘吉の過去を描く本作に参加するにあたり、「なぜ荘吉は愛する娘の元に戻らなかったのか」の解明と、ダブルの決め台詞である「さぁ、お前の罪を数えろ」の誕生秘話をリクエストしたと製作陣が語っているが、これには当人の鳴海荘吉への深い理解と、作品にかける情熱を感じさせる、個人的にも大好きな逸話だ。そのお題から逆算して生まれた本作は、TVシリーズでは醸し出せないビターな余韻を、観客の心に残していく。

 メリッサにつきまとうクモ怪人の正体は、荘吉もよく知る人物であった。だが、その真実を追求すること、ガイアメモリを自分で使用することを躊躇ったがばかりに、風都の街に大量の死者を出してしまい、自分も二度と娘に触れられなくなる、という代償を受ける。荘吉は自身の甘さゆえに、街を泣かせ、愛する家族を悲しませてしまった。そんな自分の罪を数えたからこそ、荘吉は真のハードボイルドに至る。迷うこと無く決断し、全てを己の力で解決する。「さぁ、お前の罪を数えろ」とは、自らを罰しながら唱える、誓いの言葉なのだ。

 異形に姿を変え、悲しみを湛えた目元を仮面で隠す。仮面ライダーの歴史は芳醇と言えど、明るい作風の続いた平成2期ライダーの中でも指折りの悲壮さを背負ったスカル=鳴海荘吉は、石ノ森ヒーローのDNAを色濃く受け継ぐ、苦い味わいのヒーローだ。それでいて、メインターゲットである子どもたちはもちろん、大人のファンからも憧れの眼差しを受ける、最高に格好いい大人のヒーローをまさしく「体現」した吉川晃司でなければ、鳴海荘吉というキャラクターは成立しなかった。初登場から15年を経ても色褪せることのないハードボイルドな男の背中は、そうした奇跡の巡り合わせによって実現したのである。

 そして、鳴海荘吉とビギンズナイトの物語がついにアニメ化される劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』が間もなく公開される。アニメの鳴海荘吉の声を担当するのは、津田健次郎。アニメの現場のみならず、民法ドラマや実写映画でも引っ張りだこな「イケオジ」声優が命を吹き込むもう一つの鳴海荘吉に、一人のファンとして公開日が待ち切れない日々を過ごしている。

 さらに、この劇場版の主題歌は吉川が再び「鳴海荘吉」名義で作詞・作曲・歌唱を担当した新曲『似合う男になれ』である。この曲名の意味を知る者なれば、この曲に込めた作品愛が痛いほどに伝わってくるはずだ。吉川晃司と、津田健次郎。二人の名優が紡ぎ出す、鳴海荘吉=仮面ライダースカルの新たな物語。ぜひ、映画館で見届けてほしい。

作品情報(公式より引用)

─仮面ライダーW 始まりの夜。その全てが明かされる─

劇場版「風都探偵 仮面ライダースカルの肖像」を、11月8日(金)より期間限定上映!!
描かれるのは、大人気エピソード・ビギンズナイト。
「仮面ライダーW」が誕生した夜、翔太郎とフィリップ、そして鳴海荘吉の身に何が起こったのか……。
実写「仮面ライダーW」では語られなかった真実と、アニメならではの迫力に満ちた体験を、ぜひ劇場でお楽しみください。

【劇場版「風都探偵 仮面ライダースカルの肖像」作品情報】

<CAST>
左 翔太郎:細谷佳正
フィリップ:内山昂輝
ときめ:関根明良
鳴海亜樹子:小松未可子
照井 竜:古川 慎
万灯雪侍:小野大輔
鳴海荘吉:津田健次郎
左 翔太郎(少年):村瀬 歩
園咲 冴子役:佐藤聡美
大嶋 凪役:福山 潤

<STAFF>
監督:椛島洋介
副監督:種村綾隆
脚本監修:三条 陸
脚本:樋口達人
キャラクターデザイン・総作画監督:蛯名秀和
総作画監督:小松原 聖
メインアニメーター:木村和貴/小畑 賢/横屋健太/柴田 駿
音楽:中川幸太郎/鳴瀬シュウヘイ
エグゼクティブプロデューサー:塚田英明
スーパーバイザー:小野寺 章
アニメーション制作:スタジオKAI
配給:東映ビデオ
製作:「風都探偵」製作委員会

<原作>
石ノ森章太郎
「仮面ライダーW」石森プロ・東映
「風都探偵」脚本:三条陸、作画:佐藤まさき、監修:塚田英明、クリーチャーデザイン:寺田克也
石森プロ・東映(小学館発行「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)

公式HP:https://www.kamen-rider-official.com/fuuto-movie/

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