激震が走る、というのはまさにこういうことを言うのだろう。2025年11月、愛と平和のために闘い続けてきたスーパー戦隊シリーズは、新ブランド【PROJECT R.E.D.】へと移行することが発表された。日曜朝の放送枠は変わらずとも、「3~5人のヒーローが悪の組織と闘う」「最後は巨大ロボに搭乗して闘う」という伝統を守り、時には破壊しながら新しい表現を模索し続けてきたシリーズは、ここにきて歩みを止めることとなってしまった。
この大胆な改革は、東映特撮ヒーローのさらなる発展と、レガシーの再発掘を見越した屋号の変更である、と理解している。それに、東映特撮の再演やリブートは過去にも多くのチャレンジがなされている。その成否は作品ごとに大きく賛否が割れていることも事実なのだけれど、こんな時だからこそ、いい思い出を語りたい。
というわけで今回は、私のスーパー戦隊映画オールタイムベストをご紹介。その名も『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』だ。


本作のメインを張る戦隊サイドは、2011年放送の『海賊戦隊ゴーカイジャー』。スーパー戦隊35作目を祝うアニバーサリーな彼らは、過去の戦隊ヒーローの姿に変身する「海賊版」なヒーロー。そのド派手で豪快な活躍は、歴代のスーパー戦隊と当時の子どもたちを繋ぎ合わせる架け橋となったのと同時に、ゴーカイジャーそのものが魅力的でカッコイイ、レジェンドと肩を並べる35番目のスーパー戦隊としての魅力を確立していた。メンバーには山田裕貴、M・A・O名義で声優活動をしている市道真央など未来のスターも出演している。
そんな彼らの一年間に及ぶ闘い(放送)もクライマックスに近づく2012年1月に公開された『VSギャバン』は、ついにスーパー戦隊の枠を超え宇宙刑事シリーズとの初のクロスオーバーが実現。栄えある第一作『宇宙刑事ギャバン』よりギャバン/一条寺烈が若き海賊たちの前に現れる。演じるのはもちろん、日本アクション界のレジェンド、大葉健二。
わずか64分の尺しかない本作は、開始から全力全開。ゴーカイジャーの海賊船を謎の円盤が襲撃したと思えば、銀色に輝く宇宙刑事ギャバンが颯爽と登場。夜の暗闇に眩しく光る銀色のメタリックヒーローは、子どもたちのお目当てであるゴーカイジャーを瞬殺。レジェンド戦士枠ということもあれど、数多の敵を屠ってきたゴーカイジャーの必殺技を「バリアー!」の一言で無効化するあたり、いくらなんでも強すぎ。
ギャバン/一条寺烈に逮捕されたゴーカイジャーは宇宙警察の総裁ウィーバル(演:佐野史郎)の元へ連行され処刑を宣告される。実はウィーバルはゴーカイジャーの宿敵ザンギャックの一員アシュラーダに乗っ取られており、全てはゴーカイジャーを始末するための罠だった。その策略に気づいた烈によって解放されるゴーカイジャーだったが、彼らの前に現れたのはギャバンの姿や能力をコピーしたロボット戦士、ギャバンブートレグ!ここにきてギャバンのブートレグ(海賊版)が立ちふさがる、海賊戦隊ならではのアツい展開に。
6人目のメンバー、ゴーカイシルバー/伊狩鎧の助太刀を得て、なんとかその場から脱出に成功するゴーカイジャー。しかし烈はアシュラーダによって魔空空間に閉じ込められてしまう。その直前、烈の発した「よろしく、勇気」という言葉を受けて、ゴーカイレッド/キャプテン・マーベラスは自分の過去を思い出していた……。


本作は前述の通り尺が短いのだが、その分最初から最後まで見せ場がギッシリ詰まった、珠玉のお祭り映画となっている。『ゴーカイジャー』がメインというだけで過去のスーパー戦隊の人気キャラクターが脈略なく登場しても違和感がないし、声の出演は田村ゆかりに関智一、平田広明や櫻井孝宏などかなりゴージャス。エンドロール前には「せっかく大葉さんが出てくれるなら……」と度肝を抜くシニア接待ファンサが挟み込まれるも、当時の次回作『特命戦隊ゴーバスターズ』が顔見せ的に参戦するなど、キッズたちが明日教室で自慢したくなるお土産も抜かりない。
そして本作はただの賑やかなお祭りにあらず、短いながらもメインストーリーは番外編として完成度が高い。ギャバン/烈の存在がゴーカイレッド/キャプテン・マーベラスのオリジンに深く関わっていたという種明かしに、主題歌の印象的な歌詞を絡めた一連の台詞はオールドファンの涙を誘う。また、一年間で培われたゴーカイジャーの固い絆を思わせる魔空空間突入前のアツいシークエンスも見逃せない。


何といってもメインディッシュは、終盤の大合戦。あの頃は助けられる側だったマーベラスは、いつしか救いのヒーローと肩を並べて闘う存在へと成長した。それを見て不敵に笑う烈。二人の想いがクロスした時、流れるは伝説の挿入歌『チェイス!ギャバン』のインストバージョン!


勢いそのままに、待ってましたと言わんばかりの「蒸着!!」で烈がギャバンへと姿を変え、お約束の「では、蒸着プロセスをもう一度見てみよう!」もしっかり完備。続けてゴーカイジャーも変身シーンを披露し、こちらも「変身プロセス」を関智一新録ボイスでやってくれる大盤振る舞いに、テンションは最高潮へ。


ゴーカイジャーとギャバン。異なるシリーズに属し、地球を守るために闘ってきた二大ヒーロー、奇跡の競演。その横並びの画のまま名乗りをキメて、さらに上乗せで主題歌『宇宙刑事ギャバン』が流れる。ここ!ここで毎回泣いてしまう!!渡辺宙明大先生の音楽、串田アキラ兄貴のシャウトが、あの頃の少年少女たちの胸のエンジンに火をつける。ある特定の世代にはおもしろフラッシュ倉庫でおなじみの曲かもしれないが、本来はこんなに滾る楽曲なんだぜ。
ゴーカイジャー&ギャバンVSギャバンブートレグ&ザンギャック戦闘員の、東映特撮ではおなじみの“港の倉庫っぽいところ”で繰り広げられる、縦横無尽の一大バトル。ゴーカイジャーはトレードマークの武器を交換しながらのコンビネーションで、ギャバンは伝家の宝刀レーザーブレード(あのBGMももちろん流れる)での剣戟で強敵と相対。ちゃんとヒーローの個性に沿ったアクションが用意されているのも、丁寧なクロスオーバーの美味しい部分ですよね。
クライマックスはスーパー戦隊の伝統、巨大戦シークエンスも用意されており、ゴーカイジャーとギャバンのタッグ必殺技によって見事アシュラーダを撃破。その後は前述した「度肝を抜くシニア接待ファンサ」もありつつ、烈を見送るマーベラスで締め。宇宙刑事ギャバンが謳い続けた「勇気」の志は、こうして今のヒーローへ、そしてそれを応援する子供たちへと継承されるのであった。


大げさでもなく、本作は「ヒーロー映画」としても、「クロスオーバー」としても完璧な作品の一つだと、言い切ってしまいたい。現行ヒーローの『ゴーカイジャー』が格好良く活躍するだけでなく、『宇宙刑事ギャバン』の魅力、魂、メッセージ性、それらが短い尺に凝縮され、若い世代の心にも響く。ただ客演するのではなく、主人公の成り立ちに紐づくこと、「刑事」と「海賊」の矜持を対立させ、時に融和させることで強敵に立ち向かう、一連の話運びの完成度は見事という他ない。
またキャストの素面、ヒーローのスーツアクションも力が入っており、劇場作品というだけでなく「大葉さんの前でショボいもん見せらんねェ」という作り手の気概が感じられるところもたまらない。特撮ヒーローを愛し、分析し、その魂を今の世の中に響かせること。その難題をわずか60分で描き切った『ゴーカイジャーVSギャバン』は、スーパー戦隊の歴史を語る上で外してはならぬクラシックの一つだと、この場を借りて明言したい。
奇しくも、新ブランド【PROJECT R.E.D.】の第一弾に選ばれたのはギャバン、その名も『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』である。超でインフィニティとすでに強い言葉の過積載を起こしつつあるが、令和を生きる全ての子どもたちに新生ギャバンが強く刺さり、やがてはスーパー戦隊との再びの共闘を果たす、そんないつかの明日を願っている。
『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』は東映特撮ファンクラブ他、各種配信サービスにて配信中。
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