人気の黄金バットが大変なことに。『ヨングと黄金バット』(1992年)

かに三匹

黄金バットは昭和初期の日本の紙芝居から生まれたスーパーヒーローだ。1950年代~1960年代に映画化もされ、さらに韓国が制作現場(東洋放送内に設置された第一動画)となって1967年からテレビアニメが製作された大人気作だ。漫画でもスピンオフが存在する。テレビアニメ版は韓国でも放送され人気を博していた。

その人気にあやかって制作された韓国実写版『黄金バット』が、これだ。主役はヨングシリーズ(ヨングというおバカキャラが活躍する)でおなじみのコメディアン、シム・ヒョンレ。監督はキム・キナム。おそらく制作にあたっては日本側の許可は取っていないだろうなあ……。
ある意味ヨングシリーズと黄金バットがクロスオーバーした作品だけに期待だけは膨らむ。

目を引くのは黄金バットの特異な造形だ。

日本で作られた映画は白黒映画だったのだが、この作品はカラー作品。全身金色で禿げた黄金バットがマントと赤いパンツ一丁で空を飛ぶシーンのインパクトは大きいものがある。ナゾーやマゾも実写で登場するのだが、これがナゾーもマゾもコスプレというか微妙な感じだ。アニメ版では気にならなくても実写にしたら変になると誰も気づかなかったのか? 

そして敵には着ぐるみのグレムリンっぽいキャラクターも登場する(というかナゾーにグレムリンと呼ばれているよ!)。ヨングのおバカなキャラクターはいつも通りだが、敵の捕虜になったヨングの遺伝子を基にナゾー一味は戦闘員を改造したのはいいがヨングと同様おバカな戦闘員となったために大変なことになる。歌を歌ってバカな事を言うのでナゾーに粛清されるのだった。

ストーリーは、アンドロメダ星を滅ぼしたナゾー一味(劇中では韓国版『黄金バット』に倣ってナゾーは「サマ」と呼ばれている)が地球を侵略しにやって来る。アンドロメダ姫の願いでヨングと黄金バットがナゾー一味を相手に大活躍する、というものだ。なお韓国のアニメや特撮では宇宙からやって来たお姫様を助けて主人公が大活躍するストーリーが大量にあり、これは韓国社会における何らかの精神性を反映しているのだろうか?

と考察したくなるが、おそらく、ただ設定を考えるのが面倒くさかっただけだろうなと思う。その分、特撮やアクションに力が入っていれば文句はない、のだが、オープニングでは高笑いを上げながらワイヤーワークで空を飛ぶシーンが強烈だが、その異様な雰囲気に、この映画は大丈夫なのかと不安になる。そして、その予感は当たる。

冒頭の数分間は平和な村でヨングと子供たちや家族とのドタバタ劇が繰り広げられるのだが、突然、村のあちこちで爆発が起こる。それは村を襲うナゾー一味の仕業だった。急転直下だ。そこに現れる黄金バット。彼は、自分はアンドロメダ星から来た黄金バットだと名乗り、ナゾー一味を倒す。しかし、ヨングの家族や村人はナゾー一味に連れ去られてしまった。ヨングは心細くなったからか、寝てしまう(えっ!? 寝るの?)。

夢の中でアンドロメダ姫のメッセージを聞いたヨングは黄金バットの名前をつぶやく。すると、どこからともなく現れる黄金バット。ここから二人の活躍が始まる! と思ったら黄金バットは夜空に飛び去ってしまう。
ここは、黄金バットは呼ばれると現れ活躍すると去っていくと追いうオリジナルの設定を律義に順守している様だ。

翌朝、ヨングが村に行くと路上でたむろする子供たちがいた。彼らも家族を連れ去られたようだ。警察署に向かうヨングだったが警察にはナゾー一味の来襲を信じてもらえず叩き出されてしまう。さらに頭がおかしいのではと病院に行かされる。

医師に診察されていたヨングを助けに黄金バットが現れ、ようやく物語は動き出す。ここまで30分。長かった。と思ったら、黄金バットが現れたと騒ぐ医師までもが頭がおかしくなったと思われてしまう一幕も描かれ、早く黄金バットの戦いを見せろとイライラしてしまうのである。

さてヨングとともにナゾー一味の基地に向かう黄金バットだったが、ヨングを残して、また飛び去ってしまう。だから何がしたいんだ、黄金バット!? 
ここまで律義に設定を守られると逆にもどかしい。ヨングは基地に忍び込むが、ここからもヨングが基地内で迷ったり、口から怪光線を吐くゴリラに襲われたり(なおゴリラはヨングのおならで倒される)、騒動を繰り広げる様がたっぷり描かれる。だから黄金バットは、まだ活躍しないの?

ご安心下さい。開始から50分を過ぎ、ようやく目から怪光線を放つ銛を持った怪人に襲われたヨングの呼びかけに応じて黄金バットは現れるのだ。強い! 絶対的に強い! 黄金バットの活躍! 

その戦いの最中、ついにナゾー一味の戦闘員に捕まったヨングは両親に再会。色々あって囚われの身になったヨングは上述のように戦闘員改造の為に遺伝子を無理やり提供させられるが、ヨングの願いで呼び出された黄金バットのおかげで助け出される。

黄金バット主題歌の替え歌を歌って黄金バットを怒らせるヨング。そして村人とアンドロメダ姫を助け出すヨング。飛び去る黄金バットとアンドロメダ姫を見送り、基地が爆発して余韻もなにもなく、終わる。

一応、黄金バットとナゾーやマゾ、鎌怪人との対決など見せ場もあるが、後半はナゾー一味の基地でヨングがウロウロしているシーンが大半を占めるだけだ。やはり大丈夫ではなかった。その酷い内容のため映画はオオコケしたという(まあ俺は大好きなんだけどね)。

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