異質な関係性のピンク映画

くそげろっぴ

どうもくそげろっぴです。
普段は歪な作品や文化を取り上げ、イベントやメディアで発信させていただいております。

第一回はピンク映画を題材に異質な関係性の作品をご紹介します。
異質な関係性の作品を取り上げようとしたきっかけは、来月「少年と犬」がめでたくリバイバル上映されるからです。
この作品は荒廃した世界や地下のユートピアのビジュアルセンスもさることながら、人間と犬との関係性が皮肉を感じさせて衝撃的でした。

人間は知性を獲得したことで、他の生物や空想の中で関係を育み、複雑な愛着行動をする生き物としての側面も掛け合わせています。種族を超えた関係性の例でいうと、ここ最近ではギレルモ・デル・トロ「シェイプ・オブ・ウォーター」が大ヒットしましたね。
「少年と犬」も犬が父母のような役割で子供を諭しながら交流を育み、親子とも捉えられる異質な関係性に発展しております。

前者で挙げた2作品は海外ですが、日本でも異質な関係性の作品は大量にございます。江戸川乱歩「人でなしの恋」における人形愛然り、沼正三「家畜人ヤプー」マゾヒズム的な関係性、葛飾北斎「喜能会之故真通」一場面におけるタコとの性愛(通称「蛸と海女」)など挙げていけばキリがないですね。映画においては、ピンク映画や日活ロマンポルノは特に性愛の物語として日本が独自発展させた文化です。その中には倫理観の垣根を越え、異常な関係性が育まれる作品も多いですが、エロがあるので映画ファンの中でも敬遠されるジャンルにあります。
それで今回は異常な関係性が発展するピンク映画をご紹介し、少しでも興味を抱く入口になっていただけるよう記事に書かせていただきます。

まず一つ目の作品をご紹介します。「犬とおばさん」(1995)です。

「少年」ではなく「おばさん」です。

中年の斉田チカは男に騙され借金に追われていた。ある日、豪邸の庭で愛犬サンディと戯れる夫婦を見かけ、犬を誘拐し500万円の身代金を要求する計画を思い付く。
難なく誘拐に成功したチカだが、次第に犬の純粋さに惹かれ始め、性的欲求が抑えられず犬と禁断の関係へと発展。一方、身代金を要求された夫は「馬鹿馬鹿しい」と一笑するが、妻は500万円払ってでもサンディに戻ってほしいと懇願する。

本作は他に類を見ない犬を基点においた奇妙な関係性が魅力となっております。
実はこの夫婦、夫の性行為で満足できない為、性欲を抑えられない妻は夜な夜なサンディと肉体関係を結んでいたのです。なので、夫婦間でサンディの重要性に差異が生じ、犬を巡る異常な関係性が展開されます。

図式に表すと以下の通りです。

いささか奇妙な図式ですが、端的に言うと犬を中心に置いたNTR構造です。

監督は浜野佐知さん。ピンク映画を300本撮った女性監督です。
ピンク映画で頭角を現して日本映画監督協会常務理事まで出世した巨匠ですが、当時の男性社会と化していた映画業界で並々ならない苦労を重ねていたみたいです。
その作家性は男性的な視点のピンク映画と違い、女性側から性の在り方を追究した映画作りに長けています。本作は男性で満たされない欲求を犬の純粋性に求め、種族間の垣根を越えて愛を育もうとします。

終盤では500万円を払う決心がついた夫が、誘拐犯のチカと交渉を始めますが、チカはサンディへの恋愛感情に芽生え、金と愛の間で葛藤していきます。受け渡し場所で夫が放つ言葉は妙な哀愁を感じさせ、妙なカタルシスと驚きが隠せませんでした。

ちなみに本作は興行収入が良かった為、続編が作られております。

サンディ大活躍ですね。

さて、2作目は人間と動物が繰り広げる寓話的な作品をご紹介します。
「馬と女と犬」(1990)

犬だけでなく馬も参加します。
海辺に流れ着いた記憶喪失の早川夕子。廃屋に運び出されたが、そこはサングラスを掛けた女王が支配する世界だった。「私はここに人間と動物が絡み合う王国を作る」と豪語する女王、死姦願望の男、犬、馬が退廃的な性のユートピアと化し、次第に記憶の謎が明るみになっていく。

本作は監督・佐藤寿保、脚本・夢野史郎の狂気的な映画を製作してきたコンビです。佐藤監督は性と死の衝動性・社会の孤独・破滅願望、夢野史郎は幻想的・存在の空虚感を作風に反映させております。この二人の作品は「ロリータ・バイブ責め」「アブノーマル 陰虐」などの作品に顕著ですね。

「ロリータ・バイブ責め」(1987)殺害した女性の写真で埋め尽くされる部屋
「アブノーマル 陰虐」(1988)ゴミ捨て場の冷蔵庫にテープを握る手のオープニングカット

佐藤監督は都会の作品ばかり手掛けていましたが、「馬と女と犬」は自然に溢れた海辺を舞台にした異色作です。全編に死と性を彷彿とさせ、都会に漂うように海を詩的に描いております。本作の海がどういう象徴かというと、元タイトル「密猟の汀(あるいは水際の密漁)」というように、舞台を仏教的な「彼岸」になぞらえ、煩悩を超えた彼方の岸の涅槃の地である悟りの境地を示唆する物語として機能しております。

ストーリーラインは記憶喪失の女性が流されてきた王国で多数と性的関係を持ち、次第に死姦趣味の男と心を通わせていきます。死姦趣味の男は「馬はあの世の案内人」「我蒼ざめたる馬を見たり」と言いますが、これはヨハネ黙示録第6章「蒼ざめたる馬あり、之に乘る者の名を死といひ、陰府これに隨ふ」の一説における死のイメージを馬に象徴していますね。

物語が進むにつれ、馬に犯された女性は周りの人々を死へと導いていきます。「馬と女と犬」は人間と動物の関係性を発展させ、性と死を経て女性が主体性を獲得しながら成長する物語です。佐藤監督がピンク映画を土俵に描きたい方向性の一つが垣間見える作品ですね。

以上です。今回はピンク映画を通して2作品ご紹介させていただきました。

上記で挙げた作品以外にも、ピンク映画や日活ロマンポルノは凄まじい内容の作品が蠢いています。しかしながら、多くの作品はメディアで取り上げられず、人々から忘れ去られているのが現状です。製作者が人生を掛けて完成させた作品も数十年後には残っていない可能性すらあります。

静かな水面に石を投げ入れるように、情報を通して沢山の人達が作品に興味を持つきっかけになれば幸いです。

少年と犬公式HP:https://unpfilm.com/boydog2024/

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